医療と社会
Online ISSN : 1883-4477
Print ISSN : 0916-9202
ISSN-L : 0916-9202
21 巻, 2 号
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
特別寄稿
  • メルク株式合資会社とフレゼニウスSE社
    吉森 賢
    2011 年 21 巻 2 号 p. 121-135
    発行日: 2011/07/28
    公開日: 2011/08/04
    ジャーナル フリー
    本研究はドイツの医療関連の同族大企業二社メルク株式合資会社とフレゼニウスSE社の企業統治制度を明らかにすることを目的とする。ドイツの企業統治の背景として日本と比較して,同族大企業が多い。この所有構造の原因と結果は同族企業に適した会社の多様な法的形態の選択可能性にある。両社に共通する企業統治の目的は企業の独立性永続化と外部資金調達手段の確保である。
    メルク社は株式合資会社の採用により無限責任出資者としての経営権を確保しつつ市場から資金を調達する。
    フレゼニウス社は公益財団を持株会社として利用しつつ,これが二次持株会社を支配し,これがさらに事業会社を支配するピラミッド方式により企業集団の独立性を確保する。資金調達は資本金の50%の無議決権優先株発行によりなされると同時に敵対的買収から防衛される。2010年12月時点でフレゼニウス社は法的形態を現行のFresenius SEを無限責任出資者とする株式合資会社SE&Co.KGaAに変更中である。この新組織を説明した。これにより公益財団の独立性は向上すると期待される。また発行済の無議決権優先株を議決権付き普通株に転換中であり,株主による監督機能が向上する。
    両社の企業統治を評価し,日本の医療関連企業への示唆を提示する。
財団研究報告
  • 医薬品流通研究会報告
    三村 優美子
    2011 年 21 巻 2 号 p. 137-162
    発行日: 2011/07/28
    公開日: 2011/08/04
    ジャーナル フリー
    これまで医薬品流通では,未妥結仮納入,総価取引,不透明なリベートやアローアンスなどの固有の取引慣行問題に悩まされてきた。1990年代の流通近代化協議会(流近協),2000年代の「医療用医薬品の流通改善に関する懇談会(流改懇)」と取引改善努力が続けられてきた。特に,2007年9月の流改懇の「緊急提言」は,“価値を適正に反映する価格”の観点から総価取引の改善(総価除外品の設定など)と,未妥結問題への積極的な取り組みの姿勢を示すことでその成果が期待された。ただし,改善は部分的に留まり,卸収益の面では事態がむしろ悪化している面もある。今後も改善努力は続けられるべきであるが,医薬分業,ジェネリック薬普及など医薬品流通の根本的な枠組みの変化を考慮して取引問題の再検討が必要である。
    さらに,2000年代に入り,産業的視点に立った薬価制度改革の方向性が示されるようになった。2010年度に試行的に導入された「新薬創出・適応外薬解消等促進加算」は,革新的な新薬開発の促進と,特許切れ後には後発薬に置き換えることで薬剤費増加を抑制するというメリハリの利いた薬価制度への移行を意図している。この新薬価制度の検証はこれからであるが,一つの方向性を示したことは確かである。薬価制度の枠組みの変化,そして医薬品のタイプ分化は,医薬品卸の在り方や取引構造を大きく変えていくことは確実である。当研究会では,今回,薬価制度改革の方向と流通取引問題に焦点を合わせ,卸の立場から取引改善への取り組みについて検討を行った。
財団研究論文
  • 冨田 奈穂子, 井上 幸恵, 池田 俊也
    2011 年 21 巻 2 号 p. 163-174
    発行日: 2011/07/28
    公開日: 2011/08/04
    ジャーナル フリー
    医療技術評価(Health Technology Assessment:HTA)とは,個々の医療技術の臨床効果,経済評価,社会的影響などを多面的に検討する研究領域である。多くの国々ではHTAに関する公的あるいは民間の研究機関があり,HTA研究が医薬品や医療材料等の保険償還の可否の判断等の政策立案や,診療ガイドライン等の臨床判断に用いられている。本稿(前編)では,アジアにおいてHTAの導入が進んでいる韓国とタイについて,その概要を紹介した。
    韓国の健康保険審査評価院(HIRA)は医療機関から提出される診療報酬明細書を審査し,医療の質を評価するために設立された機関であり,2007年より医薬品の保険償還可否を判断するために薬剤のHTAも実施している。また,韓国保健医療研究院(NECA)は,システマティック・レビューや経済性評価を用いたHTA等を実施する機関として,2008年に設立された。タイでは2007年に医療介入技術評価プログラム(HITAP)が創設され,薬剤,医療材料,医療行為,個人対象あるいは集団対象の健康増進・予防技術など,幅広い医療技術について評価を行うこととしている。しかし実際には,新薬の保険償還の判断に対しては,優先順位の高いもののみを選んで医療経済評価を実施している状況である。
研究論文
  • 療養場所に焦点を当てて
    秋山 直美, 福田 敬, 白岩 健, 村嶋 幸代
    2011 年 21 巻 2 号 p. 175-187
    発行日: 2011/07/28
    公開日: 2011/08/04
    ジャーナル フリー
    平均寿命の延長に伴うヘルスケアコストの増大は,先進国共通の課題である。本研究は,要介護認定高齢者を対象として,医療費と介護費を個人ごとに合計したヘルスケアコストに関連する要因について療養場所別に検討することを目的とする。
    対象は北海道のA町に在住する65歳以上高齢者のうち,要介護1~5に該当し,且つ,国民健康保険加入者226名とした。分析は,療養場所間で,対象者属性やヘルスケアコストを比較した。また,療養場所別のヘルスケアコストに関連する要因を検討するため,療養場所が在宅と介護保険施設入所者については,従属変数をヘルスケアコスト,独立変数を年齢,性別,要介護度,入院日日数とした一般化線形モデルを行った。医療型療養病床の入院者に関しては,対象者数が少ないため多変量解析は行えなかったので,要介護度別,入院日数別のヘルスケアコストを記述した。
    本研究の結果では,総ヘルスケアコストの74%が施設に関連して消費されていることがわかった。また,在宅と介護保険施設においては,要介護度と入院期間がヘルスケアコストに有意に関連していた。医療型療養病床の入院者は,全員が21日以上入院しており,ヘルスケアコストの15%を消費していた。これらの者の入院理由は,急性期医療ではなく,主に介護が必要で入院しているという回答が多かった。
    ヘルスケアコストの削減をはかるためには,要介護度の重症化を防ぎ,在宅での療養を長期化させることが有効であることが示唆された。しかし,療養場所の選択については,要介護者の家族等の状況についても考慮する必要があると言える。
  • 島田 智明, 瓜生原 葉子
    2011 年 21 巻 2 号 p. 189-203
    発行日: 2011/07/28
    公開日: 2011/08/04
    ジャーナル フリー
    医療用医薬品は,一般消費財と異なり,医師が専門知識を生かし,患者の代わりに購入する製品を決定するという特殊性を帯びている。つまり,医療用医薬品の場合,製品を開発し製造する生産者(医薬品企業)と,製品を使用または消費する消費者(患者)という二者以外に,製品を選定する医師が存在する。では,そのような三者の関係の中で,医薬品企業のCSR(企業の社会的責任)活動が,長期的であれ,短期的であれ,その医薬品企業が販売する医療用医薬品の売上向上につながるかどうか解明したいというのが本研究の動機である。
    本研究では,乳がんを専門領域とする医師6名に対して,インタビューによる質的調査を行い,医薬品企業のCSR活動がどの程度医師の医療用医薬品選定に影響を与えるかについて探索的調査を行った。また,どのようなCSR活動が求められているかを明確にするために,乳がん患者および患者支援者6名にもインタビューを行い,医薬品企業のCSR活動に対する考え方について医師と患者・患者支援者の間で比較分析を行った。
    主たる分析結果として,医薬品企業のCSR活動が,医療用医薬品の選定に直接的にはほとんど影響を及ぼさないことが示された。専門領域の薬剤では有用性が,専門領域外の薬剤では医薬品企業の信頼性が最重要視され,また,CSR活動が医薬品企業の信頼性を高めることも明らかにされた。さらに,医師と患者・患者支援者の間では,医薬品企業のCSR活動に対する見方が異なることも浮き彫りにされた。
研究ノート
  • 医薬品産業への適用
    高橋 秀直
    2011 年 21 巻 2 号 p. 205-219
    発行日: 2011/07/28
    公開日: 2011/08/04
    ジャーナル フリー
    本稿の目的は,企業分析や戦略分析のための手法を提供することにある。とりわけ,企業の外部資源の利用に関する考察のためのものである。アウトソーシングや戦略的提携など,企業の外部資源を利用した競争優位の確立が議論されている。しかしながら,企業の外部資源の利用の程度やその効果についての実証的な研究は少ないと思われる。
    そのような実証研究に向けて,本稿では,数量と売上2つのデータを用いることから出発して,具体的に日本の医薬品産業を用いて,外部資源の利用に関する分析を行う。本稿の手法や各数値を用いることによって,企業の外部資源の利用や組織間関係,それに伴う企業の変化といった実態をより審らかにすることが可能になり,この分野での議論に様々な貢献をすることになると考えられる。
feedback
Top