医療と社会
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17 巻, 3 号
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委託研究論文
  • ―医療経営研究会報告書―
    坂田 隆文
    2007 年 17 巻 3 号 p. 271-283
    発行日: 2007年
    公開日: 2009/04/01
    ジャーナル フリー
     近年,医療現場がさまざまな課題・問題に直面していることは周知のとおりである。その課題・問題とは,医師・看護師不足,医師・看護師の過労死,医療訴訟の急増化,リスク増大など,枚挙に暇がない。これらの課題・問題は単なる一過性のものなどではなく,現場で働く者たちの負担を増大させることによって,医療現場にさらなる課題・問題を生み出すという負のスパイラルをもたらすものである。
     本稿では,このような認識のもと,この負のスパイラルを脱する方法として,医療現場にトヨタ方式を導入した刈谷豊田総合病院の事例を紹介している。トヨタ方式を導入して医療経営からムダを取り除くことで,医師や看護師をはじめとした医療従事者の負担を減らし,彼(女)たちがより重要な仕事,より遣り甲斐のある仕事へと時間を割くことができるようになる。
     刈谷豊田総合病院の事例から理解されることは,医療現場にトヨタ方式を導入する際には,少なくとも3つの条件が挙げられるということである。それは第一に,業務の中に存在するムダを取り除くための「コストマネジメント」である。第二に,業務を大雑把な塊として眺めるのではなく,一連の作業プロセスを構成する要素を調査・分析する「プロセスマネジメント」である。第三に,現場作業者が主体的にムダを見つけ,そのムダを取り除くための改善案を考えるという「現場主導の作業改善」である。
  • 冨田 健司
    2007 年 17 巻 3 号 p. 285-314
    発行日: 2007年
    公開日: 2009/04/01
    ジャーナル フリー
     製薬業界では,製薬企業間の戦略的提携が積極的に行われているが,戦略的提携では企業が別々の組織形態を保ったまま協働するため,そのマネジメントは困難を極める。特に,国際戦略提携ではチーム・メンバー間の文化や常識,慣習が異なるため,企業にとってマネジメントは難しい問題となる。そこで,本研究では国際戦略的提携における効果的なマネジメントを探った。
     質問票調査の結果,日本企業のメンバーは同質性を求めていること,提携前からパートナーに対して能力的信頼を抱いていること,そしてアメリカ企業のメンバーはコミュニケーションの機会を求めていることが分かった。
     日本企業のメンバーが信頼を高めるには,提携を結ぶ相手の選択,つまり提携締結以前の選択行動が重要であり,対照的にアメリカ企業のメンバーが信頼を高めるには,提携を結んだ後にコミュニケーションをとることが重要である。また,製薬企業の提携では組織メンバー数が少ないため,境界連結担当者を置かないことも多いが,多くの場合,アメリカ企業のチーム・リーダーは高信頼な人であるため,彼を境界連結担当者として,コミュニケーションや情報交換を行った方が良い。さらに,境界連結担当者を中心にして,各々のメンバーが自由にコミュニケーションをとることのできる提携組織形態が望ましい。
研究ノート
  • ―1948~74年のバーミンガム市を事例として―
    白瀬 由美香
    2007 年 17 巻 3 号 p. 315-327
    発行日: 2007年
    公開日: 2009/04/01
    ジャーナル フリー
     1948年に発足したイギリスの医療保障制度National Health Serviceは,予防・治療・リハビリテーションのすべてを含む包括的なサービス体系を備え,租税を財源として,無料ですべての人にサービス提供するという制度枠組みを,現在も維持している。
     本稿は,NHSが初期の制度枠組みの下で運営されていた1948年から74年までを扱い,バーミンガム市の事例をもとに地域医療の状況を検討した。NHSは一次医療と二次医療の明確な機能分化を実現し,地域保健を同じ制度内に位置づけたものの,その組織は基本的に戦前の医療システムの枠組みを引き継いでおり,一般医・病院・LHAという3つの部門が分立する構造であった。無料の医療によって喚起された急速な需要の増大,および医療専門職の不足という問題が早い時期から浮上し,在宅医療を推進すること,サービス部門間の連携を図ることが課題となった。
     連携への取り組みに関して検証した結果,バーミンガム市では,制度運営上は各部門間で委員を送りあうという取り組みをしていた。さらに,臨床において医師やLHA職員の連携を進めるため,職務の兼任制度を設けることや,医療機関に保健師や地区看護師を配属するなどの試みを実施していたことが明らかになった。こうした連携の社会的・経済的背景については,今後もさらに考察を進めていくことが必要である。
  • 岸田 研作, 柿原 浩明, 高塚 直能, 後藤 励
    2007 年 17 巻 3 号 p. 329-338
    発行日: 2007年
    公開日: 2009/04/01
    ジャーナル フリー
    目的 特定地域の住民に限定されない一般の人々を対象に,運動習慣,節酒習慣,良い食事習慣(減塩,食べ過ぎない,緑黄色野菜の摂取,規則正しい食事,間食をしない)の実践に影響する要因を明らかにする。
    方法 対象は,調査会社に登録された35歳以上60歳未満の1,207人である。調査は,郵送自記式で行われた。分析方法は,健康行動の実践の有無を被説明変数,個人・世帯属性を説明変数とする回帰分析である。
    結果 「罹患可能性の認知」が高い者ほど,食べすぎない傾向が見られた。「健康の大切さの認知」が高い者ほど,節酒習慣,規則正しい食事,間食なしを実行している傾向がみられた。「健康行動の有効性の認知」が高い者ほど,運動習慣,減塩,緑黄色野菜の摂取を実行する傾向が見られた。正規の職員・従業員である者は,運動習慣,減塩,食べ過ぎない,緑黄色野菜の摂取を実践しない傾向があった。生活リズムが規則正しいことは,運動習慣,減塩,規則正しい食事の実践と関連していた。健康知識が高い者は,節酒習慣,減塩,規則正しい食事を実践する傾向があった。飲酒でストレスを解消する者は,節酒習慣を実践していない傾向があった。家族の食事サポートがある者は,緑黄色野菜の摂取を実践している傾向が観察された。
    結論 健康行動に影響する要因は,健康行動によって異なった。健康行動ごとの特性に配慮した働きかけを行うことで,健康行動が促される可能性が示唆された。
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