日本呼吸器外科学会雑誌
Online ISSN : 1881-4158
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ISSN-L : 0919-0945
25 巻, 5 号
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原著
  • 井坂 珠子, 神崎 正人, 吉川 拓磨, 大貫 恭正
    2011 年 25 巻 5 号 p. 466-471
    発行日: 2011/07/15
    公開日: 2011/10/26
    ジャーナル フリー
    呼吸器外科手術時に用いられる人工材料である分解性高分子のポリグリコール酸(PGA)と可吸収性止血剤である酸化セルロース(ORC)の生体内外での生分解挙動について検討した.生体外での,PGA群の緩衝液pHの変化は緩徐な酸性化に対し,ORC群の緩衝液では,急激な酸性化を呈した後,ほぼ,一定値を保った.ラット肺気漏閉鎖モデルでは,PGA群は全例で胸壁との癒着を認めたのに対し,ORC群では半数であった.PGA群では繊維の残存,炎症所見を認めたのに対し,ORC群では,癒着が軽度である傾向が認められた.両群での癒着の原因の違いとして,PGAでは生体内での分解吸収に伴う長期的,局所的酸性化による遷延性の炎症,ORCでは湧出性出血に対する止血効果などが考えられた.
  • 根津 賢司, 小川 史洋, 松井 啓夫, 天野 英樹, 原 英則, 久朗津 尚美, 伊豫田 明, 佐藤 之俊
    2011 年 25 巻 5 号 p. 472-478
    発行日: 2011/07/15
    公開日: 2011/10/26
    ジャーナル フリー
    術後頻脈性不整脈発生リスクが高いと予想される条件(70歳以上の高齢者,心疾患合併,2葉以上の肺切除,気管支または血管形成を伴う肺切除,周囲臓器合併切除を伴う肺切除のいずれか)を満たす原発性肺癌手術患者(n=33)に対して本邦で開発されたβ遮断薬である塩酸ランジオロールを肺切除術直後から低用量(0.005mg/kg/min)にて3日間持続静注し,術後頻脈性不整脈発生に対する本剤の抑制効果について非投与群(n=65)と比較検討した.塩酸ランジオロール投与群において術後頻脈性不整脈は認めず,非投与群の発生頻度(13.8%;p=0.0266)と比較し有意差がみられた.本剤の使用による血圧低下などの副作用は認めなかった.塩酸ランジオロールの低用量投与は,肺癌術後の頻脈性不整脈の発生予防に対し効果的であり,その調節性の良さと心拍数以外の循環動態に影響が少ないという安全性の面からも使用可能であると考えられた.
  • 伊藤 祥隆, 清水 陽介
    2011 年 25 巻 5 号 p. 479-484
    発行日: 2011/07/15
    公開日: 2011/10/26
    ジャーナル フリー
    当院では2008年5月より自然気胸手術にクリニカルパス(以下CP)を導入しており,この導入効果を検討した.全108例を2008年5月のCPの導入前後でNon-Path群(n=53)とPath群(n=55)とし,さらに保険診療報酬の検討ではPath群のうちDPC導入前の症例をPath-DPC群(n=20)とした.
    平均年齢,性別,患側,術式,アプローチ法,術前の入院期間には両群間で有意差を認めなかった.術後X線撮影回数(Non-Path vs Path: 2.5 vs 1.2),ドレーン留置期間(同:3.7 vs 2.2),術後在院日数(同:5.8 vs 3.6)でNon-Path群に比べPath群が有意に少なかった.一方,再発率と30日以内の再入院率には有意差を認めなかった.また保険診療報酬ではNon-Path群で91,000点,Path-DPC群で84,000点であり,Path-DPC群はNon-Path群と比べ有意に低値であった.当院でのCPの導入は患者に対する経済的および身体的負担の軽減に効果的であった.
  • 平見 有二, 清水 克彦, 湯川 拓郎, 前田 愛, 保田 紘一郎, 中田 昌男
    2011 年 25 巻 5 号 p. 485-490
    発行日: 2011/07/15
    公開日: 2011/10/26
    ジャーナル フリー
    【目的】術前CEA正常値の非小細胞肺癌症例に対して術後経過観察におけるCEA測定の意義について検討した.【対象と方法】対象は2003年1月から2007年10月の間に当院で切除した非小細胞肺癌症例のうち術前CEAが正常範囲内であり術後も定期的にCEAを測定した40例.術後早期(術後1ヵ月から半年)から術後後期(術後半年から2年)におけるCEAの変動と予後について検討した.【結果】術後早期から後期にかけてCEAが上昇した群(9例)は不変群(31例)に比べて有意に無再発生存期間が短かった(p<0.0001).多変量解析の結果においても独立した再発予測因子であった(p=0.0014).また術後後期CEAが正常範囲内であっても術後前期から後期にかけて上昇した群においては5例中3例が再発していた.【結論】術前CEA値が正常範囲内であっても術後のCEAの動向は術後再発の指標となり,その定期的測定は有用と思われる.
症例
  • 田村 光信, 中島 宏和, 澤口 博千代, 永井 康晴, 川口 剛史, 櫛部 圭司
    2011 年 25 巻 5 号 p. 491-496
    発行日: 2011/07/15
    公開日: 2011/10/26
    ジャーナル フリー
    67歳男性.幼少期に結核と2度の肺炎の既往があった.2006年2月咳嗽と血痰を主訴に当科を受診した.胸部CTで左S6に浸潤影と拡張した気管支像を認め,血中アスペルギルス抗原とβ-Dグルカンが増加していた.当初,小児期の肺結核による続発性気管支拡張症に,アスペルギルス感染が併発したものと診断し保存的治療を行った.その後,血痰を繰り返し肺病変は拡大した.初診から3年経過した再発時の問診で,35歳頃から飲食時の咳嗽を認め,検診で食道瘻を指摘されていたことが判明した.食道造影検査により食道気管支瘻と診断し手術を施行した.比較的稀な先天性食道気管支瘻は,詳細な問診が発見の契機となり,食道造影検査が診断に有用であると考えられた.
  • —大動脈瘤手術後膿胸合併の既往との関連について
    中島 智博, 渡辺 敦, 小濱 卓朗, 宮島 正博, 仲澤 順二, 樋上 哲哉
    2011 年 25 巻 5 号 p. 497-501
    発行日: 2011/07/15
    公開日: 2011/10/26
    ジャーナル フリー
    患者は59歳,女性.2000年に他院で胸部下行大動脈瘤に対して人工血管置換術を受けた.しかし,術後膿胸を合併したため胸腔内洗浄を施行され軽快退院した.2010年4月に喀血を主訴に他院へ救急搬送された.血管造影検査にて体動脈から左肺下葉内に流入する血管が数本造影され,CTで中枢側吻合部仮性瘤が認められた.2010年6月に再度喀血を生じて当院に搬送された.開胸手術にて左肺下葉切除術を行った.肺組織に至るまでの結合組織には新生血管が豊富にあり動脈性出血の止血に難渋した.術後8日目に独歩退院した.また,仮性動脈瘤については1ヵ月後にステントグラフト内挿術で治療された.膿胸による慢性炎症によって胸壁から肺内に向かう血管が新生され,体動脈肺静脈瘻が形成され喀血に至ったと考えられた.血管新生に対する考察を加えて報告する.
  • 島村 淳一, 田中 良太, 武井 秀史, 柳田 修, 杉山 政則, 呉屋 朝幸
    2011 年 25 巻 5 号 p. 502-504
    発行日: 2011/07/15
    公開日: 2011/10/26
    ジャーナル フリー
    胃癌根治切除術後の孤立性肺転移に対して肺葉切除を施行した1例を経験した.69歳男性.胃癌に対し胃全摘出術および2群リンパ節郭清術後10ヵ月目のCT検査で右肺S6に結節影を指摘された.リンパ節および,他臓器転移を認めず,未確診肺腫瘍に対し手術を行った.針生検の迅速組織診で胃癌肺転移と診断し,下葉切除術を施行した.術後経過は良好であったが術後1ヵ月目に多発肝転移が出現し,化学療法導入後も肝転移の増悪を認めた.胃癌孤立性肺転移の手術適応は慎重に考慮する必要があり,症例の蓄積による外科治療成績の解明が望まれる.
  • 捶井 達也, 小田 誠, 田村 昌也, 早稲田 龍一, 松本 勲, 渡邊 剛
    2011 年 25 巻 5 号 p. 505-508
    発行日: 2011/07/15
    公開日: 2011/10/26
    ジャーナル フリー
    症例は32歳,女性.乳房痛を自覚し,精査のため胸部造影CTを施行したところ後縦隔に均一な造影効果を伴う径3.1cmの腫瘤を認めた.右上肢からの静脈造影では造影剤が上大静脈から奇静脈弓へ逆行性に流入し,腫瘤が濃染した.これにより腫瘤を静脈瘤と診断した.血栓による肺血栓塞栓症や瘤の破裂の可能性を考え外科的切除の方針とした.手術は胸腔鏡下にて施行した.まず血栓の流出を防止するため奇静脈弓の上大静脈合流部を自動縫合器にて切離した.次に瘤に流入する肋間静脈と奇静脈本幹を結紮,切離し,血行を遮断したのち瘤を切除した.術後合併症はなく10日目に退院した.
  • 多根 健太, 田中 雄悟, 小川 裕行, 田内 俊輔, 内野 和哉, 吉村 雅裕
    2011 年 25 巻 5 号 p. 509-512
    発行日: 2011/07/15
    公開日: 2011/10/26
    ジャーナル フリー
    症例は66歳女性,4年前に原発性食道悪性黒色腫と診断され,胸部食道切除ならびに術後補助化学療法(DAC-tam)を施行した.その後,外来で経過観察中の胸部CTで,左肺門部のリンパ節腫大とPET-CTで同部位に異常集積を認めた.5-S-cysteinyl dopaも上昇し,原発性食道悪性黒色腫のリンパ節転移が疑われ手術となった.完全内臓逆位であり,脈管の走行は左右鏡面像であった.腫大したリンパ節はV1,V3,A3の間に存在し,上葉とも接していた.病変を完全切除するためにV1,V3,A3を結紮切離した.また周囲の肺も一部合併切除した.病理所見は食道悪性黒色腫のリンパ節転移であった.術後補助化学療法(DTIC)を6コース施行し,10ヵ月たった現在,再発無く経過良好である.悪性黒色腫のリンパ節転移に対し,切除が可能であれば手術は有用であると考えられた.
  • 北村 将司, 川口 庸, 堀 哲雄, 寺本 晃治, 花岡 淳, 手塚 則明
    2011 年 25 巻 5 号 p. 513-517
    発行日: 2011/07/15
    公開日: 2011/10/26
    ジャーナル フリー
    症例は57歳の男性.2008年12月胸部圧迫感を主訴に近医受診し,前縦隔から右胸腔内に巨大な腫瘍を指摘された.画像所見より縦隔原発の脂肪腫もしくは高分化型脂肪肉腫が疑われたため,胸骨正中切開で腫瘍摘出術を施行した.腫瘍の大きさは36×20×13cmで,重量は2,900gであった.術後病理検査では高分化型脂肪肉腫と診断された.周囲組織を含めた完全切除を行い得たので,術後補助療法は施行せず,術後2年8ヵ月経過した現在も再発なく経過観察中である.縦隔脂肪肉腫は希な疾患であり,発見時には巨大な腫瘍として発見されることが多い.高分化型は予後良好であり完全切除によって良好な予後が期待できるが,局所再発例も多く,慎重な経過観察が必要である.
  • 阿部 勇人, 池田 晋悟, 日野 春秋, 星野 竜広, 横田 俊也, 羽田 圓城
    2011 年 25 巻 5 号 p. 518-521
    発行日: 2011/07/15
    公開日: 2011/10/26
    ジャーナル フリー
    症例は61歳男性.血痰を主訴に近医受診し当科紹介となった.胸部CTでは,甲状腺左葉から連続して縦隔内に伸展し気管を右方に圧排しながら気管分岐部まで達する腫瘍が認められた.穿刺吸引細胞診で腺腫様甲状腺腫と診断できたため,手術は左頸部襟状切開に胸骨正中切開を加え甲状腺左葉とともに切除した.腫瘍は15.5×7.5cmであり,気管を食道とともに右側へ圧排し二股状に分かれ,一方は気管背側に回り込んで気管分岐部まで達していた.本症例では術前CTとMRIによる正確な局所評価を行い,左頸部襟状切開に胸骨正中切開を追加し反回神経麻痺などの合併症なく安全に切除しえたので,若干の文献的考察を加え報告する.
  • 浅野 久敏, 矢部 三男, 神谷 紀輝, 平野 純, 尾高 真, 森川 利昭
    2011 年 25 巻 5 号 p. 522-526
    発行日: 2011/07/15
    公開日: 2011/10/26
    ジャーナル フリー
    症例は23歳女性.2009年5月頃より左胸痛を自覚し,6月下旬より発熱を認めた.胸部X線上左下肺野に異常陰影および左胸水貯留を呈し,胸部CTでは左胸腔内に7cm大の境界明瞭な嚢胞性腫瘤影が確認された.採血では腫瘍マーカーCA19-9が異常高値を示した.画像上縦隔腫瘍を疑い,手術目的で当科受診した.完全胸腔鏡下手術により病変の完全切除が行われ,切除した検体の内腔には毛髪や皮脂を含み,組織学的には膵組織などを伴う成熟型嚢胞性奇形腫と考えられた.術前高値を示した血中CA19-9は術後正常値に戻った.
  • 堀 哲雄, 川口 庸, 北村 将司, 寺本 晃治, 花岡 淳, 手塚 則明
    2011 年 25 巻 5 号 p. 527-532
    発行日: 2011/07/15
    公開日: 2011/10/26
    ジャーナル フリー
    症例は66歳,女性.人間ドックの胸部CTで左肺上葉S4に2個の結節を指摘され,精査のために当科を受診した.結節は大きさが13×8mm,10×5mm,辺縁は整で内部は均一であった.7年前の胸部CTでも同結節を認めたが,比較すると増大傾向にあるため,悪性腫瘍を考慮して胸腔鏡下切除術を施行した.同結節は黄色の液体を含む嚢胞性腫瘤であり,病理組織検査では嚢胞壁に悪性所見を認めなかった.免疫組織染色では第VIII因子関連抗原,CD31,CD34が陽性と血管内皮に類似した所見で,リンパ管マーカーのD2-40は陰性であった.嚢胞内容液の細胞診はリンパ球主体であり形態学的に肺内嚢胞性リンパ管腫と診断した.肺内嚢胞性リンパ管腫は極めて稀な疾患で報告例も少ない.特に自験例はリンパ管マーカーが陰性であるため典型例ではないが,これは胎生期のリンパ管に分化する以前の幼弱な内皮細胞が嚢胞性変化を来たしたものと考えた.
  • 丸井 努, 村川 眞司
    2011 年 25 巻 5 号 p. 533-536
    発行日: 2011/07/15
    公開日: 2011/10/26
    ジャーナル フリー
    後縦隔に発生するparaganglioma(以下PG)は稀である.今回後縦隔に多発したPGの1例を経験したので報告する.症例は29歳女性.既往に1989年から2006年にかけて計7回腹腔内褐色細胞腫切除手術歴があった.初回手術後から当院小児科通院中であったが,高血圧が持続していた.全身精査の胸部MRIで異常を指摘され,胸部CT検査にてTh2の左側傍椎体領域に25mm大の腫瘍,Th4の右側傍椎体領域に23mm大の腫瘍,左Th5-6の左側椎間領域に10mm大の腫瘍を認めた.また,内分泌検査で血中,尿中ノルアドレナリンの高値を認め,後縦隔に多発したPGの疑いにて手術を施行した.手術は,左側臥位とし右側から開始し,右側腫瘍摘出後右側臥位に体位変換し左側腫瘍を摘出した.左右共に第4肋間腋窩開胸し胸腔鏡補助下に腫瘍を摘出した.術後血圧は安定し術後12日目に退院となった.後縦隔に多発したPGに対し胸腔鏡補助下に手術を施行した症例を経験したので報告する.
  • 関 みな子, 井上 慶明, 内田 寛
    2011 年 25 巻 5 号 p. 537-542
    発行日: 2011/07/15
    公開日: 2011/10/26
    ジャーナル フリー
    胸壁に多発する腫瘤影を認め,外科的切除を施行し神経鞘腫と診断した2症例を経験した.2症例とも61歳の女性で,胸部異常陰影で発見され,胸部CT検査にて胸壁に多発する良性腫瘍が疑われた.胸腔鏡下に腫瘤摘出を施行し,いずれも良性神経鞘腫と診断した.1例は約19年という長期間経過観察され,その間に増大を認めた.また,2例とも同一肋間神経から複数の良性神経鞘腫が発生していた.胸壁発生の神経鞘腫は比較的まれとされるが,過去の報告例でも近接して複数の病変を認めたという報告が散見される.切除に際しては病変の見落としや遺残のないよう留意すべきであり,小切開創で胸腔内を広く観察できる胸腔鏡手術のよい適応であると考える.
  • 雪上 晴弘, 棚橋 雅幸, 羽田 裕司, 鈴木 恵理子, 吉井 直子, 丹羽 宏
    2011 年 25 巻 5 号 p. 543-547
    発行日: 2011/07/15
    公開日: 2011/10/26
    ジャーナル フリー
    症例は71歳男性.右肺腺癌にて右上葉切除(ND2a)の手術歴がある.5年3ヵ月経過し,血痰を主訴に受診し,精査にて原発性気管癌と診断された.前回手術の影響を回避し,病巣切除と気管吻合部の緊張緩和を確実に行う目的で胸骨正中切開にて気管管状切除術を施行した.腫瘍の壁外進展はなく,病巣を含む5軟骨輪を切除し完全切除を得た.術後病理所見から比較的まれな気管原発腺癌と診断した.術後放射線療法を施行し,12ヵ月無再発生存中である.
  • 徳永 義昌, 近藤 健, 長 博之, 青山 晃博, 中川 達雄
    2011 年 25 巻 5 号 p. 548-551
    発行日: 2011/07/15
    公開日: 2011/10/26
    ジャーナル フリー
    肺葉切除により肺原発淡明細胞癌の確定診断を得た1例を経験したので報告する.症例は62歳男性.胸部異常陰影を指摘され,精査加療目的に当科紹介となった.原発性肺癌疑いcT2aN0M0の術前診断にて手術を施行した.術中針生検にて悪性の診断を得たため,右上葉切除術およびリンパ節郭清術を施行した.術後病理検査にて淡明細胞癌の診断を得た.術後の再度の腹部スクリーニングでも,腎臓に腫瘍性病変は認められず,肺原発淡明細胞癌pT1bN0M0と診断した.術後9ヵ月現在再発を認めていない.
  • 佐藤 史朋, 秦 美暢, 笹本 修一, 高橋 祥司, 密田 亜希, 高木 啓吾
    2011 年 25 巻 5 号 p. 552-558
    発行日: 2011/07/15
    公開日: 2011/10/26
    ジャーナル フリー
    肺肉腫では時に中枢側気道内進展による呼吸不全症状を呈することがある.今回我々は急速に増大した肺肉腫に対し,硬性鏡下腫瘍削除術による術前気道確保と,気管吻合部狭窄に対する術中Dumonステント留置が有用であった一例を報告する.症例は21歳男性,主訴は窒息症状.右主気管支から下部気管をほぼ閉塞する腫瘤を認め,緊急硬性鏡下腫瘍削除術により,中枢気道の確保と右無気肺の改善を得た.切除標本で紡錘形細胞肺肉腫が疑われ,二期的にスリーブ右肺全摘術を施行した.右肺門部から右上葉および気管右壁に腫瘤を形成しており,分岐部を含め気管5軟骨輪と左2軟骨輪を切除し端々吻合した.術中に吻合部過緊張による吻合部狭窄を生じたため,Dumonステントを挿入して再吻合した.術後4ヵ月で局所再発を認め,doxorubicin/ifosfamideによる化学療法で一時PRを得たが,次第に化学療法無効となり術後26ヵ月で腫瘍死した.
  • 奥谷 大介, 森山 重治
    2011 年 25 巻 5 号 p. 559-562
    発行日: 2011/07/15
    公開日: 2011/10/26
    ジャーナル フリー
    完全鏡視下に摘出した左上縦隔迷入性甲状腺腫の1例を経験したので報告する.症例は55歳男性.健診胸部CTにて異常陰影を指摘された.CTでは腫瘤が気管の後部・食道の左側の上縦隔に存在し,中心部に石灰化を認めた.MRIでは2個の腫瘤が雪ダルマ様に頭尾方向に接するような形で存在しており,いずれも周囲組織との境界は明瞭であり,造影早期より濃染を示した.手術は右側臥位として4ヵ所のポートを設置し,完全鏡視下に摘出した.病理組織検査の結果,甲状腺腺腫と診断された.甲状腺と連続性のない上縦隔発生の迷入性多発甲状腺腫はまれである.胸腔鏡手術は上縦隔腫瘍に対しても低侵襲に摘出することができ有用である.
  • 藤原 俊哉, 西川 敏雄, 片岡 和彦, 松浦 求樹
    2011 年 25 巻 5 号 p. 563-567
    発行日: 2011/07/15
    公開日: 2011/10/26
    ジャーナル フリー
    症例は57歳,女性.1年前,子宮平滑筋肉腫に対し子宮全摘,両側付属器切除術を施行された.術後補助療法として化学療法と腟断端腔内照射を施行した.術後1年目のPET-CTで膵体部にFDG異常集積を認め,膵癌または転移性膵腫瘍が疑われた.膵体尾部切除,D1郭清を施行され,病理診断では転移性膵腫瘍と診断された.術後膵液瘻の治療中に呼吸困難を自覚し,胸部X線にて右気胸と診断された.胸部CTでは右肺中葉に約20mmの薄壁空洞と両肺下葉に約5mm大の小結節を認めた.胸腔ドレナージを施行したが,治癒しないため手術の方針とした.胸腔鏡下に観察したところ,右中葉に明らかな孔を認め,同部が原因病巣と考えられた.下葉の病変も併せて部分切除を行った.病理診断ではいずれも子宮原発巣と同様の所見であり,転移性肺腫瘍と診断した.薄壁空洞型子宮平滑筋肉腫肺転移による続発性気胸の1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.
  • 正津 晶子, 諸星 隆夫, 五来 厚生, 藤井 慶太, 津浦 幸夫
    2011 年 25 巻 5 号 p. 568-572
    発行日: 2011/07/15
    公開日: 2011/10/26
    ジャーナル フリー
    症例は76歳男性.咳嗽を主訴に近医を受診し胸部異常影を指摘された.当院を紹介受診し,画像上肺癌が疑われたが,確定診断には至らず手術の方針となった.手術はまず胸腔鏡下に針生検を行ったが診断に至らず,肺部分切除術にて腫瘍を摘出した.1回目の迅速病理診断では炎症と診断されたが肺癌が強く疑われていたため,割面を変更して2回目の診断を行ったところ悪性腫瘍と診断された.胸腔鏡下左肺下葉切除術+ND2aを行い最終的に肺リンパ上皮腫様癌(LELC)と診断された.病理標本では腫瘍周囲にリポイド肺炎像を伴っており,このために1回目の迅速病理診断では診断に至らなかったと考えられた.また,LELCはEpstein Barr virus(EBV)感染との関連が示唆されているが,当症例では腫瘍のEBER-1 in situ hybridizationは陰性であり,EBVの感染は示されなかった.
  • 宮原 栄治, 板垣 友子, 亀田 彰
    2011 年 25 巻 5 号 p. 573-577
    発行日: 2011/07/15
    公開日: 2011/10/26
    ジャーナル フリー
    症例は77歳,男性,検診時胸部X線で右肺野に異常影を指摘され受診,精査により肺癌,食道癌,右腎腫瘍,直腸腫瘍を認めた.いずれも根治切除可能と判断し,まず右中葉切除術,胸・腹部食道亜全摘術,縦隔・腹部リンパ節郭清,後縦隔経路胃管再建術を施行した.肺癌は混合型腺癌,pT1bN0M0,pStageIA,食道癌は中分化型扁平上皮癌,pT3N2M0,pStageIIIであった.退院後,他院泌尿器科にて,右腎摘出術を施行され12mm大の腎細胞癌と診断された.その後,直腸腫瘍に対して内視鏡下腫瘍切除術が施行され,adenocarcinoma in adenomaと診断された.術後2年6ヵ月を経過したが,再発の兆候なく外来通院中である.
  • 加藤 博久, 大泉 弘幸, 深谷 建, 鈴木 潤, 塩田 光, 貞弘 光章
    2011 年 25 巻 5 号 p. 578-581
    発行日: 2011/07/15
    公開日: 2011/10/26
    ジャーナル フリー
    症例は70歳,男性.検診の胸部X線検査で左肺野の異常影を指摘された.CTで左S10に8mmの結節を認め,経過観察1年後,結節は不変のため診断および加療目的に当科へ紹介された.胸腔鏡下肺部分切除術を施行し,術中迅速病理診断では悪性所見を認めなかった.しかし,最終病理組織診断の結果,mucinous(“colloid”)adenocarcinomaの診断であったため,再手術(胸腔鏡下左下葉切除術およびリンパ節郭清)を施行した.病理病期はpT1aN0M0,IA期であった.Mucinous(“colloid”)adenocarcinomaは稀な組織型で診断が困難な場合があることを念頭におく必要があると考えられた.
Letter to the Editor
  • 渡橋 和政, 松浦 陽介
    2011 年 25 巻 5 号 p. 582-583
    発行日: 2011/07/15
    公開日: 2011/10/26
    ジャーナル フリー
     この症例報告1)を興味深く読ませていただきました.CTガイド下とはいえ,肺組織を経由して穿刺を行うかぎり頻度は低くとも心腔内空気栓は起こりうる合併症であり,それを予知することは不可能です.しかし動脈塞栓症の発生部位や程度によっては検査処置に見合わない合併症,後遺症をきたしうるため対策が必要です.
     具体策として,穿刺により肺静脈から左心系に空気が流入したことを検出し,量が多い場合は穿刺を中断し安静を保って心腔内の空気が一塊として大動脈に流出することを回避しながら,空気が少しずつ気泡として流れ出るのを待つことでしょう.問題は検出の方法です.心腔内の空気はCTでも診断できますが,時間の遅れ,被曝の問題があります.
     心腔内空気は開心術でも問題で,中枢神経系合併症や冠動脈塞栓の原因となります.どの症例に空気が遺残するかを予測することは困難です.さまざまな検討がなされた結果,最近行われている方法は経食道心エコー法を用いて肺静脈,左心房,左心室内の可動性の高輝度陰影や気泡の陰影を確認する方法です2,3).心拍動再開後も積極的に除去しないかぎり心腔内の空気が消失するのに30~60分要することも経験します.空気は心腔内に数mL貯留することもあり,気付かなければ体位変換により一気に大動脈に流出し動脈塞栓症をきたす可能性もあります.
     開心術で得られた知見をCTガイド下穿刺に応用するなら,穿刺時に経胸壁心エコーで心尖部から左室,左房を繰返し観察し,空気が多い症例では穿刺を中断,空気を認めない場合にはそのまま手技を継続というのが実際の対策として望ましいと考えます.
    【Letter to the Editorに対する回答】 この度は貴重な御意見を頂き,有難うございました.先生の御指摘に対する私なりの返答をさせて頂きます.
     私自身も,心臓血管外科を研修した経験があり,開心術において,経食道心エコーにより心腔内空気遺残の有無を確認する方法は,日常的に行われている方法(開心術においてはルーチンの作業)と認識しております.その知見をCTガイド下肺穿刺に応用することまでは考えが至りませんでした.
     先生の御提案は,CTの欠点を補完する,非常に機知に富んだ方法と考えられます.経胸壁心エコーによる心尖部からの2腔断面像描出は,比較的容易(高輝度エコーの描出に限定すれば更に容易といえるかもしれません)と考えられ,CTガイド下肺穿刺時の空気塞栓症対策として,有用と思われます(検索し得た限りでは,既出の報告は認められませんでした).
     一方で,御存知のことと思われますが,CTガイド下肺穿刺は,腫瘍の局在により,体位を変えて行います.上述で,心尖部からの2腔断面像描出は容易としましたが,描出の容易な左側臥位~仰臥位を常に取る訳ではありませんので,その場合にどこまで十分な描出が可能であるかは,検討課題と思われます(腫瘍が背側に位置する様な場合では,腹臥位で穿刺を行うため,経胸壁心エコーは利用も出来ない状況となります).
     また,超音波診断法は心腔内空気検出感度が高いため,開心術時に,微細な高輝度エコーがいつまでも残存し,人工心肺離脱を躊躇う場合が見受けられます.CTガイド下肺穿刺時に,空気塞栓症を発症する確率は,文献的に針生検で0.07%1),マーキングで0.015~1.5%2,3)程度とされていますが,潜在的に心腔内空気が発生する確率は更に高いものと思われます.検出感度の高い超音波診断法において,臨床的に問題となる心腔内空気量の決定についても検討事項と思われます.すなわち,先生が記載しておられる「空気が多い症例」の判断が難しいと思われ,CTとのすり合わせが必要となってくるものと思われます.
     検討課題を積極的に解決するため,まずは,実際に行ってみることが重要と考えております.先生の御指摘を教訓とし,CTガイド下肺穿刺のみならず,呼吸器外科領域において,超音波診断法を,色々な場面で活用していきたいと考えております.
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