日本地域看護学会誌
Online ISSN : 2432-0803
Print ISSN : 1346-9657
1 巻, 1 号
選択された号の論文の14件中1~14を表示しています
  • 中谷 芳美, 島内 節
    原稿種別: 本文
    1999 年 1 巻 1 号 p. 18-23
    発行日: 1999/03/15
    公開日: 2017/04/20
    ジャーナル フリー
    目的:本研究はわが国の寝たきりの原因疾患の1位である脳卒中発症者の在宅における日常生活自立度の予後と訪問看護開始後の自立度の変化に関連する要因を,痴呆,難病,転倒・骨折者との比較から分析し,寝たきり化予防のためのケア内容,ケア方法を検討することを目的とする.方法:対象は都内S区の訪問指導・看護対象者のうち,主疾患が脳卒中,痴呆,難病,転倒・骨折であった363名(全訪問対象の67.5%)とその家族である.調査内容は,(1)本人の性,年齢,主疾患,主疾患の発症年齢,病状・症状,ADL,日常生活自立度変化,ケアニーズ等に関する項目,(2)介護者の状況に関する項目,(3)訪問指導・看護の開始時期,訪問期間およびサービスの利用状況等に関する項目から構成され,担当保健婦が記入した.成績:1)対象者363名のうち,脳卒中発症者は48.2%で最も多く,屋内介助群(厚生省障害老人の自立度判定基準ランクB・C)は65.1%,脳卒中発症者の日常生活自立度の予後「発症からランクB・Cになるまての期間」は平均36.9か月,発症から1年未満の寝たきり率は64.0%と高かった.2)脳卒中発症者が寝たきり状態にある期間は平均45.6か月と難病の49.4か月に次いで長く,寝たきり状態になってから1か月未満に訪問が開始された者は18.4%と他の疾患と比較し最も少なかった(p<0.01〜0.001).3)脳卒中発症者の自立度の変化に関連する要因として統計的有意差を認めた項目は,主疾患発症年齢,発症から訪問開始までの期間,会話能力,介護負担,介護疲労,入浴サービスの利用,医師の往診であった.結論:脳卒中発症者は他の対象よりも比較的若い壮年期と前期高齢者が多いので,これらの年齢層に早期に訪問看護やリハビリテーションを開始すること,また訪問看護開始時に自立度が高くても会話能力の低い者,家族介護力の低い者への援助の重要性が示唆された.
  • 三国 久美, 工藤 禎子, 桑原 ゆみ, 深山 智代
    原稿種別: 本文
    1999 年 1 巻 1 号 p. 24-29
    発行日: 1999/03/15
    公開日: 2017/04/20
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,より満足度の高い乳幼児健診のあり方を検討するために,1歳6か月児健康診査における受け手の満足度の実態とその関連要因を明らかにすることである.調査は北海道A市に在住し,1997年7月から9月までに1歳6か月児健康診査を受けた児の同伴者362人を対象者として,自記式質問紙により行った.有効回答の得られた239人を分析対象者とした.対象者の背景,出向くことの負担,乳幼児健診への期待,健診の快適さ,健診で得られた利益と健診の満足度との関連について分析し,以下の結果を得た.1)対象者は全員が母親であり,健診の満足度は,「とても満足」が12.6%,「だいたい満足」が79.5%,「満足でない」が7.5%,「まったく満足でない」が0.4%であった.2)単変量解析で健診の満足度と関連がみられたのは,受ける前の期待,乳幼児健診の必要性の認識,流れのわかりやすさ,従事者の態度,主観的な待ち時間,健診で得られた利益であった.3)多変量解析で満足度と関連がみられたのは,育児に役立つ知識の獲得と育児に関する苦労の共感であった.これらの結果から,健診における受け手の満足度は,受け手自身の健診に対する認識が高く,健診の流れがわかりやすく,従事者の態度が良く,得られた利益が多いほど高く,受け手の属性や社会経済的背景,出向くことの負担感には関連しないことが明らかになった.より満足度の高い健診を提供するために,親へのケアを含めた対応の重要性が示唆された.
  • 小林 奈美
    原稿種別: 本文
    1999 年 1 巻 1 号 p. 30-35
    発行日: 1999/03/15
    公開日: 2017/04/20
    ジャーナル フリー
    目的:在宅高齢者の終末期のケアは在宅看護サービスの重要な役割であるが,わが国において,終末期の在宅高齢者を見守る家族に関する知見は十分でない.そこで,本研究は,在宅で看取った介護者の感想の内容を整理し,介護者の満足に関連する要因を検討した.方法:文京区訪問看護指導事業の利用者で1993年4月から1997年6月までの間に死亡が把握できた204名のうち,自宅で死亡確認された59名,最終入院期間が7日以内の35名,監察医による検死を受けた3名の計97名の,訪問看護記録および看護婦のインタビューから情報収集を行った.まず,収集した97名の情報を整理し,記述的分析を中心に行った.在宅死の希望,介護者の感想については,担当看護婦,大学院生2名の3者の意見が一致したもののみ,「希望あり」「満足している」と判断した.次に,「看取り終えた介護者の満足」を適切に説明できる要因を明らかにするため,情報をコード化,「看取り終えた介護者の満足度」と各変数との単変量解析を行い,p<0.1程度の関連のある変数を独立変数,上記変数を従属変数としたロジスティック回帰分析を行った.結果:看取り終えて介護者が「満足している」と判断されたのは97人中37人であり,多く見られた肉容は「家で看取って良かった,家に居られて良かった」(22件),「苦しまなくて良かった」(9件)などであった。分析の結果,看取り終えた介護者の満足には以下の2つの因子が関係していることが明らかになった.(1)介護者が実子である.(2)高齢看が死亡時に食欲不振はあっても苦痛の訴えがない.結論:訪問看護婦は,高齢者の在宅における終末期の援助において,介護者の満足に関連する2つの因子を視野に入れてアセスメントを行うべきと考える.
  • 藤谷 久美子, 島内 節, 亀井 智子
    原稿種別: 本文
    1999 年 1 巻 1 号 p. 36-41
    発行日: 1999/03/15
    公開日: 2017/04/20
    ジャーナル フリー
    目的:訪問看護の直接的ケア業務の所要時間,事例群別のケア業務内容の特徴と訪問頻度,連携,管理などの間接的業務の所要時間について明らかにすることを目的に,訪問看護利用者サービスのための業務時間調査(タイムスタディ)を行った.方法:対象は関東近県の訪問看護ステーション30機関,病院8機関の40歳以上の391名を対象とし,(1)ターミナル事例(以下:ターミナル群),(2)医療処置事例(以下:医療群),(3)痴呆事例(以下:痴呆群),(4)生活援助事例(以下:生活援助群)の4群について1週間に要したケア業務時間,訪問頻度,連携と管理時間について担当訪問看護婦(士)に業務時間測定を依頼した.結果:1)各群別の対象者数はターミナル群60例(15.3%),医療群147例(37.7%),痴呆群92例(23.5%),生活援助群92例(23.5%)であった.2)訪問看護業務における1週間あたりのケア時間は「皮膚と清潔のケア」(54.2分),「摂取と排泄問題へのケア」(38.0分),「身体機能日常生活動作へのケア」(36.8分)の順に長かった.ターミナル群では他の事例群に比べて全体的にケア時間が長く,心理面のケアや家族の問題状況へのケアなどに多くの時間を費やしていた.医療群では医療処置に関する業務に要した時間が痴呆群や生活援助群の3〜4倍となっていた.痴呆群では,コミュニケーションや認知の問題状況へのケアにおいて,他の事例群よりも多くの時間が費やされていた.生活援助群では全体的に他の事例群に比べてケア業務時間が短かった.いずれの群とも1回のケア平均時間は約70分であった.3)事例群別1週間の訪問頻度は,全体で平均2.4±2.3回,ターミナル群4.3回,医療群2.2回,痴呆群2.0回,生活援助群2.1回であり,ターミナル群が他の事例に比べで有意に訪問頻度が高かった(p<0.01).4)事例群別の1週間の看護管理時間は全体平均で48.5±68.2分,ターミナル群79.9分,医療群49.4分,痴呆群35.0分,生活援助群39.9分であり,ターミナル群が他の事例に比べで有意に管理時間が長かった(p<0.05).5)事例群別の1週間に要した他機関等との連携時間は全体平均で28.5±51.1分,ターミナル群46.3分,医療群28.1分,痴呆事例27.6分,生活援助群18.8分であり,ターミナル群と生活援助群間で有意差があった(p<0.01).以上の結果は各訪問看護機関のケア対象者の受入れ許容範囲,看護職の熟練度に応じた事例の分担方法,訪問看護の効果的な体制・運営管理に生かされると考える.
  • 田高 悦子, 金川 克子
    原稿種別: 本文
    1999 年 1 巻 1 号 p. 42-49
    発行日: 1999/03/15
    公開日: 2017/04/20
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,在宅寝たきり高齢者の機能の低下を予防するための一方策として,3か月間にわたる座位耐性訓練を中心とするケアプログラムによる介入を実施し,効果を分析することである.対象は在宅寝たきり高齢者82名(介入群41名;対照群41名)である.ベースライン調査後,介入群に対してはケアプログラムを実施し,対照群に対しては標準的な訪問指導を実施して経過を観察した。その結果,1)生理的機能(平均血圧,リーチテスト,筋肉量,握力)ではリーチテストについて両群に差のある傾向を認め,介入群では低下しないのに対し,対照群では低下する傾向が認められた.2)ADLでは,整容,上半身更衣,下半身更衣の各動作およびセルフケア総合得点について両群に有意な差を認め,3か月後のこれらのスコアは介入群のほうが対照群に比して有意に高く,介入群では低下がみられなかったのに対し対照群では有意に低下がみられた.3)コミュニケーションでは,両群に有意な差を認めなかった.4)1日の非臥床時間では両群に有意な差を認め,介入群では減少がみられなかったのに対し,対照群では有意に減少がみられた.また,ADLのセルフケアスコア総合得点の変化と,1日の非臥床時間の変化との間には有意な正の相関を認めた.以上より,在宅の寝たきり高齢者に対する座位耐性訓練を中心としたケアプログラムは,セルフケア動作を中心としたADLの低下予防に対し有効であり,在宅の寝たきり高齢者にあっては移動不能にあってなお,ADL低下予防の見地からは,座位耐性を高め,非臥床時間を維持,拡大してゆくことの重要性が示唆された.
  • 岡田 麻里, 小西 美智子
    原稿種別: 本文
    1999 年 1 巻 1 号 p. 50-55
    発行日: 1999/03/15
    公開日: 2017/04/20
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,地域ケアシステムを構築した際に保健婦が用いた能力を明らかにすることである.研究対象者は,H県内の行政に所属している保健婦52名で,15年以上行政保健婦としての経験を持ち,システムを構築した経験のある者であった.データ収集はシステムを構築した過程について半構成式の面接で行った.面接時間は1時間から1時間半で,許可を得たうえで面接中はメモを取り,面接内容はすべて録音し,逐語的に書き起こした.また,保健婦が作成したシステムに関する資料は,可能な限り許可を得て入手した.分析方法はグラウンデッドセオリー法を用いた.52名の保健婦に面接した結果,37名の保健婦から能力を抽出した.保健婦の所属機関は保健所保健婦16名,政令市保健所保健婦14名,市町村保健婦7名であった.全体の平均経験年数は22.9年間,保健婦がシステム構築に関わった平均期間は4.7年間であった.構築されたシステムは育児グループ,介護者の会等,計64個であった.抽出された能力の項目は全部で32項目で,基礎釣能力,技術的能力,実践的能力の3つに分類することができた.基礎的能力は「研修する,見学する,勉強する」等の9項目から成り,専門職として土台となる能力であると考えられた.技術的能力は「家庭訪問する」等の15項目から成り,地域において,個人,家族および集団に対して看護を提供するための技術能力であると考えられた.実践的能力は「地域ケアシステム構築のための地区診断」等の8項目から成り,システム構築を実践するための具体的な能力であると考えられた.これらの能力の中にはさらに多くの小項目を持つものもあり,システムを構築していった過程で,保健婦は非常に多くの能力を用いていることが証明された.
  • 山口 佳子
    原稿種別: 本文
    1999 年 1 巻 1 号 p. 56-62
    発行日: 1999/03/15
    公開日: 2017/04/20
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,保健婦の認識から,今日のわが国において保健福祉行政サービスを担う看護職であるからこそ重視している内容を確認し,保健婦が果たそうとしている役割と意義について明らかにすることである.調査対象は,全国から無作為抽出した市町村,政令市保健所,都道府県保健所において実務に従事しているリーダー格の保健婦各1人とした.自記式調査票の郵送により,現在行っている活動のうち,保健福祉行政サービスを担う看護職が担うべき活動として最も重要であると回答者自身が判断したものを1つだけ選択してもらい,取り組むべき理由,ヘルスケアニーズの内容,用いている援助方法を自由に記述してもらった.147件の回答を分析対象とし,保健婦として大事にしていること,めざしていることを回答の記述からすべて抽出してコード化し,カテゴリーに分類した.769件の認識内容を抽出し79項目にコード化した.これは以下の10カテゴリーに大きく分類できた.(1)住民の健康意識の向上,(2)家族としての日常生活の営みを支えること,(3)社会生活の営みを豊かにすること,(4)住民や関係機関と協働しサポートシステムを構築することによる健康な地域づくり,(5)多様な健康課題への援助を関連させた総合性・一貫性のある援助の提供,(6)広域的な対応を要する健康課題への援助の提供,(7)長期的視点からの予防活動の推進,(8)健康課題の明確化による取り組みの促進,(9)対応が不十分な健康課題に対するサポートシステムの構築,(10)住民や民間サービスによる対応が困難な健康課題への援助の提供.結果から,今日のわが国において,行政サービスとして機能する看護職が果たそうとしている役割の中核は,看護職としての個別援助を,地域社会における人々の相互作用に注目しで横に広げていく方向と,地域社会が将来に向かって連綿と発展していくよう予防活動を推進する縦の方向の2つの方向に向かって発展させ,健康な地域社会づくりを行うことであると確認した.
  • 狭川 庸子, 都筑 千景, 斉藤 恵美子, 金川 克子
    原稿種別: 本文
    1999 年 1 巻 1 号 p. 63-67
    発行日: 1999/03/15
    公開日: 2017/04/20
    ジャーナル フリー
    目的:保健婦(士)活動において「自らその地区を歩き,自分の目で見て,また感じて情報を得る方法」,すなわち「地区視診」のためのガイドラインを試作し,その有用性について検討する.方法:米国の地域看護領域で用いられているwindshield surveyの構成表を参考に,日本の実状に合うよう修正,加筆し,15項目からなる「地区視診のためのガイドライン」を作成した.それを用いて,平成9年7月にI県W市において3日間のフィールド調査の合間に,7名の調査者で地区視診を実施した.W市内の6地区について,調査者の記入した記入内容を,該当地区の受け持ち保健婦に提示し,各内容について妥当であるかどうかの評価を依頼した.併せて,記入漏れの内容の指摘,各地区の把握内容に関する総合評価,またガイドラインに対するコメントを依頼した.結果:調査者がガイドラインを参考に地域を観察して記入した内容は298におよび,その約9割が保健婦によって妥当であると評価された.妥当とされなかった内容や,記入漏れの内容は,主に地区の間違いによるものと,調査実施期間が短いために十分に把握できていないことによるものであった.各地区の把握内容に関する総合評価は,比較的良好であり,ガイドラインを用いて把握した内容については,短期間のうちに良く地区の雰囲気を捉えられているなど,肯定的な保健婦からのコメントが多かった.結論:さらに改良していく余地は残るものの,今回試作したガイドラインは,地区視診の実施においてある程度妥当な結果が得られ,有用であると考えられた.
  • 錦織 正子
    原稿種別: 本文
    1999 年 1 巻 1 号 p. 68-74
    発行日: 1999/03/15
    公開日: 2017/04/20
    ジャーナル フリー
    目的 保健婦が行う家庭訪問の理解を通して,公衆衛生看護への学生の関心興味を高めたいと,授業の中で,初回訪問場面を素材にしたロールプレイングを教員で行った.本研究では,家庭訪問の一連の授業展開におけるロールプレイング授業について,実施後の学生の学びから,教育方法としての効果を明らかにすることを目的とした.研究方法 1)ロールプレイング授業の特徴:家庭訪問を具体的に理解させるため,一連の授業の中では,学生に身近な母子事例を設定し,推測される問題,必要な情報,訪問計画立案など展開してきた.その訪問計画と母子事例をもとに,教員によるロールプレイングを実施した.学生は演者の視点を割り当てた観察者とした.2)ロールプレイングからの学びの分析:今回のロールプレイング授業の効果を次のように分析した.対象はロールプレイングの授業に出席した学生84名(編入生7名を含む)のレポート内容.方法はレポート課題における学生の記述から,ロールプレイング授業からの学びと判断できる記述を抽出し,カテゴリー分類した.結果 レポートから抽出した学びの記述は329件,学生1人あたりにすると39件であるが,学生によってかなり数に差がみられたが,記述表現の違いなどを検討して,16のカテゴリーに分類した.最も多かったのは「家庭訪問における保健婦の姿勢,態度」47名,次いで「家庭訪問における保健婦の役割」33名,「信頼関係の確立」25名,「家庭訪問の意義」21名,「臨機応変な対応」21名,であった.学生の学びから,家庭訪問についての具体的な理解が深まったことが明らかになった.また全体的にみると,看護を行ううえでの基本的な知識,職業人として必要な人間性や感性,専門職としての適切な判断力や行動力など,保健婦の知識,態度,行動に関する記述も多くみられた.結論 今回のロールプレイング授業により,家庭訪問への具体的な理解が深まり,教育方法としても学生の意欲や関心を高め,学習を深める効果が得られたことを確認することができた.
  • 稲垣 絹代
    原稿種別: 本文
    1999 年 1 巻 1 号 p. 75-80
    発行日: 1999/03/15
    公開日: 2017/04/20
    ジャーナル フリー
    研究目的 戦後最大の不況のもとで,大阪市内では野宿生活者の増加がみられ,その健康問題の深刻さが予想されていた.野宿生活者への健康相談を通じて,健康問題の実態を明らかにすることを目的として,炊き出し公園で健康相談活動を実施した.研究方法1996年の8月から1997年1月までの毎日曜日の午後1時〜3時ごろまで,釜ヶ崎の四角公園で炊き出しが始まる時刻に机と椅子を置き,1人ずつ約15分面接した.調査項目は体温,脈拍,血圧測定し,現在の健康状態,相談内容,既往歴,居住地,栄養状態,就労状況,野宿の期間や原因などを質問した.その後,必要な援助を実施し,結果は項目ごとに統計的に分析した.結果と考察 相談日数は合計14日,相談件数は合計174件,1回平均12件であった.相談者は男姓150人,女性1人である.年代別にみると,50歳台後半から60歳台前半が合わせて56.9%にも達する.九州出身者が34%と多い.野宿をしている人が69.5%で,その期間は1週間以内から2年以上とさまざまである.半数以上がほぼ失業状態で,栄養摂取状況の不良な者は59%である.体温測定では夏季は発熱者が多く,秋から冬では低体温が多い.脈拍では48.1%が90以上の頻脈であり,血圧測定では収縮期血圧の異常が70.7%あり,拡張期血圧の異常も39.3%あった.相談内容としては循環器系,脳神経系,筋骨格系,呼吸器系の症状の訴えが多く,既往歴は呼吸器系,循環器系,筋骨格系が多い.特に結核は7人に1人,高血圧は8人に1人の割で発症していた.無料の医療機関への紹介,救急車での搬送,相談と指導の援助を行った.仕事に就けないことが,野宿せざるを得ない状況になり,栄養状態の悪化を招く結果になっている.結論 野宿と栄養障害が原因による健康障害の重篤性が明らかになり,対策が求められてる.
  • 森 仁実
    原稿種別: 本文
    1999 年 1 巻 1 号 p. 81-84
    発行日: 1999/03/15
    公開日: 2017/04/20
    ジャーナル フリー
    在宅介護支援センターにおける看護職が果たした役割を明らかにすることを目的とした.そこで,一在宅介護支援センターの一保健婦が4か月間に対応した全新規相談21事例について,援助が一段落するまでの期間に注目して,相談持ち込み者,主訴,かかわりの過程でわかってきたニーズ,働きかけの方法について分析した.その結果,13事例で,主訴とは別に新しいニーズを把握しており,その場合には,ほとんどの事例で訪問し,直接本人と面会していた.かかわりの過程でわかってきたニーズを,看護職のかかわりの有効性という視点で検討したところ,9事例で看護職がかかわった効果が確認できた.さらに,看護の有効性が確認できた9事例の働きかけの方法を調べ,その働きかけが,看護のどのような機能を活用していたことになるのかを分析した.以上のことから,支援センターの看護職が果たした役割として,(1)対象の思いや考えを理解して,支援の方向性を探る,(2)対象の自覚を促して問題を共有する,(3)看護技術を活用して質の良い問題把握をする,(4)個別性に応じた対応をするため,援助関係者と問題を共有する,の4つが明らかになった.4つの役割機能は,看護の究極釣な目的に沿った内容であると考えられた.
  • 大野 絢子, 矢島 まさえ, 深川 ゆかり, 錦織 正子, 小泉 美佐子, 藤野 文代
    原稿種別: 本文
    1999 年 1 巻 1 号 p. 85-89
    発行日: 1999/03/15
    公開日: 2017/04/20
    ジャーナル フリー
    本研究は一人暮らし老人を「希望による一人暮らし」と「仕方なく一人暮らし」に分類し,心身の状態や生活状態,現在の生活に対する満足感,主観的幸福感等本人の条件と,行政サービスの周知度・利用希望等について分析し,一人暮らし老人の日常生活を支える条件について検討することを目的とした.調査対象は群馬県S町(人口12,985人)に住む65歳以上の一人暮らし老人133人である.調査方法は訪問による面接を行った.「希望による一人暮らし」と「仕方なく一人暮らし」の間で,健康の程度,生活費の確保,生き甲斐の有無,別居家族による支援体制の有無において顕著な差がみられた.このことは,一人暮らし老人の日常生活を支える条件と捉えられた,また,「仕方なく一人暮らし」をしている人への日常生活の援助の必要性が示唆された.これらは特に後期高齢者や身寄りのない老人において深刻な問題であり,地域の医療体制,保健福祉サービスの充実など,保健・医療・福祉における行政の課題が明確になった.
  • 河原田 美紀, 御子柴 裕子, 俵 麻紀, 安田 貴恵子, 北山 三津子
    原稿種別: 本文
    1999 年 1 巻 1 号 p. 90-95
    発行日: 1999/03/15
    公開日: 2017/04/20
    ジャーナル フリー
    本学の地域看護実習の指導方法を検討するため,1997年度に履修した学生35人の市町村・保健所・学校・産業の実習地ごとのレポート・最終レポートの記述およびカンファレンスでの発言内容から学びを抽出し,事前に学生に示した学習課題の達成状況を確認し,実習内容・方法との関連の検討から改善すべき実習指導方法を明らかにした.その結果,抽出できた学びは1,258件,そのうち996件が学習課題に分類できた.「看護学研究の対象とすべき課題を明らかにする」を除くすべての学習課題について学びがみられた.学びが最も多かったのは「ヘルスケアシステムを有効に機能させるための看護専門職の役割を学ぶ」で,その細項目では「他機関との共同活動」が多く,今後の課題としての記述もみられた.これは各実習地の保健婦から必要性を聞くことも多く,学生もより強く感じたと思われる.学びが抽出されなかった看護学研究の対象とすべき課題の明確化については,学生の気づいた実践上の課題をカンファレンス等で,研究課題として発展させるよう促すかかわりが必要である.また「家族を単位とした援助の方法を学ぶ」も学びが少数であり,その細項目「家族の結びつきを強化する働きかけの方法」は0件であった.家族に面接する機会の多い市町村保健所での実習において工夫が必要と思われるが,市町村において学生が1回限りの単独訪問で実感するのは困難と考えられ,保健所保健婦との同行訪問で学習を促す工夫を保健婦と検討する必要がある.また保健事業の目的や展開に関する学びも少ないことが明らかになる等,今後の指導方法で工夫すべき点が示された.学習課題に分類できない学びの中には,複数の実習地における看護活動の共通点やおのおのの生活集団のつながりを実感したことで得られたと考えられる学びもあり,短期間であっても異なる実習地に赴く意義が確認できた.
  • 石井 康子
    原稿種別: 本文
    1999 年 1 巻 1 号 p. 96-100
    発行日: 1999/03/15
    公開日: 2017/04/20
    ジャーナル フリー
    障害をもつ人や高齢者の理解と手助けの意識を高めることは,在宅ケア体制づくりを目指した活動の基盤となる.そこで本研究は,保健婦の地区活動の一つとして小学校の福祉教育カリキュラムに位置づけて全校児童を対象に働きかけを試み,この成果から看護の活動方法の特質を明らかにすることを目的とした.働きかけは地区活動の原則的な方法,すなわち(1)当事者および関連する組織とその構成員の対象診断,(2)地域の身近なことを素材とした教育プログラムの作成,(3)組織的な取り組みとなるよう教育関係者の参画を図る,(4)実施過程と成果を共有することにより実施した.調査は教育実施前後の児童および同時に働きかけを行った関係者の高齢者理解や介護に関する反応認識の変化を調べ,在宅ケア体制の基盤形成に関連する観点から検討した.その結果,身近な素材を用いた教育プログラムは,(1)児童の障害をもつ人の認識が困難な面への注目から障害を持ちながらも前向きに生きる姿の理解に変化した,(2)介護を含み手助けの意識が高まり行動面での変化もみられたことから有効であった.また,組織的な取り組みを行ったことで,(3)福祉の面から子どもを育てる認識が得られた,(4)学校管理者の保健婦活動への理解が深まった,(5)地区の医師やデイケア看護婦等から在宅ケアに関連した要望が把握でき,今後の活動の発展に向けた糸口が得られたことより在宅ケア体制づくりに有効であった.以上から働きかけの対象を生活集団として捉え,これに則して働きかけを行うことと,地区における主体的な活動となるように潜在していた力を引き出す看護の働きかけの特質が,小学校の福祉教育の場においても有効に機能することが確認できた.これにより,学校における課題解決と同時に,在宅ケアの基盤を整えていく活動として従来働きかけの対象から欠けていた学校を含む活動が可能となる.さらに人間関係が希薄な地区において,人と人の交流を促すことに看護が果たす役割を示すことができたと考える.
feedback
Top