アメリカでは、プライバシー権の根拠について、信認義務説またはPrivacy as Trust論と称される学説が有力に主張されるようになっており、我が国の学説にも影響を与えるようになっている。もっとも、信認義務説については、アメリカにおいても批判がなされているし、日米の制度的背景の相違から日本への導入について批判的な見解も存在する。そのため、アメリカの信認義務説を日本に導入することの是非については、日米の制度的背景の相違を踏まえた慎重な検討が必要である。本稿は、現時点において、アメリカの信認義務説をそのまま我が国に導入するのは難しいという立場に立つものである。むしろ、信認義務説からどのような示唆を獲得するのかということが重要である。特に、プライバシー権の根拠について、我が国では、多元的根拠論が有力化してきているが、この多元的根拠論に対して、信認義務説は有益な示唆を与えてくれるものと考えられる。