本稿はわが国の医薬品産業の革新的新薬の創製能力の実態を把握し,国際競争力獲得の可能性を包括的に考察したものである。日本の製薬企業の国際競争力に関して以下の所見を得た。
1.研究開発の実態
1)日本の製薬企業の開発した新薬数はアメリカに次いで多いが,大半は国内で販売されており,一部の製品を除くと革新性が低く国際競争力が乏しい。
2)日本企業の1開発製品当りの研究開発費はアメリカ企業の半分以下である。
3)利益率はアメリカ企業の方が高く,研究開発に伴う財務リスクはアメリカ企業の方が低い。
2.環境認識と今後の方針(アンケート調査)
1)日本の製薬企業の国際競争力は弱く,今後は国際競争力を獲得できる企業とそうでない企業とに二極分化すると予想されている。
2)日本の医薬品の革新性が低いのは診療報酬制度が最も大きな原因だと認識されている。
3)日本企業の多くは今後革新的新薬開発を強化しようと考えているが,基礎研究費の増額を考えている企業はその半数に満たない。革新的新薬開発に対する認識の甘さが見られる。
3.薬価基準制度が研究開発に及ぼす影響
1)類似薬効の後発品に有利な価格設定を行なう加算方式と,類似薬効製品の多量の市場投入が革新的新薬の価格を下落させ,革新的新薬の期待収益を低下させる。
2)革新的新薬開発の誘因を高める目的で改良型新薬の価格を下げると,「所得効果」を通じて改良型新薬開発の誘因が高まる可能性もある。
4.薬剤費抑制策と国際競争力
1)個別価格規制と薬剤費抑制策が結びついたフランスとドイツの企業の競争力は低下した。
2)個別価格規制がなく,政府による積極的な研究開発支援が行なわれているアメリカ,イギリスの企業の競争力は強い。
5.海外進出
海外進出は革新的新薬開発と並んで車の両輪だが,1)海外戦略に関する習熟効果が小さい,2)世界的な業界再編の波に乗り遅れた,3)世界的な医療費抑制策とぶつかる,4)業績不透明、株価低迷、円安など財務環境の悪化,という問題を抱えている。
6.開発競争力獲得の可能性
1)医療費抑制策,研究開発支援策など政策スタンスの影響を強く受ける。
2)開発ポートフォリオの再編,M&Aを含めた規模の確保といった経営努力が必要。
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