この症例報告
1)を興味深く読ませていただきました.CTガイド下とはいえ,肺組織を経由して穿刺を行うかぎり頻度は低くとも心腔内空気栓は起こりうる合併症であり,それを予知することは不可能です.しかし動脈塞栓症の発生部位や程度によっては検査処置に見合わない合併症,後遺症をきたしうるため対策が必要です.
具体策として,穿刺により肺静脈から左心系に空気が流入したことを検出し,量が多い場合は穿刺を中断し安静を保って心腔内の空気が一塊として大動脈に流出することを回避しながら,空気が少しずつ気泡として流れ出るのを待つことでしょう.問題は検出の方法です.心腔内の空気はCTでも診断できますが,時間の遅れ,被曝の問題があります.
心腔内空気は開心術でも問題で,中枢神経系合併症や冠動脈塞栓の原因となります.どの症例に空気が遺残するかを予測することは困難です.さまざまな検討がなされた結果,最近行われている方法は経食道心エコー法を用いて肺静脈,左心房,左心室内の可動性の高輝度陰影や気泡の陰影を確認する方法です
2,3).心拍動再開後も積極的に除去しないかぎり心腔内の空気が消失するのに30~60分要することも経験します.空気は心腔内に数mL貯留することもあり,気付かなければ体位変換により一気に大動脈に流出し動脈塞栓症をきたす可能性もあります.
開心術で得られた知見をCTガイド下穿刺に応用するなら,穿刺時に経胸壁心エコーで心尖部から左室,左房を繰返し観察し,空気が多い症例では穿刺を中断,空気を認めない場合にはそのまま手技を継続というのが実際の対策として望ましいと考えます.
【Letter to the Editorに対する回答】 この度は貴重な御意見を頂き,有難うございました.先生の御指摘に対する私なりの返答をさせて頂きます.
私自身も,心臓血管外科を研修した経験があり,開心術において,経食道心エコーにより心腔内空気遺残の有無を確認する方法は,日常的に行われている方法(開心術においてはルーチンの作業)と認識しております.その知見をCTガイド下肺穿刺に応用することまでは考えが至りませんでした.
先生の御提案は,CTの欠点を補完する,非常に機知に富んだ方法と考えられます.経胸壁心エコーによる心尖部からの2腔断面像描出は,比較的容易(高輝度エコーの描出に限定すれば更に容易といえるかもしれません)と考えられ,CTガイド下肺穿刺時の空気塞栓症対策として,有用と思われます(検索し得た限りでは,既出の報告は認められませんでした).
一方で,御存知のことと思われますが,CTガイド下肺穿刺は,腫瘍の局在により,体位を変えて行います.上述で,心尖部からの2腔断面像描出は容易としましたが,描出の容易な左側臥位~仰臥位を常に取る訳ではありませんので,その場合にどこまで十分な描出が可能であるかは,検討課題と思われます(腫瘍が背側に位置する様な場合では,腹臥位で穿刺を行うため,経胸壁心エコーは利用も出来ない状況となります).
また,超音波診断法は心腔内空気検出感度が高いため,開心術時に,微細な高輝度エコーがいつまでも残存し,人工心肺離脱を躊躇う場合が見受けられます.CTガイド下肺穿刺時に,空気塞栓症を発症する確率は,文献的に針生検で0.07%
1),マーキングで0.015~1.5%
2,3)程度とされていますが,潜在的に心腔内空気が発生する確率は更に高いものと思われます.検出感度の高い超音波診断法において,臨床的に問題となる心腔内空気量の決定についても検討事項と思われます.すなわち,先生が記載しておられる「空気が多い症例」の判断が難しいと思われ,CTとのすり合わせが必要となってくるものと思われます.
検討課題を積極的に解決するため,まずは,実際に行ってみることが重要と考えております.先生の御指摘を教訓とし,CTガイド下肺穿刺のみならず,呼吸器外科領域において,超音波診断法を,色々な場面で活用していきたいと考えております.
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