日本呼吸器外科学会雑誌
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35 巻, 7 号
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巻頭言
原著
  • 寛島 隆史, 大村 彰勲, 田中 諒, 木村 亨, 馬庭 知弘, 岡見 次郎
    2021 年 35 巻 7 号 p. 756-762
    発行日: 2021/11/15
    公開日: 2021/11/15
    ジャーナル フリー

    遷延性肺瘻(Prolonged air leak;PAL)は,肺切除後に最も多く経験する術後合併症だが,術後早期にPALを予測することは容易ではない.2019年8月から2020年8月に当院で肺切除術後にデジタル式ドレナージシステムThopaz(トパーズ)を用いた279例のうち,PAL 7例を含む術後エアリークを認めた57例を対象とした.エアリークデータを後方視的に解析,術後早期に検出可能なPAL予測因子を検討した.術後12時間に観察されたエアリーク量の最大値が800 mL/min以上の症例と,術後0から6時間までと術後6から12時間までのエアリーク量平均値の比が1.0以上の症例においてPALが有意に多かった(いずれもp<0.001).トパーズで検出される術後12時間のエアリーク量と経時変化はPAL予測に有用であり,エアリークに対する治療介入を判断する指標となりうる.

症例
  • 渡部 和玄, 吉岡 孝房, 安樂 真樹
    2021 年 35 巻 7 号 p. 763-767
    発行日: 2021/11/15
    公開日: 2021/11/15
    ジャーナル フリー

    症例は71歳女性.近医にてCTで左肺門部に3 cm大の腫瘤陰影を指摘され,当科紹介となった.全身精査の結果,原発性肺癌疑いcT2aN0M0 Stage IBと診断し,胸腔鏡下左肺上葉切除およびリンパ節郭清術を施行した.病理診断は肺定型カルチノイド,pT1cN0M0 StageIA3であった.術直後より心房細動を認めたため抗不整脈薬の投与と抗凝固療法を開始し,心房細動は速やかに消失した.術後12日目の夜間に患者が突然の腹痛を訴えたため緊急胸腹部造影CTを撮像したところ,腎梗塞,脾梗塞,および腸管膜動脈血栓症の所見を認め,腹痛の原因と考えられた.さらに左上肺静脈切離断端を基部として左房内に突出する壁在血栓の所見も認めた.発症翌日に施行した頭部MRIでは左小脳梗塞の所見を認めた.症状と血液検査所見から保存的治療が妥当と判断し,抗凝固療法の継続で臨床症状の改善と梗塞巣の縮小を認めた.本症例は抗凝固療法開始下で多発血栓塞栓症を発症しており,術式(左肺上葉切除),心房細動発症など心房内血栓形成のリスク因子が重なった場合,術後早期のスクリーニング造影CTや,速やかな抗凝固療法を検討する必要があると考えられた.

  • 森野 茂行, 松本 理宗, 藤田 朋宏, 木谷 聡一郎, 中村 昭博
    2021 年 35 巻 7 号 p. 768-773
    発行日: 2021/11/15
    公開日: 2021/11/15
    ジャーナル フリー

    症例は72歳男性.全身倦怠感が出現し,近医で低ナトリウム血症と胸部CTで前縦隔に13 mmの結節を指摘された.低ナトリウム血症と前縦隔腫瘍の精査目的で当院を受診した.SIADHによる低ナトリウム血症と診断し飲水制限塩分摂取食事療法を開始した.治療開始6ヵ月後に血液電解質は改善傾向となった.8ヵ月後の胸部CTで前縦隔腫瘍が増大したため,胸腔鏡下前縦隔腫瘍切除術を施行した.術中所見で右胸腔内に肺の高度な癒着を認めたため胸腔鏡での操作は困難であったが,完全鏡視下に腫瘍を切除することができた.病理所見で胸腺内に腫瘍を認め前縦隔神経芽腫と診断した.術直後より低ナトリウム血症は改善し術後7日目に退院した.術後放射線治療や化学療法を行わずに経過を観察しており,術後20ヵ月で無再発生存中である.成人発見での神経芽腫は極めて稀であり,SIADHを合併した成人前縦隔神経芽腫の1切除例を経験し報告する.

  • 西川 仁士, 岡田 真典, 藤原 俊哉, 松浦 求樹
    2021 年 35 巻 7 号 p. 774-778
    発行日: 2021/11/15
    公開日: 2021/11/15
    ジャーナル フリー

    症例は73歳男性.PET-CTで左肺上葉にFDGの異常集積を伴う結節を2ヵ所指摘された.全身麻酔下,右側臥位で固定し,胸腔鏡補助下左上葉切除術,ND2a-1リンパ節郭清を施行した.2個の腫瘍はともに低分化腺癌で,pT1c(2)N0M0 stage IA3であった.手術翌日より左三角筋の脱力による左上肢の挙上困難を訴え,腋窩神経麻痺と診断,原因として四辺形間隙症候群が疑われたため,理学療法を開始した.術後1ヵ月目より徐々に左上肢の挙上が可能となり,術後2ヵ月目には日常生活に支障ない程度まで回復,間もなく筋力の回復もみられた.術後5年現在,無再発で左上肢の不自由もなく外来通院にて経過観察中である.胸部手術における合併症としての四辺形間隙症候群は稀であるが,症例を蓄積するとともに腋窩神経とその周辺の解剖構造を理解し,同部への圧迫や過伸展のかからない肢位作りを定型化していくことが重要である.

  • 櫻田 明久, 鈴木 繁紀, 大城 雄基, 濱田 賢一, 風間 暁男
    2021 年 35 巻 7 号 p. 779-785
    発行日: 2021/11/15
    公開日: 2021/11/15
    ジャーナル フリー

    【背景】胸壁血管腫は胸壁腫瘍の1%程度とされ,特に肋間筋血管腫は血管腫全体の0.01%と極めて稀である.【症例】54歳女性.検診CTで左第3,4肋間に3.0 cm大の胸壁腫瘤を指摘された.PET-CTではSUVmax:2.3の集積を認め,CTガイド下針生検を施行したが悪性所見は認めず,経過観察となった.2ヵ月後の経過で明らかな増大傾向は認めなかったが,デスモイド腫瘍などの悪性腫瘍を鑑別に挙げ,診断的治療目的に腫瘍摘出術を施行した.鏡視下で,病変は青紫色の壁側胸膜外の多房性結節として観察された.術中迅速病理診断では悪性所見を認めなかったが,肋間筋血管腫は局所再発例も報告されているため,第3肋骨を含めた胸壁切除を行った.最終病理診断では肋間筋血管腫の診断であった.【結語】肋間筋血管腫は術前に確定診断が得られない場合が多いが,術前の画像所見から血管腫を鑑別診断に挙げることと,腫瘍の完全切除が重要である.

  • 西川 仁士, 林 同輔
    2021 年 35 巻 7 号 p. 786-790
    発行日: 2021/11/15
    公開日: 2021/11/15
    ジャーナル フリー

    肺大細胞神経内分泌癌の切除後発生した肺MALTリンパ腫を切除した稀少症例を経験したので報告する.症例は70歳代女性.右肺癌にて右下葉切除術を施行した.pT1bN0M0 stage IA2,組織型は大細胞神経内分泌癌であった.術後経過観察中5年目の胸部CTで右肺中葉にスリガラス陰影が出現し増大傾向を認めたため,第二肺癌cT1aN0M0 stage IA1の疑いとして胸腔鏡下右中葉切除術を施行した.病理組織学的に肺MALTリンパ腫と診断された.術後8ヵ月現在無再発で経過観察中である.MALTリンパ腫は様々な要因による慢性炎症が関与しているといわれているが,肺癌に併発した肺MALTリンパ腫の報告は少ない.両疾患の関連性や治療方針について明らかにするためにさらなる症例の蓄積が必要である.

  • 三和 健, 宮本 竜弥, 齋藤 雄平, 角 尚紀, 中村 廣繁
    2021 年 35 巻 7 号 p. 791-794
    発行日: 2021/11/15
    公開日: 2021/11/15
    ジャーナル フリー

    胸骨正中切開が必要な縦隔腫瘍と心疾患の一期的手術は稀である.症例は72歳,女性.主訴は労作時の息切れ.精査で重度の僧帽弁閉鎖不全症と診断され,胸部CTで前縦隔に57 mm大の腫瘍を認めた.胸部造影MRIで左腕頭静脈への浸潤が疑われた.抗AchR抗体が高値で精査にて重症筋無力症(MGFA IIB)と診断された.重症筋無力症に対する治療開始後に一期的手術となった.まず当科で胸骨正中切開にて拡大胸腺全摘術を施行した.腫瘍は左腕頭静脈への浸潤を認め,部分合併切除後に形成した.腫瘍の迅速病理診断はB3型胸腺腫であった.以降回収血使用可能とし,心臓外科にて僧帽弁形成および三尖弁輪形成術を施行した.合併症なく術後14日目に退院.病理診断はB3型胸腺腫で左腕頭静脈への浸潤,リンパ節への多発転移を認めた.抗癌剤による心毒性,放射線治療による心膜炎を懸念して,術後補助治療は施行せず厳重経過観察となった.

  • 森 浩貴, 能勢 直弘, 矢野 隆郎, 富田 雅樹, 中村 都英
    2021 年 35 巻 7 号 p. 795-801
    発行日: 2021/11/15
    公開日: 2021/11/15
    ジャーナル フリー

    コントロール困難な難治性胸水に対しては胸腔穿刺や胸膜癒着術が選択されるが,PS不良例や高齢者では,穿刺に伴う合併症や癒着療法における有害事象が致命的になる可能性もあり,実臨床において施行困難なことも多い.

    今回我々は90歳以上の難治性胸水患者にデンバーシャント(ミハマメディカル)を用いて胸腔腹腔シャントを造設し良好なコントロールを得た3例を経験した.2例については原因不明,1例については悪性胸水であった.全例全身麻酔下にシャント造設術を施行した.特に手術に関連した合併症発生はなく,その後も胸水による症状は外来にて良好にコントロールされている.

    難治性胸水に対する胸腔腹腔シャント造設は,呼吸困難そのものや頻回の胸腔穿刺処置から患者を解放しQOLを改善させる緩和処置の選択肢として非常に有効であると思われる.またその家族をはじめとした介助者の労力軽減にもつながるため,患者と周辺の人の双方にとって十分にその恩恵が受けられるものと考える.

  • 梅原 正, 横枕 直哉, 上田 和弘, 徳永 拓也, 丸山 広生, 佐藤 雅美
    2021 年 35 巻 7 号 p. 802-806
    発行日: 2021/11/15
    公開日: 2021/11/15
    ジャーナル フリー

    左上葉切除後の肺静脈断端血栓に対して抗凝固療法が行われるが,抗凝固療法の中止の可否や中止のタイミングについて一定の見解はない.我々は左上肺静脈断端血栓に対して抗凝固療法により血栓消失を得たものの,抗凝固療法中止後に血栓を再形成した症例を経験したため報告する.症例は71歳,男性.左上葉肺癌に対して左上葉切除を行い,3ヵ月後のフォローCTにて左上肺静脈断端に血栓を認めた.抗凝固療法を開始し血栓の消失が確認できたため抗凝固療法を中止したが,その後のCTで再び肺静脈断端に血栓を形成したため再度抗凝固療法を行った.血栓が消失すればその後は起こらなかったとする報告もあるが,本症例のように抗凝固療法を中止することで血栓を再形成したとする報告は筆者らが検索し得た限りではなかった.急性期のみならず,遠隔期における血栓形成についても注意を要する症例があると考えられる.

  • 中村 勝也, 生田 安司, 内山 明彦
    2021 年 35 巻 7 号 p. 807-810
    発行日: 2021/11/15
    公開日: 2021/11/15
    ジャーナル フリー

    症例は79歳,男性.2020年1月に直腸癌に対し,腹腔鏡下直腸低位前方切除術(D3郭清)を施行され,外来経過観察中であった.2020年8月の術後7ヵ月後の胸部CTで術前には認められなかった辺縁不整な30 mm大の結節を左肺下葉S10に認めた.気管支鏡検査を施行したが,確定診断には至らなかった.転移性肺腫瘍が疑われ診断確定目的に胸腔鏡下左肺下葉楔状切除術を施行した.病理組織診では著明な線維化とIgG4免疫染色陽性の形質細胞浸潤を認め,IgG4/IgG陽性細胞比は約55%であった.病理所見よりIgG4関連肺疾患と診断した.多臓器病変の存在が懸念されたが検索した範囲内では異常所見を認めず,肺単独発症と考えられた.

  • 長 靖, 加地 苗人, 野村 俊介, 本橋 雄介, 岡本 賢三
    2021 年 35 巻 7 号 p. 811-818
    発行日: 2021/11/15
    公開日: 2021/11/15
    ジャーナル フリー

    症例は55歳,男性.主訴は左肩から肩甲骨の疼痛.CTにて左肺尖部に腫瘍を認め,PET-CTでSUVmax 9.74と高集積を認めた.CTガイド下腫瘍生検では腺癌であり,左上葉肺癌cT3N0M0 cStage IIBの診断となった.手術は,左上葉切除+第1-3肋骨合併切除+ND2a-1+左鎖骨上窩リンパ節郭清を施行した.術後病理検査では,腫瘍径6.0×5.0×3.6 cmであり,壁側胸膜部を中心として肋骨を含む胸壁および肺への浸潤を認めた.組織像では,索状や管状配列が主体で乳頭状配列も認める上皮様腫瘍細胞浸潤性増殖であり,間質増生も伴っていた.免疫染色の結果,上皮型限局性悪性胸膜中皮腫の診断となった.リンパ節転移は左鎖骨上窩リンパ節にのみ認め,pT4N2M0 pStage IIIBの診断となった.術後9ヵ月経過し再発の徴候なく経過観察中である.

  • 小菅 淳, 北原 直人, 福山 馨, 杉浦 裕典, 門田 嘉久
    2021 年 35 巻 7 号 p. 819-824
    発行日: 2021/11/15
    公開日: 2021/11/15
    ジャーナル フリー

    結核菌による降下性壊死性縦隔炎は稀である.今回我々は,結核性咽後膿瘍から降下性壊死性縦隔炎を発症した1例を経験した.

    症例は70歳台女性.多発筋炎に対して長期間のステロイド投与中に粟粒結核を発症し,治療目的に当院紹介となった.入院時に嚥下困難を認め,精査で咽後膿瘍と診断した.抗結核薬による治療を開始したが,1ヵ月の経過で下降性に縦隔炎に至り,頚部と縦隔のドレナージを施行した.頚部と縦隔の両方の膿から結核菌を検出し,結核菌による降下性壊死性縦隔炎と診断した.経過中に頚部から背部に至る膿瘍も形成し,追加のドレナージを要した.縦隔からの膿性排液は長期にわたり持続し,漿液性に正常化するまで術後53日間のドレナージを要した.

    結核菌による降下性壊死性縦隔炎は,臨床所見に乏しく緩徐に進行する可能性があり,結核菌に特徴的な経過をたどると思われた.

  • 蜂須賀 康己, 藤岡 真治, 魚本 昌志
    2021 年 35 巻 7 号 p. 825-830
    発行日: 2021/11/15
    公開日: 2021/11/15
    ジャーナル フリー

    症例は47歳男性.右背部痛と呼吸困難を主訴に当院を受診した.血液検査で炎症反応上昇がみられ,胸部CTで右胸水と右後縦隔に4.0 cmの腫瘤を認めた.抗生剤投与後に炎症反応は改善し,縦隔腫瘍を疑い切除術を行った.病理診断結果は,出血性壊死を伴う肺葉外肺分画症の所見であった.胸膜炎を契機に発見された成人の肺葉外肺分画症は稀であるため報告する.

  • 中村 速, 内田 孝宏, 田中 雄悟, 井上 武, 神保 直江, 眞庭 謙昌
    2021 年 35 巻 7 号 p. 831-835
    発行日: 2021/11/15
    公開日: 2021/11/15
    ジャーナル フリー

    症例は67歳女性.発熱,咳嗽にて近医を受診した.胸部CTで下行大動脈から左底区域へ流入する直径20 mmの異常血管を認め肺底動脈大動脈起始症と診断された.手術は左第5,7肋間に操作孔を置き,第7,8肋間にポートを作成した.大動脈の縫縮は直視下と鏡視下を併用し,それ以外の胸腔内手技は鏡視下で行った.異常血管の径は大きく,切離部の瘤化を懸念し,異常血管起始部の下行大動脈壁をサイドクランプし異常血管を切離,下行大動脈壁にて縫縮した.異常血管処理後にICG蛍光法を用い,左下葉全域への血流低下が確認されたため左下葉切除を行った.病理組織診断では異常動脈壁の内膜の肥厚および中膜の菲薄化を認めた.また,中膜の弾性線維は途絶・消失しmyxoid changeも認められた.術後19ヵ月経過し大動脈壁の異常は認めていない.径の大きい異常血管は血管壁の組織脆弱性の可能性があり,その処理には十分な配慮が必要である.

  • 千葉 慶宜, 大川 美穂, 馬渡 徹, 渡辺 敦
    2021 年 35 巻 7 号 p. 836-840
    発行日: 2021/11/15
    公開日: 2021/11/15
    ジャーナル フリー

    進行期の胸腺由来腫瘍手術では,上大静脈や左腕頭静脈の合併切除および人工血管による血行再建を要することがあるが,血栓や解剖学的要因により人工血管の閉塞をきたす可能性がある.今回,上大静脈および左腕頭静脈閉塞をきたした胸腺癌に対し,側副血行路の温存に留意し切除した1例を報告する.症例は80歳女性.前縦隔腫瘍により,上大静脈および両側腕頭静脈の閉塞を認めたが,上半身や顔面の浮腫は無く,3D-CTで十分な側副血行路の発達を認めた.術中所見では奇静脈への浸潤は認めず,側副血行路の要となる同静脈の温存に注力し,血行再建を行わずに腫瘍を切除した.病理診断は胸腺癌で,術後のCTで奇静脈を含めた静脈還流は良好に保たれていた.奇静脈を介する側副血行路が発達している症例においては,同血行路の温存に留意すれば人工血管による血行再建を行わず,安全に腫瘍を切除し得ると考える.

  • 加藤 雅人, 隅 健次, 山地 康大郎, 中野 裕子, 永田 正喜, 小島 勝雄
    2021 年 35 巻 7 号 p. 841-845
    発行日: 2021/11/15
    公開日: 2021/11/15
    ジャーナル フリー

    症例は67歳男性.右肺上葉に結節病変を指摘され,精査にて原発性肺腺癌(cT1bN0M0 Stage IA2)と診断し,胸腔鏡下右肺上葉切除とリンパ節郭清術を行った.術後に術中の胸水細胞診が<Class V>と診断されたため,病理病期はpT1bN1M1a Stage IVAとなり,術後化学療法(Carboplatin+Pemetrexed;6コース)を行った.術後4ヵ月で一時的に貯留した胸水は消失していたが,術後8ヵ月の胸部レントゲンと胸部CT検査で胸水の再貯留を認めた.胸水の細胞診では悪性の所見はなく,胸水抗酸菌検査にて結核菌PCRと結核菌培養がともに陽性で,結核性胸膜炎と診断した.抗結核療法を6ヵ月間行い,現在,結核性胸膜炎の再燃なく経過中である.肺癌の術後経過中に胸水の再貯留を認める場合は,結核性胸膜炎の鑑別が必要である.

  • 井澤 良介, 田中 雄悟, 清水 奈保子, 田村 亮介, 大橋 千裕, 眞庭 謙昌
    2021 年 35 巻 7 号 p. 846-850
    発行日: 2021/11/15
    公開日: 2021/11/15
    ジャーナル フリー

    症例は63歳,男性.30年前に胃潰瘍で幽門側胃切除術の既往がある.2年前に前医で右下葉肺癌に対し右下葉スリーブ切除術を施行された.術後病理診断で扁平上皮癌(pT2aN1M0 Stage IIB)と診断されたため,シスプラチン+ドセタキセルによる術後化学療法を4コース施行された.術後9ヵ月目に気管支形成吻合部の縫合不全による有瘻性膿胸を発症したため開窓術が施行された.膿胸腔は縮小したが気管支縫合部の瘻孔は徐々に拡大した.毎日のガーゼ交換を要し呼吸困難感の増悪および発声困難も出現したため,加療目的で当院に紹介となった.手術は遊離腹直筋皮弁充填術を施行した.左下側臥位にて遊離腹直筋皮弁を作成し下腹壁動静脈を肩甲下動静脈に顕微鏡下に吻合した.筋皮弁は気管内腔を閉塞しないように配慮しながら死腔に充填した.術後気管支鏡検査にて充填物による気道閉塞は認めなかった.術後2年が経過しているが経過は良好である.

  • 東山 智彦, 水口 真二郎, 髙濱 誠, 古河 奈央, 簡野 泰成, 山本 良二
    2021 年 35 巻 7 号 p. 851-856
    発行日: 2021/11/15
    公開日: 2021/11/15
    ジャーナル フリー

    神経鞘腫は縦隔腫瘍の約20%を占めるが迷走神経由来の神経鞘腫はまれである.今回大動脈弓下に存在し,断続的に嗄声症状を呈しFDG-PETで高集積を示した迷走神経由来の神経鞘腫に対して胸腔鏡下に切除し得た一例を経験したため報告する.症例は78歳女性.2020年4月CT検査で60 mm大の縦隔腫瘍を認めた.同部位を超音波気管支鏡ガイド下に生検し,神経鞘腫の診断を得た.神経圧迫症状を疑う嗄声症状やFDGの高集積を認め悪性の可能性も考慮し,神経鞘を含めた切除を行った.病理組織学的には良性神経鞘腫の診断であった.術後嗄声症状は消失した.迷走神経由来で周囲重要臓器に広く接するような神経鞘腫においても胸腔鏡下に切除可能であると考えられた.

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