日本地域看護学会誌
Online ISSN : 2432-0803
Print ISSN : 1346-9657
19 巻, 2 号
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
原著
  • 井上 彩乃, 田髙 悦子, 白谷 佳恵, 有本 梓, 伊藤 絵梨子, 大河内 彩子
    2016 年 19 巻 2 号 p. 4-11
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/08/20
    ジャーナル フリー

    目的:地域在住高齢者の社会活動を定量化するための尺度「地域高齢者社会活動尺度」を開発し,その尺度の信頼性,妥当性を検証する.

    方法:対象は,関東圏A市B区の65歳以上の住民のうち,住民基本台帳に基づき1/2無作為抽出された2,928人である.文献レビューにより「地域高齢者社会活動尺度」暫定版を作成のうえ,無記名自記式質問紙調査(郵送法)を実施し,項目分析,因子分析を経て確定版を開発し,その信頼性と妥当性を検証した.

    結果:有効回答者は906人(有効回答率87.1%)であり,平均年齢は72.3(SD=±5.9)歳,男性484人(53.5%),女性422人(46.5%)であった.分析の結果,「地域高齢者社会活動尺度」は2因子[地域への寄与][自己の啓発]6項目,最小6.0点~最大18.0点からなる尺度が開発され,確証的因子分析の結果,GFI=0.992,AGFI=0.987,CFI=0.988,RMSEA=0.026であった.また尺度全体のクロンバックα係数は0.78であり,PGCモラールスケール得点,外出頻度等との間に有意な相関が認められた.

    考察:「地域高齢者社会活動尺度」は信頼性・妥当性を有した地域在住高齢者の社会活動を評価する有用な尺度である.

  • 赤塚 永貴, 有本 梓, 田髙 悦子, 臺 有桂, 伊藤 絵梨子, 白谷 佳恵, 大河内 彩子
    2016 年 19 巻 2 号 p. 12-21
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/08/20
    ジャーナル フリー

    目的:本研究は,都市部地域在住高齢者の主観的健康感の関連要因を男女別に検討し,高齢者の健康の維持・増進を支援する保健活動の実践の示唆を得ることを目的とした.

    方法:A市B区C地区在住の65歳以上の住民より年齢層化無作為に1/2抽出された2,928人に,無記名自記式質問紙調査を実施した.調査項目は,主観的健康感,基本属性,疾病の有無,生活習慣,地域での活動や人とのかかわり,地域コミットメントである.男女別に主観的健康感を従属変数とした重回帰分析を実施した.

    結果:905人を分析対象とした(有効回答率30.9%).主観的健康感には男性では年齢(β=-0.116,p<0.01),疾病の有無(β=-0.270,p<0.001),主観的経済状況(β=0.110,p<0.05),生活習慣(β=0.133,p<0.01)が関連しており,女性では年齢(β=-0.052,p<0.01),疾病の有無(β=-0.248,p<0.001),就業の有無(β=0.141,p<0.01),主観的経済状況(β=0.144,p<0.01),住みやすさ(β=0.180,p<0.01),生活習慣(β=0.147,p<0.01)が関連していた.

    結論:都市部地域在住高齢者の主観的健康感には,男女ともに年齢,経済状況,疾病の有無,生活習慣が関連しており,女性では住みやすさと就業も関連していることが明らかとなった.このことから高齢期においては,生活習慣改善と維持を目的とした地域活動に取り組むことの重要性が示唆された.また,高齢者は同一年代であっても,住みやすさや地域への愛着といった要因に性差があるため,今後は地域への意識や考えについての性差を踏まえた支援を検討する必要性が示唆された.

研究報告
  • ―フォーカスグループディスカッションによる研修を通して―
    永田 千鶴, 清永 麻子, 堤 雅恵, 松本 佳代, 北村 育子
    2016 年 19 巻 2 号 p. 22-30
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/08/20
    ジャーナル フリー

    目的:地域密着型サービス(以下,地域密着型)での看取りの促進を目的とした職員を対象とするフォーカスグループディスカッション(以下,FGD)により,看取りの経験と今後の課題を明らかにし,その解決策を検討する.

    方法:対象は,A市の24か所の認知症対応型共同生活介護(グループホーム)および小規模多機能型居宅介護のうち研修への参加希望があった11事業所の職員18人である.研究デザインは質的記述的研究であり,FGDでの発言内容およびアンケートの記述部分をデータとして,Berelsonの内容分析の手法を用いて分析した.

    結果:地域密着型での看取りの経験は,実践から導かれた【日常の延長線】【葛藤】【力量】【体制づくり】【意義】と,今後を見通した【課題】の6つのカテゴリーで構成された.【課題】には,≪事業所の体制・方針≫≪制度上の問題≫≪困難な医療との連携・協働体制≫≪死に対する教育不足≫≪看取りへの理解不足≫が挙げられた.

    結論:地域密着型での看取りは【日常の延長線】上にあり,職員は【葛藤】を抱えながらも【力量】を備えて【体制づくり】を重ねて実践し,その【意義】を確認していた.【課題】の解決策には,連携できる医師との関係づくりなどが挙げられ,さらに,本研究で行ったFGDにより情報ネットワークが構築されることで,看取りの促進が期待された.

  • 田村 須賀子, 髙倉 恭子, 山﨑 洋子
    2016 年 19 巻 2 号 p. 31-39
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/08/20
    ジャーナル フリー

     乳幼児健康診査や子育て相談の場で,発達障害の可能性を危惧した「気になる子ども」と育児者に対する,保健師による家庭訪問を主軸においた看護援助の特質を明確にすることを目的とする.

     研究対象は,市町保健師7人による家庭訪問6事例である.調査項目は,保健師の意図,保健師の行為である.情報提供保健師には家庭訪問援助の過程を詳細に記述できる能力がある者とした.発達障害の可能性を危惧した児と育児者への支援で,保健師の意図302件と行為1,575件を分析対象とした.保健師の意図と行為を事例ごとに概観し,45の性質と7つの特徴を取り出した.この性質の内容は,広く実践者から(保健師740人;回答率44.8%,のおおむね8割),実践した経験がある・重要であるとの回答が得られた.

     保健師による家庭訪問援助では,発達障害の可能性を危惧した児と育児者の支援においても,[1]対象との信頼関係を形成し,維持できるようにする,[2]育児者の困難感がもたらす最悪の事態も想定しつつ児への対応能力を引き出し,良好な家族内人間関係のもと,療育生活を継続できるようにする,[3]育児者が児を肯定的に受け止め適切に療育できるようにする,[4]障害の診断を受けたときの気持ちを受け止める,ことを基盤におくものであった.また,特異的な特徴には,関係機関・職種との関係を調整し支援の方向性を統一する,および援助事例を積み重ねた実績から支援の方向性を予測する,があると考えられた.

  • ―死生観,ターミナルケアに対する態度に焦点を当てて―
    種市 ひろみ, 熊倉 みつ子, 森田 圭子
    2016 年 19 巻 2 号 p. 40-48
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/08/20
    ジャーナル フリー

    目的:本研究の目的は,在宅看取りを体験した介護者の講演を聴講することによる,看護学生の死生観,ターミナルケアに対する態度への影響を明らかにすることを目的とした.

    方法:A大学看護学部の2年生97人を対象とし,在宅介護および看取りの体験に関する講演を行い,講演前後の死生観およびターミナルケアに対する態度を,臨老式死生観尺度(DAI)およびFrommeltのターミナルケア態度尺度日本語版(FATCOD-Form B-J)を使用し測定し,検討した.

    結果:67人を分析対象とした.講演後,DAIの因子「死への恐怖・不安」が有意に低下した(p<0.001).FATCOD-Form B-Jの2下位尺度得点に有意な上昇が認められた(p<0.001,p=0.029).

    考察:講演聴講は,看護学生の「死への恐怖・不安」を減少させ,「患者・家族を中心とするケアの認識」と「死にゆく患者への前向きさ」を高める可能性が示された.さらに講演前後のアンケートへの回答を通して,生きることや死ぬことの意味を考える機会となり,聴講とアンケートへの回答といった一連の教育方法を意図的に行うことによって,看護学生の死生観や態度に影響を与える可能性があることが示唆された.

  • 間戸 美恵, 塚崎 恵子
    2016 年 19 巻 2 号 p. 49-57
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/08/20
    ジャーナル フリー

     養護教諭を目指す学生のソーシャル・キャピタル(以下,SC)と,ボランティア活動との関係を明らかにすることを目的とし,SCの醸成を考慮した基礎教育について検討した.対象は,全国の養護教諭を養成する課程のある大学のうち,21校の最終学年または養護教諭特別別科の学生726人とし,SCとボランティア活動の経験に関する質問紙調査を行った.その結果,認知的および構造的SCは,ボランティア活動との関係が異なっており,認知的SCは,大学生の時期の自主的および,授業の一環としての活動との関連性が示された.構造的SCは,大学生の時期における自主的な活動形態,さらに自主的で,人を対象とした活動内容との関連性が示された.また,認知的SCと居住年数,構造的SCと所属学部,居住年数,出身地域,現在の居住地域との関連性が示された.多様な人と触れ合い,主体的に協働していくことを特徴とするボランティア活動が,SCと関連している可能性が示された.

地域看護活動報告
  • ―A町のエンパワメント発展段階の準備期において―
    山谷 麻由美, 中尾 八重子
    2016 年 19 巻 2 号 p. 58-65
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/08/20
    ジャーナル フリー

    目的:A町健康づくり推進員活動の支援過程を通して,推進員の主体性獲得に必要な要件の構造を明らかにする.

    方法:各地区定例会の支援者が記載したプロセスレコードを用いた.推進員が主体的な態度・行動を示したと支援者がとらえた箇所について,支援と推進員の態度・行動の内容を支援者に確認した.

    結果:支援者が行った支援の15カテゴリー,推進員の態度・行動の10カテゴリーを公衆衛生看護活動のPDCAサイクルに沿って構造化した.支援過程の中心にある定例会では,推進員間,推進員と支援者での“話し合い”がなされていた.さらに,推進員間の“話し合い”を円滑にする⦅推進員に求められる要件⦆と,支援者と推進員の“話し合い”を円滑にする⦅支援者に求められる要件⦆があり,支援者間の“話し合い”を行うための事務局検討会・支援者検討会・課内会議の⦅行政内の体制整備⦆が行われていた.

    考察:推進員の主体性獲得に必要な要件の中核には“話し合い”があり,“話し合い”と関係性の構築の相互作用が主体性獲得の促進につながることが明らかになった.このことから,行政保健師等の支援者は“話し合い”を活動のなかに意識的に位置づけて推進員間,推進員と支援者,支援者間で行い,“話し合い”が円滑に行われるような推進員・支援者それぞれに必要な要件の強化と整備を行うことが必要であると考えられた.

資料
  • ―訪問看護特有の職場環境に焦点を当てて―
    御厩 美登里
    2016 年 19 巻 2 号 p. 66-74
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/08/20
    ジャーナル フリー

    目的:訪問看護師の職務継続に関連する要因を,訪問看護特有の職場環境に焦点を当てて明らかにすることである.

    方法:北海道の訪問看護ステーションで訪問看護に従事する管理者を除いた常勤・非常勤看護職を対象に,無記名自記式質問紙調査を行った.

    結果:対象者437人のうち252人から回答が得られ,回収率は57.6%であった.ロジスティック回帰分析の結果,訪問看護師の職務継続意向と有意な関連のみられた項目は,「運営主体が社団法人である」「訪問看護ステーション内に休憩スペースがある」の2項目であった.

    考察:運営主体と職務継続意向とが関連していたのは,社団法人の理念や組織運営の特徴による可能性もあるが,さらなる検討が必要である.また訪問看護師の職場環境には規定の休憩時間をとることがむずかしいという特徴があると考えられるが,休憩スペース等の職場環境を整えることで,職務継続意向を高めることができる可能性が示唆された.

  • 松井 藍子, 大河内 彩子, 田髙 悦子, 有本 梓, 白谷 佳恵
    2016 年 19 巻 2 号 p. 75-81
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/08/20
    ジャーナル フリー

    目的:発達障害児の母親が子育てにおいて肯定的感情を獲得する過程を明らかにし,母親への育児支援の示唆を得る.

    方法:A県で発達障害児をもつ親の会に所属している母親7人を対象に半構造化面接を個室で実施し,得られた逐語録から母親の子育てに対する思いに関する部分を抜き出し,カテゴリーを作成した.

    結果と考察:発達障害児をもつ母親は子どもの特性に気づき戸惑っており,受け入れにくさや不安を感じていたが,子どもについての模索や子育て仲間の獲得を経て納得や理解が始まり,子育て方法を見いだしたり子どもに期待したりすることへつながり,子育てを振り返り,気持ちの揺れを感じつつ,他の発達障害児やその母親にも目を向けることができていた.母親は子育てを模索することにより,子どもの特性の理解へとつながっていたため,母親に対して専門職からの今後を見通せるようなアドバイスの必要性が示唆された.また,母親は親同士の仲間とのつき合いを通してロールモデルに出会い,支え合うことで,自身がロールモデルとなる母親へと成長したと考えられるため,子育ての体験を共有できるコミュニティへつなぐための支援の必要性が示唆された.さらに母親は子どもを理解しつつも気持ちは揺れ動いており,子どもの発達や母親・家族の変化に応じた継続的な支援の必要性が示唆された.

feedback
Top