虐待や不適切養育,大災害,事件・事故など,子どもが育つ過程で体験するトラウマティックな出来事,いわゆる「小児期逆境体験(Adverse Childhood Experience:ACE)」は,健全な成長発達過程に逆行する有害な体験を指す.米国の疾病予防管理センターが推進する大規模研究ACE Study(Felitti, 1998)において,ACE の蓄積が成人後の健康リスク行動や疾病罹患,寿命の短縮にまで有意に関連することが明らかにされている.東日本大震災後のコホート研究においても,復興過程の様々なストレスが被災地の子どもの発達や精神健康に負の影響を及ぼすことが報告されている.近年,社会問題となっている虐待やドメスティックバイオレンス,頻発する自然災害後の環境の悪化の影響が,人々の健康や能力を脅かすものであること踏まえ,ACE の予防と適切なケアは,精神医学的問題のみならず,医療界を挙げて取り組むべき「健康問題」である.
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