医療と社会
Online ISSN : 1883-4477
Print ISSN : 0916-9202
ISSN-L : 0916-9202
22 巻 , 1 号
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
特集:健康格差の社会経済的要因
  • 方法論的課題と展望
    橋本 英樹
    2012 年 22 巻 1 号 p. 5-17
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/04/28
    ジャーナル フリー
    社会格差による健康格差の存在について,社会的・政治的・学術的関心が高まっている。本稿では社会的健康格差をテーマとする実証研究について,現状における方法論的・理論的課題を指摘するとともに,その解決に向けた方策を提示することを目的とする。格差が存在すること自体はすでに事実として受け止められる一方,なぜ社会経済的要因によって健康格差が生じるのかについて,メカニズムの解明は憶測の域を出ていない。その理由として社会的地位の測定と,その理論的裏づけが研究領域間で十分合意形成されていないことをまず指摘する。社会疫学などでは社会階層の代理変数として所得や最終学歴を用いるが,経済学では賃金率や情報・能力を表現するパラメーターとしてモデル化されている。次に通常の疾病疫学と異なり,未測定要因によるmisspecificationや,淘汰による選択バイアスの問題が深刻であり,それを克服する必要があることを指摘する。そのためにはパネルデータの活用に加え,幼少期からの包括的パネル調査が必要なことを主張する。最後に,社会格差による健康格差の実証研究を進めるうえで,データ構築や人材育成の問題に加え,わが国で欠落している「科学的実証に基づく政策立案・評価」の文化を構築することが先決問題となっていることを指摘する。
  • AGESプロジェクト縦断研究
    近藤 克則, 芦田 登代, 平井 寛, 三澤 仁平, 鈴木 佳代
    2012 年 22 巻 1 号 p. 19-30
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/04/28
    ジャーナル フリー
    日本の高齢者における等価所得・教育年数と死亡,要介護認定,健康寿命の喪失(死亡または要介護認定)との関連を明らかにすることを目的とした。協力を得られた6自治体に居住する高齢者14,652人(平均年齢71.0歳)を4年(1,461日)間追跡し,要介護認定および死亡データを得た。Cox比例ハザードモデルを用い,死亡,要介護認定,健康寿命の喪失をエンドポイントに等価所得・教育年数(共に5区分)を同時投入して年齢調整済みハザード比(HR)を男女別に求めた。
    その結果,男性では,最高所得層に比べ最低所得層でHR1.55-1.75,最長教育年数に比べ最短教育年数層ではHR1.45-1.97の統計学的にも有意な健康格差を認めた。一方,女性では,所得で0.92-1.22,教育年数で1.00-1.35と有意な健康格差は認めなかった。等価所得と教育年数の2つの社会経済指標と用いた健康指標(死亡,要介護認定,健康寿命の喪失)とで,健康格差の大きさも関連の程度も異なっていた。
    日本の高齢男性には,統計学的に有意な健康格差を認めたが,女性では認めなかった。これは健康格差が(少)ない社会・集団がありうる可能性を示唆しており,所見の再現性の検証や健康格差のモニタリング,生成機序の解明などが望まれる。
  • 健康格差に関する一般意識と実態
    福田 吉治
    2012 年 22 巻 1 号 p. 31-39
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/04/28
    ジャーナル フリー
    【目的】 所得,学歴,職業等の社会経済的要因に伴う健康水準の違い,すなわち健康格差が注目されている。本研究は,主要な生活習慣病および健康関連生活習慣と所得との関係について,一般住民の意識ならびに実態を調べることを目的とした。
    【方法】 一般住民の意識調査として,山口県の4つの自治体から無作為に抽出した30~59歳の男女650名を対象に,裕福な人がそうでない人に比較して健康問題になりやすいかどうかについて自記式郵送調査を行った。実態調査として,国民生活基礎調査(平成19年)を用い,所得と健康問題との関連をRelative Index of Inequality(RII)を指標に分析した。
    【結果】 一般住民の意識調査では,650名のうち363名より回答があり(回答率55.8%),うつ病を除く全ての疾病(糖尿病,高血圧,脳卒中など)で裕福な人ほどなりやすいと回答した者の割合が高かった。喫煙や過剰飲酒は,裕福な人ほど少ないと回答した者の割合が高かった。実態調査では,脳卒中,心臓病,うつ病,喫煙で,所得が高い人ほどその割合が有意に低かった。
    【考察】 本研究から,生活習慣病やそのリスクとなる不健康な生活習慣は総じて所得の低い者に現れやすいが,一般住民には逆の意識があることがわかった。健康格差についての認識,すなわち,社会経済的に不利な状況は生活習慣病のリスクを高めることの認識を高めることが,それらのリスクを低下させることに繋がると考えられる。
  • 浦川 邦夫
    2012 年 22 巻 1 号 p. 41-55
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/04/28
    ジャーナル フリー
    本研究では,家族や地域とのつながりが,社会保障制度に対する知識とどのように関連しているかについて,アンケート調査の個票データを用いて検証を試みた。
    分析結果によると,「家族・親戚から受ける支援」や「地域との結びつき」の程度が高い者ほど,「子供の医療に対する地方自治体の公的助成制度」や,「公的医療保険料の金額」,「自らが加入している公的医療保険の種類」について適切に把握する傾向が見られた。
    また,回答者の社会保障制度(公的医療保険制度)に対する知識と主観的な健康感との間には一定の正の相関が確認されるため,制度の諸効果を十分に発揮するためにも,その制度の内容が広く国民に周知されることの重要性が示唆された。
    現在,市町村国保においては,医療保険料を滞納する世帯の割合が増加傾向にあるが,その原因の一部には,「高額療養費制度」や「医療費減免制度」の存在など,負担を緩和する様々な制度に対する十分な知識を持っていない人々の存在が挙げられる。現状では,社会保障制度に対する知識量は,自身の家族がどれだけ制度に詳しいか,あるいは地域のネットワークにどれだけ恵まれていたかに依存する側面がある。人々の制度に対する知識量に偏りが生じないように,学校等の教育現場などで,社会保障制度の仕組みについて,より体系的・網羅的に説明するプログラムを整備するなどの方策が求められる。
  • 学歴・職業・所得による格差と性差
    原田 謙
    2012 年 22 巻 1 号 p. 57-68
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/04/28
    ジャーナル フリー
    本研究は,階層的地位(学歴・職業・所得)が領域別および距離別パーソナル・ネットワークに及ぼす影響およびその性差を検討することを目的とした。データは,東京都,神奈川県,埼玉県,千葉県内の30自治体に居住する25歳以上の男女4,676人から得た。
    分析の結果,第一に,学歴が高い者ほど友人数が多く,ネットワーク総数に占める親族ネットワーク比率が低かった。とくに女性では,この学歴による友人数の多寡がネットワーク総数の多寡にもつながっていた。第二に,専門・管理職の者ほど仕事仲間数が多かった。さらに専門・管理職の女性は,友人数も多く,隣人数が少なくても,差し引きするとネットワーク総数が多くなった。第三に,所得が高い者ほど仕事仲間数が多く,ネットワーク総数が多かった。さらに男性では,所得が高い者ほど親族数も多く,所得がネットワークに及ぼす影響は男性において顕著であった。第四に,学歴が高い者ほど,そして所得が高い者ほど中距離および遠距離親族・友人数が多かった。つまり学歴と所得がネットワークを広域化する資源であることが示唆された。
  • 豊川 智之, 村上 慶子, 兼任 千恵, 小林 廉毅
    2012 年 22 巻 1 号 p. 69-78
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/04/28
    ジャーナル フリー
    医療への公平なアクセスを達成することによって,健康の社会的格差の縮小が期待される。本研究は,社会経済的障壁に焦点を当てて医療へのアクセスの公平性について検討した。東京都内および同近郊4自治体に居住する25~50歳を対象に行った「まちと家族の健康調査」の3,378名のデータを用いて,所得による医療受診の分布について集中度指標(CI)と,医療ニードについて調整した水平的不公平性指標(HI)を求めた。補助的分析として所得に対する受診控えの集中度指標を求めた。集中度指標によると,外来及び定期的外来は高所得層にアクセスが多かった(外来CI:0.038;定期的外来CI:0.053)。入院では低所得層にアクセスが偏っていた(CI:-0.032)。水平的不公平性指標でみると,外来(HI:0.043),定期的外来(HI:0.063),入院(HI:0.011)で高所得層に偏った結果となった。受診控えに関して同様に行った補助的分析では,集中度指標が-0.064となり,低所得層に多いことが示された。
  • 集団軌跡モデルを用いて
    中田 知生
    2012 年 22 巻 1 号 p. 79-89
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/04/28
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,高齢者における健康満足感減退の階層差を集団軌跡モデルによって分析することである。
    近年,パネルデータに関する関心が高まってきており,データの公開や分析手法の開発が進んでいる。本研究では,有限混合モデルの一種で,また,母集団をいくつかのクラスに分けて分析することができる集団軌跡モデルにより健康満足度のパネルデータを用いてその軌跡の階層差を検証する。
    本研究においては,老研―ミシガン大学全国高齢者パネル調査のウェーブI(1987)からウェーブIV(1996)までを用いた。従属変数には健康満足感のダミー変数,独立変数には年齢,時間固定共変量として教育と性別,そして,時間依存共変量として従業上の地位と婚姻上の地位を用いた。
    潜在クラス成長分析を健康悪化プロセスの問題に適用した結果,以下の知見が現れた。1)BICを用いたモデルの当てはめの良さの検定からデータは2つに分割され,第1グループは2次関数,第2グループは1次関数という関数形を持つことがもっとも適合度が高い。2)時間固定共変量の投入から,主として,第1グループは女性や教育が高い個人が集まっており,第2グループは男性と教育歴が短い個人が集まっている。3)時間依存共変量である従業上の地位と婚姻上の地位はともに健康に対して正の効果を持つ。
    これらから,社会階層間で「罹患率の圧縮」のような現象が起きていることが見て取れた。
  • AGES追跡研究
    近藤 尚己, 近藤 克則, 横道 洋司, 山縣 然太朗
    2012 年 22 巻 1 号 p. 91-101
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/04/28
    ジャーナル フリー
    物質的に困窮していなくとも,他者と比較して自身の所得や生活の水準が相対的に低いことが心理社会的なストレスとなり健康を蝕む可能性があり,これは相対的剥奪仮説とよばれる。日本人高齢者において相対的剥奪が死亡リスクを上昇させるかを検証した。愛知老年学的評価研究(AGES)2003年ベースラインデータに介護保険給付データに基づく2007年までの死亡に関する情報を個人単位で結合した。調査参加者は愛知県および高知県内の8市町村に住み,要介護認定を受けておらず,基本的なADLが自立している高齢者とした。21,047名のうち主要変数に欠損のなかった16,023名を解析対象とした。同性・同一の年齢階級・同一市町村内在住の3項目の組み合わせで定義した集団内における所得の相対的剥奪をYitzhaki係数の変法で評価してCox比例ハザード分析を行った。平均1,358日間の追跡期間中1,236名の死亡を認めた。性・年齢階級・居住市町村を同じくする集団内における相対的剥奪1標準偏差増加ごとのハザード比(95%信頼区間)は,男性で1.20(1.06-1.36),女性で1.17(0.97-1.41)であった(絶対所得・年齢・婚姻状況・学歴・疾病治療有無で調整)。生活習慣(喫煙・飲酒・健診受診)でさらに調整したところ,ハザード比はわずかに減少した。所得水準にかかわらず,他者に比べて相対的に貧しいことが死亡リスクを高め,特に男性で強い関連がある可能性が考えられた。
研究ノート
  • 文献レビューと政策への適用
    松本 正俊, 井上 和男, 竹内 啓祐
    2012 年 22 巻 1 号 p. 103-112
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/04/28
    ジャーナル フリー
    医師の都市部集中とへき地・地方での医師不足は積年の社会問題となっている。医師の地理的偏在是正のために政策の果たす役割は大きく,特に医学教育への政策介入について,過去に多くの実証研究が行われた。本稿では過去の研究成果をレビューし,効果的に地方やへき地で働く医師を増やすためのエビデンスに基づく方策を考察する。医師のへき地就労を促進する因子として,医師自身がへき地出身であること,プライマリ・ケアに関連する総合性の高い診療科を標榜していること,へき地医師養成プログラム出身であること,卒後早期のへき地診療経験などがある。その他,卒前の地域医療実習,へき地勤務を条件とした奨学金貸与,医学部キャンパスをへき地に設置することなども有効性が示唆されている。わが国における政策としては昭和47年設立の自治医科大学,および平成20年以降急速に拡大し入学定員が1,000名を超えた医学部地域枠がある。さらに近年,卒前医学教育における地域医療実習,卒後臨床研修における地域医療研修が必修化された。これら政策はある程度上記のエビデンスを踏まえたものになっている。しかしながら地域枠の制度設計は都道府県によってばらつきが大きく,また地域枠の入試制度,卒前の地域医療実習,卒後の地域医療研修にはまだ改善の余地が大きい。今後これらの政策が有効に働くために,科学的根拠に基づくさらなる改革が求められる。
feedback
Top