学級経営心理学研究
Online ISSN : 2434-9062
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  • ―60代の再任用教諭と再任用管理職に注目をして―
    生貝 博子, 河村 茂雄
    2025 年14 巻1 号 p. 1-14
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/11/03
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,定年退職後も公立小・中学校で働く60代の再任用教諭と再任用管理職のワーク・エンゲイジメントの実態を,性別,年齢,職位の要因の関連から,他の現役世代と比較検討し明らかにすることであった。その結果,調査対象者全体のワーク・エンゲイジメントは年齢とともに上昇し,再任用教諭は現職教諭よりも高く,同じく再任用管理職は現職管理職よりも高かった。ワーク・エンゲイジメントには年齢と職位の交互作用がみられた。また,退職前後の50代と60代を比較すると,50代では教諭の方が管理職よりもワーク・エンゲイジメントは高いが,60代では再任用管理職の方が再任用教諭より高くなるという逆転現象が明らかになった。さらにワーク・エンゲイジメントは,職位や年代によるばらつきが大きいという結果が示された。今後は,再任用教諭や再任用管理職のワーク・エンゲイジメントについて,学校種,新たな役割でのやりがいやストレス,定年以前の職位,仕事以外の個人的要因の影響などからの検討が求められると考察された。
  • 森永 秀典, 河村 茂雄
    2025 年14 巻1 号 p. 15-28
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/11/03
    ジャーナル フリー
    本研究は,2つの研究により構成されている。研究1では,日本の教師がもつ教育観について,教育観,自律性支援,信念(ビリーフ)に関連する先行研究を調査した。その結果,日本の教師のもつ教育観は,大きく分けて子ども志向に関する教育観と管理統制に関する教育観の2つを基にした研究が進められていることが示された。研究2では,小学校教師における同僚教師に対する教育観の認知的距離を測定する尺度を作成するために,先行研究と教師への聞き取りを基に尺度内容を構成し,公立小学校の教師110名(男性43名,女性67名)を対象に調査を実施した。因子分析の結果,「子ども志向に対する教育観の認知的距離」,「管理統制に対する教育観の認知的距離」の2因子構造が示され,α係数の算出により信頼性が確認された。性別,年代,担当学年等(下学年・上学年・専科)ごとに検討したところ,全てのカテゴリーにおいて差が見られなかった。さらに,職場風土を測定する尺度(淵上他,2004)との関連を検討したところ,教育観の認知的距離得点と協働的風土得点の間に負の相関関係が見られ,組織状況との関連が確認された。以上により,小学校教師を対象とした,教育観の認知的距離測定尺度が作成された。
  • ―「進級ギャップ」に備えるために―
    藤原 寿幸, 森永 秀典
    2025 年14 巻1 号 p. 29-40
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/11/03
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,小学校教師の学級じまいの実態,特に指導行動や活動に着目して,指導機能を抽出し,教師の指導行動の類型を検討することであった。その結果「学級じまいにおける教師の指導行動」として,「成長促進機能」「リレーション促進機能」「未来接続機能」の3つの機能が抽出された。また,その3つの機能を組み合わせた8つの指導行動タイプを試案した。これまであまり検討されてこなかったことから,適切な実践の計画がなされにくくなっていた「学級じまい」の指導・援助の指針として,「学級じまいにおける教師の指導行動」の3つの機能の視点から考察できるようになったこと,効果的な学級じまいの実践計画が立てやすくなったこと,学級じまいの整理がされたことなどが本研究の成果として挙げられた。課題としては,本研究によって抽出された「学級じまいにおける教師の指導行動」の機能の組み合わせによる8つの指導行動タイプとその効果については,今後3つの指導機能に関する尺度開発を行い,量的な研究により実証的に検討していくこと,また,本研究で抽出された「未来接続機能」は,現在の児童の学級への適応を促すための機能に留まらず,進級後の児童の学級への適応を志向した機能であると考えられ,今後の研究においては,「進級ギャップ」の解消に向けた小学校教師の「未来接続機能」の具体的な発揮の仕方についても検討していく必要性があることなどが挙げられた。
  • 田上 幸雅, 河村 茂雄
    2025 年14 巻1 号 p. 41-48
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/11/03
    ジャーナル フリー
    本研究では,人間の基本的資質や知能は努力により成長する柔軟なものと考える「増大的知能観」と,学校生活意欲,学級満足度との関連を検討した。公立中学校2校の生徒269名(男子135名,女子134名)が対象であった。その結果,増大的知能観は,学校生活意欲の「学習意欲」「友人との関係」「学級との関係」「教師との関係」との間に正の関連があることが明らかになった。また,増大的知能観は,学級満足度の「承認感」「被侵害感」との間にも関連があることが示された。以上の結果から,中学生にとって増大的知能観をもつことと,中学生の学校生活意欲や学級満足度が良好であることには,関連があることが示された。
  • ―標準学力検査を用いて―
    河村 明和, 河村 茂雄
    2025 年14 巻1 号 p. 49-58
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/11/03
    ジャーナル フリー
    本研究は,先行研究で統一的な見解が見られない生徒の学業成績と学習動機との関連について検討した。特に,学業成績に定期試験を用いない等,先行研究の方法論の問題に対処した手続きをとって,我が国の先行研究の指摘を検討し,教育現場に動機づけの指針を提供することを目的とした。その結果,標準学力検査を活用した分析でも,先行研究と同様に自律的な学習動機で学習をしている生徒の学業成績が高く,また,全ての学習動機が低い生徒より全ての学習動機が高い生徒の学業成績が高いことが確認された。結果から,生徒の学業成績を高めるために,自律的な学習動機となるように指導することが重要であることが示唆された。また,全ての学習動機間に正の相関があるとされる中学生には,低動機にならないように,指導することの重要性も示唆された。
  • ―ERPを基軸として―
    仲里 直美, 河村 茂雄
    2025 年14 巻1 号 p. 59-72
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/11/03
    ジャーナル フリー
    本実践は,中学校において,円滑な教育相談体制を構築するために,企業資源計画(Enterprise Resources Planning:以下,ERP)という考え方を基軸として,教育相談活動を行ったものである。ERPとは,企業で発生する様々な情報を一元管理するシステムのことで,資源を最大限に活用し,効率の良い経営を目指すためのものである(小野,2024)。報告者は,A中学校における教育相談コーディネーター(以下,コーディネーター)として,不登校生徒や校内教育支援センター(通称・以下,校内適応指導教室※1)在籍生徒に対し,支援を行った。調査対象は,公立A中学校に勤務経験があるスクールソーシャルワーカーであり,当時の様子について聞き取りを行った。また,A中学校の教員を対象にアンケートを行った。学校現場では,チーム連携の重要性が認識されてはいるものの,実際には情報共有するための時間を取ることは難しい。そこでコーディネーターを中核とし,ERPの考えやハブ機能を取り入れた情報共有のためのシステムを工夫した。その結果,情報を一元管理することにより,円滑な支援を行うことができた。これらのことから,教育相談活動においてチーム連携を進めていくためには,コーディネーターの果たす役割が重要であり,ハブ機能やERPの考え方を活かした教育相談体制を構築していくことが有効であることが示唆された。
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