肺塞栓症は下肢人工関節置換術後の重大な合併症であるが, その有効な予防法は未だに確立されていない. 変股症に対し人工股関節置換術を行った26症例(全例女性, 平均年齢64.5歳)に, 術後抗凝固療法, 抗血小板療法を行い, TAT, D-Dimer値を経時的に測定した. また, 症例を,術中ヘパリン投与を行った群(術中ヘパリン投与群, 14例)と非投与群(12例)の2群に分け, 両群間でTAT, D-Dimer値を比較した. 術中ヘパリン投与群で, TAT値は術後5日目に, D-Dimer値は, 術後1日目に有意に低かった. 骨セメント, 自己血輸血, エスポーの使用の有無は, TAT, D-Dimer値に影響がなかった. 術中ヘパリン投与群で, 非投与群に比べ出血量が増加したが自己血輸血例で, 保存血輸血を要する症例はなかった. 術中ヘパリン投与は, 術後の合併症発生はなく, 術後早期の肺梗塞の予防に安全且つ有効な方法であると考えた.
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