成人の下顎側方偏位症例の多くは, 成長発達期に歯列不正や悪習癖などの誘因を抱えたまま日常生活を営むなか, 顎口腔系の機能を最大限発揮させられるように適応した結果生じた不正咬合だと考えられる.
機能咬合の獲得は, 咀嚼, 会話, 呼吸, 審美, 姿勢維持などの本来の機能に加え, ブラキシズムによるストレスマネージメントが加えられた考え方が提唱されている.近年, 生体の持つストレスに対するさまざまな動的適応反応は, アロスタシスという概念でとらえられ, 咬合が生体のアロスタシスを維持する機能を持つと示唆されている.
下顎側方偏位症例の治療は, この2つの課題を, 矯正治療, 歯冠修復・歯冠補綴治療を組み合わせ, 全顎的な咬合再構築を行うことにより, 獲得することとなる.
治療に際しては, 矯正治療によって変化の起こりやすい下顎位, 矯正治療によって変化の起こりにくい骨格形態, 矯正治療によって変化する咬合平面, 歯列形態, 歯軸, 矯正治療によって変化しない歯冠形態, これらそれぞれの問題点の有無と程度を的確に把握して, 生体適応反応を考慮した治療を行うことが重要である.
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