医療と社会
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21 巻, 3 号
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財団研究論文
  • 海外の動向とわが国における課題
    葛西 美恵, 小林 慎, 池田 俊也
    2011 年 21 巻 3 号 p. 233-247
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/11/01
    ジャーナル フリー
    本稿(後編)では,欧州各国における医療技術評価(Health Technology Assessment:HTA)の導入について紹介する。
    英国では,1999年に創設された国立医療技術評価機構(NICE)が,医薬品を含む医療技術の臨床効果と費用対効果のエビデンスに基づき,英国民に提供すべき標準治療をガイダンスの形で提言する。NICEの提言により,推奨された医療技術は広く国民に普及する一方,推奨されない医療技術は処方されにくく,公的医療サービスでのアクセスが著しく制限されるのが問題化し,この問題を補完する政策が次々実施されていた。
    ドイツでは,2004年に医療の質と経済的効率性を評価する機関として,医療の質・効率研究所(IQWiG)が設立された。効率的フロンティアと呼ばれるドイツ独自の概念が,ガイドライン(素案)で提案されたが,2011年に医薬品市場新秩序法(AMNOG)が施行されてからは,IQWiGの役割は当初想定されたものとかなり大きく変わってきている。
    フランスでは,2005年に高等保健機構(HAS)が創設された。現時点で,新薬等の価格設定に際して経済評価が用いられることはないが,2010年に経済評価研究ガイドライン(素案)が公表されるなど,政策利用が活発化しつつある。
    各国で経済評価の政策利用の方法や,QALY,閾値,割引率,分析の立場など,経済評価で用いられる各要素の捉え方が異なっていた。わが国における政策立案への利用においては,これらの各要素の捉え方の違いや技術的課題を十分に理解した上で,慎重な対応が求められる。
研究論文
  • 個別検診の実施に関する実証分析
    高久 玲音
    2011 年 21 巻 3 号 p. 249-264
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/11/01
    ジャーナル フリー
    近年,がん予防に対する社会的関心の高まりをうけて,各自治体のがん検診に対する取り組みが注目を集めている。しかし,がん対策基本法で謳われた意欲的な受診率目標とは裏腹に,受診者数に上限を設ける自治体もあるなど,自治体による受診機会の提供には,大きな地域差が存在している。そこで本稿では,検診の普及に有効だとされる個別検診が受診率を上昇させるのか検証するとともに,個別検診の実施と自治体財政の関連について3ヵ年の市区町村パネルデータを用いて分析した。その結果,第1に,胃がん,大腸がん,肺がんの検診では,個別検診の普及が受診率を向上させるという結果が得られた。第2に,財政力指数が低下した自治体ほど個別検診受診者の割合が減少しており,自治体の財政状況が個別検診の普及に影響を与えていることが示唆された。財政的に逼迫した自治体では追加的な財政負担の懸念から,受診率を上昇させるインセンティブが希薄になっている可能性があるだろう。
  • 「介護予防事業等の効果に関する総合的評価・分析に関する研究」における傾向スコア調整法を導入した運動器の機能向上プログラムの効果に関する分析
    伊藤 和彦, 大渕 修一, 辻 一郎
    2011 年 21 巻 3 号 p. 265-281
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/11/01
    ジャーナル フリー
    本論では介護予防を目的とした運動器の機能向上プログラムへの継続的な参加の効果について,厚生労働省が実施した介護予防継続的評価・分析(辻 他,2009)の研究成果およびデータを用いて,先行研究では明示的に扱われなかった選択バイアスを調整したうえで,生存時間分析および「差の差」の手法によりその効果を分析した。
    はじめにKaplan-Meier法により継続的に参加した高齢者の効果を確認し,次に加速ハザードモデル(AFTモデル)により推計された偏回帰係数を用いて,運動器の機能向上プログラムの参加の有無によって,加速要素(Acceleration Factor)がどのくらい異なるのかを推計した。他の条件を一定として,それぞれリスクが発現する時間が遅くなる効果は,非参加者に比べ特定高齢者で1.6倍,要支援者群で3.1倍と推計された。また,偏回帰係数の検定結果から,特定高齢者群,要支援者群といったカテゴリーによって違いがあるものの,ものわすれテストの点数,既往歴などが介護予防の効果に影響を与えていることを確認した。
    さらに,基本チェックリストを用いた「差の差」の手法から,運動器の機能向上プログラムに1年を超えて継続的に参加した高齢者では,そうでない高齢者に比べ,基本チェックリストの点数で測った改善は,特定高齢者で2.0~2.5点程度,要支援者群で0.45~0.5点程度,トータルで0.8点程度,特に要支援者群と全数を用いた推計では有意な改善効果を計量的に確認することができた。
  • バランスト・スコアカードとの高い親和性
    荒井 耕, 尻無濱 芳崇
    2011 年 21 巻 3 号 p. 283-293
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/11/01
    ジャーナル フリー
    医療法人経営の複雑化と法人規模の拡大により,現場管理者へのある程度の権限移譲が進みつつある。そのため,各現場の業績を把握・評価したり,現場管理者に経営の自律性を働きかけたり,現場に期待する方向性を明確にしたりする必要性が増し,事業計画制度の重要性が増々高まっている。本研究では,多くの法人が事業計画制度を導入しており,財務関連事項を中心に目標管理され重視されているが,質に関連する事項も同時管理している法人も多くなっていることを明らかにした。また計画事項間の大半の因果関係をかなり考慮している法人も多く見られた。つまり,因果関係の考慮度や管理対象業績側面の多様性の高いBSC的性格を有する事業計画制度が見られるようになった。ただし因果関係考慮と視点包括度の両面からBSCとしての性格を持つ事業計画制度は,まだ十分には普及していない。また,現状の事業計画制度は,まだ分析的利用が中心ではあるが,権限移譲の進展とともに,働きかけ的利用の必要性が増々高まると考えられる。特に働きかけ的利用については,視点包括度と因果関係考慮度の両観点においてBSCとしての性格の強い事業計画制度を持つ法人の方が,利用度が高いことが判明している。働きかけ的利用の促進という点に加えて,医療界における多面的業績の統合管理や無形資産管理の重要性からも,BSCと親和性の高い事業計画制度の展開が重要である。
  • 谷口 千絵, 村田 加奈子
    2011 年 21 巻 3 号 p. 295-307
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/11/01
    ジャーナル フリー
    背景:日本における全出産数の1%を,地域で活動する助産師が助産所や産婦の自宅において介助している。また産科医不足という周産期医療の課題の解決策として,「正常分娩」を自立して行う助産師の業務が見直されている。
    目的:助産所の開設形態別に,開設者の視点からみた助産所を開設・運営する体験を明らかにする。
    方法:2003年から2006年の間に,助産所を開設または業務変更を行った助産所管理者5名を対象に,聞き取り調査を実施した。
    結果:助産師は助産所を開設することによって,自らが目指すケアを実現させることができ,同時に不本意なケアを提供している葛藤から解放されていた。また,助産師は家庭生活に合わせて段階的に業務拡大を行い,居住する地域社会の一員として受け入れられていった過程がみられた。分娩の取扱いを始めることは覚悟が要ることであり,助産師生命を賭けた業務拡大となっていた。有床助産所は開設資金と維持に課題があることが明らかとなった。
    結論:助産師は自立自営で助産所を開設することにより,病院勤務では実現しなかった妊娠・出産・産後を通じた継続的なケアを提供することができていた。助産師は,地域の一住民として社会的信用を得て,家庭生活に合わせた業務拡大を行っていた。
研究ノート
  • 権利の宣言からパートナーシップへ
    大野 博
    2011 年 21 巻 3 号 p. 309-323
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/11/01
    ジャーナル フリー
    アメリカ病院協会(AHA)は,その「患者の権利章典(A Patient's Bill of Rights)」を「治療におけるパートナーシップ(The Patient Care Partnership)」に置き換えた。変更の特徴は,権利の強調から患者と医療提供者のパートナーシップの強調への変化である。筆者は,患者の権利に関する先駆的な文書であるAHAの「患者の権利章典」のこのような変化は,重要な意味を持つと考え,その理由と背景を考察した。
    AHAが重要な文書の変更を行った理由は,医療の複雑化などによって,医療提供者と患者とのより良いコミュニケーションの確立が重要な課題となったからである。その背景の一つとして,患者の権利の法制化があり,二つ目は,「患者の権利章典」をかかげることが,必ずしも患者の安全につながらないという事実の顕在化(医療事故の頻発)である。前者は,患者の権利が社会的に認知されたことを意味し,「患者の権利章典」の独自の意義を低下させた。後者は,患者と医療従事者との協力関係の重要性を提起し,病院の積極的な対応を求めた。
    こうしたことが,病院と患者との関係を律する,根本理念とも言える文書の変更につながったものと考えられる。AHAの「治療におけるパートナーシップ」の制定は,患者の権利の宣言から,その確実な実現をめざすものであり,わが国の患者の権利のあり方にも参考になるものである。
  • 文献レビューからの考察
    瀬戸山 陽子, 中山 和弘
    2011 年 21 巻 3 号 p. 325-336
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/11/01
    ジャーナル フリー
    目的:国内における乳がん患者の情報ニーズと利用情報源,及び患者が直面している情報関連の困難を示したうえで課題を整理し,実践的な支援について検討する。
    方法:医中誌(1983~2010年),CiNii,Medline(1948~2010年),CINAHL(1982~2010年)の検索エンジンを用いた。検索語は,日本語「乳がん」AND「患者」AND「情報」,であり,英語では,“breast cancer”AND“patient”AND“information”AND“Japan”とした。
    結果:該当論文は30件であった。論文の内容は,患者の情報ニーズが示されているもの9件,利用情報源が示されているもの21件,情報利用に関する困難が示されているもの12件であった。情報ニーズは,治療や検査,副作用といった医学的な内容から,セルフケアの方法や心理的サポート情報に及んだ。利用情報源は,最も信頼する情報源は医師でありながらも,それ以外に多様な情報源を用いていた。困難は情報収集,理解,利用という3段階にそれぞれ困難が見られた。
    考察:患者は医療現場だけでは情報ニーズを満たすことができていないことが考えられた。また,患者の情報利用に関する困難は,情報そのものの不足に加えて,情報の使い方等が伝えられていないこと,患者のヘルスリテラシーレベルにあったコミュニケーションがとられていないこと,ナラティブ情報が軽視されていることによると思われた。さらに,患者自身のヘルスリテラシー不足も,今後の重要な課題であった。
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