医療と社会
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9 巻 , 3 号
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  • 鴇田 忠彦
    1999 年 9 巻 3 号 p. 1-13
    発行日: 1999/11/30
    公開日: 2012/11/27
    ジャーナル フリー
    少子高齢社会の進行とともに,日本の医療改革は焦眉の問題である。筆者らの研究では,国民医療費は2025年までの約30年間に,実質でおよそ2倍,年率にして2.8%で増加する。また15歳から64歳までの現役世代1人あたり国民医療費は,この期間におよそ3倍に達するとやはり推定される。この結果は,将来に予想される低いマクロ経済成長と医療費との調和の困難と,現役世代の負担は限界を越え,制度存続の危ういことを物語る。このような背景の下で,日本の医療改革は突出する高齢者医療の抑制が何より必要である。新たな高齢者医療制度は多面的に構築されるべきである。まず需要面では医療費無料化政策以来のただ同然の自己負担をやめ,応分の負担を高齢者に要請することが不可欠である。さらに末期医療のあり方について,国民的な合意形成を図ることが急務である。また保険者機能による,患者の側の医師や医療機関に対する拮抗力の形成も必要である。その場合に診療報酬の定額化は,包括的な老人医療の特性に見合うだけでなく,保険者の医療機関との交渉を推進するにも望ましい。供給面では薬価の適正化も急務であるが,それは財政節減効果も乏しくかつ製薬企業の新薬開発意欲を削ぐ参照価格のような規制の強化ではなく,市場価格を志向するべきである。現在の日本の医療改革は,市場の失敗よりも政府の失敗を重視し,レントシーキングの温床である規制から,患者・国民本位の市場的な資源配分をめざすべきである。
  • 野口 晴子
    1999 年 9 巻 3 号 p. 15-32
    発行日: 1999/11/30
    公開日: 2012/11/27
    ジャーナル フリー
    1994年,クリントン政権による国民皆保険導入へ向けての医療システム改革案が廃案となった。その背景には,医療政策をめぐる利益者集団の問で国民皆保険に対するコンセンサスが得られなかったことが最も大きな要因の一つとして挙げられる。政府は1990年代の民間セクターにおける医療費抑制に対する著しい成果と医療の質を体系的に測定しようとする多くの努力を背景に,1997年の予算決議案をもって,政府主導型のヘルスケアリフォームではなく,むしろこうした民間医療保険システムの積極的な公的医療保険への導入に踏み切った。受益者が診療報酬によるインデムニティ型の伝統的メディケアやメディケアHMOの枠組みを超えて,POSやPPOといったマネジドケアプランを自由に選択することができる「メディケア+チョイス」や,受益者の医療サービスに対するアクセスビリティーの確保,プログラムの効率化,そして急増するメディケイドの支出に対する抑制策としてのメディケイド・マネジドケアは,そうした政府による政策努力の結果である。
    市場メカニズムを中心としたヘルスケアリフォームが進む中,国民皆保険の導入という当初の政策目標は風化しつつあり, あらゆる財に関して「大きな」政府の市場への介入を嫌う傾向にある米国社会において,短・中期的にみて平均的米国人が医療サービス市場を放棄し,政府主導の国民皆保険制度を受け入れるとは予測しがたい。したがって当面の米国政府に課せられた課題は,医療資源配分の効率化を徹底させるためのリスク調整システムを開発すること,医療の質の改善とその結果である生産の効率化に向けてその測定方法を確立すること,そして低所得者とその扶養家族,高齢者,慢性疾患をもつ患者等公的医療保障を受ける資格のない境界線上の人々に対する特別優遇措置を設定することであろう。
  • 印南 一路, 堀 真奈美
    1999 年 9 巻 3 号 p. 33-68
    発行日: 1999/11/30
    公開日: 2012/11/27
    ジャーナル フリー
    わが国の急速な高齢化の進行に伴い,寝たきり老入の介護問題は,解決を要すべき緊急課題の一つと認識されている。しかし, 寝たきり老人に関しては, 全国レベルでの大まかな推計, 医学的な原因分析や,現場からの現状報告があるものの,全国の市町村レベルにまで踏み込んで,寝たきり老人の実態を把握し,寝たきり老人発現の地域格差や環境要因を追究した研究報告は,これまで存在しない。
    そこで本研究は, 平成5 年度以降策定された「老人保健福祉計画書」にある市町村別在宅寝たきり老人数のデータを用いて,まず年齢階層別の在宅寝たきり老人の発現率の地域格差を検証した。次に,全国市町村の医療福祉サービスデータ,地域特性データ(自然環境,人間環境,経済環境,医療福祉環境,文化環境)を用いて,在宅寝たきり老人発現の要因構造モデルを構築し,さまざまな要因が発現率に与える影響と要因間の影響を定量的に測定した。なお,特別養護老人ホーム(以下,特養と略す)のある地域では,在宅寝たきり老人が施設に入所している可能性があるため,環境要因構造モデルは,総合モデル,特養なしモデル,特養ありモデルの三つに分け分析した。その結果,以下が明らかになった。
    (1)年齢構造を考慮しても,在宅寝たきり老人の発現率には大きな地域格差が存在し,高年齢階層ほど発現率の地域格差が拡大する。これまで在宅寝たきり高齢者発現率の地域格差は,老齢人口の偏りによって説明されてきたが,年齢階層別の寝たきり老人の発現率はほぼ一定であるという主張には根拠がないことになる。
    (2)在宅寝たきり老人の発現率に直接強い影響を与えるのは,人間環境と医療福祉環境であり,自然環境,経済環境,文化環境の影響は主として間接的なものにとどまる。
    (3)人間環境変数は,全般的に在宅寝たきり老人発現率に直接強い効果が観察された。特に核家族割合は負の直接効果が出た。通常,核家族割合が高いということは家庭内介護者が少ないことを意味する。したがって,家庭内介護者の少ない地域では,在宅寝たきり高齢者発現率が低くなるということである。また,核家族割合は非農家世帯と相関が強いため,農家世帯割合が低いと在宅寝たきり老人発現率が低く,農家世帯割合が多いと発現率が高いことになる。
    (4)医療福祉環境は,総合モデルと特養なしモデルでは直接効果をもっていたが,特養ありモデルでは,直接的関係がなかった。これは特別養護老人ホームのある地域では,その他の医療福祉サービスの充実度は,在宅寝たきり老人の発現率には直接関係しないということを意味する。
    (5)自然環境, 人間環境医療福祉環境間の複雑な関係が観察された。
  • 井伊 雅子, 大日 康史
    1999 年 9 巻 3 号 p. 69-82
    発行日: 1999/11/30
    公開日: 2012/11/27
    ジャーナル フリー
    本稿は独自のアンケートに基づいて,軽医療を風邪に特定した上での医療サービス需要の価格弾力性を定義し,医療サービス需要の価格弾力性が0.23~0.36であることを明らかにした。これは,仮に医療保険が改正され被保険者, 被扶養者問わず1 割増加した( つまり, 被保険者3 割, 被扶養者4割)場合,最大で約430億円の国民医療費が抑制され,約88億円の大衆医薬風邪薬の需要が拡大することを意味する。また,薬に関する知識が現在よりも10倍に増えた場合には,最大で約600億円の国民医療費が抑制され,約69億円の大衆医薬風邪薬の需要が拡大することが明らかになった。
  • 池田 俊也, 池上 直己
    1999 年 9 巻 3 号 p. 83-92
    発行日: 1999/11/30
    公開日: 2012/11/27
    ジャーナル フリー
    EuroQol (EQ-5D) は健康状態の包括的尺度であり,公式の日本語版は1998年5月に作成された。筆者らは,日本における一般集団から健康状態の価値付けに関するデータを得ることを目的として,面接調査を計画した。本論文では、自己の健康に対する評価に関する結果概要を述べた。
    合計で621名に対する面接調査が実施された。本結果においては,5項目全てについて,「問題ない」との回答が多かった。少なくとも1つの項目について「中程度の問題」と回答したのは4分の1の対象者であったが,1つでも「重度の問題」と回答したのは,2.1%にすぎなかった。高齢者,重病の経験者,教育水準が低い者、退職者や家事に従事している者は,問題を訴える率が高かった。今回の調査結果は英国や京都におけるこれまでの調査結果と基本的に同様の傾向であった。
    わが国の一般集団における性・年齢階級ごとの基準値が本調査から得られたことにより,今後,患者群の健康状態を基準値と比較し,それにより医療サービスの適切性を評価することを目的として,日本語版EuroQolが幅広く用いられることとなるだろう。
  • 赤木 博文, 稲垣 秀夫, 鎌田 繁則, 森 徹
    1999 年 9 巻 3 号 p. 93-110
    発行日: 1999/11/30
    公開日: 2012/11/27
    ジャーナル フリー
    現在,厚生省は2000年度からの導入をめざして,診療報酬制度における包括支払化の検討を始めている。しかし,包括支払制度は医療機関の治療努力とは無関係に診療報酬を定額で支払う方式であるため,医療機関が利潤の最大化をあざして行動するならば,医療サービス水準の大幅な低下をもたらすのではないかと危惧されている。このような危惧が現実のものとなるかどうかは,包括支払制度が実施されていない現段階では,実証データから判断することはできない。
    そこで本稿では,実験経済学的手法を用いて,包括支払制度の導入が医療サービス水準に及ぼす効果を検討した。すなわち, 医療機関の役割を演じる被験者に, その利潤( 定額診療報酬一実際に要した治療費)に応じた貨幣報酬を支払い,さまざまな疾病レベルをもつ患者被験者にどのような水準の医療サービスを供給するか意思決定を行わせる実験を実施した。
    実験の結果選択された医療サービス水準は,理論的に予想されるきわめて低い医療サービス供給水準に比べ有意に高いものであった。このような実験結果を導いた最大の要因は,医療機関被験者が,低水準の医療サービス供給の結果患者被験者の被る便益の低下に配慮したことにあると考えられる。実験から得られた医療サービス供給水準のデータを用いて医療機関被験者がどの程度患者被験者の便益に配慮したかを推計してみると,大部分の医療機関被験者は自己の利潤以上に患者被験者の便益に配慮して医療サービス水準を選択したことが示された。
    以上のような実験結果を前提とすれば,包括支払制度の導入が医療サービス水準の大幅な低下をもたらす可能性は低いと考えられる。しかし,このことは一方では,包括支払制度の導入が医療費の抑制のための画期的な制度改革とはならないことを示唆しているといえる。
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