伊豆沼・内沼研究報告
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2 巻
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
  • 中川 雅博, 鈴木 誉士
    2008 年 2 巻 p. 01-12
    発行日: 2008年
    公開日: 2017/11/10
    ジャーナル フリー

    琵琶湖の内湖における生物多様性減少機構を明らかするため,魚類相の定量調査を堅田内湖で実施した.標本は2001年8月から2006年7月の5ヵ年にわたり投網で集めた.1年目と2年目ではフナ属魚類,モツゴ,タイリクバラタナゴの3種が優占種であった.5年の調査期間中,この3種が全体に占める個体数の割合は83.3%,84.3%,68.9%,18.6%,および15.5%と激減し,一方で侵略的外来種のブルーギルとオオクチバスの個体数の割合が3.9%,4.5%,16.2%,68.9%,および78.1%と急増した.この優占種の置き換わりにより,市場価格を参考にした生産高変化法によって算出された経済損失額も調査期間中に増加した.これらの結果は,優占種の減少がブルーギルとオオクチバスの増加と同調して起こることと,優占種の減少が潜在的経済損失をもたらすことを示している.生物多様性の回復のためにこれらの2種の侵略的外来種を除去する必要性とその方法についてもあわせて議論した.

  • 藤本 泰文, 川岸 基能, 進東 健太郎
    2008 年 2 巻 p. 13-25
    発行日: 2008年
    公開日: 2017/11/10
    ジャーナル フリー

    伊豆沼・内沼と集水域内の流入河川や池で魚類相を調査した.合計12科36種の魚類の生息を確認した.集水域の魚類相は,東日本固有種であるゼニタナゴ,タナゴ,シナイモツゴやギバチなどを含む,純淡水魚類を中心に構成されていた.開放水域である伊豆沼・内沼と流入河川では,かつて高密度に生息していた在来の小型魚種の生息数は僅かであった.一方,外来魚であるオオクチバスは数多く生息し,その影響が示唆された.池ではオオクチバスの生息の有無によって,魚類相に大きな違いがみられた.在来魚の生息種数は,オオクチバスが生息していない池で多かった.これらの池では,ここ十数年の間に伊豆沼・内沼から姿を消した数種の在来種を再確認した.開放水域である伊豆沼や河川の魚類相は,オオクチバスの侵入による影響が著しく,閉鎖水域である池では,在来魚が保存されているケースがあることが示された.本研究の結果は,集水域を単位とした魚類調査が,在来魚の再確認や防除が望ましい外来魚の分布の把握を通じ,その集水域での魚類相の復元に寄与する可能性を示した.

  • 藤林 恵, 中野和典, 千葉信男, 野村宗弘, 西村修
    2008 年 2 巻 p. 27-33
    発行日: 2008年
    公開日: 2017/11/10
    ジャーナル フリー

    伊豆沼周辺のそれぞれ異なる環境から採集したオオタニシCipangopaludina japonica,マルタニシC. chinensis malleata,ヒメタニシSinotaia quadrata histricaの脂肪酸組成を分析し餌同化内容の解明を試みた.それぞれ生息環境が異なるにもかかわらず脂肪酸組成は同様の傾向を示し,緑藻・藍藻由来,細菌由来の脂肪酸含有率が高かった.このことはそれぞれのタニシが同様の食性を有していることを示している.これら3種のタニシはそれぞれ池沼や溜め池,水田,用水路,河川などを生息地としているが,同一の場所に混棲することは稀である.これは同様の食性を示すために排他的な競争が生じるためであると考えられた.

  • 高崎 文世, 伊藤 亮, 向井 貴彦, 古屋 康則
    2008 年 2 巻 p. 35-50
    発行日: 2008年
    公開日: 2017/11/10
    ジャーナル フリー

    揖斐川の河口から7kmおよび15km地点にあるヨシ群落周辺の干潟を定点として,2005年3月から2006年3月にかけての1年間,採集調査を行なった.本研究により19科47種6550個体の魚類が採集された.採集された魚種には海水性,汽水性,淡水性,および通し回遊性のものなど様々な生活パターンを示すものが見られた.これらのうち,汽水性のアベハゼ,ビリンゴ,マハゼ,およびアシシロハゼ,淡水性のメダカ,河川を上下に移動するボラが1年を通して数多く採集された.これら6魚種について,出現状況および体長組成の周年変化を調べた結果,ヨシ群落周辺を生育の場として利用しているもの(ビリンゴ,マハゼ,アシシロハゼ),定住しているもの(メダカ,アベハゼ),移動の際に一時的に利用しているもの(ボラ)に分類された.

  • 松島 野枝, 佐藤 賢二
    2008 年 2 巻 p. 51-61
    発行日: 2008年
    公開日: 2017/11/10
    ジャーナル フリー

    国指定伊豆沼鳥獣保護区特別保護地区において,両生類の生息状況と環境利用を調査した. 2006年の5月,7月,9月に調査を行ない,ニホンアマガエル,ニホンアカガエル,トウキョウダルマガエル,シュレーゲルアオガエル,ウシガエル(特定外来生物)のカエル類5種を確認した.ウシガエルを除く4種は水田を繁殖場所として利用していたが,非繁殖期には,ニホンアマガエルは水田の他に湿地林や草地などの環境も利用していた.ニホンアカガエルは水田と湿地林でよく見られた.シュレーゲルアオガエルは,非繁殖期である7月には樹林や湿地林で見られたが,9月には確認されなかった.トウキョウダルマガエルは調査地域内で最も個体数が多く,調査期間を通してほとんどが水田で見つかり,他種に比べ水田への依存度が高いことが示された.ウシガエルは沼や水路などの水場に多く見られた.伊豆沼鳥獣保護区特別保護地区内の陸域の多くは水田であるが,ここに生息するカエル類は多様な環境を利用していたことが示された.

  • 川岸 基能, 藤本 泰文, 進東 健太郎
    2008 年 2 巻 p. 63-74
    発行日: 2008年
    公開日: 2017/11/10
    ジャーナル フリー

    伊豆沼・内沼の流入河川で魚類調査を行なった.魚類はその分布パターンから,3グループに分類された.3つのグループのうち,Aグループは,上流側に分布した種のグループであり,スナヤツメやギバチなど河川上流域を好む魚種を含む6種で構成されていた.Bグループは下流側に分布したオオクチバスとヌマチチブの2種で構成されていた.Cグループはトウヨシノボリやドジョウなど河川に広く分布した4種で構成されていた.魚類の出現種数は上流側で多い傾向を示した.上流域に生息するAグループの方が下流域に生息するBグループよりも種数が多く,結果的に流入河川の上流域で出現魚種数が多くなる傾向を示したと考えた.一般に,下流域ほど河川規模が大きく環境収容力が増加するため,生息する魚種数が増加すると考えられている.流入河川で逆の傾向を示した理由として,15年前に行なわれた魚類調査との比較から,少なくとも河川環境の悪化とオオクチバスの増加による下流域での魚種数の減少が考えられた.これらの結果から,人為的影響は伊豆沼・内沼の流入河川における魚類の分布に影響し,いくつかの魚種の生息域を人為的影響の小さい上流域に狭めていると考えた.

  • 鎌田 健太郎, 平出 亜, 鴨下 智裕, 佐藤 好史
    2008 年 2 巻 p. 75-87
    発行日: 2008年
    公開日: 2017/11/10
    ジャーナル フリー

    2006年の調査では伊豆沼におけるオオクチバスの産卵場は,底質が砂でリップルが形成されていない(波浪の影響が少ない)範囲に集中していると推察することができた.2007年は産卵場である底質において,どのような要因がリップル形成に寄与するかを明らかにした.調査の結果,リップル形成のメカニズムは,風速5m/s 程度以上で起こる波浪が誘因となり,底質材料が細粒分(シルト,粘土)のような緩い底質面全体が移動することにより形成されると考えられた.透明度の低い池沼において,オオクチバスの産卵床(底質が砂~砂礫)を特定するには,サイドスキャンソナーによる調査が有効であり,特に強い風の吹く池沼においては,底質面に形成されるリップル分布図および底質分布図を整理することが有効であることが分かった.

  • 吉田 馨, 西山久美子
    2008 年 2 巻 p. 89-96
    発行日: 2008年
    公開日: 2017/11/10
    ジャーナル フリー

    伊豆沼・内沼において,ヨシ群落での刈り取りの有無と群落の種構成との関係を明らかにするために調査を行なった.定期的な刈り取りが行なわれているヨシ群落(管理区)では,刈り取りが行なわれていないヨシ群落(非管理区)と比べて,春季の調査で生育種が多い傾向が見られた.特にスゲ属の各種は,管理区でより種数が多く,被度,群度も高い傾向を示した.ヨシの被度・群度は,管理区で低い傾向があり,その傾向は春季に顕著であった.群落高は春季には同様に管理区で低かったが,秋季にはほとんど差が見られなかった.これらのことから,刈り取りは特に春季のヨシの被度・群度および群落高に影響を及ぼし,スゲ属植物をはじめとした日当たりの良い水湿地に生育する種の生育適地を創出していると考えられる.

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