医療と社会
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27 巻, 1 号
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巻頭言
〈特集〉子どもをめぐる諸課題を考える―少子化問題を中心に―
  • 江利川 毅
    2017 年 27 巻 1 号 p. 3-4
    発行日: 2017/05/25
    公開日: 2017/06/13
    ジャーナル フリー
  • 少子化の人口学的メカニズムを踏まえつつ
    阿藤 誠
    2017 年 27 巻 1 号 p. 5-20
    発行日: 2017/05/25
    公開日: 2017/06/13
    ジャーナル フリー

    本稿は日本の少子化の動向・人口学的要因,社会経済的・文化的背景,政策対応を,国際比較を踏まえて概観したものである。70年代以降少子化状況にある先進諸国は緩少子化国と超少子化国に二分されるが,日本は南欧諸国・ドイツ語圏諸国などと並んで後者に属する。人口学的には,少子化は出生の高年齢への先送りによって起こっているが,日本など超少子化国は20代の先送りが著しく30代のキャッチアップが乏しい。そのため世代別の平均生涯出生児数はすでに1.5人以下に低下している。日本では結婚の高年齢への先送りにより未婚化・晩婚化・非婚化が進行する一方,緩少子化国と違い同棲・婚外子がほとんど拡がらなかった。その結果,結婚の変化が少子化の直接的要因となった。結婚したカップルの出生児数の減少は比較的最近のことである。少子化の背景としては,先進国に共通する①豊かな社会の到来と子育て負担の増大と②女性の社会進出(高学歴化・雇用労働力化),日本で注目される③非正規雇用の若者の増大,超少子化国に共通する④伝統的家族観・ジェンダー観について議論した。最後に,少子化への政策対応に関する基本的スタンスを明らかにするとともに,①子育ての経済的支援,②仕事と子育ての両立支援,③非正規雇用問題への対応,④伝統的家族観・ジェンダー観からの脱却について,政策の現状を要約し,国際比較の観点からの評価を試みた。

  • 少子化問題の哲学的・社会政策的考察
    大日向 雅美
    2017 年 27 巻 1 号 p. 21-30
    発行日: 2017/05/25
    公開日: 2017/06/13
    ジャーナル フリー

    少子化対策には「人口政策」と「ウェルビーイング(健康で幸せな暮らしの実現)」の2つの面がある。この2つの面を整理し,国・基礎自治体・企業や社会・個人がそれぞれどのようなスタンスで少子化対策に臨むべきかの議論が必要である。1990年の1.57ショックに始まった日本の少子化対策を見ると,ややもすると「人口政策」と「ウェルビーイング」の議論が混同してきた面も否めない。しかしながら,さまざまな試行錯誤を経て2015年4月に,今後の日本社会の少子化対策のあるべき姿を定めたものと言える「子ども・子育て支援新制度」がスタートした意義は大きい。本稿では1990年から今日までの四半世紀に及ぶ少子化問題とその対策においてなされてきたことを振り返りつつ,今後の少子化対策としての子育て支援について考える。

  • 本田 由紀
    2017 年 27 巻 1 号 p. 31-39
    発行日: 2017/05/25
    公開日: 2017/06/13
    ジャーナル フリー

    日本の少子高齢化は世界的に見ても突出した速さで進行している。日本がこのように特異なほど急速に少子高齢化を遂げている原因は,戦後の1960年代を中心とする高度経済成長期に形成され,その後の1970年代から80年代にかけて社会に普及と深化を遂げた,「戦後日本型循環モデル」の特徴と,それが90年代以降に崩壊を遂げたことに求められる。「戦後日本型循環モデル」は,仕事・家族・教育という3つの社会領域が,互いに資源を一方向的に流し込み合う循環構造を形成していたことを特徴とする。経済成長を前提とし,仕事からは家族に賃金が流れ込み,家族からは教育に対して費用と意欲が流れ込み,教育からは仕事に対して新規労働力が流れ込むという循環である。しかし,バブル経済の崩壊をきっかけとして,1990年代以降に雇用や賃金が不安定化したことにより,この循環モデルは崩壊を迎えた。それに直面していた団塊ジュニア世代が,結婚や出産など家族形成に困難を抱えていたことが,少子化をもたらした。今後は,少子高齢化した社会を維持してゆく上でも,少子高齢化を可能な限り食い止めるためにも,仕事・家族・教育の間に,互いに双方向的に支え合う関係性を作り出してゆくことが求められる。家族成員,特に女性が育児と仕事を両立できるようにするためには,一定範囲の労働時間や職務で安定的な働き方の増大,育児や介護といったケア役割を担う社会機関の拡充,家族の教育費負担の軽減などが不可欠である。

  • 少子化問題の日本的特徴について
    山田 昌弘
    2017 年 27 巻 1 号 p. 41-51
    発行日: 2017/05/25
    公開日: 2017/06/13
    ジャーナル フリー

    日本の少子化を考える場合,次の意識を考慮に入れる必要がある。一つは,「結婚は経済的なイベントという意識」である。結婚は,恋愛の結果生じるという側面よりも,経済的に新しい生活を始める側面が強調される。第二に,日本では世間体意識が強く,他人から見て恥ずかしくない結婚生活を求める。特に,子どもに経済的につらい思いをさせたくないという意識が強い。そのため,自分が育った経済環境以上の条件が整わなければ結婚や出産を見合わせるのである。

    経済の高度成長期には,若者の経済状態はよく,その条件は整っていた。しかし,オイルショックを経て,1990年以降,若者の経済状況は不安定になり,格差が拡大する。子どもを十分な経済環境で育てる見込みがたたない若者が増える。その結果,結婚が減少するだけでなく,男女交際も不活発化する。そして,2000年以降,夫婦の子ども数も減少するのである。

  • 松原 康雄
    2017 年 27 巻 1 号 p. 53-61
    発行日: 2017/05/25
    公開日: 2017/06/13
    ジャーナル フリー

    少子化が進行するわが国において,子どもの数の減少が続いている。一方,厚生労働省が発表する児童虐待相談件数は,厚生労働省で統計がとられ始めて以降,増加の一途をたどっている。この要因には,虐待発生件数そのものの増加のみならず,定義の変更や発見通告システムの改善がある。発見された虐待に対する的確な対応がなされる必要がある。

    子どもの虐待対応については,児童福祉法等の改正によって,2016年5月に大きな変革がなされた。従来の漸進的改正とは異なり急進的な転換が行われたといってよい。児童の主体的権利が確認されたことは理念的転換の象徴となっている。子育て支援については,2つの改正がなされた。1つは,母子保健法の改正であり,子育て世代包括支援センター(法律上の名称は母子健康包括支援センター)が法定化されて,妊娠期から子育て期にわたる切れ目のない支援が提供される。いま1つは,児童福祉法第10条の2に,市町村が支援拠点を整備することが規定された。虐待対応では,子育て支援から虐待に対する公的介入や支援までの「切れ目の無い」支援の実現が重要である。そのうえで介入の強化も目指されるべきである。介入部分については,児童相談所の機能強化が図られた。課題としては,発生予防の役割を果たす子育て支援利用の利便性向上,発見では潜在的虐待の早期発見,介入では各機関施設の連携強化と専門職の増員と専門性の向上をあげることができる。

  • 相馬 直子, 山下 順子
    2017 年 27 巻 1 号 p. 63-75
    発行日: 2017/05/25
    公開日: 2017/06/13
    ジャーナル フリー

    晩婚化・晩産化と少子高齢化により,「ダブルケア(育児と介護の同時進行)」に直面する人の増大が予測される。ダブルケアを広義にとらえると,「家族や親族等,親密な関係における複数のケア関係とそこにおける複合的課題」を考えることができる。

    市民生活における「介護」責任の果たし方は多様化し,ケアの複合化が進行している。政府統計の狭い介護定義では現状のダブルケア実態を十分に把握できない。よって本研究では,介護の意味を幅広くとらえ,市民のダブルケア責任のあり方や負担構造,ニーズの解明に着手した。

    介護・子育ての縦割り行政のはざまで,ダブルケアラー(ダブルケアに従事する人)の孤立や困難な実態が明らかになった。ダブルケア人口が一定数いることや,世帯構成,就業の有無,親の介護度,子育ての状況,介護及び子育てのサービス利用状況,夫との関係,友人及び近隣ネットワークの有無などによって,様々なダブルケアパターンが明らかになった。

    「ダブルケア」とは,世代間のケアの連関のあり方から,その複合課題をとらえる一つの切り口である。この「ダブルケア」を,複数の課題や主体を引き寄せる「磁石」としてとらえ,団塊の世代が75歳以上になる2025年,さらには高齢人口がピークに達する2040~2050年に向けた支援策の開発が急務である。「自治型・包摂型・多世代型地域ケアシステム構築」のためのソーシャルイノベーションの可能性や課題を提示した。

  • 前田 正子
    2017 年 27 巻 1 号 p. 77-88
    発行日: 2017/05/25
    公開日: 2017/06/13
    ジャーナル フリー

    人口減少時代に入り,労働力確保のために一億総活躍の掛け声の下,女性の労働力への期待が高まっている。出産前後の女性の就業継続率も少しずつ上がってきている。

    これまで専業主婦比率が高かった都市部で,既婚女性の就業率が上がりはじめ,保育所の利用者が増えだし,「保活」という言葉が生まれるほど,都市部では保育所への入所が厳しさを増している。保育ニーズの増加に保育所の供給増が追いつかない状況である。さらに首都圏への人口集中が加速化しており,特に東京23区では子どもの人口増と共に保育所入所希望比率があがっている。だが,一方では地方の保育所は少子化で閉鎖され,さらに保育所の年齢別定員の構造的な偏りもあり,保育所の定員割れの状況も広がっている。また保育士不足も深刻化しており,その解決には給与増だけでなく,保育士のワーク&ライフバランスや,研修体制の構築,キャリアパスの確立など様々な工夫が求められる。待機児童対策のために育児休業の2年間への延長も決められたが,育児休業長期化の負の側面を忘れてはならない。しかし,一方で保育資源が無限にあるわけではなく,0歳児保育と育児休業制度の関係も整理されるべきである。いずれにしてもすべての保育問題を保育所だけで解決できるわけではなく,親の働き方や仕事や企業の地方分散など,より包括的な政策パッケージがより良い保育環境の整備のために必要だと思われる。

  • 大豆生田 啓友
    2017 年 27 巻 1 号 p. 89-97
    発行日: 2017/05/25
    公開日: 2017/06/13
    ジャーナル フリー

    本論文では,子ども子育て支援新制度以降の自治体において取り組まれている子育て支援および保育の動向から,その意義と課題について考察した。

    1では,子ども・子育て支援新制度の目的を概説し,地方版の子ども・子育て会議を置くことを努力義務として位置付けられていることが,各自治体が独自の子育て支援の事業計画を作るチャンスであることを述べた。自治体の取り組みの調査では,その会議において,子育て当事者などの委員が意見を出しやすい雰囲気があることや,専門部会やワーキンググループを設置することなど市民参画が重要な傾向としてあげられたことを紹介した。

    2では,先進自治体の事例を紹介した。東京都墨田区では,委員による話し合いによる合意形成を行う取り組みや,幼稚園および保育所が協働した保育の質の向上の取り組みについて取り上げた。東京都世田谷区では,区の住民が主体的に行う子ども・子育て会議の取り組みと,保育ガイドライン作成について取り上げた。埼玉県和光市は,妊娠や出産からの切れ目のない子育て支援を行う「ネウボラ」の実践について取り上げた。神奈川県・横浜市では,利用者支援事業の取り組みと,幼保小の取り組みおよび保育の質向上の実践について取り上げた。

    3では,2での先進自治体の取り組みを通して,今後の自治体の取り組みのポイントとして,3点について考察した。第一は,市民の参画による自治体力の育成について考察した。第二は,産前から産後までの切れ目のない包括的な支援体制について考察した。第三には,乳幼児期の教育・保育の質向上の体制づくりについて考察した。

  • 日本型レジーム再編の方向
    宮本 太郎
    2017 年 27 巻 1 号 p. 99-109
    発行日: 2017/05/25
    公開日: 2017/06/13
    ジャーナル フリー

    少子化の進行は,経済社会の成熟によってある程度まで不可避に進行するが,その程度は,生活保障のレジームのあり方によって大きく異なる。福祉と雇用の連携から成る生活保障のレジームは,一方では出生率の水準を決めると同時に,他方では少子化が社会の持続可能性にもたらす影響の程度を決める。

    男性稼ぎ主の安定雇用とその家族扶養に依拠してきた日本型の生活保障レジームは,出産や子育て,教育などについて家族の負荷が高かった分,雇用の不安定化が直接に出生率の低下に結びついた。同時に,企業に生活保障や教育など多様な機能が期待された分,雇用のハードルが高く,全員参加で経済を担う条件が制約されていた。

    少子化に対処していくためには,こうしたレジームの特性を可能なかたちで漸進的に転換していく必要がある。レジーム刷新のためには,サービス給付については就学前教育の場としての保育の質的向上,現金給付としては働き続けることを支える所得保障の拡充,地域的課題の雇用機会への転換,地域に根ざした住宅政策のネットワークなどが必要である。

  • 吉村 泰典
    2017 年 27 巻 1 号 p. 111-122
    発行日: 2017/05/25
    公開日: 2017/06/13
    ジャーナル フリー

    近年の生殖補助医療の進歩には瞠目に値するものがあり,それら新しい技術を適切に運用するためには,ガイドラインなどの整備が必要なことはいうまでもないことである。生殖補助医療に関する法律や倫理規定などがないわが国において,日本産科婦人科学会は倫理的に注意すべき事項に関する見解を公表し,メディカルプロフェッションとして国民に対して,安全で質の高い生殖医療を提供するために枢要な社会的役割を果たしてきている。しかしながら,生殖医療は社会的,倫理的な,法的問題を大いに包含しており,生まれてくる子どものことを考慮すると,親子関係を含めた生命倫理学的な検証が必要である。

  • 医学の視点から
    五十嵐 隆
    2017 年 27 巻 1 号 p. 123-134
    発行日: 2017/05/25
    公開日: 2017/06/13
    ジャーナル フリー

    わが国の周産期や小児の保健・医療は世界的にも優れている。しかしながら,安心して子どもを出産し,子育てをする上で必要な国や自治体からの支援が他の先進諸国に比べ遅れている。さらに,若年成人の所得減少が近年になって著しくなり,経済的不安や将来への不安が強い。晩婚化が進み,子どもを生み育てることへの躊躇が見られる。その結果,低出生体重児の出生が増加しており,成人の生活習慣病や発達障害などの疾患が増加することが懸念されている。適齢期の成人が安心して妊娠・出産することのできる体制の整備,子育て支援,保育環境の整備,思春期医療の充実,子どもや青年の在宅医療の充実,移行期医療の整備,発達障害児者と家族への支援,予防接種体制の整備などが必要とされる。また,かかりつけ医がすべての子どもを定期的にbiopsychosocialに評価し,必要な場合には支援をする健康監査の仕組みがわが国では脆弱である。このような対応は現行の学校健診では不可能であり,特に思春期以降の子どもに対しての整備が求められている。さらに,優れた保健・医療を提供するためには,周産期医学・小児医学研究が不可欠である。わが国では,医療費,年金,教育費など国からの65歳以上の世代への支出が20歳未満の世代への支出よりもはるかに多い。今後,胎児期から次世代の子どもを育てる若年成人までの保健・医療を切れ目なく支援するための理念法である「成育基本法」を制定し,将来を担う子どもや若年成人の保健・医療を充実させることが望まれる。

  • ドイツの赤ちゃんポストと内密出産の議論を踏まえて
    柏木 恭典
    2017 年 27 巻 1 号 p. 135-148
    発行日: 2017/05/25
    公開日: 2017/06/13
    ジャーナル フリー

    2007年,熊本慈恵病院に赤ちゃんポスト「こうのとりのゆりかご」が設置されて以来,2015年末までに計125名の赤ちゃんが預け入れられている。これを契機に,匿名のSOS相談や赤ちゃんあっせんなど,緊急下の女性(Frauen in Not)とその子(胎児ないしは新生児・乳児等)を支援する動きが強まっている注1)。この一連の取り組みは,20世紀末にドイツで打ち出された「匿名出産(Anonyme Geburt)」,「匿名の子の預け入れ(Anonyme Kindesabgabe)」とそれに続く「赤ちゃんポスト(Babyklappe)に端を発している。

    本稿では,まずドイツにおけるこの新たな匿名での母子支援の歴史を振り返りながら,そこでどのような議論があったのかを可能な限り詳細に描いていく。とりわけ90年代から00年代のドイツの実践者と研究者双方の見解を提示していきたい。そして,その議論を踏まえて,最後に「緊急下の女性」という視点から,我が国における匿名での母子支援のあり方について言及すると共に,望まない妊娠,人工妊娠中絶,妊娠葛藤相談,匿名・内密出産,赤ちゃんポストの問題を含む妊婦期~出産期の包括的な母子支援を実現するための具体的な提言を行う。

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