日本画像学会誌
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最新号
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論文
  • 兵藤 哲, 船渡 結香, 前田 秀一
    2025 年64 巻5 号 p. 458-464
    発行日: 2025/10/10
    公開日: 2025/10/10
    ジャーナル フリー

    透明材料は偽造防止やトレーサビリティの分野にて注目が集まっている.透明導電酸化物の一つであるアンチモンドープ酸化スズ(ATO: Antimony doped tin oxide)ナノ粉末をゾル-ゲル法にて合成し,可視光下では認識できず,近赤外光下のみで認識が可能となる不可視インクへ応用することに成功した.ATOは広いバンドギャップエネルギーからなる可視光透過性と,局在表面プラズモン共鳴による近赤外光吸収特性を持つ.ATO内のアンチモン量をコントロールすることで,不可視インクとして最適な光学特性を持つATOの合成を行った.さらにATOインクを塗布する対象に不可視性を高める処理を行う事で,塗布面とそれ以外に対する色差を抑え,紙面に対して偽造防止情報を付与することに成功した.

  • 古屋 隼人, 常田 妃登美, 滝本 和哉, 曽根 宏靖
    2025 年64 巻5 号 p. 465-470
    発行日: 2025/10/10
    公開日: 2025/10/10
    ジャーナル フリー

    近年,可視光を情報通信に利用する様々な研究が活発に行われている.また,QRコードなどの白黒の2次元コードに色情報を加えた「カラー・コード」と呼ばれる新たなコードが開発され利用されている.我々は,このカラー・コードに着目し,汎用的な電子端末と組み合わせた簡易的な多重化可視光通信システムの開発をおこなってきた.本研究では,さらなる大容量通信を実現するために,複数のカラー・コードを動画像として通信するシステムを構築した.そのシステムは受信時の誤認識の対策としてエラー訂正機能を搭載し色閾値の逐次生成処理する機能も追加したことで,安定した色認識を実現させている.

Imaging Today
  • 林 園子, 濱中 直樹
    2025 年64 巻5 号 p. 472-476
    発行日: 2025/10/10
    公開日: 2025/10/10
    ジャーナル 認証あり

    研究者らは,障害者や高齢者の自立を支援する道具である自助具の3Dモデル共有プラットフォームである「COCRE HUB(コクリハブ)」上に,寸法調整を可能にするパラメトリックサービスを開発・実装した.ユーザーがウェブブラウザ上で数値を調整するだけで,自身のニーズに合わせた3Dモデルを生成し,3Dプリントのためのファイルを取得できる仕組みである.JSCAD(JavaScript Solid Modeling CAD)を活用して開発されたこのパラメトリックサービスは,非専門家でも使いやすく,試用評価により高い有用性が確認された.本解説では,技術選定,開発プロセス,評価結果を詳細に述べ,今後の発展可能性と社会的意義について考察する.

  • 筒井 彩華
    2025 年64 巻5 号 p. 477-485
    発行日: 2025/10/10
    公開日: 2025/10/10
    ジャーナル 認証あり

    スポーツは身体的健康の維持やコミュニティとのつながりを促進する重要な手段である.しかし,視覚障害者にとっては高強度で対人接触を伴うスポーツへの参加は困難が多く,瞬時の動作判断や空間認識が求められる場面では,従来の聴覚や触覚を用いた支援技術だけでは対応しきれないという課題がある.本解説では視覚障害者が実践的にキックボクシングを行うことを可能にする「Low Vision Boxing」の取り組みを紹介する.本研究では視覚を代替するのではなく,あえて残存視力を活用するというアプローチを採用し,LEDライトによる視覚提示を組み込んだプロトタイプを開発した.視覚障害当事者およびトレーナーとのパティシパトリーデザインのもと,11名の視覚障害者による評価を通じて,その有効性と課題を明らかにした.さらにプロトタイプを用いた定期的なトレーニングやイベントへの出展を通じて,社会実装と普及活動も積極的に展開してきた.本稿では,こうした実践を踏まえインクルーシブなスポーツ環境の実現に向けた可能性を探る.

  • 田中 賢吾
    2025 年64 巻5 号 p. 486-491
    発行日: 2025/10/10
    公開日: 2025/10/10
    ジャーナル 認証あり

    本稿では,視覚障害者と晴眼者が共に楽しめる触覚絵本の制作を支援するシステムの解説を行う.視覚的なイラストを触って理解できる触図に変換し,3Dプリンタで柔軟かつ透明な素材に出力することで,共読を可能にする.本システムは,生成AIを用いた画像の修正と,デザインツールによる線画化やテクスチャの適用を組み合わせることで,触図の設計を支援するものである.さらに,TPU(Thermoplastic Polyurethane,熱可塑性ポリウレタン)フィラメントを用いた出力により,絵本ページへの貼付に適した柔軟性と耐久性を備えた触図の制作が可能となる.今後は,触図の可読性を自動的に評価・補正する支援機能の開発や,視覚障害当事者が制作に主体的に関われる環境の構築を通じて,より多様なユーザに開かれた制作プロセスの実現が期待される.

  • 渡辺 哲也
    2025 年64 巻5 号 p. 492-495
    発行日: 2025/10/10
    公開日: 2025/10/10
    ジャーナル 認証あり

    私たちが2008年から取り組んできた視覚障害者向けの地図「触地図」に関して3点に分けて紹介する.1点目は触地図自動作成システムの開発である.任意の場所の触地図を瞬時に作成できるこのシステムにより,視覚障害者個人ごとの要望に応えることができるようになった.2点目はこのシステムを活用した触地図作成サービスと「触地図を作る会」についてである.個々のニーズに応じた触地図の作成サービスは国内では初めてで,現在でも唯一のサービスである.3点目は3Dプリンタの触地図作成への導入である.3Dプリンタを使うことで立体的かつ直感的な事物の表現が可能となり,触地図の有効性を高めている.その反面,作成に要する時間が長いという課題もあり,用途と必要数に応じた使い分けが求められる.

  • 松尾 政輝, 平 海依, 大西 淳児, 坂尻 正次, 三浦 貴大
    2025 年64 巻5 号 p. 496-501
    発行日: 2025/10/10
    公開日: 2025/10/10
    ジャーナル 認証あり

    近年,視覚障害者による図形や地図,絵画などの二次元情報の理解と創作を支援するインタフェースに注目が集まっている.従来の触図や点図プリンタは,視覚情報に依存しない情報提示手段として有効である一方で,即時性や修正の自由度に乏しく,創作活動における表現力の制約も大きい.本稿では,視覚障害者向けの描画支援に関する関連研究を整理した上で,音響および触覚によるフィードバックを活用した我々の取り組みについて紹介する.具体的には,ゲーム開発における地図作成支援ツール「Audible Mapper」,実世界の経路学習を支援する「OTASCE Map」,そして自由な絵画表現を可能とする描画ソフトウェアの3つのシステムを概説し,ユーザインタフェース設計や提示方式の特徴,ユーザ評価の結果について報告する.これらの取り組みは,視覚に依存しない創造的活動を支える新たな表現環境の可能性を示すものである.

  • 大西 淳児, 松尾 政輝, 坂尻 正次
    2025 年64 巻5 号 p. 502-509
    発行日: 2025/10/10
    公開日: 2025/10/10
    ジャーナル 認証あり

    本稿では,全盲者の空間理解の特性とその形成メカニズムを,晴眼者との比較を通じて多角的に検討した.視覚機能がない状態でも,触覚・聴覚・身体運動など多様な感覚入力を統合することで,全盲者は有意味な空間表象を構築し,柔軟な移動や環境把握を可能にしている.本稿では,視覚中心の空間認知モデルの限界を指摘しつつ,移動行動や視覚代行技術,教育・支援実践の分析を通して,非視覚的空間理解の多様性と可能性を明らかにした.また,神経可塑性や感覚代償に基づく脳科学的知見,触地図や音響ナビゲーションといった具体的手段の実用性についても言及し,今後の教育的支援やインクルーシブな社会設計の方向性を提示した.空間理解を支える多様な感覚戦略を学術的に分析することで,共生社会に向けた空間設計と教育支援の可能性を示す.

  • 小林 茂
    2025 年64 巻5 号 p. 510-513
    発行日: 2025/10/10
    公開日: 2025/10/10
    ジャーナル 認証あり

    本稿は,工学分野において当然視されてきた「テクノロジーによる支援」という枠組みを批判的に検討する.AI等の先端的テクノロジーを用いた障害者支援システムの開発は広く行われているが,これらのアプローチはしばしば問題のある前提を内包している.本論文は2つの重要な概念を導入する.第1のエイブリズムとは,正常性と生産性という社会的に構築された観念に基づいて人々に価値を割り当てるシステムである.第2のテクノエイブリズムとは,障害者を「包摂」するために「治療」または「正常化」すべきだとする,テクノロジーに関するイデオロギーである.これらの概念は,従来の支援モデルが,障害者は既存のシステムに適応すべきであることを前提しており,障害者の主体性や専門性を覆い隠してしまうことを明らかにする.本稿は,知る者であり作る者としての障害者の営みを中心に据えるCrip Technoscienceなどの対抗的アプローチを紹介し,アクセシビリティに関する議論をより適切なものにしていくための理論的基盤を提供する.

Imaging Highlight
  • 園木 和典, 磯部 和也, 吉川 琢也, 樋口 雄大, 竹内 大介, 吉田 曉弘, 上村 直史, 政井 英司
    2025 年64 巻5 号 p. 514-520
    発行日: 2025/10/10
    公開日: 2025/10/10
    ジャーナル 認証あり

    リグニンはセルロースに次ぐ賦存量がありながらも,その構造の不均一さから素材としての活用が困難な天然芳香族高分子である.筆者らはこの不均一性を克服して,リグニンから均質な芳香族素材を作り出すための要素技術開発に取り組んでいる.本稿では,化学プロセスと生物プロセスが連携して展開してきた,リグニン低分子化技術の芳香族モノマー(バニリン酸)生産への最適化[生物プロセスで利用できる芳香族モノマーの収率が最大となるようにアルカリ水酸化銅酸化分解反応パラメータを最適化],(2)バニリン酸生産微生物株の作製[酸化分解物からバニリン酸(VA)を高い選択性で生産できるSphingobium lignivorans SYK-6株とPseudomonas sp. NGC7株由来の代謝改変株],(3)製品の差別化に展開可能な芳香族ポリマーの合成[培養液から得た粗VAからのpoly(ethylene vanillate)合成,試薬VAから誘導したビニルモノマーを用いたトナーの作製]について解説する.

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