日本地域看護学会誌
Online ISSN : 2432-0803
Print ISSN : 1346-9657
23 巻, 2 号
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原著
  • 小出 恵子, 岡本 玲子, 岡田 麻里
    2020 年 23 巻 2 号 p. 4-11
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/08/20
    ジャーナル フリー

    目的:本研究の目的は,保健医療専門職である母親がどのような考え方にもとづき,乳幼児期の子どもに甘味飲料を与えるのか,その対応を明らかにすることである.

    方法:研究参加者は小学生以下の子どもをもち,市町村に勤務する保健師等の保健医療専門職である.3グループにフォーカスグループディスカッションを行い,甘味飲料を与えることに対する考え方等をたずねた.分析方法にはSteps for Coding and Theorizationを用いた.

    結果:母親は場所やその場にいる人,子どもの状態等そのときどきの状況に応じて,甘味飲料の対応を〈厳格制限〉または〈育児ニーズ提供〉〈関係重視受け入れ〉という3つから選択していた.母親の甘味飲料の対応は,3つの選択肢をもちながら状況に応じて変える【トリプルスタンダード対応】であった.

    考察:本結果は,乳幼児期の自分の子どもにできるだけ甘味飲料を与えたくないと考えている母親が,状況に応じた対応を選択している実態を示している.今後は,乳幼児の甘味飲料の習慣化を抑えるための効果的な支援方法を明確にする必要がある.

  • ─複線径路等至性モデリング(TEM)による4類型からみた特徴─
    小路 浩子
    2020 年 23 巻 2 号 p. 12-20
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/08/20
    ジャーナル フリー

    目的:複線径路等至性モデリング(Trajectory Equifinality Modeling;TEM)を用いて,市町村保健師の職業的アイデンティティ(以下,職業的ID)の形成プロセスと影響要因を明らかとする.

    方法:A県内の市町村に勤務する保健師19人を対象に,半構成的面接を1人につき2回実施し,TEMの分析手法を用いて質的記述的に分析した.

    結果:保健師の職業経験のプロセスを「保健師の選択動機」「ロールモデルとの出会い」「個から集団・地域へと地区活動を発展させる」に焦点を当て,径路の類似点・相違点を比較検討した結果,Ⅰ型:積極的選択活動発展型,Ⅱ型:積極的選択組織忠実型,Ⅲ型:消極的選択活動発展型,Ⅳ型:消極的選択日常業務埋没型の4タイプに類型化された.Ⅰ型,Ⅲ型はロールモデルと出会い,個から集団・地域へと地区活動を発展させた経験が転換点となり,職業的IDを認識していた.Ⅱ型は新たな制度構築という役割の遂行を経て職業的IDを認識していた.Ⅳ型は日常業務に追われ,地区活動の経験が乏しく,職業的IDの揺らぎを感じていた.

    考察:類型化により,個から集団・地域へと地区活動を発展させる経験が職業的IDに影響すること,地区活動を発展させる経験にはロールモデルの存在が影響することが示唆された.市町村保健師の職業的IDの形成プロセスの特徴として,事務職との有機的な関係性を構築しながら,保健師としてだけでなく行政職としての意識も同時に成長させていたことが明らかとなった.

研究報告
  • 有本 梓, 伊藤 絵梨子, 白谷 佳恵, 田髙 悦子
    2020 年 23 巻 2 号 p. 21-32
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/08/20
    ジャーナル フリー

    目的:地区組織基盤の世代間交流プログラムを開発し,1年後の高齢者の健康ならびにソーシャルキャピタル(SC)への評価を行い,今後の地域づくりにおける示唆を得る.

    方法:2015年2月~2018年3月にA市2地区で高齢者ボランティア(参加群)を対象に,園芸活動を中心とする世代間交流プログラムを実施した.世代間交流の不足,フレイルの地域の問題解決のために,住民・地区組織・自治体・大学などがアクションリサーチを展開した.定量的評価として,基本属性,健康指標(握力等),SC(地域コミットメント等)についてベースラインと1年後に測定し,地域在住高齢者(非参加群)と比較した.定性的評価として,フォーカスグループディスカッション(FGD)を実施し質的に分析した.

    結果:参加群(n=36)は72.6±5.6歳,非参加群(n=36)は74.7±4.6歳,両群ともに男性23人(63.9%)であった.参加群は非参加群に比べ,握力の改善傾向がみられた.非参加群では地域コミットメントが有意に低下したのに対し,参加群では維持されていた(p<0.05).FGDでは,【子どもたちと関わり合える喜び】【経験の伝承による子どもの育成】【内省による人生の価値づけ】【地域の人とのつながりの拡大】等が抽出された.

    考察:地区組織基盤の世代間交流プログラムにより,高齢者の健康およびSCに効果がもたらされる可能性が示唆された.

  • ─逆境的小児期体験(ACE)の有無による比較─
    大川 聡子, 谷村 美緒, 廣地 彩香, 眞壁 美香, 吉田 有沙, 安本 理抄, 根来 佐由美, 金谷 志子, 上野 昌江
    2020 年 23 巻 2 号 p. 33-42
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/08/20
    ジャーナル フリー

    目的:10代母親への妊娠中から育児期をとおした保健師の支援について,10代母親のもつACEの有無に焦点を当てて考察する.

    方法:A市保健師50人に対し質問紙調査を行った.調査期間は2016年8~9月.調査内容は10代妊婦の成育歴,支援内容,10代母親に関わる際の工夫点等とした.量的データはχ2検定およびFisherの直接確率法を行い,有意水準を5%とした.質的データは,質的帰納的分析を行った.本研究は所属大学研究倫理委員会の承認を得て実施した.

    結果:回答者数47人(回収率94.0%),10代妊婦の分析対象事例は110人であった.10代母親のうちACEあり45人(40.9%),なし49人(44.5%)であった.ACEありの母親は,高校進学せず・中退,特定妊婦,出産年齢18歳未満,妊娠時の思いが「不安」,出産までに母となる決意が「あいまい・みられない」者がACEなしの母親と比較して有意に高かった.ACEをもつ母親への保健師の支援として,妊娠届出提出後の面接・訪問,妊娠後期の電話・面接・訪問,入院中の病院訪問を行う割合が有意に高く,4か月児健診前に母親からコンタクトがある割合も有意に高かった.

    考察:母親の子ども時代の逆境的体験が学校生活や妊娠への思い,そして母となる決意に影響をおよぼし続けていると考えられた.10代母親の支援にあたっては,妊娠中からACEの有無を把握し,ACEをもつ母親には妊娠後期から重点的な支援を行ない,保健師との関係づくりから集団における事業へと橋渡しすることが重要である.

  • 大川 聡子
    2020 年 23 巻 2 号 p. 1-
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/03
    ジャーナル フリー
  • ─認知症の妻を介護する高齢夫介護者に焦点を当てて─
    髙橋 美保, 田口(袴田) 理恵, 河原 智江
    2020 年 23 巻 2 号 p. 43-51
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/08/20
    ジャーナル フリー

    目的:本研究は,地域包括支援センター看護職が,虐待予防や健康保持のために認知症の妻を介護する高齢夫介護者を地域の水平的組織につなげる支援のプロセスを明らかにすることを目的とした.

    方法:認知症の妻を介護する高齢夫介護者を地域の水平的組織につなげた経験をもつ地域包括支援センター看護職7人を対象に半構造化面接を行い,夫介護者が自らの意思で水平的組織に参加継続するまでの支援を聴取した.得られたデータは複線径路・等至性モデリングの手法で分析し,支援のプロセスを示した.

    結果:地域包括支援センター看護職が高齢夫介護者を地域の水平的組織につなげる支援のプロセスは4つの時期から構成された.第1期は,サービス利用の提案に消極的な夫介護者と支援関係の構築を図る時期であり,その後,妻の介護環境を整え信頼を得て,夫自身の健康の大切さを気づかせる第2期となる.第3期は,水平的組織参加の一歩を踏み出させ,メリットを感じてもらう時期となる.第4期に至ると,水平的組織への参加継続に向けて環境の再調整を行う時期となる.

    考察:認知症の妻を介護する高齢夫介護者を地域の水平的組織につなげていくためには,妻の状況に合わせ段階的に夫介護者の意識を変えていくこと,ならびにその段階に応じた支援の展開が必要であることが示された.また,男性の関心事に合う多くの種類の水平的組織を育成し,周知していくことの重要性が示唆された.

資料
  • 川嶋 元子, 小野 ミツ, 難波 峰子, 今井 恵
    2020 年 23 巻 2 号 p. 52-58
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/08/20
    ジャーナル フリー

    背景:近年,医療提供の場が病院完結型から地域完結型へと移行している.そのため,地域と病院をつなぐ外来での在宅療養支援が求められている.

    目的:中規模病院の外来看護師による在宅療養支援を可能にする要因を明らかにすることである.

    方法:近畿圏内の中規模病院で在宅療養支援を実施している看護師6人を対象に,在宅療養支援の実施の現状についてインタビュー調査を行った.

    結果:中規模病院の外来看護師による在宅療養支援を可能にする要因として,外来看護師は【在宅療養支援が必要な患者を把握している】【多職種との連携を図っている】【在宅療養支援が行える協力体制がある】【在宅療養支援を行うための知識と指導力をもっている】【外来看護師としての役割意識がある】の5つのカテゴリーが抽出された.

    考察:外来看護師が在宅療養支援を実施するためには,外来看護師だけが抱え込むのではなく,病院全体の取り組みとし,多職種との協力体制を整える必要がある.また,外来看護師自身の役割意識を向上させることや,在宅療養支援を行える看護実践力を高める必要がある.

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