大学レベルで英作文の授業を担当する時にしばしば直面する問題は、限られた時間内にいかにして個別学習に近い形で指導できるかということである。
一つの試みとしてL.L.で目本語を各ブースに流し、それを英語に同時通訳させる方法、つまり口頭による英作文演習の方法を取り入れれば受講生が相当量の演習をすることになる。本稿は英語学習の原点は音声にあるとの前提に立ち、同時通訳法による英作文演習が一定の条件の下では英語表現力の向上に効果があることをケース・スタディーを通して明らかにする。
日本人学生の口頭による英語表現力は大学入学までに培ってきた文字による表現力に比較すると極端に低い。これは英語教育の現場にある教員のほとんどが痛感していると思われる。一方国際会議やテレビで活躍するプロの同時通訳者は英語と日本語の間の翻訳を口頭で瞬時にやってのけるスペシャリストである。言い換えると彼らは口頭英作文の能力がきわめて優れているといってよい。そこで筆者は同時通訳者を目指す者が通常行なっている訓練方法を一部適用することで大学生の英語表現力が向上するのではないかと推測した。
電光掲示板のニュースを見ながら隣に立っている外国からの友人に必死になって英語に直している日本人を思い浮かべてみよう。そのような状況では次々に流れてくる文字を適当に区切って情報の一単位として捉え、自己の英語力を精一杯駆使しようと努めるだろう。この文字情報を音声情報に置きかえると、他人によって話されているメッセージを連続的に英語に直しているので、その人は同時通訳をしていることになる。
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