明治大学社会科学研究所紀要
Online ISSN : 2758-7649
Print ISSN : 0389-5971
最新号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
  • 加藤 竜太
    2024 年 63 巻 1 号 p. 1-29
    発行日: 2024/10/15
    公開日: 2024/10/15
    ジャーナル フリー
    静学的な数値解析的一般均衡(CGE)モデルの枠組みを使って、COVID-19が日本経済に与えた影響を分析した。分析結果は以下の通りである。第一に、COVID-19は日本の総GDPを4.21%減少させ、厚生上の損失額は15.4兆円近くにまでのぼる。二つ目は、総GDPへのマイナスの影響は「専門、技術サービス業」を通した影響が一番大きく、経済全体ではGDPが1.65%減少した。次にマイナスの影響を与えたのは「飲食サービス」で、総GDPは1.40%の減少となった。厚生水準への影響も「専門、技術サービス業」を通じたマイナスの影響を通し、4.7兆円減少した。次に大きな厚生上の損失は「輸送機械工業」で、厚生水準は4.5兆円を超えた減少となった。プラスの影響を受けた産業もあり、「小売業」は経済全体の総GDPを1.03%増加させたと考えられる。「情報通信」もGDPを0.52%押し上げたと考えられる。「小売業」は経済全体の厚生水準を3.13兆円以上、「情報通信」は1.4兆円以上押し上げたと考えられる。三つ目は、政府の経済支援策は総GDPを1.39%増加させ、厚生上のプラスの効果は2.7兆円を超えたと考えられる。最後に、この経済支援策は実際の日本経済をある程度下支えし、総GDPの減少幅を4.21%から2.91%まで縮小させ、厚生上の損失額も15.4兆円近くから13兆円弱まで低下させたと考えられる。
  • 1950年世界戦略形成の中の米英関係
    鈴木 健人
    2024 年 63 巻 1 号 p. 30-49
    発行日: 2024/10/15
    公開日: 2024/10/15
    ジャーナル フリー
    冷戦初期の歴史を単に米ソの二極的な対立としてのみ見ることは歴史認識として問題がある。1950年ごろ、アメリカは対ソ連封じ込め政策を展開するにあたって、イギリスを最重要なパートナーと見なし、イギリスが世界的影響力を維持するのを支援しようとした。イギリス側も、自国の世界的影響力を維持しつつ、同盟国としてのアメリカの政策に影響を与えようとした。米英両国間には対立や緊張もあったが、この時期は、米英が共同してソ連の封じ込めを図るため、相互に世界的な影響力を維持しようとしていた。
  • 山口 生史
    2024 年 63 巻 1 号 p. 50-83
    発行日: 2024/10/15
    公開日: 2024/10/15
    ジャーナル フリー
    組織コミットメントは組織に対する献身や愛着などに基づく組織との絆であるが、テレワーク導入により対面でのコミュニケーションが減じたり、制限されたり、組織に所属しながら組織にいないことで組織に対する愛着や忠誠心が減衰することは十分に考えられる。一方で、ICTと組織コミットメントとに関係がないとする先行研究もある(Jacobs, 2004)。また、ICTの利用が間接的に組織コミットメントに関係しているという研究も散見される(e.g., Snyder & Cistulli, 2020)。ICTの利用が組織コミットメントを高めるのか、減じるのかは議論の余地があり、直接的に関係しているのか否かも明確ではない。つまり、単にICTを導入し、効果的に利用することだけでは、組織に対する愛着や忠誠心などに強い影響を与えるかどうかは不明である。何らかの媒介する変数があるとも考えられる。これまでも対面での情報交換の適切性などの適切な組織コミュニケーションが、組織組織コミットメントと関係があるという報告は少なからずある(e.g., Carriere & Bourque, 2009)。そして、ICTはコミュニケーションの手段であるから、それを適切に使うことはコミュニケーション(情報伝達など)の効率や質などを改善することはまちがいないであろう。しかし、これら三者(ICT、組織コミュニケーションの適切性、組織コミットメント)の関係に関してはまだ十分に調査されておらずこれを明らかにすることは学術的意義がある。本研究は、組織におけるICTの有効利用と組織コミットメントの関係への組織コミュニケーションの媒介効果モデルを検証し、三者の関係を解明することを目的とする。実践的寄与としては、現在までに発展している最新ICT利用による情報交換の十全性かつ円滑さや対人交流の制限・限界が組織コミットメントにいかなる影響を与えるのかという研究は、テレワークを経験したあるいは現在もしている従業員が少なからず存在する組織にとって、今後の働き方の形態を考えるうえで有益な情報を提供しうる。本研究の目的のために、2021年12月にインターネットで質問票調査を行い、ホワイトカラーワーカー企業従業員500名からデータを得た。共分散構造分析(SEM)を行い構築した理論モデルの適合性を分析し、さらに組織コミュニケーションの媒介効果を明らかにするためBootstrap testにより内生変数(組織コミュニケーション)に対する外生変数(組織コミットメント)の媒介変数を介しての間接効果を分析した。外生変数のICTは、従来型のメディアとしてE-mail、COVID-19感染にともない急速に普及したウェブミーティングメディア(Zoomなど)、組織の中で使われる比較的新しいが従来から普及している社内グループウェアの3つである。内生変数は、情緒的コミットメント、規範的コミットメント、継続的コミットメントの3次元の組織コミットメントである。そして、媒介変数の組織コミュニケーションはオープンコミュニケーション風土、直属リーダー・上司からのダウンワードミュニケーションおよび組織(トップマネジメント)からの情報受信量満足の3次元である。合計27のモデルを分析した。分析の結果、テレワークそのものは、働く人の組織コミットメントには関係がなかった。すべてのモデルで組織コミュケーションの完全媒介か部分媒介の効果が認められた。しかし、ICT有効利用と組織コミットメントは直接的関係があり部分媒介が認められたモデルでも、両者の関係は非常に弱いものであった。それぞれのモデルの検証結果の違いやそれぞれの変数間の関係について本文では十分議論をしている。COVID-19感染拡大をきっかけに働き方が大きく変わった今、組織内のコミュニケ―ションの手段として主流になりつつあるICTの有効活用が働く人々の組織への絆の気持ちの強さとどのようにかかわっているのかを示したことは、学術的にも実践的にも意義があるといえよう。
  • プロアクティブ行動の媒介効果と階層的説明責任プロセスにおけるコミュニケーションの調整効果
    児玉 麻衣子
    2024 年 63 巻 1 号 p. 84-101
    発行日: 2024/10/15
    公開日: 2024/10/15
    ジャーナル フリー
    本研究では、イネーブリングPMSが職務パフォーマンスに与える影響のメカニズムを明らかにすることを目的としている。具体的には、(1)イネーブリングPMSとマネジャーの職務パフォーマンスとの関係におけるプロアクティブ行動の媒介効果、及び(2)イネーブリングPMSとプロアクティブ行動の関係における階層的説明責任プロセスにおける上位者と下位者のコミュニケーションの調整効果を実証的に検討する。日本の企業で働くミドルマネジャー500名を対象とした調査を実施し、階層的重回帰分析によりデータを分析した。分析の結果、プロアクティブ行動が、イネーブリングPMSと職務パフォーマンスの関係に対する媒介要因として重要な役割を果たすことが明らかとなった。加えて、階層的説明責任プロセスにおいて上位者と下位者間のコミュニケーションが密になされているほど、イネーブリングPMSがプロアクティブ行動を促進する効果が強くなることが示唆された。
  • 菊池 一夫
    2024 年 63 巻 1 号 p. 102-117
    発行日: 2024/10/15
    公開日: 2024/10/15
    ジャーナル フリー
    リキッド・ソサエティにおけるリアル店舗の意義を再検討するための素材として ポップアップ・ストア研究を取り上げた。そして文献ビューを通じて当該研究領域の新たな出現やその問題関心の移動について検討し、以下のことを明らかにした。
    ・ポップアップ・ストアの特性によって、研究は多様な領域に展開されつつあり、研究対象自体が拡大している。
    ・ポップアップ・ストアと消費者とのダイアド関係を前提にした研究から、関連するアクターに対象 を広げたネットワーク関係の研究へと研究が展開されつつある。
    ・組織全体の戦略の中でのポップアップ・ストアの位置づけを行う必要がある。
    ・ポップアップ・ストアが有効に機能する状況について、さらなる究明をすることが肝要である。
  • 浅井 義裕
    2024 年 63 巻 1 号 p. 118-131
    発行日: 2024/10/15
    公開日: 2024/10/15
    ジャーナル フリー
    本研究では、2019年12月時点の金融知識、保険知識の水準を調査していた1000人に対して、2022年8月に、再びアンケート調査を実施し、637人から回答を得た。2019年時点で金融知識の水準が高い消費者が、2020年から2022年まで間に、どのような行動を選択したのかを明らかにする。 本研究での分析の結果、金融知識の水準が高い消費者は、新型コロナ感染拡大期に新たに金融商品を購入する傾向があることを明らかになった。また、金融知識の水準が高い消費者は、QRコード決済の利用を開始する傾向があることが明らかになった。さらに、金融知識の水準が高い消費者は、NISAの制度改正の情報、iDeCoの制度改正の情報を知っている傾向があることも明らかになった。一方で、金融知識の水準が高い消費者は、新型コロナウイルスの治療費が無料であるという、新しい情報を得る傾向があるのではないかと予想したが、金融知識と有意な関係があるとは言えないことが確認できた。
  • ―法制化運動から協同労働運動への展開に向けた課題と展望―
    大高 研道
    2024 年 63 巻 1 号 p. 132-166
    発行日: 2024/10/15
    公開日: 2024/10/15
    ジャーナル フリー
    本論の目的は、労働者協同組合法(2022年施行)の成立過程を、1990年代以降の法制化運動の歴史を紐解きながら検討することにある。とりわけ、実定法として成立する過程において、本来、労働概念の拡張をめざした協同労働思想との齟齬が生じたことに着目し、法律が前提とする労働者同士の協同を超えた利用者や地域との協同を含む協同労働運動への展開にむけた課題と可能性を明らかにした。 具体的には、まず、労働者協同組合法の特徴を概観し(第2章)、そのうえで法制化運動の展開過程を2つのステージに分けて考察した。第Ⅰステージは当事者団体である日本労働者協同組合連合会およびそのシンクタンクである協同総合研究所にかかわる実務者・研究者・法律の専門家が中心になって労働者協同組合法の研究・議論が行われた1990年代であり(第3章)、第Ⅱステージは、その議論が市民運動へと展開し、国政レベルでの検討に舞台が移った2000年以降である(第4章)。第5章では、労働者協同組合法が実定法として確立する際の主要論点となった従事組合員の労働者性をめぐる議論が、そもそもなぜ生じたのかという点について、労働者協同組合・協同労働運動思想との関連で考察し、結論では労働者協同組合法制化運動から協同労働運動への展開にむけた課題と展望を明らかにした。
feedback
Top