症例は75歳男性.検診で胸部異常陰影を認めCTを施行すると右上葉S3に29 mm大の結節を認めた.気管支鏡生検では確定診断を得られず右上葉肺癌疑いの診断で胸腔鏡下右上葉切除術(壁側胸膜合併切除)を施行した.術後病理はpT3(pl3)N0M0 pStageIIBの肺多形癌の診断となった.患者希望により経過観察を行っていたが術後4ヵ月に胸壁再発を認めた.PD-L1(Programmed cell Death Ligand 1)が高発現であったためPembrolizumabを投与し腫瘍は縮小した.その後,左胸水を認め細胞診にて肺多形癌再発の診断となり,抗癌剤を投与し左胸水の改善を認めたが,再度左胸水の増加を認めた.胸腔鏡下左胸膜生検を施行し,悪性胸膜中皮腫の診断となった.現在は中皮腫に対して抗癌剤治療中である.PD-L1が高発現の肺多形癌に対してはPembrolizumabが有効な可能性がある.
【はじめに】胸腺腫の穿破は稀である.腫瘍穿破に伴う血胸を契機に発見された胸腺腫を経験したので報告する.
【症例】37歳女性.突然の呼吸困難と左胸背部痛を主訴に救急受診,胸部CTで前縦隔左側に腫瘤陰影と左胸水貯留を認めた.胸腔穿刺で血性胸水を認め,胸腔ドレナージを開始したが活動性出血は認めなかった.腫瘤は主肺動脈を圧排しており浸潤の可能性が否定できず,開胸下に胸腺胸腺腫瘍切除術を施行した.術後病理検査の結果,胸腺腫type Bと診断した.術後1年で胸膜播種再発を来したため胸腔鏡下に播種巣を切除し,現在経過観察中である.
【考察】胸腺腫の4.2%に壊死や出血を認めるとされており,自験例でも腫瘍壊死による腫瘍内出血から穿破,血胸に至ったと考えられた.穿破を来した胸腺腫の長期予後は明らかではないが,自験例のように比較的早期に胸膜播種再発を来す可能性があり,厳重な経過観察を要すると考えられた.
症例は71歳男性.7年前から前胸部の膨隆を認め,造影MRI検査にて胸骨血管腫の診断で経過観察されていた.腫瘍がゴルフボール大まで増大したため,経皮的生検を行うも出血多く中断した.再度針生検を行い,血管腫の診断なるも悪性の可能性は否定できず,胸骨腫瘍切除を行った.術前日に栄養血管をカテーテルで塞栓することで術中の出血量を抑えることができた.胸壁欠損部にメッシュを用いて再建を行うも,術後フレイルチェストとなり,5日間の陽圧換気を必要としたが,術後29日目に独歩退院できた.術後1年の現在,再発や胸郭動揺はない.胸骨腫瘍は稀な疾患で,全骨腫瘍の0.94%とされ,多くは悪性である.我々が経験した胸骨血管腫の報告は,自験例も含め10例と少なく,極めて稀な症例と考えられた.
肺葉外肺分画症は無症状で偶然発見されることが多いが,稀に茎捻転を起こし臨床症状を呈する.今回,肺葉外肺分画症捻転に対して完全鏡視下手術を施行し,診断加療した小児例を経験したので報告する.症例は12歳,男児.左側腹部痛のため当院救急外来を受診し,小児科に入院した.入院時の胸腹部CTでは左胸腔内の横隔膜直上,左傍脊椎に3 cm大の腫瘤と少量の胸水を認めた.入院4日目のダイナミックCT上,左胸水が増加し,左傍脊椎腫瘤には造影効果を認めなかった.肺葉外肺分画症捻転が疑われ当科に紹介となり,手術を施行した.腫瘤は下行大動脈近傍に存在し,その尾側に大動脈と交通する血管が存在したため,肺葉外肺分画症と考えた.捻転の有無は確認困難であったが,腫瘤は鬱血して暗赤色を呈していた.流入血管を切離し,腫瘤を摘出した.術後経過は良好で,術後4日目に退院した.病理組織診断は,出血性梗塞を伴う肺葉外肺分画症であった.
症例は78歳女性.右上葉肺癌(cT1aN2M0,StageIIIA)に対し右上葉切除,ND2a-2リンパ節郭清を行った.術後第1病日の胸部X線にて右上肺野の透過性低下,CTでは中葉S5の無気肺と思われるconsolidationと中葉気管支末梢の狭窄所見を認めたが,明らかな中葉捻転の所見に乏しく保存的加療とした.しかし術後第3病日に38℃台の発熱,および胸部CTでconsolidationの増強を認め,臨時手術を行う方針にした.術中所見では右中葉の大部分がうっ血を来していたが,中葉捻転の所見は認めず,中葉静脈は問題となる所見はなかった.肺壊死の可能性があり中葉は温存不可能と判断し残存中葉切除を行った.再手術後は臨床症状,血液検査ともに速やかに改善した.肺うっ血を来す術後合併症として肺捻転症は知られているが,捻転を起こさずに肺うっ血を来す場合もあることに留意する必要がある.
胸腺上皮性腫瘍に対する経皮的針生検の合併症として出血や気胸の他,穿刺経路への腫瘍の播種が報告され,切除可能と判断される場合は,生検は行わないよう推奨される.今回,胸腺腫術後の肺転移巣に対して経皮的針生検を行い,穿刺経路への腫瘍の播種をきたした一例を経験した.症例は74歳女性.胸腺腫WHO type B3,正岡分類I期の術後,右肺下葉の増大傾向の結節に対してCTガイド下生検を施行した.胸腺腫の肺転移の診断で肺部分切除術を施行した.その後,生検経路に一致した胸膜面に結節が出現した.腫瘍切除術を施行し,胸腺腫の再発の診断を得た.経皮的針生検による胸腺上皮性腫瘍の穿刺経路への播種は原発巣に対してだけでなく,転移巣に対する生検でも起こりうる.特に胸腺腫type B3や胸腺癌など相対的に肺転移頻度の高い胸腺上皮性腫瘍に伴う肺結節は,原発巣と同様に経皮的針生検の適応を慎重に判断する必要がある.
気管支腺様囊胞癌はその病理学的特徴から集学的治療を要することがあり,手術だけで完全切除できるかどうかを術前に断定することは困難である.さらに高齢者肺癌が増加傾向にある昨今では個々のアウトカム評価に対する治療選択も重要と考えられ,患者の生活の質を落とさずに集学的治療により疾患をコントロールすることも求められている.
症例は83歳男性.検診にて胸部異常陰影を指摘され,気管支鏡検査では右上葉気管支内にポリープ状の腫瘍を認めた.生検にてclassIV,腺様囊胞癌疑いの診断で当科紹介となる.手術時,術中迅速診断で追加切除した気管支断端に顕微鏡学的に断端陽性を疑う箇所があったが,肺門リンパ節が右肺動脈本幹に炎症性に固着しており気管支を中枢に追加切除することは困難であった.総合的に判断した結果,手術は上葉切除で終了し退院後に放射線照射をtotal 50 Gy施行した.術後フォローのCTでも再発なく経過している.
69歳男性.他病経過中の胸部CTで前縦隔に28 mmの石灰化を伴う充実性腫瘤を指摘された.画像的に囊胞変性を伴った胸腺腫を疑い術前生検は行わず,上縦隔血管と密接していたため胸骨正中切開で胸腺胸腺腫摘出術を施行した.腫瘤は胸腺左上極付近に位置しており,無名静脈との強い癒着を認めたが,明らかな浸潤はなかった.病理組織検査では,囊胞は多房性を呈し,囊胞壁の細胞には単層で異型のないものと核の腫大,大小不同を伴うものとが混在し,内腔に向かって低乳頭状を示す領域も認めた.肉眼的にも組織学的にも腫瘍は完全に被包されていた.免疫染色ではCK7陽性,CK20,CDX2は一部陽性,TTF-1,CD5は陰性であった.転移性胸腺腫瘍の可能性を考慮して術後にPET-CT検査を行ったが他臓器に腫瘍性病変を認めず,悪性疾患の既往もなかったため,胸腺原発粘液産生腺癌(pT1N0M0,pStageI),正岡I期と診断した.
25歳男性.MELAS(ミトコンドリア脳筋症,乳酸アシドーシス,脳卒中様エピソード)を経過観察中の胸部写真で右中肺野に異常陰影を指摘された.胸部CTで右中葉S4末梢に30 mm大の部分充実型結節を認め,リンパ節転移や遠隔転移は認めず気管支鏡検査で腺癌を疑い胸腔鏡下右肺中葉切除術およびリンパ節郭清術(ND2a-2)を施行した.MELASによるミトコンドリア機能障害での乳酸アシドーシスの発症を懸念し,術中および術後は乳酸が添加されていない輸液製剤を使用した.周術期において痙攣発作や筋緊張低下ならびに急性呼吸不全は認めず,術後6日目に退院となった.術後病理検査で浸潤性粘液産生肺腺癌(pT1cN0M0,pStageIA3)と診断した.若年者であっても肺癌の可能性を念頭に置いて診療にあたることが重要である.またMELAS患者での周術期管理は神経症状・循環呼吸状態を中心に細心の注意を払う必要がある.
今回原発性肺癌の術後局所再発と術前診断され,病理検査で未分化多形肉腫と判明した1例を経験したので報告する.
症例は80歳の男性.9年前に肺腺癌に対し胸腔鏡下右肺上葉切除を行った.pT3N1M0 stageIIIAであり術後補助療法を施行し,再発なく経過していた.他疾患にて撮像したCTで右中肺野胸膜側に結節影を認めた.前回手術創の近傍であることより局所再発を疑った.術前検査で判明した心房内血栓の治療を行ったのちに手術を行った.手術待機の2ヵ月で腫瘤は増大したが遠隔転移は出現せず,胸壁切除と癒着した右肺下葉の一部を合併切除した.術後の病理診断では未分化多形肉腫との診断に至った.年齢と全身合併症より術後補助療法は行わなかった.術後6ヵ月で多発骨転移が出現し,緩和的放射線照射後ホスピスへ転院となった.
気管支断端瘻は肺癌術後の重篤な合併症の一つであるが,断端完全離開を伴う膿胸に対して保存的治療が奏効した症例は数少ない.症例は70代女性,検診発見で右下葉肺癌(cT1bN0M0,IA2)と診断し,胸腔鏡下右下葉切除術を施行した.術後肺瘻を認め,胸膜癒着後に自宅退院となった.術後15日目に発熱と咳嗽が出現し,CTで断端直下の膿胸腔と気管支鏡検査で断端の完全離開を認めた.開窓術も考慮されたが,癒着術の影響で膿胸腔は縦隔側に限局しており,CTガイド下ドレナージと抗生剤投与により炎症改善を認めたため保存的治療の方針とした.断端の自然閉鎖は得られなかったが,腔内浄化が維持でき術後75日目にドレーンを抜去した.盲端形成した器質化腔の内部に気管支上皮を確認し治癒と判断した.開窓術の適応を考慮しながらも,限局した膿胸腔へのドレナージにより感染制御が得られる場合,保存的治療で開窓術を回避しえる可能性がある.
針が胸壁刺入後に胸腔内へ迷入し臓器損傷を来しうることが報告されている.胸腔内伏針は比較的稀な疾患である.今回我々は金属針の胸腔内迷入による遅発性外傷性気胸の症例を経験したので報告する.症例は31歳男性.胸部不快感を主訴に外来を受診した.以前より,ワイヤーブラシを用いて塗装を削る作業中にブラシの一部が破損し前胸部に刺さることがあった.胸部CT検査で金属針と思われる異物が第1肋間より右胸腔内へ貫通している所見を認め,金属針の胸腔内迷入による外傷性気胸と診断し手術の方針とした.右前胸部第1肋間に壁側胸膜を貫く金属異物を認め,X線透視併用下に全長2 cmの金属異物を全摘出した.臓側胸膜の損傷部位からは肺瘻を認めなかった.術中X線透視を併用した胸腔鏡下手術は異物の同定と摘出に有用であった.特に血管損傷は致死的となりうるため,前胸壁の伏針は発見次第可及的早期に摘出を考慮すべきである.
症例は76歳,男性.半年前より微熱と全身のリンパ節腫大を認め,前医を受診した.胸腹部CTで右肺尖部に25 mm大の結節を認め,診断目的に鼠径リンパ節生検を行ったところ,マントル細胞リンパ腫(MCL)の診断を得た.肺病変については画像的特徴から原発性肺癌であることが否定できないため,診断加療目的に当科紹介となった.生検目的に胸腔鏡下右肺部分切除を施行したところ,腺癌とMCLの衝突腫瘍という診断であった.鼠径リンパ節生検はMCLの診断であり,MCLは腺癌より病勢が進行していると考えられたため,術後経過も良好であったことから,速やかに前医でMCLの治療が開始された.治療は奏効し,完全寛解を得た後に再発を認めたが,治療再開により病勢は安定している.一方,術後7年経過するが肺癌としての再発は認めていない.