岩手医科大学歯学雑誌
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10 巻, 3 号
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原著
  • 水間 謙三, 中里 滋樹, 岡村 悟, 金沢 治樹, 佐藤 雄治, 山口 一成, 藤岡 幸雄, 木村 貞昭, 岡田 一敏, 涌沢 玲児
    1985 年 10 巻 3 号 p. 127-135
    発行日: 1985/12/15
    公開日: 2017/11/17
    ジャーナル フリー

    岩手医科大学歯学部附属病院における過去15年間(昭和44年1月から昭和58年12月まで)の全身麻酔施行症例2,278例について, 臨床統計的比較検討を行った。症例数は年々増加傾向にあり, 男性症例が多かった。 昭和48年までは20歳未満の症例が過半数を占め, 手術内容は口唇口蓋形成術およびその修正術が多かったが, それ以降では30歳以上の症例が多くなり, 嚢胞摘出術および上顎洞根治術や悪性腫瘍切除および頸部廓清術が増加している。頻回手術症例は附属病院開設当初は口唇口蓋形成術およびその修正術が多かったが, 最近は悪性腫瘍手術や慢性骨髄炎手術が多い。術前合併症は循環器系の異常が多かったが, 全身状態の悪い症例は少なかった。全身麻酔導入薬は急速導入のサイアミラールの使用が全体の90%を占め, 気道確保法は経口気管内挿管が全挿管の75%と多かった。主維持麻酔薬は調節性に富む揮発性吸入麻酔薬のフローセンやエンフルランに笑気と酸素を併用するGOFやGOEが多かったが, GOFやGOEは年齢に無関係に使用され, Jackson-Rees法は6歳未満症例に多かった。最近は5時間を越える長時間麻酔が多い傾向にあるが, 麻酔中および麻酔後の合併症に重篤な症例はなかった。

  • 第1報 症例の概要
    福田 容子, 戸塚 盛雄, 武田 泰典, 鈴木 鍾美
    1985 年 10 巻 3 号 p. 136-141
    発行日: 1985/12/15
    公開日: 2017/11/17
    ジャーナル フリー

     筆者らはエプーリスの病理学的取り扱いをいかにするかを目的として種々の検討を加えているが, 今回は症例193例の概要を報告した。性比は男性64例, 女性128例, 不明1例で約1:2と女性に多かった。病理学的分類は石川の分類に準じた。その内訳は線維性エプーリス70例, 骨形成性エプーリス55例, 肉芽腫性エプーリス25例, 末梢血管拡張性エプーリス16例, 血管腫性エプーリス14例, 線維腫性エプーリス4例, 先天性エプーリス3例, 不明6例であった。腫瘤の大きさは桜実大までのものが大半を占めていた。発現部位は上顎前歯部が最も多かった。発症年齢は20〜50歳代に好発しており, これらの年代で性差はとくに著明で, 女性に多く, なかでも20歳代で女性の占める割合が高かった。

     各組織型ごとに発症年齢をみると線維性エプーリスは40, 50歳代に多く, 骨形成性エプーリスは20歳代と50歳代に多かった。血管腫性エプーリスは20, 30歳代に発症する割合が高かった。

  • ―とくに腺房細胞について―
    佐島 三重子, 久米田 俊英, 鈴木 鍾美
    1985 年 10 巻 3 号 p. 142-148
    発行日: 1985/12/15
    公開日: 2017/11/17
    ジャーナル フリー

    ラット顎下腺の腺房について, 加齢に伴なう形態学的な変化を光顕的および電顕的に検索した。

    SD系ラット雄の若年期から成熟期として2, 4, 6および12ヵ月齢, 老齢期として22ヵ月齢を各群4匹づつ用いた。光顕的には若年期から成熟期の顎下腺の腺房細胞はよく発達していた。電顕的に腺房細胞には粗面小胞体やゴルジ装置が発達し, 分泌穎粒にはamorphous material が均等に分布していた。

    22ヵ月齢の腺房細胞には以下のような退行性変化がみられた。すなわち, 光顕的に腺房細胞の胞体は大小不同となり, 空胞がしばしばみられた。時に濃染性や奇体な核がみられた。また胞体のPASやトルイジンブルーに対する染色性は低下していた。電顕的には粗面小胞体は著明に減少し, 疎な amorphous matedal からなる分泌穎粒が胞体内に満ちていた。分泌穎粒は癒合して大きなものを形成し, これらが光顕的に空胞状を呈するものと思われた。また,リポフスチンはその大きさ, 数ともに増加していた。

  • 小川 光一, 石井 由美子, 戸塚 盛雄, 長田 亮一, 松丸 健三郎, 上野 和之
    1985 年 10 巻 3 号 p. 149-160
    発行日: 1985/12/15
    公開日: 2017/11/17
    ジャーナル フリー

    昭和50年から58年までの9年間に岩手医科大学歯学部附属病院を訪れ, 予診室に新患登録された患者について検索した。

    患者数は50年の6750人から53年の5130人まで減少し, 以後一定数を維持していた。男女比は女性がやや多く, 男女とも10歳未満の増加が認められた。診療科別では, 第一保存科の患者は9年間に半減し, 第二保存科は漸減, 補綴科と口腔外科も多少減少傾向を示した。矯正科は漸増し, 小児歯科は53年に最低の患者数を示し, 以後増加を示した。地域別では, 盛岡保健所管内の患者数は激減し, 他の岩手県内では漸増し, 県外では変動はなかった。とくに県南では, 歯科診療所の増加にもかかわらず来院患者が増加していた。また, 小児歯科, 矯正科および紹介患者を除く一般患者の比率は, 50年の73%から58年は38%に激減した。なお, 58年の当院の90%診療圏は, 岩手県内であった。

  • 山森 徹雄, 石橋 寛二, 武田 泰典
    1985 年 10 巻 3 号 p. 161-171
    発行日: 1985/12/15
    公開日: 2017/11/17
    ジャーナル フリー

    Wistar系雄ラット(生後6~7週齢)の上顎臼歯部歯肉組織について, とくに歯に面する上皮を中心に電顕的に観察した。その結果, 歯に面する部分の上皮は1)歯肉溝上皮, 2)付着上皮, 3)歯肉溝上皮と付着上皮の移行部の3つに大きく区分でき, さらに付着上皮は歯冠側部, 中間部, 歯根側部に細分できた。歯肉溝上皮は典型的な角化重層扁平上皮の所見を呈していた。付着上皮は非角化重層扁平上皮であり, 開大した細胞間隙には多くの好中球や, 少数ではあるがリンパ球やLangerhans細胞様の細胞が存在していた。付着上皮歯冠側部には上皮細胞の変性, 壊死がみられた。また, 付着上皮は中間部から歯根側部に向かうに従って次第に菲薄となっていた。歯肉溝上皮の移行部では, 基底細胞の外形が高円柱状を呈し, 浅層での扁平化やtono-filamentの増加は歯肉溝上皮ほど顕著ではなかった。

  • 佐藤 方信, 佐島 三重子, 板垣 光信, 鈴木 鍾美
    1985 年 10 巻 3 号 p. 172-176
    発行日: 1985/12/15
    公開日: 2017/11/17
    ジャーナル フリー

    加齢にともなう舌の組織構成の変化を解明することを目的に老化促進モデルマウス(SAM-P/2: 2, 6, 12か月齢) の舌を組織学的に検索し, 併せてSAM-R/2 およびddY 系マウスのそれらと比較検討した。 舌の前, 中, 後部の3か所より前額断として組織を切り出し, 通常の方法で作成したヘマトキシリン・エオジン染色標本について点計測法により組織構成々分の分布を検索し, それらの割合を求めた。

    SAM-P/2 とSAM-R/2 および ddY 系マウスとの間に舌の組織構成々分の量的変動に関して逐齢的な観点から大差はみられなかった。舌の筋組織の割合は SAMT/2, SAM-R/2 および ddY 系マウスの全ての月齢において最も高く, 線維性組織の割合がこれに次いでいた。 脂肪組織は検索したいずれの動物種においても認められないか, 認められてもごくわずかの量であった。 SAM-P/2, SAM-R/2 および ddY 系マウス舌の組織構成々分の逐齢的変化では筋組織と線維性結合組織の割合の変動が主体であり, この様相は舌前部においてより顕著であった。

  • 本田 寿子, 田近 志保子, 高橋 義和, 外川 正, 金子 克
    1985 年 10 巻 3 号 p. 177-187
    発行日: 1985/12/15
    公開日: 2017/11/17
    ジャーナル フリー

    口腔感染症における起因菌検索を目的として, 口腔内化膿性炎34症例の膿瘍から嫌気性菌の分離を試み, 生物学的性状とガスクロマトグラフィーによる代謝産物の分析により菌種を同定した。また薬剤感受性試験を Penicillin 系薬剤3剤 (PCG, ABPC, AMPC), Cephem 系薬剤4剤 (CER, CEX, CFX), その他 MINO, JM, CLDM, MNZ の計11剤について行った。

    その結果, 口腔内感染症例34例の膿瘍のうち4症例からは細菌の分離ができなかったが, 30症例から嫌気性菌を分離した。

    分離した嫌気性菌は Peptostreptococcus magnus 2株, Peptostreptococcus asaccharolyticus 4株, Peptostreptococcus anaerobius 7株, Peptostreptococcus productus 4株, Veillonella parvula 7株, Veillonella dispar 2株, Propionibacterium acnes 1株, Propionibacterium granulosum 1株, Bacteroides fragilis 2株, Bacteroides intermedius 1株, Bacteroides 2株, Fusobacterium nucleatum 6株, Fusobacterium mortiferum 3株の計5菌属, 13菌種, 42株であった。

    分離した嫌気性菌の薬剤感受性試験では PCG に対してグラム陽性嫌気性菌の Peptostreptococcus, Propionibacterium は耐性を示したが, グラム陰性嫌気性菌のVeillonella, Bacteroides, Fusobacterium は感受性であった。しかし, ABPC, AMPC にはいずれの嫌気性菌も感受性を示した。 Cephem系薬剤にはすべての嫌気性菌が感受性を示し, JM には Veillonella, Bacteroides, Fusobacterium は耐性を示し, Peptostreptococcus, Propionibacterium は感受性であった。 また, MINO, CLDM にはすべての嫌気性菌が感受性であった。MNZ には Propionibacterium が MIC 100μg/ml の高度耐性を示したが, 他の嫌気性菌は感受性であった。

    Propionibacterium の MIC は接種菌量106CFU/ml と108CFU/ml で得られた価が JM で0.1μg/ml から0.78μg/ml へ, CLDMでは0.1μg/ml から1.56μg/ml へと大きく変動する事がわかった。

  • 第1報: とくに精薄者最重度集団のカリエスと歯周疾患について
    小川 雅之, 佐伯 厚夫, 熊谷 敦史, 村上 徳行, 上野 和之
    1985 年 10 巻 3 号 p. 188-194
    発行日: 1985/12/15
    公開日: 2017/11/17
    ジャーナル フリー

    歯ブラシ, その他の清掃用具によるmechanicalな歯口清掃が齲蝕や歯周疾患の予防に重要な役割を演じていることは言うまでもない。歯口清掃は, これらブラッシングを主体とするmechanicalな方法の他, 唾液の流れ, 口唇や頬および舌の動きによる自浄作用などのnaturalな作用によっても行なわれる。我々は, 心身障害者成人集団の健康管理に従事する機会を得ているので, 今回は出生以降, mechanicalな歯口清掃や歯科治療がほとんど全く行なわれなかった精薄者最重度集団の口腔所見について, カリエスと歯周疾患を主体に検索した。

    検索集団は年齢18歳から49歳までの男性25名,女性25名の計50例であり, いずれも他に基礎疾患として癲癇(てんかん), 小人症, ダウン症候群, 進行性筋萎縮症, バセドー病, 多発性骨髄腫, 全盲, 難聴, 精神分裂症, 脳水腫などを伴なっている。入園時のIQについては, 男性の2例, 女性の5例で, 鈴木一ビネ式による20~30の数値を示す例を除けば, その他はほとんど測定不能である。

    カリエスについてみると, 男女とも各1例を除く全例にC1以上のカリエスがみられ, 女性で多数歯にわたるカリエスを保有する例や, C4のカリエスを保有する例が多かった。歯周疾患についてみると, 歯肉の発赤腫張はほぼ全例に認められており, 女性で中等度および高度の炎症性変化を呈する例が多かった。歯の動揺や歯槽骨の吸収についても, 女性で高度の例が多くみられた, これは単に歯垢を沈着させやすいC4のカリエスが女性で多かったことのみによるのではなく, 歯口清掃や含漱などをしないで成人に至る過程で, 女性ではホルモンによる内因が男性以上に病変の進展に関与していることによると考えられた。

  • 伊藤 忠信, 村井 繁夫, 陳 慶勲, 大久保 昇, 会田 則夫, 児玉 厚三, 中野 錦吾, 金沢 治樹
    1985 年 10 巻 3 号 p. 195-201
    発行日: 1985/12/15
    公開日: 2017/11/17
    ジャーナル フリー

    ddY系雄性マウスにおける垂直運動量 (VMA) と水平運動量 (HMA) に及ぼす methamphetamine および morphine の効果が, 教室の伊藤らが開発した装置を用いて検討された。運動量の測定は薬物投与後10分ごとに180分間にわたって行われた。

    1. Methamphetamine の場合: VMA および HMA は0.1mg/kg, s.c.では軽度減少を, 1mg/kg, sc.では増大を示した。また, 10mg/kg, s.c.では両者とも著明に増大したが, 1mg/kg, s.c.で観察された変化と質的に異る二相性の活性変化を示した。

    2. Morphine の場合: VMA は用量に相関なく減少した。 HMA は小量 (2mg/kg, s.c.) では減少を, 大量(10mg/kg, sc. 以上) では用量依存的に増大を示した。

    以上のことから, methamphetamine および morphine はマウスの VMA と HMA に対して用量に依存して異った影響を及ぼすことが示された。

症例報告
  • 武田 泰典, 小川 武裕, 野坂 洋一郎
    1985 年 10 巻 3 号 p. 202-210
    発行日: 1985/12/15
    公開日: 2017/11/17
    ジャーナル フリー

    下顎の左右両側性に過剰小臼歯が出現した成年男子の一症例を報告する。左側の過剰小臼歯は定型歯と非定型歯がそれぞれ1本ずつであった。定型歯は第一大臼歯相当部に位置し, ほぼ同大の2咬頭を有し, 咬合面溝はH型を呈した。非定型歯は第二小臼歯遠心部舌側に位置し, 栓状の形態を呈していた。一方, 右側の過剰小臼歯は1本で, 大臼歯部舌側に位置し, その形態より定型歯と考えられたが, 副咬頭を有していることから大臼歯化の傾向を呈したものと思われた。

    下顎の左右両側に過剰小臼歯を有する症例は筆者らの例を含めて本邦では53症例が報告されており, これら過剰歯の出現状況について若干の考察を加えた。

  • 板垣 光信, 武田 泰典, 鈴木 鍾美
    1985 年 10 巻 3 号 p. 211-216
    発行日: 1985/12/15
    公開日: 2017/11/17
    ジャーナル フリー

    上顎中切歯が歯槽基底部に完全に嵌入脱臼した比較的まれな症例を経験したので, その処置, 歯髄組織の病理所見を報告した。症例は14歳の男子で, 転倒時に机の角に上顎前歯部を強打した。受傷後約20分で来院, 上顎左側中切歯が嵌入脱臼していたが, 歯槽骨骨折や鼻腔底への穿孔は認められなかったため, 直ちに患歯の整復固定を行った。術後4日目で歯髄失活が疑われたため抜髄と根管充墳を行った。摘出歯髄組織は歯冠部では歯髄細胞の変性, 歯根部では凝固壊死の所見を呈し, また, ところどころにグラム陽性の細菌様集塊が散見された。その後の治癒経過は良好で, 術後2か月で固定装置を除去した。9か月後の現在, 患部に著変は認められない。

  • 佐伯 厚夫, 佐藤 良雄, 熊谷 敦史, 砂山 康俊, 油井 孝雄, 上野 和之
    1985 年 10 巻 3 号 p. 217-223
    発行日: 1985/12/15
    公開日: 2017/11/17
    ジャーナル フリー

    ダウン症候群は, 肉体的あるいは精神的障害に加えて, 歯の萌出障害や先天欠如, エナメル質形成不全など口腔領域の異常を伴うことが多く, かつ歯周疾患に罹患しやすいということから, 歯科領域ではしばしば取り上げられている。今回, 我々は3例のダウン症候群の歯科治療に従事する機会を得たので, その歯周組織所見を主体に検索した。

    症例は21歳の女性, 20歳の女性, 18歳の男性の3例であり, いずれも重度のダウン症候群例である。出生時の母親の年齢は, 39歳, 33歳, 44歳と比較的高く, 従来の報告を裏づけている。家族歴では, 同胞, 親族に心身障害者がいることや, 母親の初潮が遅いこと, 症例自体も出生時, 難産であることが共通していた。

    口腔所見についてみると, カリエスは少なく, 歯根面の微細構造でみられた石灰化亢進がカリエスに対する罹患を抑制しているようにも推測された。しかしながら, 歯石沈着が極めて強く, 歯群のほとんどが歯石の中に包埋されている所見もあり, カリエスに罹患しにくい状態にあったという環境による影響の方が大きく作用しているようにもみられた。歯周状態については, いずれも歯垢, 歯石など著明な局所刺激因子の存在の下に, 高度の炎症性病変が認められていた。歯肉の発赤腫脹はこれら局所刺激因子の量にほぼ一致していたが, 歯槽骨の吸収は必ずしも局所刺激因子とは一致していなかった。

    今回, 観察された全体的な所見から, ダウン症候群における歯周疾患の成り立ちについて考えてみると, 肉体的な発育不全に伴う感染に対する抵抗力の低下も, 病変の進展という点では, 何らかの点で関与しているようであった。しかし, それ以上に歯口清掃の不全による歯垢, 歯石など局所刺激因子の存在や, 歯群の倭小化, 咬合不全など局所的要因の方が歯周疾患の進展に大きく関与しているように思われた。

シンポジウム
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例会記事
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総索引(総目次)第10巻(昭和60年)
著者名索引 第10巻(昭和60年)
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