小児救急医療が, 今ほど広く社会的に話題になったことはかつてなかったであろう. 少子化が急激に進行し, 疾病構造が大きく変化している現在, 小児医療はさまざまな課題を抱えているが, 小児救急医療は, 子どもの心の問題と並んで, 対応が迫られている最も重要な課題であろう. 現在の医療保険制度における小児医療の不採算, とくに病院小児科が不採算ということから, 各地の総合病院小児科の縮小, 混合病棟化, あるいは閉鎖が行われ, 小児科医師定員の削減も行われている. 一方, 一部の病院には患者が集中し, とくに休日・夜間救急診療はまさにパンクしそうな状態になっており, そのような病院の小児科医は大変な過重労働を強いられている. 救急外来を受診する小児患者の多くは比較的軽症であるが, なかには真に緊急性を有する患者や重症患者も含まれている. 子どもの具合が悪いと感じ, 心配になって時間外に病院に連れて来るお母さん, お父さんにとってみれば, 一次, 二次, 三次の区別はない. また, 最近の親達は,子どもの医療に専門性を強く求めている. 休日・夜間の受診の増加には, 生活パターンの変化, 両親ともに働いており, 昼間子どもを見る機会が乏しいことも関係している.
このような状況に対して, 時代と地域の実状に応じた小児救急医療体制の整備が急がれることは勿論であるが, 一般の人々に対して, こどもの病気とその症候, 家庭での対処の仕方など啓発することも必要である. もうひとつ, 救急医療の重要性は事故に関連する医療という点である. 衆知のように, わが国では, 1歳以降, 小児年齢を通じて, 死亡原因の1位は不慮の事故であり, 乳児においても死亡原因の3位は乳幼児突然死症候群, 4位が事故である. 死に至らない受傷者の数は膨大である. 事故は予防が最重要であることはいうまでもないが, 起こってしまった事故について, 救命し, 後遺障害をできる限り少なくするのは, 救急医療の役割である. ともかく, 病気にしろ事故にしろ, 救急医療体制の整備は, わが国の子ども達の健康と安全にとって基本的な事柄である.
最近, 小児救急のことがマスメディアにもしばしば報じられるなど, 社会的関心も高まっている. 行政も小児救急医療体制の整備に本腰を入れて取組む姿勢を示しつつあることは, 小児医療に携わるものとして大変に喜ばしいことである. さらに, 平成14年3月1日開院する国立成育医療センターは, 成育医療に関係する救急医療, すなわち, 小児や母性・周産期の救急医療に真正面から取り組むことを明らかにしている. ナショナルセンターに求められているモデル的医療として展開される訳であるが, 政策的医療先駆的医療としての意義もあると思われる.
このようなときに, 「医療」の特集として「小児救急医療」が企画されたことはまことに時宜を得たものということができる. 内容として, 症候・診断・治療など医学的なことよりも, 今後のわが国の小児救急医療体制のあり方を考えるうえで参考になるものにしたいと思い, 論文のテーマと最適任の執筆者を提案させていただいた. ご承諾くださった執筆者の方々に心から感謝申し上げたい. 充実した内容の特集ができ上がったことを確信している.
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