近年, 各種筋ジストロフィーの原因遺伝子は次々と明らかにされており, 筋ジストロフィー遺伝子研究は最もめざましく進んだ医学領域の一分野である.
しかし, こうした研究成果が臨床の場に反映され, 筋ジストロフィーの根本治療にいたるにはまだ長い時間が必要である. 一方, 人工呼吸療法の発達やそのほかの合併症治療に関する臨床研究の成果は, 患者に多くの恩恵をもたらし, 寿命の延長, 予後の改善につながっている.
従来, 筋ジストロフィーは喪失体験の連鎖であるといわれ, 将来への見通しの少ない疾患として捉えられてきた. しかし, 現在では将来の見通しのできる疾患へと少しづつ変わりつつある. 結果, 病院生活のなかにも変化が現れ, 日常生活でのquality of life (QOL) が高められ, 社会との接点も多くなり, 患者個々人の生活スタイルも取り入れられるようになった. 一方, 重症の患者も増えてきていることも事実である. このような変化の中にあって, 患者のQOLを保っためには医療的ケアとともにますますの生活ケアの重要性が増してきている.
今回のシンポジウムでは日常生活にみられる患者の心理的問題をテーマとして取り上げ, 日常看護の中での患者援助へのアプローチの工夫や他職種との連携について発表していただいた. 小川らは, 病棟において社会的孤立状態にある患者へ積極的傾聴法やタッチングを用い, 患者が, 「受け入れられているという気持ち」を育てながら, 患者の成功の体験を多くし「自分への信頼」を高め, 人との信頼関係に繋げる援助を行った. 寺田らは, 感情表出が不得意なため乱暴で破壊的な行為を示す患者へ忍耐強い受け入れを行い, 他職種との連携を通して行為の改善へっなげた. 原口らは, 無気力の意欲のなさという行動特徴を持つ筋強直性ジストロフィー患者に対し, 環境を調整し余暇時間を一緒に付き添い, 生活意欲を高めていった. 田中らは, 重症化・高齢化してきている患者の生活に対する満足度をヘンダーソンの基本的看護の構成要素を用いて調査・分析し, 患者の満足度と看護の在り方を検討した.
今回の発表での種々の対応や連携は, 今後筋ジストロフィー医療に欠かせないものとなるであろう. そしてまた, 患者が日常生活の中で表現する何気なく当たり前な, 些細な事柄が, 非常に意味あることを, 常に人と接しているわれわれ医療人は忘れてはならないであろう.
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