批判的ディスコース分析 (CDA)の主要な論者である、ノーマン・フェアクラフは、「差異」と「対話性」を尺度にした言説分析を試みている。それは両極の方向性をもっており、一方では、他者の「声」を組み人れることによって、差異(さまざまな価値意識や多様な考え方などの現れ)の存在をみとめるテクスト実践を、他方では、そのような差異や、対立する争点を見えなくするいとなみを想定する。本研究では、対話性や間テクスト性の概念を参照することによって、このフェアクラフの方法を批判的に検討することを研究主題とする。
分析資料として、 2009年 8月、和歌山県太地町のイルカ漁をめぐって、豪州北西部のブルーム市議会によって出された、姉妹都市提携停止の決議に関する英語メディアの記事をあつかう。その個々のテクスト生産にあたり、どのようなやりかたによって、他者の声が引用されているのかに焦点をあてて議論を展開する。差異の認知への方向が閉ざされると、ある特定の表象が形成され、それによってある特定のテクストが(再)生産されるという観点から、イルカや鯨などの海洋生物が捕獲されることに関するさまざまな表象が、いかなる言説空間から生みだされてくるのかを探究する。考察からみちびかれた知見をつうじて、 CDAにおいて、テクストを分析することの意味を考える。
抄録全体を表示