医療機器の保険償還に関しては,内外価格差をめぐる議論が盛んである。しかし,内外価格差をなくすことはゴールではない。各国の医療提供体制にフィットし,安全に対する要求水準や保険財政等の諸条件をクリアした上で,質の高い医療機器をタイムリーに導入し,安定的に供給することが医療機器企業の使命であろうし,それを実現しうる政策・システムを検討することが求められていると考える。そこで,本稿では,内外価格差を出発点にして,以下のような議論を行なった。
(1) 医療関係者の間で言われる,「外圧を背景に医療機器企業は日本で過剰利益を得ているのではないか」という疑問については,これまでの経緯,データ等をもとに,近年の医療機器市場全体についてはあたらないことを示した。
(2) 日本で医療機器を提供する場合に高いコストを要する根本原因を2つ(医療機関数の多さ,薬事規制ハードルの高さ)示した。そして,その2つは日本の医療制度・システムに根ざしたものであり,これらの制度の中でいかに有効で,効率的な医療機器提供体制を築くかを考えるべきと述べた。
(3) 現行の医療機器の保険償還制度の特徴を概観し,強力な価格抑制機能があることを示し,あわせて,「悪貨が良貨を駆逐する」可能性等の問題点を指摘した。
(4) 今後,医療機器の保険償還に関し議論すべき観点として,以下の3点をあげた。
I 「悪貨が良貨を駆逐する」可能性をいかに回避するか
II 薬事規制ハードルと保険償還のバランス
III 質の高い医療機器のタイムリーな導入,そして安定供給を確かにすること
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