医療と社会
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5 巻, 1 号
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  • 「社会医療診療行為別調査」等による実証的検討
    二木 立
    1995 年 5 巻 1 号 p. 1-26
    発行日: 1995/04/25
    公開日: 2012/11/27
    ジャーナル フリー
    医療技術進歩が医療費増加の主因と言えるかを,1970~1992年の「国民医療費」と「社会医療診療行為別調査」により,四段階で検討した。(1)国民所得でデフレートした実質国民医療費は1970年代には増加したが, 1980年代には一定であった。(2)「医療技術」を投薬・注射, 画像診断・検査,処置・手術等の3種類と操作的に定義し,それらの医科医療費総額に対する割合を検討したところ,1970年代には8.3%ポイント,1980年代にも6.8%ポイント低下していた。医療技術の割合の低下は投薬・注射の低下により生じた。なお,1984年以降は,診察・在宅療養,医療技術,入院の割合も,3種類の医療技術の割合も固定化した。(3)画像診断と検査について新旧技術の変化を検討したところ,1980年代には,新技術の普及は旧来型技術を代替する形で進んでいた。(4)高度先進医療技術から保険導入された技術の医科医療費総額に対する割合はわずか0.08%にすぎなかった。以上より,わが国では,少なくとも1980年代以降は,医療技術進歩は実質医療費増加の主因ではないと結論づけられた。
  • 民間非営利組織とサービスの質
    遠藤 久夫
    1995 年 5 巻 1 号 p. 27-42
    発行日: 1995/04/25
    公開日: 2012/11/27
    ジャーナル フリー
    医療や福祉サービスの担い手として民間非営利組織の役割が大きい。しかし,民間非営利組織の定義や営利企業とのパフォーマンスの違いなどが,必ずしも明確にされているわけではない。本稿では,欧米を中心に行われている非営利組織の経済学的分析を参考に以下の考察をおこなった。
    1)民間非営利組織の行動を営利組織の行動とことなるものにする制度的特徴として,オーナーの不在と利益分配の禁止を取り上げ,その理由を検討した。2)これらの特徴によって利潤追求から解放された非営利組織は,(1)社会ニーズから乖離して効率性を低下させる可能性があるが,同時に(2)機会主義的行動を抑制することにより供給する財・サービスの質に対する消費者の信頼を高め,消費のモニタリング・コストの低下を通じて取引効率を向上させるという二面性があることを考察した。3)わが国の非営利組織を分析する上で参考になると思われる,(1)営利と非営利のナーシングホーム入所者の属性を分析して入所者は施設の選択において非営利性をサービスの高品質のシグナルとしていることを実証したHoltman and Ullmannの研究,および,(2)長期ケア施設において非営利組織は営利組織より質の高いサービスを提供していることを実証したWeisbrodの研究をサーベイした。
  • 高橋 泰
    1995 年 5 巻 1 号 p. 43-57
    発行日: 1995/04/25
    公開日: 2012/11/27
    ジャーナル フリー
    現在急速に進行する高齢化に社会が対応するために最も必要とされる課題は,ある老人がいた場合,この人がどのような形態でケアの提供を受けるのが最も効率が良いかということをはっきりさせる方法論の開発であろう。この問題を解決するには,高齢者の機能レベルや家族状況毎に在宅で訪問サービスを受ける場合,老人病院,特別養護老人ホーム,老人保健施設等でサービスの提供を受ける場合のおのおののコスト計算が必要になる。そしてこれらのコストを比較するときには,在宅施設を問わず,すべてのコストが同じ物差しで測られる必要がある。今回の研究は,このようなコスト計算を行うための前段階と位置づけることができる。今回の研究では,(1)高齢者施設のユニット内で提供されている全サービスの分類およびユニット内で発生する全業務に対する業務コードの作成,(2)施設内で発生する全コストを調査するための基礎モデルの作成,という2つの作業を行った。
  • Swiss Pharmaceutical Companies in Global Industry Change
    Liisa Välikangas
    1995 年 5 巻 1 号 p. 58-118
    発行日: 1995/04/25
    公開日: 2012/11/27
    ジャーナル フリー
    This study has been undertaken under the auspices and support of the Health Care Science Institute in Tokyo during June-September 1994. It considers the strategies of the three largest Swiss pharmaceutical companies in adapting to current changes in the global pharmaceutical industry. The global industry issues and trends are identified; the corporate portraits of Roche, Ciba, and Sandoz and their current strategic positions presented. The diverging approaches of the Swiss pharmaceutical giants indicate to the reconfiguration of the global pharmaceutical industry currently under way. The study concludes with a commentary on the emerging strategic capabilities of global pharmaceutical companies.
  • 大森 正博
    1995 年 5 巻 1 号 p. 119-159
    発行日: 1995/04/25
    公開日: 2012/11/27
    ジャーナル フリー
    本稿の目的は,医療サービスのもつ情報の性質が医療サービス市場にもたらす問題を明らかにし,実際に医療サービスが供給される個々の医師のレベル,病院という組織のレベルでどのように規制することができるかについて検討し,さらにこれらの検討を具体的に日本の医療機関にあてはめることである。
    医療サービスは,その内容について,医師をはじめとする生産者が消費者よりも圧倒的に多くの情報を持っていることによって特徴づけられる。その結果,医師のMoral Hazard,患者が病気になったときに最初に適切な医師を訪問することができない,患者の訪ね歩き等の問題が生じる。最初に, こうした問題を解決する規制の方法および実施する上での問題について全般的に検討する。次に,同じ問題を病院という組織のレベルで考える。病院という組織の中では,医師,看護婦等の間で分業が行われ,診療に関わる情報が各主体間に分散し,様々なインセンティブの問題が生じる。病院という組織の中で診療部門・事務部門がどのような機能を果たすのかを考え,その機能を発揮するために必要な情報はどのようなものか,またこの両部門間でどのようなコンフリクトが生じるか,について検討し,次に効率的な診療方法の採用,医療保険の選択および最初の医師の訪問の適切性の問題を解決する規制の方法について考える。
    これらの理論的考察をふまえて,日本の医療機関の設立制度について批判的に検討し,現在の制度では情報に関わる問題を解決することが困難であるかあるいは大きな費用がかかることを指摘し,新たな施策について若干の提言を行う。
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