医療と社会
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19 巻, 1 号
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特集論文
  • 遠藤 久夫
    2009 年 19 巻 1 号 p. 5-13
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/05/26
    ジャーナル フリー
     PTCAカテーテル,ペースメーカー,人工骨などの内外価格差が大きい医療材料に対して平成14年度から内外価格差を縮小する目的で外国価格調整が導入された。外国価格調整とはアメリカ合衆国,イギリス,ドイツ,フランスでの販売価格の平均値を計算し,この値と日本での市場価格を比較して,日本の市場価格が外国平均価格を一定水準超えていれば医療材料の公定価格を強制的に引き下げるという価格設定方式である。外国価格調整は新規収載品だけでなく,既に販売されている製品でも内外価格差が大きいものには適用される。平成14年度,16年度,18年度は日本の市場実勢価格が外国平均価格の2倍以上の医療材料が外国価格調整の対象であったが,20年度は1.7倍以上を対象とし,22年度は1.5倍以上を対象とする予定である。最高の引き下げ率である25%引き下げの対象となる材料区分数は16年度が15区分,18年度が34区分と増加したが,20年度が2区分と減少しており,内外価格差が縮小していることを示唆している。
  • 最近の変化と今後の対策
    康永 秀生
    2009 年 19 巻 1 号 p. 15-25
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/05/26
    ジャーナル フリー
     1996年の日本貿易振興会による報告と,1997年の医療経済研究機構による報告を契機に,医療材料の内外価格差問題は活発に議論され,複数の論者によっていくつかの原因が指摘されてきた。公定償還価格制度,立会いなどの付帯的サービス,業界保護的な法規制,暗黙の共謀など種々の原因が挙げられている。厚生労働省は2002年に外国価格参照制度を導入し,内外価格差の是正を試みた。しかし,2007年に出版された2つの報告によれば,内外価格差は上記の制度導入後も依然として存在していた。内外価格差を抜本的に解消する手段として,高額医療材料のコストを手技料に包括すること,薬事法規制改革による承認番号制度の見直し,行過ぎた立会いの是正などが重要と考えられる。
  • 西田 博
    2009 年 19 巻 1 号 p. 27-41
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/05/26
    ジャーナル フリー
     外科診療報酬と,その医療材料・医療機器の価格との関係につき,現場の医師としての視点から現状の解説と問題点の提示を行う。厳しい国家財政事情,経済不況,医療費削減時代にあっても,ヒトの労働への対価とモノに費やされる費用の関係を明らかにすることによって,“日本の医師は鵜飼の鵜である”事をまず強調したい。つまり,我が国では医療費総枠の中でヒトの汗と涙に対する報酬がいかに低いかということを明らかにしている。また,どのようなエビデンスに基づき,われわれ外科医が技術料を要望しているのか,実際の診療報酬との関係はどうか,他職種の待遇との関係はどうかなどについてもわかりやすく説明した。現場を知らない経済学者や,知ってか知らずか適切な対応のできない動かない,変らないことを良しとする行政の問題点につき触れた。さらに,企業間競争の中で医療提供者がはぐらかされずに,報われるようにするための視点についても言及した。
     医療は医療提供者と患者がともに形作るものである。この2つの主役が,医療材料,医療機器というモノとその流通業者の脇役になってはならない。医療材料,医療機器の価格と言うものは,限られた医療費の中で,まず,医療提供者,そして患者の利益が最大限となるように設定されるべきであろう。
  • 勝呂 徹
    2009 年 19 巻 1 号 p. 43-49
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/05/26
    ジャーナル フリー
     高齢社会を迎え医療器機,特に整形外科インプラントの必要性は,今後益々増加するものと予測されている。しかし保健医療に大きくかかわる我が国の医療体制では,優れたインプラントの出現は,医療経済に強い変化をもたらすことも事実である。社会の必要性に伴い需要は増すが,医療費の抑制政策のため,償還価格という縛りの元に価格が決定されている。価格決定は,医療技術の客観的評価が困難であることから,医療材料,インプラント器機の価格を同一に考え,行われている。このような環境下で価格決定がなされているが,最も大きな問題点は,常に医療技術に関する検討がないがしろにされていることである。また相対的な社会価格の変化が取り入れられないことも生産性から問題と考えられている。
     整形外科インプラント器機での問題は,器機の持つ機能を考えて価格が決定されていない点である。長期間にわたり機能を有するインプラントと一時的な保持作用しかないインプラントが同じ海外価格に誘導され決定されている点であろう。人工関節に関しては,もはや内外価格差はなく,どちらかと言えば機種によっては本邦の価格の方が安価傾向となっているのが現状である。
     今後の問題は,内外医療費の格差である。相対的な生活物価は,欧米と同じ日本における医療技術の低い評価が問題であり,より良い医療を受けるために必要な対価を再検討する必要があるものと考える。
  • 児玉 順子
    2009 年 19 巻 1 号 p. 51-71
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/05/26
    ジャーナル フリー
     在日米国商工会議所(ACCJ)の「2008年デバイスラグ調査」(調査期間:2005年4月~2008年3月)によれば,新医療機器(以下,「PMA相当製品」,29品目)の総審査期間は平均21.1ヶ月であった。米国での同一製品の総審査期間が平均10.1ヶ月であることから,日本の新医療機器の審査は米国のそれに比べ2倍以上の時間がかかっているといえる。また,新医療機器以外の製品(以下,「510(k)相当製品」,126品目)の総審査期間は,日本の平均が14.3ヶ月であるのに対し,米国では2.2ヶ月という著しい差を認めた。
    日本と海外における医療機器の導入時期の差を「デバイスラグ」と呼ぶ。同調査によると,デバイスラグは,米国と比較すると「PMA相当製品」で約2.9年,「510(k)相当製品」で約3.6年であり,この結果は,2006年に医薬品医療機器総合機構が行った同様の調査と奇しくも完全に一致した。しかし,医療機器の審査自体はここ数年早くなっているので,審査期間の短縮分だけデバイスラグは短縮して然るべきである。
    その疑問に答えるため,調査では,デバイスラグを申請前と申請後に分け,これまで全くといってよいほど言及されなかった「申請前の遅れ」にも焦点を当て分析を行った。
    その他関連する調査結果も随所に織り交ぜながら,医療機器の開発・申請,承認を巡る諸問題について述べ,可能な限りその解決策についても提言する。
  • 内田 毅彦
    2009 年 19 巻 1 号 p. 73-81
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/05/26
    ジャーナル フリー
     米国で医療機器規制を司る Center for Devices and Radiological HealthはFood and Drug Administration (FDA)の8つのセンターの一つであるが,FDA 自体も日本の厚生労働省にあたる Department of Health and Human Services 傘下にある。
     米国では医療機器はそのリスクに応じて3つのクラスに分類され, 相応の規制がなされている。 一部の Class I と殆どの Class II 医療機器は510(k)と呼ばれる様式で審査され,最もリスクの高い Class III 医療機器は PMA (Premarket Approval) と呼ばれる様式で審査がなされる。510(k)に相当する審査体系は現在日本に無く,その柔軟性のために,日本でも導入が検討されている。米国における治験には日本の治験届に該当する IDE (Investigational Device Exemption) の承認が必須であり, ICH-GCP 準拠をはじめとするシステムは共通点が多い,しかし, FDA の Pre-IDE というシステムは無料でアクセスがよく,実際の審査との一貫性も高いことから有用である。
     米国と日本での相違のもう一つは審査の判断を手助けする外部の専門協議の在り方である。 FDA でのパネル会議は日本の専門協議とは異なり原則的に一般に開放され透明性が高い。会議の結論は FDA 審査の参考となるが, FDA がパネルの判断を覆すこともある。
     また,審査官の免責も FDA では明確にされており,不作為で訴訟のリスクを抱える日本の審査官とはこの点で大きく異なる。
  • 内外価格差論議から,より包括的な議論に向けて
    田村 誠
    2009 年 19 巻 1 号 p. 83-96
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/05/26
    ジャーナル フリー
     医療機器の保険償還に関しては,内外価格差をめぐる議論が盛んである。しかし,内外価格差をなくすことはゴールではない。各国の医療提供体制にフィットし,安全に対する要求水準や保険財政等の諸条件をクリアした上で,質の高い医療機器をタイムリーに導入し,安定的に供給することが医療機器企業の使命であろうし,それを実現しうる政策・システムを検討することが求められていると考える。そこで,本稿では,内外価格差を出発点にして,以下のような議論を行なった。
    (1) 医療関係者の間で言われる,「外圧を背景に医療機器企業は日本で過剰利益を得ているのではないか」という疑問については,これまでの経緯,データ等をもとに,近年の医療機器市場全体についてはあたらないことを示した。
    (2) 日本で医療機器を提供する場合に高いコストを要する根本原因を2つ(医療機関数の多さ,薬事規制ハードルの高さ)示した。そして,その2つは日本の医療制度・システムに根ざしたものであり,これらの制度の中でいかに有効で,効率的な医療機器提供体制を築くかを考えるべきと述べた。
    (3) 現行の医療機器の保険償還制度の特徴を概観し,強力な価格抑制機能があることを示し,あわせて,「悪貨が良貨を駆逐する」可能性等の問題点を指摘した。
    (4) 今後,医療機器の保険償還に関し議論すべき観点として,以下の3点をあげた。
     I 「悪貨が良貨を駆逐する」可能性をいかに回避するか
     II 薬事規制ハードルと保険償還のバランス
     III 質の高い医療機器のタイムリーな導入,そして安定供給を確かにすること
  • 内外価格差だけでなく,文化や疾病の違いも考慮して
    上塚 芳郎
    2009 年 19 巻 1 号 p. 97-106
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/05/26
    ジャーナル フリー
     医療材料の内外価格差については広く取り上げられてきた一方で,欧米で広範に使用されている医療機器が日本では同頻度で使用されていないという批判もある。この理由は必ずしも貿易障壁があるということを意味しない。もちろん,わが国の事情として,医療機器の審査に時間がかかり,ディバイス・ラグが生じているという事実は否めないが,国により疾病構造に差異があり,同じ疾病の予後も異なっているためにあまり使用されていない場合がある。その代表が虚血性心疾患である。虚血性心疾患の頻度が欧米に比して少ないことや,欧米の心筋梗塞の予後とわが国のそれとを比較した場合,わが国の方が予後がよいことが多くの研究で知られている。急性心筋梗塞の米国のNRMIレジストリーと東京女子医大関連病院グループでのHIJAMIレジストリーを比較すると,前者のLVEF40%未満が全体の23%を占めるのに対して後者は17.1%であった。次に,わが国の心臓突然死についてもShigaらの研究のKaplan-Meierカーブによれば,米国のそれよりも予後がかなりよかった。さらに,われわれのレジストリーを用いて,わが国における心臓突然死予防のためのICD植込みの費用対効果を試算してみた。すなわち,先行研究であるSCD-HeFT研究の基準を満たした172例の70%がICD植込みにより突然死を免れたと仮定して費用対効果を計算したところ,10,048,000円/LYSとなり,米国のSandersらによるメタ解析の結果と比べ劣っていた。
研究ノート
  • 音声言語認識に焦点をあてて
    大久保 豪
    2009 年 19 巻 1 号 p. 107-117
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/05/26
    ジャーナル フリー
    目的:成人の先天性ろう者の人工内耳装用が音声言語認識力に与える効果についてこれまでに行われた研究からわかっていることを明らかにすること。
    方法:MEDLINE(1953年-2008年),PsychINFO(1887年-2008年),CINAHL(1982年-2008年)の検索エンジンを用いた。検索語は「Cochlear implant &(congenital hearing loss or prelingually hearing loss)」である。
    結果:コホート縦断調査の研究は4件が条件に適合した。比較対照研究については条件に適合する研究論文が存在しなかった。上記のうち3つの研究論文では,集団でみると装用後に音声言語認識力(音声で提示された単語や文章の理解率)が向上することが示されていた。装用者個別の成績でみると,全33名の装用者中,いずれかの項目で認識力が10ポイント以上上昇していた者は15名,いずれかの項目で認識力が10ポイント以上低下していた者は3名,すべての項目でほとんど変化していない者は15名であった。
    結論:装用前後の音声言語認識力の上昇は個人間のばらつきが大きい。現時点では口話など音声言語を日常の意思疎通に用いるような先天性ろう者に限って,音声言語認識力が向上する可能性があるといえる。しかし,認識力が下がる可能性にも留意しなければならない。これまでの研究では装用効果を高める予測因子については言及できない。
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