医療と社会
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22 巻, 4 号
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特集:ヘルスケアにおける連携(I)
  • ―政策論の観点から―
    田中 滋
    2013 年 22 巻 4 号 p. 285-295
    発行日: 2013/03/27
    公開日: 2013/04/25
    ジャーナル フリー
    連携とは財・サービスの共同生産の方法論の一つである。本稿ではヘルスケアにおける「連携」という用語を,統合は元より,提携・調整など,異なる組織・職種間補完関係のさまざまな形態の総称と捉えている。
    「はじめに」に続き2節では,ヘルスケア分野の連携をめぐる議論について,ケア論・経営論・政策論という3つの次元の違いを提示する。3節では医療の中での連携が求められる理由を述べる。そこでは日本の社会保障制度,取り分け中小零細事業者で働く勤労者のための医療保険制度(協会けんぽ)の危機とからめて,連携を図ることの意義が強調されている。4節では医療と長期ケアの間で連携が求められる理由を解説する。5節では長期ケア分野における連携が求められる理由を考察する。あわせて同節では,わが国が2025年を目標として構築する地域包括ケアシステムについて説明を行っている。
    一転して6節においては「誰の,誰による,誰のための連携か」という問いを取り上げ,思想レベルでの問いかけを示す。最後に7節で今後への期待を述べる。
  • ―マーケティングの視点から「連携」を考える―
    目黒 昭一郎
    2013 年 22 巻 4 号 p. 297-308
    発行日: 2013/03/27
    公開日: 2013/04/25
    ジャーナル フリー
    本論文では,ヘルスケア領域における「連携」構築へのひとつのアプローチとして,「企業主導型の『連携』の構築」に焦点を当てる。その理由は,第一に,ヘルスケアにおける効果的,効率的な「連携」構築によってもたらされる社会的価値の潜在的な大きさの観点から,企業としてヘルスケアにおける「連携」機能を中核とした新規事業の構築を検討すべきであると考えること,第二に,その一つの理由としてさまざまな産業において,企業は戦略的「連繋」の構築と,そのマネジメントに関する情報・知識やノウハウ・スキルの開発・蓄積を進めてきており,それらがヘルスケアにおける「連携」のマネジメントにきわめて有用な資産となること,の2点にある。
    この論拠の一つとして,帝人の在宅酸素療法事業における「連携」の構築プロセスを事例としてとりあげる。それをベースに,「連携」構築の7段階のプロセスにわけ,「連携」に対する戦略的展開を明らかにする。これらの分析から「連携」の成功要因として,以下の4点を指摘した。すなわち,①ヘルスケア領域のプレーヤーが直面するさまざまな課題の解決には,「価値を提供する仕組みを構築する」という「連携」の「考え方(マインド・セット)」とその実現能力が重要であること。②「連携」の構築には参加者のコンセンサスではなく,イニシャティブをとる組織や個人が,その「連携」に託すビジョンが不可欠であること,③「連携」構築の過程において,マーケティングがもつ基本的な戦略的視点とともに,成功モデルの構築とその全国展開のための配置と調整,標準化と現地適応化の複合化戦略,あるいは知識や経験の移転といった,企業がそれまでに培ってきたマーケティングのノウハウやスキルが有効に働くこと,④企業として,社会的価値の創出にどのように関わるべきか,企業という組織の基本的な社会的使命に立ち戻って,その立ち位置と当事者意識が明確になっていること,である。
  • ―ブループリント手法を利用した日本の3事例の比較より―
    河口 洋行
    2013 年 22 巻 4 号 p. 309-328
    発行日: 2013/03/27
    公開日: 2013/04/25
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,急速に高齢化が進展する都市部での,高齢者向け長期ケアを地域単位でマネジメントする方式を検討することである。このために,公的介護保険の給付サービスを前提として,医師会が主導する広島県尾道市・保険者が主導する埼玉県和光市・居宅事業者が主導する新潟県長岡市の3つの事例を取上げ,公的介護保険制度の標準的な手続きをベースケースとして比較した。分析手法としてはサービス・マネジメント分野のブループリント手法(service blueprint)を採用した。
    分析の結果,第一の「尾道市医師会方式」は,在宅医療機能が中心となっており,プライマリーケアから看取りまでを地域で切れ目なく供給する方式であった。第二の「和光市保険者方式」は,介護予防や重症化防止機能が中心で,自治体が行う供給体制の計画的整備との整合性が取られれば,非常に効率的な方式であると考えられる。第三の「長岡市居宅方式」は,同一事業者がケアマネジャーと多職種チームを地域毎に配置し,サービス利用者の情報共有やチーム内のチームワークを高める方式である。結論としては,都市部を想定した場合,効率的な地域マネジメント・システムとして,和光市保険者方式をベースとすることが考えられる。但し,重篤なケースや看取りの場合には別途医療専門職を中心に検討する組織を設けるなどの変更が必要と考えられる。
  • ―構造的ミスマッチと多様性のマネジメントならびに連携と健全経営との共進的発展―
    中村 洋
    2013 年 22 巻 4 号 p. 329-342
    発行日: 2013/03/27
    公開日: 2013/04/25
    ジャーナル フリー
    多職種・多機能間連携の重要性が高まっている。その背景にあるのは,我が国における高齢化の進展による医療/介護ニーズの高まりと今後本格化する生産年齢人口の減少であり,人材の有効かつ効率的な活用が求められている。別の背景としては,日本の財政収支が先進国最悪の状況となっていることが挙げられる。財源の余裕のない中,医療機関/介護施設における連携の発展はミクロレベルで診療報酬増に頼らない経営を可能にする。そのことがマクロレベルにおいて,日本経済の負担能力を超えた医療費上昇圧力の抑制につながる。
    しかし,多職種・多機能間連携を機能させることは簡単ではない。そこで本研究は,連携の進展を阻害する要因ならびに促進する要因について,事例分析を基に,以下の3点から考察を行った。
    第一に,多職種・多機能間の連携を阻害する構造的要因(ミスマッチ)を大きく三つ(連携のタイプと取り組み手法〔組織〕のミスマッチ,人材のミスマッチ/不足,発展段階のミスマッチ)に分け,それぞれの対応方法を考察した。
    第二に,多職種・多機能間の連携のタイプを,「必要とされる専門性」,「医療/介護サービス関係者間の関わり度」,「利用するサービスの種類」,「患者/利用者の分布」から類型化し,それぞれのタイプでの成功に向けた鍵の考察を行った。
    第三に,多職種・多機能間連携を促進させる要因として,有効で効率的な多様性のマネジメントのあり方と,連携と健全経営の共進的発展について考察を行った。
財団研究論文
  • ―今後の地域精神保健アウトリーチ支援に必要な技術に関する検討―
    廣川 聖子, 大山 早紀子, 大島 巌, 角田 秋, 添田 雅宏, 村嶋 幸代, 萱間 真美
    2013 年 22 巻 4 号 p. 343-357
    発行日: 2013/03/27
    公開日: 2013/04/25
    ジャーナル フリー
    本研究では、地域医療における精神科未治療・治療中断者等,治療関係の確立が困難な対象への訪問支援について,市町村が行う生活保護受給者への健康管理支援事業における支援内容の分析から今後の訪問支援に期待される社会的役割・機能およびそれに対応した今後の専門職への教育のあり方を検討することを目的とした。
    事業の支援対象のうちメンタルヘルス上の問題を有する被保護世帯への訪問支援を実施している看護師,精神保健福祉士,また事業担当責任者に支援内容に関するインタビュー調査を行い,質的な分析を行った。
    支援員の主たる役割として,看護師は「健康管理」が,精神保健福祉士は「ケアマネジメント」が特に期待されていたが、訪問支援をより効果的に機能させるためには単一職種ではなく多職種チームによる包括的支援体制の整備が必要であった。支援対象者は自らは支援を求めておらず,支援・治療関係の構築が困難であり,支援員はまず支援開始前の関係構築のプロセスに十分な時間を必要としていた。今後,民間による訪問支援サービスを発展させていくために,支援者には関係構築,家族アセスメント,ケアマネジメント,多職種コーディネート各スキルの向上が必要であり,専門職教育においてもこれらの点について学習する機会をもつことが必要であると考えられた。
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