症例は51歳, 女性.10年前, 検診にて胸部X線の異常陰影を指摘され, 近医を受診.精査の結果, 前縦隔腫瘍の診断を受けるが放置.今回, 再び, 胸部X線異常影を指摘されたため同医を受診.腫瘍の増大およびCA19-9の高値 (672IU/ml) を認めたため, 当科紹介となり, 嚢胞性前縦隔腫瘍の診断にて, 腫瘍切除および胸腺全摘術を施行した.腫瘍は嚢胞成分が主体であるが, 一部充実性部分も認めた.切除標本の病理学的診断は胸腺原発mucoepidermoidcarcinoma, low gradeであった.嚢胞内液を採取し, 各種腫瘍マーカーを測定したところ, CA19-9が260×10
5IU/mlと高値を示していた.術後経過は良好であり, 術後第22病日に退院した.高値を示していた血清CA19-9値は術後2ヶ月目に正常化した.
胸腺原発のmucoepidermoid carcinomaはわれわれが調べた限りにおいて, 本邦では本症例が10例目となり, 極めてまれな疾患である.若干の文献的考察を加え報告する.
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