日本呼吸器外科学会雑誌
Online ISSN : 1881-4158
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25 巻, 6 号
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原著
  • 三澤 賢治, 西田 保則, 西 智史, 三島 修, 北野 司久, 北澤 勉, 吉岡 照晃, 古川 智子, 伊藤 敦子, 小口 和浩
    2011 年 25 巻 6 号 p. 586-588
    発行日: 2011/09/15
    公開日: 2011/10/26
    ジャーナル フリー
    通常の水平段CTでは上中葉間の分葉について評価困難なことも多い.今回,末梢血管描出による術前評価を行い,実際の手術所見と対比検討した.
    対象は,2010年1月~12月まで当院で行った右上葉切除術15例で,術前に分葉の状態を3段階に分類し,葉間切離の有無,Endo GIATM(COVIDIEN:以下E-GIA)使用の有無について評価した.分葉良好と判断した5例のうち,3例については,葉間切離がまったく不要であった.軽度分葉不全と判断した症例は9例,重度は1例であり,すべての症例で葉間切離にE-GIAを必要とした.重度分葉不全と判断した症例では,葉間付着面が厚くステープル丈の高いgreen cartridge(厚さ4.8mm)が必要であった.末梢血管描出による分葉の評価は,術中所見とも合致し,手術プランニングのための有用な画像評価と考えた.
  • 羽隅 透, 星 史彦, 川村 昌輝, 斎藤 泰紀
    2011 年 25 巻 6 号 p. 589-594
    発行日: 2011/09/15
    公開日: 2011/10/26
    ジャーナル フリー
    鎖骨上窩頚部切開および胸骨部分切開(L字または逆L字型Mini-Sternotomy)併用アプローチ法にて頚胸部境界領域に跨る良性縦隔腫瘍3例の摘出術を行った.症例1は左交感神経(星状神経節)から発生した神経節細胞腫で腫瘍径は80×40×43mm,症例2は左交感神経から発生した神経線維腫で腫瘍径は65×40×30mm,いずれもC7からTh4にわたる椎体に接し広範囲に位置していた.症例3は右側胸腔内甲状腺腫で腫瘍径は75×40×40mm,気管後方・奇静脈弓の高さにまで進展していた.3症例とも胸骨部分切開は腫瘍側第2肋間位置にて胸骨を横切しL字型とした.内胸動静脈を温存,非開胸下に手術を行った.頚胸部境界領域に発生する良性上縦隔腫瘍に対して鎖骨上窩・L字型Mini-Sternotomyアプローチ併用法は良好な術野が展開でき,より安全で低侵襲な術式と考える.
  • 今給黎 尚幸, 大渕 俊朗, 濱中 和嘉子, 吉田 康浩, 宮原 聡, 柳澤 純, 濱武 大輔, 白石 武史, 岡林 寛, 岩崎 昭憲
    2011 年 25 巻 6 号 p. 595-599
    発行日: 2011/09/15
    公開日: 2011/10/26
    ジャーナル フリー
    肺分画症は,肺組織に体循環系の奇形性異常動脈からの流入を有する先天性疾患であり,肺葉内分画症と肺葉外分画症とがある.我々は1994年4月から2010年3月までに当院およびその関連施設で手術を行った肺分画症15例を対象とし,術前診断および手術手技を中心にその臨床像を検討した.術前に全例で造影CTが施行されたが確定診断に至ったものは11例であり,残りの4例は術中所見で診断された.下葉に嚢胞や硬化像が認められる症例では肺分画症も念頭に入れ,異常動脈を検索することが必要である.胸腔鏡手術は4例に適応され,その内2例で開胸手術に移行した.条件が整えば胸腔鏡手術でも安全に施行できる症例があることが確認された.異常動脈の処理における自動縫合器の使用については,本検討では8例に施行され合併症は認めず利便性と安全性を鑑みると十分容認できると考えられた.
  • —顕性誤嚥性肺炎の予防策—
    水野 幸太郎, 川野 理, 深井 一郎
    2011 年 25 巻 6 号 p. 600-603
    発行日: 2011/09/15
    公開日: 2011/10/26
    ジャーナル フリー
    【目的】当科では術後の致死的合併症である顕性誤嚥性肺炎を予防するため摂食・嚥下サポートチームとともに周術期の嚥下機能評価を行っている.その意義を検討した.【対象と方法】2008年4月から2010年8月までに全身麻酔下に手術を施行した380例のうち摂食・嚥下サポートチームが介入した39例を対象とした.術前に嚥下機能を評価し術後経口摂取計画を策定.術翌日にも嚥下機能評価を行い必要に応じ計画修正や訓練を行った.【結果】39例中5例で重度嚥下機能障害を認めた.いずれも嚥下機能障害の自覚はなかった.5例中2例は訓練により改善したが,3例は改善に至らず経腸栄養管理となった.顕性誤嚥性肺炎の合併は1例も生じなかった.【考案】摂食・嚥下サポートチームによる介入は,周術期の誤嚥性肺炎予防に有効と考えられた.
  • 増田 大介, 西田 達, 秋月 克彦, 丁 奎光, 藤井 祥貴, 岩﨑 正之
    2011 年 25 巻 6 号 p. 604-610
    発行日: 2011/09/15
    公開日: 2011/10/26
    ジャーナル フリー
    末梢小型肺病変の経皮的CTガイド下マーキングは,時折臓側胸膜穿刺に伴う重篤な合併症を認める.今回,臓側胸膜穿刺を行わないマーキング法を開発した.対象期間は2009年7月から2011年1月まで.内訳は男性7例・女性3例で,平均年齢64歳(53~74歳),右9例(内1例は同一葉内に2病変),左2例の計10症例11病変.CTガイド下マーキング時,経皮的に血管内留置カテーテルを病変部直近の壁側胸膜直上に進め,外筒を留置した.次に分離肺換気で鏡視下手術を行い,先述の外筒より胸腔内に中心静脈カテーテルを挿入し,先端に小綿球を装着後,胸壁に牽引・固定した.両肺換気後,カテーテルに色素を注入,小綿球を染色し,肺表面にマーキング後肺部分切除を行った.肺部分切除の平均時間56分(36~76分),明らかな合併症はなかった.本法は臓側胸膜穿刺に伴う合併症を回避でき,鏡視下手術時の末梢小型肺病変の局在診断が安全に行える.
症例
  • 小澤 雄一郎, 菊池 慎二, 市村 秀夫
    2011 年 25 巻 6 号 p. 611-614
    発行日: 2011/09/15
    公開日: 2011/10/26
    ジャーナル フリー
    症例は67歳女性.食物のつかえ感を主訴に当院受診.胸部単純X線上左横隔膜挙上を認めた.CTで左横隔膜弛緩症に加え,左肺下葉に25mm大のすりガラス様陰影を発見された.横隔膜弛緩症は有症状であり手術適応と判断した.左下葉の結節は術中迅速診断で肺腺癌とされ,左下葉切除術と横隔膜縫縮術を一期的に施行した.横隔膜縫縮術の際,一旦横隔膜を切開し癒着した大網を剥離後に縫縮を行った.術後,消化器症状は軽快し外来定期通院中である.
  • 藤原 俊哉, 西川 敏雄, 片岡 和彦, 松浦 求樹
    2011 年 25 巻 6 号 p. 615-620
    発行日: 2011/09/15
    公開日: 2011/10/26
    ジャーナル フリー
    症例は61歳,女性.検診の胸部X線で右肺野の異常陰影を指摘された.胸部CTで右肺に多発する腫瘤影を認めたため,当院へ紹介となった.初診時,眼瞼結膜に腫瘤を発見した.PET-CTでは右肺上葉の腫瘤に高集積とすりガラス陰影に低集積を認めた.その他,右耳下腺にも低集積を認めた.気管支鏡検査を施行し,右肺上葉の腫瘤の擦過細胞診で,悪性リンパ腫が疑われた.眼科紹介し,結膜腫瘤を生検したところ,MALTリンパ腫と診断された.MALTリンパ腫の多発病変が疑われたが,組織分類の確定診断には十分な組織の採取が必要と考え,手術の方針とした.胸腔鏡補助下右上葉切除,下葉部分切除を施行した.病理組織検査の結果,すべての病変においてMALTリンパ腫と診断された.また,耳下腺腫瘍を摘出したところ,MALTリンパ腫と診断された.結語.肺・結膜および耳下腺に同時発生したMALTリンパ腫の1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.
  • 中島 智博, 渡辺 敦, 小濱 卓朗, 宮島 正博, 仲澤 順二, 樋上 哲哉
    2011 年 25 巻 6 号 p. 621-625
    発行日: 2011/09/15
    公開日: 2011/10/26
    ジャーナル フリー
    画像所見で肋骨腫瘍が疑われ,胸腔鏡補助下に肋骨切除術を行った1例を経験した.症例は74歳,男性で2010年に右側胸部痛があり近医整形外科を受診した.右第4肋骨背側に3cm超の腫瘤があり,全身精査の為に当院を紹介され受診した.CTにて肝臓S6に4cmの腫瘤影があり,肋骨部の腫瘤が肝細胞癌転移の可能性があるため,診断および切除目的に手術となった.胸腔鏡補助下に第4肋骨と第5肋骨を合併切除した.病理診断の結果は肝細胞癌の肋骨転移であった.肋骨腫瘍に対して胸腔鏡補助下の切除術を行うことで,皮膚および胸壁筋切開範囲を縮小し,同部への損傷を少なくすることが可能であった.
  • 今清水 恒太, 二川 俊郎, 松澤 宏典, 鈴木 健司
    2011 年 25 巻 6 号 p. 626-629
    発行日: 2011/09/15
    公開日: 2011/10/26
    ジャーナル フリー
    症例は,37歳女性.妊娠第25週に右自然気胸を発症し,ドレナージを行った.一時,気瘻は消失したが,その後再発し,胸腔ドレーンの入れ替えを繰り返しながら保存的治療を継続.妊娠第37週に分娩誘発を行い,無痛分娩にて出産した.産後4日目,胸腔鏡下肺部分切除術施行.術後第7病日に軽快退院した.妊娠中でも症例によっては手術を行うべきとの報告と,保存的治療で乗り切るべきとの報告の両方があるが,我々はドレーンの入れ替えを繰り返すことで,12週間という長期間,創感染や膿胸を起こすことなく保存的治療で管理を行った.
  • 若原 鉄平, 内野 和哉, 多根 健太, 田中 雄悟, 田内 俊輔, 吉村 雅裕
    2011 年 25 巻 6 号 p. 630-634
    発行日: 2011/09/15
    公開日: 2011/10/26
    ジャーナル フリー
    症例は63歳,男性で検診にて胸部異常陰影を指摘された.胸部CTで前縦隔左側に境界明瞭な腫瘤が認められ,CT下針生検で孤立性線維性腫瘍が疑われた.手術は,胸骨正中切開にてアプローチし,腫瘍摘除ならびに腫瘍浸潤が疑われた心嚢の合併切除が行われた.術後病理で脱分化型脂肪肉腫と診断され,補助化学療法が施行された.今回我々は,極めて稀な前縦隔原発の脱分化型脂肪肉腫を経験したので,若干の文献的考察を含めて報告する.
  • 西井 竜彦, 村松 高, 古市 基彦, 諸岡 宏明, 大森 一光, 塩野 元美
    2011 年 25 巻 6 号 p. 635-638
    発行日: 2011/09/15
    公開日: 2011/10/26
    ジャーナル フリー
    症例は,31歳,女性.肺葉内肺分画症の診断で左肺下葉切除を施行された.術後第2病日よりドレーンの排液が白濁し,エーテル法,ズダンIII染色,TG値より乳糜胸と診断された.禁食と末梢静脈栄養で加療し,ドレーン排液も透明化したが,第12病日の排液の再検で乳糜が証明された.これ以上の保存的加療は困難と考えられ,第14病日よりオクトレオチドの持続皮下注を開始した.投与開始後すみやかにドレーンの排液は著減した.4日後に排液を再検し,乳糜は証明されず,さらに2日間持続皮下注射を継続し,胸腔ドレーンを抜去した.その後再燃は認めず,第23病日に軽快退院した.近年,難治性乳糜胸に対してオクトレオチドの有用性が報告されるようになった.従来の保存的加療が無効である乳糜胸では,オクトレオチド投与は,他療法と比べても比較的安全であり,治療法の選択肢の一つになりうると考えられる.
  • 竹下 伸二, 村松 高, 四万村 三恵, 古市 基彦, 大森 一光, 塩野 元美
    2011 年 25 巻 6 号 p. 639-642
    発行日: 2011/09/15
    公開日: 2011/10/26
    ジャーナル フリー
    症例は32歳,女性.2006年11月中旬から咳嗽が出現.2007年1月中旬に近医受診し,胸部X線写真上,左中肺野に異常結節影を指摘された.精査施行するも,確定診断が得られず,左肺腫瘍の診断下,2007年1月下旬,当科紹介受診となった.2007年2月下旬,左肺腫瘍の診断下,手術施行.術中迅速病理診断の結果,肺原発の悪性腫瘍である可能性が高いとの診断を得て,左下葉切除術,リンパ節郭清を施行した.術後病理診断は高分化胎児型腺癌(Well-differentiated fetal adenocarcinoma)であった.高分化胎児型腺癌は,国内外ともに稀な症例として報告されている.特徴は基本的には低悪性度で,予後は比較的良好であるとされている.
  • 吉屋 智晴, 河野 匡, 藤森 賢, 文 敏景, 一瀬 淳二
    2011 年 25 巻 6 号 p. 643-648
    発行日: 2011/09/15
    公開日: 2011/10/26
    ジャーナル フリー
    症例は50代男性.左下葉の進行癌に対し後側方切開左下葉切除・舌区合併切除およびリンパ節郭清術が施行された.術後繰り返す肺炎に伴う膿胸のため再度入院となり,ドレーン挿入後胸腔洗浄等行うも十分なコントロールが得られず,術後化学療法早期導入の必要もあり,開窓術を施行する方針となった.しかし手術予定の数日前に,激しい下腹部痛とわずかに鮮血の混ざった頻回少量の水様便が出現し,原因精査のため手術は延期となった.消化管を含めた精査では異常を認めなかったが,数日後より両下腿の浮腫と紫斑が出現した.皮膚生検でleukocytoclastic vasculitisの所見を認め,Henoch-Schönlein紫斑病と診断された.開窓術施行後に腎生検も行い,紫斑病性腎炎との診断にてステロイドパルス療法を行い退院となった.
  • 伊藤 祥隆, 清水 陽介, 海崎 泰治
    2011 年 25 巻 6 号 p. 649-652
    発行日: 2011/09/15
    公開日: 2011/10/26
    ジャーナル フリー
    症例は24歳女性.健診の胸部X線写真にて異常陰影を指摘され,当院を受診した.胸部CT検査では心臓に接する大小二つの腫瘤を認めた.MRI検査ではいずれの腫瘤もT1強調画像で低信号,T2強調画像で高信号であった.以上から縦隔嚢胞性疾患の診断にて胸腔鏡手術を行った.背側の嚢胞は圧迫にて容易に虚脱したため,心嚢憩室と術中に診断した.一方,腹側の嚢胞は圧迫では虚脱が確認できなかったため,内腔より心嚢との瘻孔を確認することで心嚢憩室との術中診断を得た.切除した腹側病変に対する病理組織学的検査でも心嚢憩室との診断であった.
  • 今村 奈緒子, 渡邊 創, 古泉 貴久, 中川 知己, 増田 良太, 岩﨑 正之
    2011 年 25 巻 6 号 p. 653-656
    発行日: 2011/09/15
    公開日: 2011/10/26
    ジャーナル フリー
    74歳女性.約50年前に肺結核で治療歴がある(詳細不明).2010年3月,糖尿病治療中の胸部単純X線写真で異常陰影を指摘された.精査の胸部CT検査で重複大動脈弓と右S5に結節影を認め,悪性腫瘍の合併を疑った.気管支鏡検査で異常分岐は認めず,TBLBで腺癌の診断であった.cT1bN0M0の診断で,胸腔鏡下に手術を行ったが,肺尖部を中心に強固な癒着が認められ,後側方開胸に移行した.不全分葉があり,腫瘍は一部上中葉間に渡って存在し,右上中葉切除+ND1bを行った.切除標本の病理組織学的診断では,混合型腺癌t2an0m0であった.無症状で経過し,成人期に発見される重複大動脈弓は稀であり,重複大動脈弓を伴う肺癌切除例は検索した限りでは本例のみであった.
  • 日野 春秋, 池田 晋悟, 川野 亮二, 星野 竜広, 横田 俊也, 羽田 圓城
    2011 年 25 巻 6 号 p. 657-661
    発行日: 2011/09/15
    公開日: 2011/10/26
    ジャーナル フリー
    症例は50歳男性,3年前の健診胸部X線写真にて右縦隔側に腫瘤影を指摘,徐々に増大傾向を認めたため精査加療目的に当科紹介,入院.既往に高血圧の指摘はなく,胸痛などの臨床症状も認めていない.胸部造影CTでは第8~9胸椎右側に30×15mmの軽度の造影効果を認める均一な腫瘤影を認め,造影MRIではT1,T2ともに軽度の造影効果を認めた.明らかな脊柱管,椎体への浸潤所見を認めず,神経原性腫瘍を疑い胸腔鏡下腫瘍切除を施行.術中に180mmHg近い異常高血圧を呈したが,降圧薬を併用し周術期管理を行った.組織標本では淡好酸性,好塩基性で顆粒状の細胞質を有する細胞が敷石状に増殖し,chromogranin A,synaptophysinともに陽性を示し傍神経節細胞腫の診断を得た.縦隔原発の傍神経節細胞腫は比較的まれであり臨床的特徴,生物学的特性を文献的考察を加え報告する.
  • 齋藤 学, 砥石 政幸, 椎名 隆之, 近藤 竜一, 高砂 敬一郎, 吉田 和夫
    2011 年 25 巻 6 号 p. 662-666
    発行日: 2011/09/15
    公開日: 2011/10/26
    ジャーナル フリー
    症例は,74歳女性.1997年8月右肺癌に対して,前医にて右中下葉切除を施行された.術後4年7ヵ月に肺アスペルギルス症による喀血にて当科に紹介となった.当科にて右胸膜残肺全摘術を施行したが,術後気管支断端瘻となり,開窓術を行った.開窓術の10ヵ月後,有茎大網弁を用いて気管支断端瘻の閉鎖術を施行した.しかし,再び断端瘻によるMethicillin-resistant Staphylococcus Aureus(以下MRSA)膿胸となり,再度開窓術を施行した.その後外来にて塩化メチルロザニリンを併用した洗浄を続けたところ,栄養状態の改善とともに膿胸腔の縮小と気管支断端瘻の改善がみられ,開窓部は陥凹を認めるものの上皮化し,現在も再燃なく経過している.
  • 南 憲司, 岩崎 拓也, 武本 智樹, 廣畑 健
    2011 年 25 巻 6 号 p. 667-671
    発行日: 2011/09/15
    公開日: 2011/10/26
    ジャーナル フリー
    肺ムコール症を合併した自然気胸の1手術例を経験したので報告する.症例は19歳男性.両側自然気胸に対する両側手術,ドレナージ歴がある.左胸痛を自覚し数日後に近医を受診,左自然気胸と診断され胸腔ドレージを施行された.改善傾向なく当院外科へ紹介となった.胸部CTでは両側肺尖部に前回の手術痕と数個の嚢胞を認めた.左肺の拡張は不十分であった.ドレナージ10日目に手術を施行した.手術当日の朝より発熱を認め,ドレーン排液が混濁していた.手術は胸腔鏡下嚢胞切除術を施行し,十分に胸腔内を洗浄した.術後は発熱なく炎症反応も正常化したため,術後4日目にドレーンを抜去し退院となった.病理組織では線維性肥厚した胸膜下にブラ・ブレブが認められ,その肥厚した胸膜内にムコールが認められた.混濁した胸水の培養でもムコールが検出された.ムコール症に対する治療は行わず経過観察していたが感染の徴候は認められず経過は良好である.
  • 羽隅 透, 斎藤 泰紀, 阿部 二郎, 星 史彦, 川村 昌輝, 田中 遼太
    2011 年 25 巻 6 号 p. 672-677
    発行日: 2011/09/15
    公開日: 2011/10/26
    ジャーナル フリー
    症例は33歳,女性.左肩痛を主訴に来院.画像上,左胸郭入口部胸壁に径45×25mm大の腫瘤性病変を認めた.辺縁明瞭で周囲への明らかな浸潤像を認めないことから良性腫瘍と判断し,第4肋間後側方開胸にて切除を行った.術後病理検査にてデスモイド腫瘍の診断となり,また切除断端は陽性であった.術後1年5ヵ月目に腫瘍の断端部再発と左上肢痛の増悪を認めた.放射線治療を選択し60Gyの照射を行った.腫瘍縮小は軽度であったが,左上肢痛は解消した.放射線治療後3年4ヵ月の現在,腫瘍の再増大や疼痛の再燃無く,無治療にて経過観察を行っている.デスモイド腫瘍は組織学的には良性で遠隔転移は来さないものの局所浸潤性が強く,高頻度に切除後の断端再発を認める.本腫瘍に対しては外科的切除が治療の原則となるが,広範囲切除により著しく機能損失をともなう場合は放射線治療を選択すべきで,術後再発においても有効な局所制御が望める.
  • 北野 晴久, 朝倉 庄志, 一瀬 増太郎
    2011 年 25 巻 6 号 p. 678-682
    発行日: 2011/09/15
    公開日: 2011/10/26
    ジャーナル フリー
    症例は52歳男性.1995年結核による左有瘻性膿胸に対し左膿胸腔大網充填術,胸郭成形術を施行した.1999年(術後4年目)に喀血が出現し,アスペルギルス膿胸の診断で抗真菌剤を投与し軽快した.2001年(術後6年目)に再喀血を認め,気管支動脈塞栓術やEWS気管支塞栓術を施行するも,軽快・喀血を繰り返した.左胸腔内の大網動脈の造影を施行したところ,著しい血管増生・拡張・肺動脈とのシャントを認めた.大網動脈を金属コイルで塞栓術を施行したところ,喀血は認めなくなった.しかし,その2年後に血痰の持続を認め,大網動脈残存血管に再度塞栓術を施行した.その後,少量の血痰を時々認めるのみとなっている.
    大網充填術後晩期の難治性喀血症例に対し,大網動脈塞栓術が著効した症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.
  • 福本 紘一, 川口 晃司, 岡川 武日児, 岡阪 敏樹, 宇佐美 範恭, 横井 香平
    2011 年 25 巻 6 号 p. 683-686
    発行日: 2011/09/15
    公開日: 2011/10/26
    ジャーナル フリー
    症例は72歳,男性.2010年3月に肺癌に対して右肺上葉切除術+縦隔リンパ節郭清を施行し,pT2aN1M0,stage II Aの腺癌であった.術後第3病日と第13病日に右胸腔内出血をきたし,2度の開胸血腫除去術を施行した.精査にて第VIII凝固因子活性の低下を認め,また第VIII凝固因子に対するインヒビターが検出され出血の原因は後天性血友病Aと診断された.さらに無瘻性膿胸・敗血症をきたしたが,開窓術と慎重な全身管理により術後第243病日に退院した.後天性血友病Aが術後に顕在化することは極めて稀であるが,本例のごとく重篤な病態を招くこともあるため,術後に原因不明の出血傾向を認めた場合には本疾患の可能性を念頭に置く必要があると思われる.
展望
  • —EPPかP/Dか—
    坪田 紀明
    2011 年 25 巻 6 号 p. 687-694
    発行日: 2011/09/15
    公開日: 2011/10/26
    ジャーナル フリー
    従来,わが国の胸膜中皮腫に対する外科分野の議論は主に安全且つ確実な胸膜外肺摘除術(extrapleural pneumonectomy, EPP)の術式を巡ってなされてきたが,今後は胸膜切除/剥皮術(Pleurectomy/decortication,P/D)との比較が重要になる.そこで今まで検討されることの少なかった下記の5項目ついて考察を加えた.
    I.EPPの成績と限界.Trimodalityによる集学的治療の成績と展望を述べた.II.Radical P/D(壁側および臓側胸膜の肉眼的全切除)の現況.自験65例(EPP 31例,P/D 34例,内Radical P/D 6例)の成績をまじえ,EPPに劣らない成績を示す本術式の適応について述べた.III.自動縫合器を用いたEPPの術後3日目に発症した肺障害に対する考察.原因としては1)臨床的に確認し難い極小断端瘻の先行とこれに起因する対側肺吸引,2)術中,術後のover-hydration,3)原因不明のARDS,が考えられる.1)2)であるならば外科医の責任においてこれを回避する必要がある.IV.EPPと胸内筋膜(EF)の関係.胸内筋膜は切除標本側にあるか,胸壁に残るか,明らかでない.代表的な教科書数冊の記載から判断するとEFを弾力線維の膜とするよりも疎なareolarな結合組織の層と考えるのが妥当である.外科医はこの層を剥離する.V.今後の課題.EPPにおけるmortalityを5%以下に抑え,早期例における病理診断の精度向上を計ることが今後の臨床研究の発展に不可欠である.
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