医療と社会
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7 巻, 4 号
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
  • (その2)私的大病院の形成過程とチェーン化・「複合体」化
    二木 立
    1998 年 7 巻 4 号 p. 1-25
    発行日: 1998/02/25
    公開日: 2012/11/27
    ジャーナル フリー
    1996年に500床以上の病床を有する大学病院以外の私的病院(以下,私的大病院)155病院を対象にして, 病院の形成過程とチェーン化・「保健・医療・福祉複合体」化の実態を調査し, 以下の結果を得た。
    (1)私的大病院の開設者は,6割が医療法入,2割が公益法人である。
    (2) 私的大病院は,総合病院と慢性病院(老人・精神)への「二極分化」が完了している。
    (3) 私的大病院の開設時期は,病院の開設者と病床タイプにより異なる。特に,老人病院の半数は1980年以降開設された新しい病院である。
    (4) 私的大病院は1980年代に急増した。精神病床主体の病院は,1950~1960年代には私的大病院総数の7割を占めていたが,1996年には5割に低下している。1959年には,現在500床以上の私的病院の2割が結核病床主体の病院であった。1959年以前に開設された私的大病院の,1959年と1996年の病床タイプは,「結核」を除いて,ほとんど変わらなかった。1970年に500床以上だった病院の1割(4病院)が,新設私立医科大学の設立母体となった。
    (5) 私的大病院が病院開設後500床以上になるまでの平均年数は,全体では26年であるが,老人病院と病院チェーンの3番目以降の病院では10年である。
    (6) 一般には,私的病院の多くは,診療所から発展したと思われているが,前身の診療所を有する私的大病院(グループ)は,4割弱にすぎない。特に,精神病床主体の病院では,単独病院,病院チェーンとも,この割合は2割にすぎない。
    (7) 私的大病院開設グループでは,病院チェーン化が進んでおり,約半数は「広義」の病院チェーンであり,その6割が医療法人である。これら病院チェーンの平均病床総数は1,500床に達する。2,000床以上の巨大病院チェーンは全体で13存在し,そのうち11が500床以上の病院を開設している。
    (8) 私的大病院開設グループでは,病院チェーンを中心に,保健・医療・福祉・教育分野への進出(「保健・医療・福祉複合体」化)も進んでいる。老人保健施設または特別養護老人ホームの開設率は全体で5割,病院チェーンでは6割である。看護・医療技術系・介護福祉士学校の開設率も全体では5割,病院チェーンでは7割である。
  • 1998 年 7 巻 4 号 p. 23-
    発行日: 1998年
    公開日: 2012/12/14
    ジャーナル フリー
  • 臨床研究のあり方を中心に
    西村 周三
    1998 年 7 巻 4 号 p. 27-36
    発行日: 1998/02/25
    公開日: 2012/11/27
    ジャーナル フリー
    本稿は,臨床研究に焦点をあてて,日本の医療技術政策が抱えている問題が,現在の日本経済が抱えている問題とオーバーラップして考えられるべきことを強調し,あわせて一般産業における技術開発における民間資金の重要性をサーベイし,これが医療にもあてはまるのかを検討した。さらに,転換期を迎えている日本の医療についての見方の違いが,今後の医療技術政策を左右することになることを指摘した。
  • 広井 良典
    1998 年 7 巻 4 号 p. 37-51
    発行日: 1998/02/25
    公開日: 2012/11/27
    ジャーナル フリー
    これまでのわが国の医療政策は医療保険政策を中心に展開されてきたが,医療技術の高度化や様々な倫理的・社会的問題の浮上,高齢化の進展と医療費の増加等の状況のなかで,医療技術の推進・評価・規制に関わる「医療技術政策」の確立が求められるに至っている。本稿では医療技術革新と医療費の関係についての基本的なモデルについて概観し,医療技術政策の基本的なフレームと各国の政策動向について述べ,今後のわが国の政策課題について考察を行う。
  • 吉倉 廣
    1998 年 7 巻 4 号 p. 53-61
    発行日: 1998/02/25
    公開日: 2012/11/27
    ジャーナル フリー
    医療費のGNPの中で占める割合は次第に上昇しつつある。これは,世界共通の現象である。多くの施策が考えられているが,すべての人々にとって都合のよい解決策は未だ出されていない。
    医療技術の進歩は従来不可能であった病を治癒させることを可能にした。同時に,多くの新しい医療技術は困難な病気への取り組みを可能とし,医療費を押し上げる要因となっている。医療費が無限に上昇することが不可能であれば,医療技術革新というものの医療の中での立場もこれから変化しなければならない。すなわち,これからの開発される医療技術は,費用対効果を考慮することなしには有り得ない。この意味で,情報にベースを置く組替えDNA技術は大きな可能性を秘めている。組替えDNA技術が医療分野に広く使われた場合に起きる問題についても考察する。
  • 古川 俊之
    1998 年 7 巻 4 号 p. 63-76
    発行日: 1998/02/25
    公開日: 2012/11/27
    ジャーナル フリー
    医療の技術としての進歩ないし進化は眼を見はるものがある。その一方で思想的ないし心情的な変化は全くないに等しい。未来の医学には明確な目標設定が必要である。科学としてはBrain Research, Embryo Research, Medical Informaticsが,技術としてはMedical Engineering, Gene Engineering, Computerがアメリカの研究戦略と言われるが,わが国も確たる進路選択が急がれる。同時に先進医療といえども費用便益関係を意識せずに済まぬ事態が,少子高齢化社会とともに迫っている。当代の医療関係者の責任は大である。
  • 生命倫理から先端医療政策への離脱
    米本 昌平
    1998 年 7 巻 4 号 p. 77-85
    発行日: 1998/02/25
    公開日: 2012/11/27
    ジャーナル フリー
    バイオエシックスという学問を社会的機能の面から見ると,(1)患者の自己決定を軸とする医者=患者関係の再定義,(2)医療職能集団としての倫理的ガイドラインの策定,(3)立法化を含む社会諸制度との調整,の三つを主にめざした実学的な学問であったのであり,70年代のアメリカ社会で発達してきた。その基本にある思想は,あらゆる個人的なるもの,たとえば本人の肉体・病歴・将来の運命・個人や家族の情報・DNA情報,などの支配権はすべてその本人に属し,それ以上の権威は認めないとする自由主義的個人主義である。これに対して欧州諸国は,フランスを中心に,生命倫理の問題に関する普遍的な価値を確立することをめざしてきている。生命倫理の問題は結局は,新しい医療枝術の利用をどう規制するのかという政策形成の問題である。そのために先進各国でエネルギーが注がれてきたのが国レベルでの包括的な調査報告作成という作業であった。ところが日本は,強制参加の医療職能集団のための組織が存在しないこともあって,社会的合意形成のための具体的な政治的手法をまだみつけられないままでいる。
  • 小田切 宏之
    1998 年 7 巻 4 号 p. 87-97
    発行日: 1998/02/25
    公開日: 2012/11/27
    ジャーナル フリー
    本論文では技術革新の経済学からの知見として3点をあげる。第一は科学・技術の特性としての専有不可能性と,その結果生じるスピルオーバーの社会的貢献である。医薬研究,バイオ研究では基礎研究と開発研究との距離が近いだけに,特に大学から産業へのスピルオーバーが大きな役割を果たしており,政府による公的支援や産学共同研究の必要性を主張する論者の根拠となっている。第二は技術革新の要因としての市場の需要構造の重要性である。医薬品産業においては薬価制度,保険制度,薬価差益を最大化しがちな医師の行動,情報の偏在などにより特異な需要構造になっており,これが研究開発のあり方を歪めている可能性が存在する。第三は研究開発における規模と範囲の経済性である。医薬研究においてこうした経済性が存在するか否かについて既存の実証研究にはむしろ否定的なものが多いが,欧米製薬企業の詳細なデータに基づく最近の研究では多数分野での研究プロジェクトを持つことからの範囲の経済性の存在を確認しているものがある。
    こうした3つの問題について,最近のさまざまな研究成果をふまえつつ批判的に検討し,日本における問題点を明確にすることを目的としている。
  • 大森 正博
    1998 年 7 巻 4 号 p. 99-129
    発行日: 1998/02/25
    公開日: 2012/11/27
    ジャーナル フリー
    オランダは,他の先進諸国と同様に医療費の高騰に悩んでいる。その対策として,「規制された競争」をスローガンに自国の医療制度の改革に取り組んでいる。それは,従来の規制によって,がんじがらめになった医療制度に競争原理を導入することにより,医療サービスに向けられる資源配分を効率化することを主たる目的としている。
    オランダでは,治療期間が短期の医療サービスに対する短期医療保険制度,治療期間が1年以上の長期にわたる医療サービスについては,強制の長期療養保険制度が整備されているが,デッカープラン,シモンズプラン以来,その保険者を,消費者の医療サービス購入の代理人として機能させることによって,医療サービス市場に競争原理を導入しようとしている。1989年以来,保険者が医療サービス供給者を選択でき,かつ自由に取引契約をできるようにする施策,消費者が保険者を自由に選択できるようにする施策が順次導入されている。1995年のボースの提案以来,改革の動きは中断しているように見えるが,同じ社会保険を導入している日本にとって,オランダの経験に学ぶことは多い。
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