いまや, クリティカルパスは国立病院においても急速に普及しつつある. たとえば本シンポジウムのなかで向原の発表によると, 普及が早かった九州地方医務局管内の国立病院・療養所で施設アンケート調査をしたところ, 1999年には作られたクリティカルパスは種類で330であったものが, 2000年に入ると600以上と倍増したという. このようなクリティカルパスの導入の効果を同じアンケート調査でみると, 医師, 看護婦とも診療の質の標準化をまずあげていた. 次に医師は業務の効率化, 看護婦は患者の安心と満足をあげたという.
また, クリティカルパスの普及の背景には保険診療報酬の支払い体系との関係もある. シンポジウムのなかで吉田は, 九州医療センターで試行中のDRG/PPSとクリティカルパスの関係に言及し, DRG/PPSにクリティカルパスは必携であることを述べている. また, 吉田はDRG/PPSそのものの効果について, ICDコードの普及, 無駄な検査や処置の減少, 在院日数の短縮化, 精度の高い退院サマリーの作成外来治療の増加, 在宅支援システムの活用, 医療従事者のコスト意識の向上, チーム医療の向上, 医療費の伸びの鈍化などをあげている. しかし, 同時にDRG/PPSは人工股関節置換術などの特定材料使用例には出来高払いより減収とも述べている. また, 2000年4月の保険診療報酬改定で急性期特定病院加算の要件に詳細な入院診療計画としてクリティカルパスの様式が採用されたことも, クリティカルパスの普及を促進した要因となっている.
さらに最近ではクリティカルパスの臨床効果も指摘されるようになっている. シンポジウムのなかで, 飯田は糖尿病患者でクリティカルパスを使用しなかった患者群よりクリティカルパス使用群が6カ月後のHBAICが有意に低かったと述べている. 同様に鶴見はコメディカルチーム, 特に栄養士の栄養アセスメントが体系的になったことや, 患者の疾患理解度がアップした結果, 退院時の空腹時血糖はクリティカルパス導入群で有意に低かったと述べている. また山崎は肺切除の術式が変化してきたこともあるが, 肺切で, クリティカルパスの導入前後の50例を比較したところ, パス導入後には入院期間, 肺活量, 術前後の6分間歩行距離ではいずれもクリティカルパス導入後のほうが成績はよく, 患者の身体機能の改善につながっていたと述べている.
また, 野村はクリティカルパス作成時にアウトカム設定と事後的なアウトカム評価が必要を強調した. とくに中間アウトカムの事前設定や退院基準の設定が重要で, それにより9人工膝関節置換術のクリティカルパスではクリティカルパス導入前と後では, 中間アウトカムの達成期間がそれぞれ短縮していて, 全体としても在院日数が短縮したという. また, 患者満足や業務改善, 材料費のコストダウンにもつながったとも述べた. 今後の課題としては, EBMをどれだけクリティカルパスに取り込めるか, 外来, 入院と一体化したクリティカルパス, 地域連携用のクリティカルパス, クリティカルパス使用例の長期予後の評価などをあげた.
この他, 薬剤師としての立場から, 和田は, クリティカルパスによる薬剤の標準化はさまざまなメリットがあること, たとえば調剤過誤の防止や, 診療プロセスが標準化されているので, 異なる医薬品間の臨床効果や副作用, 医薬品の経済性の比較ができることを挙げた. また, 利光はデイサージャリーでのケアコーディネーターの立場から, クリティカルパスはデイサージャリーにもはや必携のツールであり, アンケート結果からもデイサージャリーでのクリティカルパスの有効性はケアの質の均一化やインフォームドコンセント, ケアコーディネーター自身の充足感につながっていると述べた.
シンポジウムでは以上紹介したように, 医師, 看護婦, 薬剤師, 栄養士らがそれぞれの立場からクリティカルパスの現状に多角的に迫った. 現在, クリティカルパスは全国の病院の約40%で使用されているという. その数はますます増えつつある. クリティカルペスはもはや単なるブームではなく, 21世紀の医療のなかに確実に定着しつつある医療マネジメントのツールといえるだろう.
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