令和6年12月24日発行の厚生労働省のデータでは岩手県における脳血管疾患の年齢調整死亡率が男女ともに全国ワースト1位となった.このデータは令和2年のデータを集計したものではあるが,岩手県はワースト3位の常連でもあり脳卒中診療の大きな課題と考える.私は,脳血管障害に関する基礎研究と臨床研究・診療を主戦場としてやってきた脳外科医として,そして岩手県で生まれ地元の大学の脳神経外科を任せていただいた立場としてこの課題に立ち向かう必然性を感じる.岩手医科大学は,脳神経外科だけでなく脳神経内科・老年化と救急科が連携して包括的脳卒中診療を行える大学病院であり,診療と研究のレベルは全国的にも高いと自負している.では,何故脳卒中死亡率が多いのか?今回の講演では脳神経外科の立場から脳卒中の外科治療の均霑化をテーマに述べさせていただく. “Time is brain.”と言われるように脳血管閉塞後は1分毎に190,000個の神経細胞が死んでいくことが知られている.2015年以降は脳梗塞の中でも最も重篤な脳主幹動脈閉塞に対するカテーテル治療(血栓回収療法)の効果が示され脳卒中診療のパラダイムシフトが起こった.しかし,岩手県では本治療が行える病院は少なく,総務省のデータにある通り2021年(令和3年)までは盛岡と中部地区だけで本治療が行われていたにすぎなかった.しかし,一分一秒を争う致死的な病態であり,県土の広い岩手県においては搬送に時間をかけ
ず関連病院で完結すべき疾患である.そこで,当科では2018年より血管内治療専門医の育成を行い,脳主幹動脈閉塞に対する血栓回収療法や脳動脈瘤破裂に伴うくも膜下出血のコイル塞栓術などの脳卒中急性期の血管内治療が行える術者育成に力を入れてきた.その結果,2025年度には当科が関連病院を有さない県南地域を除いて,1時間以内に血管内治療専
門医のいる関連病院に搬送可能な体制を整えることができた.この成果は,何年先に出るかまだわからないが今後も術者育成とともに,地域で活躍できる人材の育成に尽力していきたい.また,大学病院としての使命である研究活動に関しても,先に挙げた日常臨床が高いレベルで均霑化することによってAll岩手のデータベースから独自のインハウス研究を世界に発信していく.外科医にとって逆風が吹く現代において,脳神経外科医を志してくれる心意気のある若者とともに岩手の脳卒中医療の均霑化と脳卒中死亡率の改善に挑戦していく.
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