医療と社会
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7 巻 , 1 号
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  • 南部 鶴彦
    1997 年 7 巻 1 号 p. 3-15
    発行日: 1997/05/20
    公開日: 2012/11/27
    ジャーナル フリー
    日本の医薬品産業の産業組織を分析するにあたっては, まず自由な競争市場で薬が供給されるとき, どのような産業の組織が形成されるかを分析し, 次に日本の固有な制度的条件が, これに対してどのような影響を与えているかを, 明示的にしていくことが一つの接近方法として有効だと思われる。
    この論文では, アメリカを実例として念頭に置きながら, 基準薬価制度が産業組織に与える影響を順次検討した。
    まず第一に, 製薬業を特徴づける研究開発に着目したとき, 日本の新薬への薬価政策は, 真に革新的な新薬でなく,類似新薬への研究開発へとバイアスを与える,それは研究開発上のリスクの側面だけでなく, 定期的に改定される薬価基準そのものがこのような行動をもたらす原因となっている。
    第二には,医薬品の流通における効率性の問題がある。薬は財としては,“reputation goods”の性格を持つ。そこでは説得的な情報提供が純粋の情報提供とともに重要である。薬価差の存在は,このような財の特性から,特に流通コストを上昇させる効果を持っている。
    第三には, 薬価差の存在を背景として, 医師の品質と価格との選択が大きなバイアスを持つ可能性がある。つまり価格については考慮を払わず高品質の改良型新薬へ次々とスウィッチしていくことにより,薬剤の選択が資源の浪費をもたらしている可能性が高い。
  • 南部 鶴彦, 菅原 琢磨
    1997 年 7 巻 1 号 p. 16-33
    発行日: 1997/05/20
    公開日: 2012/11/27
    ジャーナル フリー
    本研究では,「知識ストック」の蓄積を各企業のおこなうR&D投資から定量的に評価するモデルを導入した。さらに,物的投資における資本ストックの形成と同様に「知識ストック」を企業の保有する資産として計上したうえで,経済学的な分析の要請にかなった「経済的利潤率」を定義し,これを会計的な利潤率と比較し分析を行うこととした。また,製薬産業の「高利潤率」がしばしば問題とされる。われわれはそれが他の技術先端産業との比較において実際に存在すると言えるか否かを検討した。「電機機械」,「精密機械」,「石油化学」を比較対象産業として選定し,製薬産業と同様に「会計的利潤率」,「経済的利潤率」を各々算定し比較分析することとした。
    以上の分析から以下の結果が明らかとなった。
    ・医薬品産業の対象期間中の会計的利潤率の単純平均値は3.7%であり,これは,比較した他産業の平均値に比してかなり高い水準である(電機機械:2.7%,精密機械:2.4%,石油化学:1.8%)。対象期間中に比較対象産業が医薬品産業の利潤率をうわまわったケースはほとんど見られず,対象期間の後半では全く見られない。
    ・医薬品産業の対象期間中の経済的利潤率の単純平均値は1.1%であり,これは,比較した他産業の平均値と同程度の水準である(電機機械:0.6%,精密機械:1.0%,石油化学:1.3%)。対象期間中に比較対象産業が医薬品産業の利潤率をうわまわるケースが多く観察され,医薬品産業の利潤率が必ずしも高い水準であるとは言うことができない。
  • 小田切 宏之, 羽田 尚子, 本庄 裕司
    1997 年 7 巻 1 号 p. 34-45
    発行日: 1997/05/20
    公開日: 2012/11/27
    ジャーナル フリー
    本稿では,日本の製薬企業について,Cockburn-Grilichesモデルを基本として企業の技術力の企業価値に与える影響を分析する。企業のもつ技術力は,研究開発ストックとこの研究開発ストックからもたらされる研究開発成果により評価されるとし,先行研究では特許数のみでとらえられていた研究開発成果について,あらたに新薬数を加えて研究開発成果を評価する。特許数と新薬数により研究開発成果をとらえるにあたっては,企業ごとに研究開発の取り組み方が異なることを考慮して,DEAを用いて企業ごとに異なる可変ウェイトにより研究開発成果を評価する。新しく提案したモデルにより1981-1991年の日本の製薬企業9社のデータをもとに推定をおこなったところ,効率的に研究開発成果をあげている企業ほど高い企業価値をもつことがわかった。
  • 遠藤 久夫, 田中 信朗
    1997 年 7 巻 1 号 p. 46-71
    発行日: 1997/05/20
    公開日: 2012/11/27
    ジャーナル フリー
    本稿はわが国の医薬品産業の革新的新薬の創製能力の実態を把握し,国際競争力獲得の可能性を包括的に考察したものである。日本の製薬企業の国際競争力に関して以下の所見を得た。
    1.研究開発の実態
    1)日本の製薬企業の開発した新薬数はアメリカに次いで多いが,大半は国内で販売されており,一部の製品を除くと革新性が低く国際競争力が乏しい。
    2)日本企業の1開発製品当りの研究開発費はアメリカ企業の半分以下である。
    3)利益率はアメリカ企業の方が高く,研究開発に伴う財務リスクはアメリカ企業の方が低い。
    2.環境認識と今後の方針(アンケート調査)
    1)日本の製薬企業の国際競争力は弱く,今後は国際競争力を獲得できる企業とそうでない企業とに二極分化すると予想されている。
    2)日本の医薬品の革新性が低いのは診療報酬制度が最も大きな原因だと認識されている。
    3)日本企業の多くは今後革新的新薬開発を強化しようと考えているが,基礎研究費の増額を考えている企業はその半数に満たない。革新的新薬開発に対する認識の甘さが見られる。
    3.薬価基準制度が研究開発に及ぼす影響
    1)類似薬効の後発品に有利な価格設定を行なう加算方式と,類似薬効製品の多量の市場投入が革新的新薬の価格を下落させ,革新的新薬の期待収益を低下させる。
    2)革新的新薬開発の誘因を高める目的で改良型新薬の価格を下げると,「所得効果」を通じて改良型新薬開発の誘因が高まる可能性もある。
    4.薬剤費抑制策と国際競争力
    1)個別価格規制と薬剤費抑制策が結びついたフランスとドイツの企業の競争力は低下した。
    2)個別価格規制がなく,政府による積極的な研究開発支援が行なわれているアメリカ,イギリスの企業の競争力は強い。
    5.海外進出
    海外進出は革新的新薬開発と並んで車の両輪だが,1)海外戦略に関する習熟効果が小さい,2)世界的な業界再編の波に乗り遅れた,3)世界的な医療費抑制策とぶつかる,4)業績不透明、株価低迷、円安など財務環境の悪化,という問題を抱えている。
    6.開発競争力獲得の可能性
    1)医療費抑制策,研究開発支援策など政策スタンスの影響を強く受ける。
    2)開発ポートフォリオの再編,M&Aを含めた規模の確保といった経営努力が必要。
  • 泉田 信行
    1997 年 7 巻 1 号 p. 72-90
    発行日: 1997/05/20
    公開日: 2012/11/27
    ジャーナル フリー
    この論文においてはゲーム理論の枠組みを用いて日本の医療用医薬品市場における製薬企業の行動を分析し,その結果に基づいて製薬企業の研究開発に対する補助政策,ないしは薬剤費低減政策の研究開発誘因に対する効果を検討した。
    これまでの日本の製薬企業のR&Dについての研究は本質的に競争市場の仮定に基づいた実証分析が主流であり,薬価甚準制度を前提としてゲーム理論を援用したものは少なかったように思われる。それ故,この論文においては薬価基準制度が製薬企業のR&D投資に与える影響を多段階ゲームを用いて分析し,その結果をもとに製薬企業への研究開発補助政策,もしくは薬剤費削減政策の研究開発支出に対する効果を検討した。
    我々が得た主たる結果は,研究開発の費用に対する補助金政策は企業の研究開発支出を増大させ,一律的な薬価幅の縮小政策と研究開発型企業の薬価収載価格低下政策は研究開発支出を低下させる一方,模倣型企業の製品の薬価収載価格低下政策は研究開発型企業の研究開発支出を増大させる理論的可能性があるということであった。
    これらの結果は需要関数に関する仮定に依存している。それ故,この点に関する追加的な研究が必要であると思われる。
  • 藤野 志朗
    1997 年 7 巻 1 号 p. 91-108
    発行日: 1997/05/20
    公開日: 2012/11/27
    ジャーナル フリー
    わが国には未だ医療部門の価格指導(デフレータ)は無い。そこで本論では厚生省の社会医療調査を用いて1959年から1993年までの長期にわたる医療部門のデフレータの推計を行う。価格指数はラスパイレスとパーシエを求めフィッシャーの方式で推計した。
    その推計結果の有効性を明らかにするためGDPデフレータとの単純回帰式をもとめ,高い適合度でそれを確認した。価格指導は入院と入院外とでも推計される。推計した価格指数はGDPデフレータ等にくらべ高い上昇率を示しているので,その原因分析を行った。
    この医療デフレータを用い実質医療費べースでの分析を行った。従来行われていた名目医療ベースでの分析では不明の医療費構造を明確にした。
    また,1人当り実質医療費を医療需要量とし,医療需要の分析を行った。識別の問題などの検討も行っている。医療需要を説明するのに伝統的需要分析の理論にそい,1人当り実質家計可処分所得,相対価格を基本変数とした。所得弾力性と価格弾力性は0.55と-0.32であった。これは米国の先行研究とほぼ同じ値である。また,医師誘導需要の効果を推計し,高齢化のもたらす効果も明らかとした。
    最後に,有病率と受療率とを用いた医療需要の分析をも試みている。
  • Gregg L. Mayer, 田中 滋
    1997 年 7 巻 1 号 p. 109-127
    発行日: 1997/05/20
    公開日: 2012/11/27
    ジャーナル フリー
    アメリカ合衆国医療では,マネージドケアが急速に浸透し,1995年には公的セクターで24%,私的セクターで67%に及んでいる。このマネージドケアの浸透は,米国における医療費の増加が近年緩やかになった原因の少なくとも一部を説明すると考えられる。
    マネージドケアには供給者との契約内容によりさまざまな組織形態がある。本稿ではその各々にいて,コントロールとインセンティブの側面から解説している。マネージドケアは,ケアのコつストと質の双方に責任を持つ効率的な医療供給者の元へ,患者を向かわせるような財政的なインセンティブを内包している。
    さらにマネージドケア機構は,経営管理,疾病管理,薬剤給付管理などにおける様々な革新的手法によりコスト対効果を改善する。そのためこういった革新的手法は,今や既存の保険にも導入されている。われわれも最終セッションで,マネージドケア技術が日本の医療においてもコスト対効果を改善する可能性を検討した。
  • Adam James Oliver, 池田 俊也
    1997 年 7 巻 1 号 p. 128-142
    発行日: 1997/05/20
    公開日: 2012/11/27
    ジャーナル フリー
    将来に生じる費用および便益を現在価値に割り引く場合の「割引率」は,保健医療の経済評価において重要な概念である。従来,便益に対する割引率は,費用に対する割引率と同値におかれ,金融市場における値を反映させるのが一般的であったが,近年ではいわゆる「時間選好率」の測定が数多く試みられており,時間選好率の値に影響を与える社会的要因や個人的要因,死亡と障害度の関係,時間のフレームを変化させた場合の結果などについて研究が行われてきている。しかしながら,国際比較に関する研究は皆無である。本研究では,ノルウェーで実施された方法に則り,わが国において時間選好率の測定を試みた。その結果,今回用いた方法は国際的に利用可能であり,標準的な割引率の測定が適切に行いうるものと考えられた。こうした測定を進めることにより,医療経済学の発展に大きく寄与しうるものと思われる。
  • 島津 望
    1997 年 7 巻 1 号 p. 143-151
    発行日: 1997/05/20
    公開日: 2012/11/27
    ジャーナル フリー
    本稿は,患者が考える医療と医療者の考えるそれとの認識の構造を,インタビューによる定性的方法で捉えることを試みたものである。
    第1に,看護婦の役割については,バイオメディスンに対する対向医療としての看護の役割の確立が急がれることを確認した。
    第2に,入院患者がどのように医療者を見ているかを分析した結果,医師への信頼は,医師の訪問頻度や,患者への説明の納得性を通して,疾病に関する不安が軽減されたことによって形成されることが確認された。
    第3に,看護婦に対する評価は,「優しさ」や「親切」ということばであらわされるが,それは,医師が与える安心感とは別のものを意味し,「生活の場の保証」といった安心感をいだかせるものと思われる。
    最後に,患者同士の病室でのコミュニティ(Suffering Community)が形成されている様子も確認された。これは,患者満足の構造に影響を与える新たな変数である。
    近年,医療の質や患者満足についての議論が盛んであるが,その議論の出発点は,患者と医療者の認識の差を明らかにするところから始められなければならない。そのためには,従来の定量的な分析に加えて,本稿のようなアプローチによって,理解が深められるものであると考える。
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