医療と社会
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18 巻 , 3 号
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委託研究論文
  • 猶本 良夫
    2008 年 18 巻 3 号 p. 319-326
    発行日: 2008年
    公開日: 2010/05/26
    ジャーナル フリー
     日本の医療について,今日ほど国民の関心を集める時代は無かったと言えるであろう。国民皆保険制度の導入以来,世界に類をみない優れた医療制度と高い医療技術水準を誇ってきた。しかし,医療の高度化と医師をはじめとする医療専門職の作業量の増加,新しい研修制度の導入による若手医師の流動化,権利意識の変化,高齢社会,経済の停滞などの環境の変化に伴い,徐々にこれまで危ういながらも支えられていたシステムが崩れてきた感が否めない。しかしながら,外的要因にのみ解答を求めることにも問題がある。すなわち,現在,近未来の経済環境からして,医療に多くの支出をすることは困難であり,医療機関の集約と効率的な経営が求められている。さらに,そのためにはこれまで希薄であった病院のマネジメント力の強化が必要で,いかなる行政的な施策がとられようと実効を伴わないことは明らかである。病院は業務改善を通じたマネジメント力の強化とリーダーの育成,医療専門職のマネジメントへの取り込みが喫緊の課題である。そういった先例は欧米の病院,研究にあり,日本における先進的病院にも学ぶ必要がある。高齢社会とそれを支える若年労働者への負荷がこれまでに経験した事のないほど大きくなりつつあり,医療においても同様である。早急にあらゆる対策をしなければ大きな社会不安となってこよう。本稿では,医療現場から見た病院の再生への課題を検討した。
  • 冨田 健司
    2008 年 18 巻 3 号 p. 327-341
    発行日: 2008年
    公開日: 2010/05/26
    ジャーナル フリー
     医療機関が経営を考える際には組織の内部と外部という2つの問題を考えなければならないが,まず内部組織を整えることが不可欠であるため,本稿では医療機関の組織マネジメントに目を向けた。静岡がんセンターの多職種チーム医療を事例として取り上げたところ,円滑な運営には次の3つの要因が作用していることがわかった。
     1つ目に,チームメンバーが固定化されておらず,治療プロセスにより変動していることが分かった。これにより,効果・効率的な治療を施すことができ,チーム内に新鮮さと緊張感を保つことが可能になる。2つ目に,医師だけに権力が集中せず,権力の分散が行われていた。マネジメントセンターが経営管理を専門に行い,県立病院であるため,県への報告義務を有することにより,外部監視によるモニタリング機能が働いている。また,院内ではチーム医療が推進されており,看護師の地位の高さが特徴的である。協働の中からメンバーとの信頼関係が高められ,その結果協調性も高められている。3つ目に,チーム医療の根幹に患者志向が徹底されており,患者との緊密なコミュニケーションがとられている。
     最後に,当院はがん専門病院であることと自治体病院であることが,チーム医療の土壌となっていることを指摘したい。がん治療には絶対的な解決法が存在しないため,チーム医療に適しており,異質的なメンバーが集まり,ワークショップ的に議論することが必要なのである。
  • 安川 文朗
    2008 年 18 巻 3 号 p. 343-360
    発行日: 2008年
    公開日: 2010/05/26
    ジャーナル フリー
     病院における医療従事者の適切な配置が,患者の医療成果にどう貢献しているかについて,近年欧米では研究が進められている。本研究では,日本における医療のアウトカムに対する看護配置の効果を評価するひとつの試みとして,単一施設の経時的な看護配置情報と,看護の直接的関与が高い患者のADLや問題行動の抑制,家族の理解や協力の促進といった患者QOLにかかわるアウトカム情報を,電子カルテシステムを利用して抽出し,記述的および統計的な分析をおこなった。
     得られた結果は,先行研究の多くが示唆するように,十分な看護配置は患者アウトカムに望ましい効果を及ぼす可能性があることが確認されたが,同時に看護配置の効果はすべての疾患について同じわけではなく,急性疾患と慢性疾患,手術のあるなしなど疾患の特性によって看護配置の効果は異なることがわかった。また,電子カルテの情報を活用することで,患者の自己申告によるQOL評価が困難な場合でも,ある程度患者アウトカムに関する評価が可能であることが示唆された。
     本研究では,単一施設での評価と施設横断的な評価との比較や,医師など他の人的資源配置の状況や効果を考慮した分析との比較対照をおこなっていないため,看護配置の如何が患者アウトカムに及ぼす“ネットの”効果を完全には測定していない。今後は,本研究結果の一般性や妥当性を,上記のような他の方法やデータを利用した評価結果との比較を通じて検証する必要がある。
研究ノート
  • 涌水 理恵
    2008 年 18 巻 3 号 p. 361-376
    発行日: 2008年
    公開日: 2010/05/26
    ジャーナル フリー
    【目的】緩和ケアのひとつとして近年注目を集めている音楽療法を,ADL依存状態にある在宅療養患者とその家族に試み,両者が音楽を共有することの意義を,患者の主観的あるいは客観的QOLの観点から考察することを目的とする。
    【方法】G県内の在宅患者とその家族7組を対象に音楽療法介入および半構造化インタビューを行い,ナラティブ・アプローチを用いて質的分析を行った。
    【結果】音楽療法介入による患者の変化として,曲を聴くことで昔を思い出して“楽しんだり,懐かしんだり”したエピソードが語られ,そんなふうに“楽しんだり,懐かしんだり”している時間には,慢性的にある痛み・しびれなどの身体症状や不安などの心理症状が和らいだことが語られた一方で,“自分へのもどかしさ”が語られる場面もみられた。また多くの患者から,“家族に対する感謝の意”を表出する語りが顕在化した。一方,家族の語りとして,患者の様子を見ながら曲に“参加したり”,場合によっては“見守ったり”したエピソードが全家族から語られた。そのほか今回の介入を契機に,患者のさらなるQOL向上にむけて自発的に動いた家族の具体的な行動変容も語られた。
    【考察】患者から“自分へのもどかしさ”が語られたのは,日常的に感じる自尊感情の低下が,介入によって心理状態が和らぐことで,対象から吐露されやすくなり,インタビューにより顕在化した結果と考えられた。音楽の共有を通して,患者と家族の時間的・精神的交流が促進されており,双方の「一緒に過ごす時間の増加」「会話量の増加」に集約されていた。結果として,『音源そのものによる癒し』と『家族との交流による癒し』が『患者の心理的安寧』に寄与し,QOL向上に繋がった可能性が考えられ,緩和ケアの一方策としての音楽療法の有効性が示唆された。
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