大学教育学会誌
Online ISSN : 2758-6510
Print ISSN : 1344-2449
最新号
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巻頭言
基調講演
開催校シンポジウム
課題研究シンポジウムⅠ
  • 塚原 修一
    2024 年 46 巻 1 号 p. 25-26
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル フリー

     課題研究「コロナ禍がもたらす大学教育の可能性~対象・方法・内容~」は2つのサブテーマから構成され,今回が最終年度のシンポジウムとなる.コロナウイルス感染症の流行をふまえて2021年に開始したが,本年5月にコロナ後の時代に移行した.これに対応してサブテーマ1(代表:塚原)では,コロナ下とコロナ後の活動について,本学会の会員を対象とした大学教員調査を実施して研究のしめくくりとした.サブテーマ2(代表:千葉美保子)では,3年間の活動を総括して『学習環境デザインブック』をコロナ後の時代の利用に供した.全体のまとめとして,両サブテーマの連携・統合について整理し,主な研究成果を,非対面教育の普及と縮小,学習環境の評価,非対面教育の可能性,対面教育などの高度化の4点に集約した.

  • 村上 正行
    2024 年 46 巻 1 号 p. 27-31
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル フリー

     本稿では,拡張版LSRS(Learning Space Rating System)の開発・実践に関するこれまでの取り組みを報告する.インフォーマルな学習環境の評価指標として開発した拡張版LSRSでは,多様な学習ニーズや学習スタイルおよびそれを支援する取り組みの評価,デジタルトランスフォーメーション(DX)に対応した学習データの活用やインターネットを活用した学習環境の提供に関するセクションを追加した.この拡張版LSRSを,学習スペースの評価や改善,教職員や学生スタッフの研修や学習会に活用できることについて述べた.また,インターネット上の学習環境の現状を紹介し,学習支援のために導入する際のポイントについて検討した.

  • ─学習支援のデザインを中心に─
    嶋田 みのり
    2024 年 46 巻 1 号 p. 32-37
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル フリー

     本稿では,「ニューノーマル時代における学習環境デザインモデルの構築」グループが開発した「学習環境デザインブック」の概要と第4章「学習支援のデザイン」を中心に報告した.学習環境デザインブックは,学習環境の運営に携わる教職員が,大学のニーズや課題に対応した学習環境を新たにデザインする際や,既に設置された学習環境を評価,改善する際に活用することを目的としている.第4章では,学習支援を検討する際は,ニーズを分析し,支援目的や対象者を明確にした上で,学習支援をデザインすることが重要であることを指摘した.合わせてデザインする際の具体的な手順を示した.さらに,先行研究等から学習支援の事例を収集し,目的ごとに①汎用的技能に関する支援,②特定/専門的技能に関する支援,③包括的な学習支援,④プロジェクト活動に関する支援,⑤ネットワーキングに関する支援,⑥施設利用に関する支援の6つに整理した.

  • ─サブテーマ2のまとめと今後の展望─
    千葉 美保子
    2024 年 46 巻 1 号 p. 38-42
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル フリー

     本稿では,課題研究「コロナ禍がもたらす大学教育の可能性~対象・方法・内容~」のサブテーマ2「ニューノーマル時代における学習環境デザインモデルの構築」のまとめおよび今後の展望を記述した.サブテーマ2では,コロナ以前・以後の学習環境を対象とした⑴「実態把握,ニーズ分析」,⑵「評価指標の策定,実践の評価」,⑶「デザインブックの開発及びワークショップの実施」の3つのプロセスにより研究活動を進めた.各プロセスの研究成果は,⑴文献調査や質問紙調査,複数の大学によるインタビュー調査を通じた分析結果を基にした,学習環境の企画・運営上の要件の抽出,⑵抽出された結果に基づいた拡張版LSRSの開発,⑶以上を踏まえた学習環境の設置・運営・改善に携わる教職員や学生スタッフが活用可能な「学習環境デザインブック」の開発に集約された.

  • 白川 優治
    2024 年 46 巻 1 号 p. 43-47
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル フリー

     本報告では,コロナ禍でのオンライン授業の経験が個々の大学教員の授業実践や教育運営にどのような影響をもたらしたのかを検討するために,本課題研究のサブテーマ1が本学会の会員を対象に2023年10月に実施した「コロナ後の大学教育に関する調査」の結果を報告する.調査結果から,2023年春学期には,多くの授業が対面授業に戻りつつも,授業担当者単位でみると,多くが対面方式と遠隔方式を併用していた.また,コロナ下を通じ,教員のLMSの活用が進み,定着していた.今後の授業形態の希望は,「対面授業」が一番多いが,「ハイブリッド形式」にも一定の支持がみられた.コロナ下での経験をもとにした授業担当者の新しい教育方法への意欲をいかに取り入れていくかは今後の大学教育のあり方に重要な意味をもつだろう.

  • ─学生の学習量の観点から─
    森 利枝
    2024 年 46 巻 1 号 p. 48-52
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル フリー

     本稿は,課題研究「コロナ禍がもたらす大学教育の可能性~対象・方法・内容~」の,サブテーマ1「非対面大学教育における学修成果の評価」のプロジェクトの一環として行われた会員調査を基に,対面授業の制限を機に学生の学習成果を評価する方法や発想がどのように変化したかを検討するものである.この検討にあたっては,単位制度の原則を踏まえ,遠隔での授業実施と学修成果の評価の際に学生の学習量の担保と確認がいかに試みられたかに着目した.これらの点に着目したのは,感染症が沈静化したのちも政策の後押しなど他の要因によってオンライン授業が今後推進された際,単位の授与の前提となる学生の学習量をいかに担保するかの検討に資する知見を得ようとしたためである.会員調査の結果からは,感染症対策措置の期間中に一時的に向上した教員による学習の進捗の確認の頻度も,対面授業の再開と共にいったん低下していることが明らかになり,非対面型の授業を推進するのであれば学習量の担保には授業の提供と同様の環境整備が求められることが示唆された.

  • ─教員調査と事例調査を参考に─
    山田 礼子
    2024 年 46 巻 1 号 p. 53-58
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル フリー

     本稿では,大学教育学会会員を対象に「コロナ後の大学教育の方向性」を把握するべく実施した調査を分析する.次に本調査結果やこれまでの事例調査の知見を提示する.その際に「コロナ後の大学教育の方向性と今後の改善点」という問題設定にもとづき考察する.教員調査・事例調査の知見から,対面型を基本としつつもオンライン授業の経験を活用した先進事例を蓄積しながら,取り入れていくことは可能と考えられる.社会人を対象としたプログラムでの評価方法の学士課程への応用に向けて環境整備と開発及び対面を基本としつつ,DX化とLMSの高度化を組み入れたオンライン授業の推進は,オンライン授業の先進的な活用とともにポストコロナの大学教育の方向性である.

  • ─サブテーマ1と課題研究のまとめ─
    塚原 修一, 濱名 篤
    2024 年 46 巻 1 号 p. 59-63
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル フリー

     課題研究「コロナ禍がもたらす大学教育の可能性~対象・方法・内容~」(代表:塚原,2021-23年度)について,サブテーマ1「非対面大学教育における学修成果の評価」(代表:塚原)と課題研究全体のまとめを行った.サブテーマ1では,国外事例と国内の先進事例を調査し,コロナ後への移行(2023年5月)をふまえて,コロナ下とコロナ後の教育活動などについて本学会の会員を対象に大学教員調査を行った.サブテーマ2は学習環境デザインを主題とし,本号の別稿にまとめを記述した.課題研究全体のまとめとして,両サブテーマの連携・統合について整理したうえで,主な研究成果を,非対面教育の普及と縮小,学習環境の評価,非対面教育の可能性,対面教育などの高度化,コロナ後への展望などに集約した.

  • 川嶋 太津夫
    2024 年 46 巻 1 号 p. 64-65
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル フリー

     2つのサブグループの報告に続いて,コメンテイターの溝上慎一会員(横浜桐蔭大学)が文書により提出したコメントを司会が代読した.溝上会員は,非対面授業や学習環境・学習支援の研究は極めて重要であるが,本課題研究の要点は学生の学習成果と,学習量の増加にあると指摘した.とりわけ,初等中等教育のGIGAスクール構想のもとで個別最適な学びを経験してきた生徒・学生の大学教育への受け入れに懸念を示し,教学マネジメント体制のさらなる充実と完成を強く求めた.その後,各サブグループから応答があり,続いてフロアとの質疑応答を行って盛会のうちにセッションを終えた.

課題研究シンポジウムⅡ
  • ─シンポジウムの趣旨説明─
    福留 東土
    2024 年 46 巻 1 号 p. 66-68
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル フリー

     新たな時代の大学専門人材の育成を支える存在として,大学院をはじめとする多様な育成プログラムが必要とされている.その中で,経営だけでなく教育にも注力できる大学教育・経営人材を育成していくために,その育成とプログラム開発に関する研究が求められている.本稿ではまず,学習者中心の大学について触れる.次に,東京大学大学院教育学研究科大学経営・政策コースでの取組を手がかりに今回の議論の対象について述べ,続いて,課題研究の経緯と検討状況について言及する.大学教育・経営人材の育成と大学院教育に触れた上で,大学職員の能力育成の機会と方法・内容に関してどのように考えるかについて議論し,本シンポジウムの趣旨説明とする.

  • 戸村 理
    2024 年 46 巻 1 号 p. 69-74
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル フリー

     報告者は,大学教職員の能力開発を支援する履修証明プログラムを企画・実施している立場から本課題研究に参画した.3年間にわたる本課題研究での検討では,とりわけカリキュラムのあり方をめぐって,理念レベルから実際に配置する科目レベルまで多くの知見を得た.

     東北大学高度教養教育・学生支援機構大学教育支援センターでは,2023年度から履修証明プログラム「大学経営基礎講座」を開講した.本稿は,本課題研究と並行して新たに開講することになった,同プログラムの設計理念と実践について報告するものである.

     同プログラムは,オンラインで完結するプログラムである.双方向の学びの環境を構築し機能させ,さらに教授法を工夫することで,学術的原理性に富む授業科目の満足度と有用度とのギャップを縮めることに努めた.今後は評価検証を重ね,課題の改善に努める次第である.

  • 井芹 俊太郎
    2024 年 46 巻 1 号 p. 75-79
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル フリー

     本報告は,過去の本課題研究シンポジウムにおける2つの報告を踏まえ,今後の大学教育・経営人材育成プログラムを考えるための新たな質問紙調査の枠組みを検討することを目的とした.

     過去の報告においては,これまでの修了生調査や修了生の語りの事例分析から,修士論文の効果,学びの役立ち度と満足度の乖離,学習効果の遅効性などが課題として挙げられた.続いて,大学職員研究のレビューから,大学院での具体的な学習経験と各知識・スキルとの関係,学習経験や知識・能力の変化と成果・業務の質との関係の検証の不足が課題として挙げられた.

     以上を踏まえ,「学習役立ち度」と現在の「学び習慣」の関係,ポジションの変化と役立ち度の関係を検証するための新たな修了生調査の枠組みを検討した.

  • ─シニア・マネジメント職に就くイギリス大学職員のプロフェッショナル・アイデンティティ発達事例分析を中心に─
    松村 彩子
    2024 年 46 巻 1 号 p. 80-85
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル フリー

     本研究課題報告では,イギリスの大学職員経験者のキャリアパスをたどりながら,プロフェッショナル・アイデンティティの発達プロセスを検証する.各役職で求められるスキル・能力,取り組んだ研修や能力開発,その後のキャリア選択に焦点を当てて変遷を追うことで,個人内のプロセスと組織内・外部環境との相互作用によるプロセスが絡み合いながら,プロフェッショナル・アイデンティティの発達が生じることが明らかとなった.こうした自ら職員としてのあるべき姿・ありたい姿を求めていく「プロフェショナル・アイデンティティをマネジメントする」視点は,大学教育・経営人材の育成のためのプログラム開発に盛り込まれるべきであろう.

  • ─アメリカから得られる示唆と日本の課題─
    福留 東土
    2024 年 46 巻 1 号 p. 86-88
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル フリー

     本稿ではまず,アメリカにおける高等教育の大学専門人材の状況について言及し,同国の高等教育分野における動きについて概観する.そして,アメリカにおける高等教育の大学院の大規模及び小規模なプログラムについて触れる.また,オンラインを含むアメリカの高等教育プログラムを踏まえ,日本が得られる示唆について考える.次に,日本における高等教育分野の研究・教育組織としての大学院について述べる.研究センターと大学院の相互関係を軸に議論し,研究及び人材育成の拠点として,高等教育分野の大学院組織がどのような役割を果たしていけるかについて言及する.続いて日本の高等教育における現状と課題に触れる.最後に展望し,総括とする.

  • 鳥居 朋子
    2024 年 46 巻 1 号 p. 89-91
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル フリー

     最終年度のシンポジウムでは,大学教育・経営人材育成やプログラムのあり方に関するこれまでの議論を基礎に,豊富な論点が示された.とくに,実務に即応した専門知識を講座に落とし込むノウハウや,実践的課題による共修の仕組みづくり,リサーチ・クエスチョンに基づくインスティチューショナル・リサーチ(IR)の実践等,大学教育・経営の現場にとっても有益な示唆が得られたといえる.本稿では,今後の継続的な研究活動を見据えつつ,とくに教育システムの観点に立ったプログラム開発における「評価」のフェーズに視野を投じながらコメントを提供する.さらに,多様な大学教育・経営人材育成の場のゆるやかな連携による,広い意味での専門人材育成システムの構想や実装の可能性について述べる.

課題研究シンポジウムⅢ
  • ─SDGsの観点から考える男女共同参画・教職協働・働き方改革─
    吉永 契一郎
    2024 年 46 巻 1 号 p. 92-96
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル フリー

     本課題研究は,SDGsの観点であるジェンダー平等(男女共同参画),パートナーシップ(教職協働),ワークライフバランス(働き方改革)を実現するため,職場としての大学を議論する.これは,現在,働きがいや生活の質(QOL),ダイバーシティが社会的関心となりつつあることに対応するものである.

     これまで,大学は,卓越性や効率性,業務改善を追求してきたが,構成員の幸福度や生きがいについては,関心を払ってこなかった.現在,進行中の働き方改革やダイバーシティ推進においても,数値目標の実現が先行している.そのため,それらを実質化することが,本課題研究の目的である.

     本シンポジウムでは,特に,大学構成員の中でも,職員に注目する.それは,昨年度実施した,会員アンケート調査結果において,性別・世代・大学類型を超えて,教員と職員の違いが,幸福度を規定する大きな要因であることが判明したからである.

  • 上畠 洋佑
    2024 年 46 巻 1 号 p. 97-102
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル フリー

     本発表は,SDGsに基づく男女共同参画,教職協働,働き方改革に焦点を当て,大学職員を対象にした既存調査結果を整理し,人事制度や働きがいに関する課題を本シンポジウムで議論する補助線を示すことを目的とする.

     東京大学大学院教育学研究科大学経営・政策研究センターによる3つの大学職員調査報告書を参照し,大学職員の意見や提案の言いやすさ,休暇取得のしやすさ,教員との信頼関係,人事異動の適正,キャリアモデルの提示,職員の人材育成や人事評価の現状,大学の雰囲気,意思決定への参加機会,職場のコミュニケーション充実度などに関する調査結果を整理し,そこから本シンポジウムの議論に貢献しうる知見を示す.

  • ─会員アンケート調査の結果から─
    福島 真司
    2024 年 46 巻 1 号 p. 103-107
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル フリー

     「教職協働」のこれまでの定義では,教職が「対等」であることが重視されている.そこで,「対等」の具体的な意味を探るため,会員アンケート調査結果をもとに検討したところ,教員,職員ともに,教職協働において「相互の敬意」を最重視することは同じであったが,職員は教員よりも「同じポスト」「会議などで闊達に意見を述べ合える雰囲気」「公平に意見を述べる権利」などの割合が高く,比較的ソフト面を重視する教員に対し,ハード面も重視する職員の傾向が明らかになった.一方で,「雇用に関する待遇の格差」については,両者とも重視する傾向にはないこともわかった.これらのことから,教職協働の実現には,金銭等の短期的なインセンティブではなく.職員が働きやすさややりがいを感じるための裁量権の確立等のハード面の対応と,ガバナンス上の対等を侵透させるためのソフト面での対応の両者が必要であることを提起したい.

  • ─「これまで」の大学職員のあり方で,今後の高等教育を担えるのか─
    倉部 史記
    2024 年 46 巻 1 号 p. 108-112
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル フリー

     転職・就職市場で大学職員への関心が高まっているが,実際の職員が感じているやりがいや課題について一般向けにまとめた資料は多くない.本シンポジウムでは現役大学職員への取材調査結果に基づき,職場としての大学について集まった意見を整理した.また彼らの抱く不満や不安をもとに,職場としての大学組織が持つ特性を考察した.

     トロウが言うユニバーサルアクセス型の高等教育に向けて大学のあり方を変化させていく上で,職員の働き方にも見直すべき点はないか,その問題提起を行った.

  • 喜久里 要
    2024 年 46 巻 1 号 p. 113-117
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル フリー

     大学は他分野にない専門性・特殊業務を多く要する業界であり,大学事務職員の人材育成の在り方については,官庁や自治体等の公的セクターにおけるマネジメントや職能形成の在り方を踏まえつつも,大学という存在の特殊性を踏まえた検討を一定程度要すると考えられる.

     本シンポジウムでは,長年高等教育行政に携わり,また現在大学に身を置いている筆者の立場から,これからの大学のマネジメント,そして職能形成の仕組みの在り方について一定の提言を行い,意見交換を行った.

  • ─働きがいのリアル─
    清水 栄子
    2024 年 46 巻 1 号 p. 118-120
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル フリー

     本稿は,本課題研究の最終年度に向けて,座談会パートの議論を振り返り,整理するものである.2023年度課題研究シンポジウムⅢでは4名が登壇した.「座談会」パートでは,登壇者間およびフロアも交えた質疑応答,議論が行われた.議論を通して,職員の働きがいの現状と課題を明らかにした.また働きがいを促す3つの観点が得られた.

課題研究シンポジウムⅣ
  • ─趣旨説明─
    西野 毅朗
    2024 年 46 巻 1 号 p. 121-123
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル フリー

     本課題研究は,日本の学士課程における卒業研究教育の目標・評価・方法の現状と課題を明らかにするとともに,より効果的な卒業研究教育の実現方法を模索することを目的とする.卒業研究教育は日本の高等教育の草創期から導入され,今日まで脈々と受け継がれている.また,学士課程教育の最終的な学修成果を直接的かつ包括的に測定できる可能性を持つことから,質保証が求められる現代においても再注目されている.そこで本課題研究では,ディプロマ・ポリシーと卒業研究のつながり,卒業研究の評価法,そして効果的な卒業研究の方法を,全国・分野別・個別の3つの視点から明らかにすることを目指す.

  • ─全国調査結果報告─
    西野 毅朗
    2024 年 46 巻 1 号 p. 124-128
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル フリー

     本研究は,学士課程教育における卒業研究等の実態を明らかにすることを目的としたものである.これまでも,大学・学部・学科・分野の各レベルから卒業研究等の状況について尋ねた調査は行われてきたが,学士課程教育における卒業研究等の状況を全分野にわたって詳細に示したものはみられなかった.そこで,全国5370学科の責任者を対象に郵送法による質問紙調査を実施し,1446件(26.9%)の有効回答を得た.その結果,卒業研究等とディプロマ・ポリシーとの関係は多様であるものの,卒業研究等は知識・態度・技能を包括的に評価することができること,卒業研究等に関するFDの実施率や,カリキュラム改善への活用率は低いことが明らかになった.また,可能性の域を出ないものの,分野別の特徴差も可視化された.

  • 岩田 貴帆, 川上 忠重, 山内 洋, 佐々木 誠, 土井 義夫
    2024 年 46 巻 1 号 p. 129-134
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル フリー

     卒業研究教育について具体的な事例から掘り下げて検討すべく,自然科学,人文科学,保健学,社会科学の4分野において,それぞれどのように卒業研究を実施しているのかについて事例報告を行った.学士課程のディプロマ・ポリシーを踏まえて卒業研究を評価することや,評価および公表を通して研究の質を高めることなど,いずれの事例においても,卒業研究の教育目標・教育評価・教育方法が連動することが目指されている.また,それぞれの専門分野ならではの特色や事情を踏まえながら工夫を凝らした卒業研究教育が展開されていることが示された.

  • 篠田 雅人, 山田 嘉徳
    2024 年 46 巻 1 号 p. 135-137
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル フリー

     本シンポジウムにおける総合討論は,4つの事例報告をもとにフロアから出された卒業研究の教育実践の具体や事実確認に対する質問への応答と,卒業研究を取り巻く教育課題に関するディスカッションで構成した.

     総合討論を通じて,学問分野による特性を考慮する必要はあるものの,卒業研究という言葉が指す成果物の範囲や期待される学修成果,教育方法や指導スタイル,評価の観点が非常に多様であることが再確認された.この事実は,卒業研究の学修成果に対する評価に対する課題と直結していることを意味している.

     「卒業研究に対する評価」という視点から,学士課程教育における卒業研究教育の意義を再確認することに繋げていきたい.

  • ─2023年度「学士課程における卒業研究教育の目標・評価・方法」─
    串本 剛
    2024 年 46 巻 1 号 p. 138-139
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル フリー

     本稿は,2023年11月に北陸大学で実施された課題研究集会において,課題研究「学士課程における卒業研究教育の目標・評価・方法」の担当理事である筆者が,総括コメントとして述べた内容を記録するものである.総括コメントでは,同課題研究が今後さらに展開されることにより,実践および研究の双方にどのような貢献ができるのかについて言及した.実践面では,卒業研究教育の成果に対する評価がカリキュラム改革において十分に活用されていない理由の検討が求められること,研究面では,卒業研究の「質」が大学教員によってどのように定義あるいは意識されているかを明らかにできれば,学士課程教育の質保証に関わる新たな知見を提供することになり得ること,を示した.

事例研究論文
  • 長沼 祥太郎
    2024 年 46 巻 1 号 p. 140-150
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル フリー

     本研究は,プレFDが授業スキルの向上と教育不安の低減に与える影響を明らかにすることを目的とした.この目的のため,国立X大学のプレFD科目の受講生38名のマイクロティーチングの評価データ(教員評価とピア評価)と,教育不安に関する質問紙の回答データを2時点で集め,量的分析を行った.その結果,プレFDは授業スキルの向上に寄与しており,また,学習内容や提供した学習環境と関連の強い一部の教育不安を減らしていた.追加分析として,2回目のマイクロティーチング後の振り返りの記述を分析し,授業スキル(教員評価)の高成長群と標準成長群の違いを比較した.その結果,高成長群は標準成長群に比べて,1)改善すべき箇所を教員評価の観点に則って明確に意識しており,2)プレFD全体の内容から,改善に活かすことのできる授業回の内容やリソースを広く参照できていた.本プレFDは,内容的には標準的なものであるため,他大学の同様のプレFDが受講生の授業スキルの向上や教育不安の低減に寄与する可能性を示唆している.また,効果の見られなかった教育不安の項目や,振り返り記述の分析結果は,今後のプレFDのカリキュラムの改善を考える上でも有用と考えられる.

  • 西野 毅朗, 山田 嘉徳
    2024 年 46 巻 1 号 p. 151-161
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル フリー

     本研究は,卒業研究の評価結果をカリキュラム等の改善に生かす上での方法および課題を明らかにすることを目的とする.全国の5370学科の教育責任者を対象とした郵送法による質問紙調査を実施し,1446件の回答を得た.その中から,卒業研究等の評価結果のカリキュラム改善等への活用方法と,活用できていない・していない理由に関する571件の自由記述を対象として,焦点的コーディングを中心とした質的分析を実施した.

     分析の結果,活用学科は評価により学生の能力・関心・ニーズを把握し,FDや各種会議等を通じて組織的に共有・検討・議論し,卒業研究科目やそれに関連する科目の改善,基礎教育の充実につなげていることが示された.一方,未活用学科は,様々な多様性の問題,組織的な問題,カリキュラム改善等への活用の困難さから,卒業研究を個別教員・研究室に一任する状況にあることが明らかになった.以上の結果から,卒業研究の評価結果をカリキュラム等の改善につなげる方法と課題は,カリキュラムマネジメントの連関性と協働性に合致し,重層性も考慮すべきという示唆が得られた.その具体的な内容と,卒業研究の結果を活用することの必要性を検討することの重要性が見いだされたことは本研究の新しい知見といえよう.

  • ─組織学習の観点からの事例研究─
    大野 真理子
    2024 年 46 巻 1 号 p. 162-172
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は,多面的・総合的評価への転換という政策主導の課題に取り組もうとする大学が,多面的・総合的評価を解釈し実践しようとするにあたり,どのようなアクターがどのように関わり合うことによって,入試制度を構築したのかのプロセスを把握することである.そのため,国立Z大学が保有する文献資料調査ならびに教職員へのインタビュー調査によって得られたデータを,組織学習における4Iフレームワークを用いて分析した.その結果,制度化に至った要因として,具体的な入試制度の提示,当該入試制度を導入することに対する学内での共通理解の構築の2点を提示した.さらに,制度の具体化と理念の共通理解に至るための要素として,メンバー間の情報共有による知識の移転,メンバーが行使する影響力のコラボレーション,学内外の状況を踏まえたタイミングの3点が示唆された.本研究から得られた知見は1事例に基づくものであるが,何があったかという事象の記述だけでなく,なぜそうなったかを分析的な視点で捉えたことにより,組織変革のメカニズムを把握することを可能にした.

  • ─全学型キャリア教育科目に関する大規模私立大学のWeb情報の類型化をもとに─
    長田 尚子, 中川 洋子
    2024 年 46 巻 1 号 p. 173-183
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル フリー

     大学の教育課程におけるキャリア教育は,経済社会の変化に伴う高等教育政策や大学設置基準改正等の動きと相まって導入が加速し,全国の大学に拡大した.一方で,教育課程における位置付け,実施内容,担当体制,運営組織等,キャリア教育を取り巻く多様な側面で問題が指摘され,科目としての立脚点の曖昧さから,質保証に向けた建設的な議論が深まらないまま現在に至っている.本研究では,キャリア教育科目の教育課程と組織における状況を類型化して議論の土台を作ることで,個別の多様な状況を乗り越え,キャリア教育のマネジメントの推進に向けた課題の考察を試みた.検討の枠組みとしては,キャリア教育科目が位置付けられることが多い共通教育のマネジメントに関する研究を参考にした.類型化では,大規模私立大学を対象としたWeb情報の検索内容をもとに6類型を導出した.結果として,キャリア教育には共通教育の枠組みに収まらない特徴があり,キャリア教育科目固有のマネジメントが必要であることを示した.類型化という本研究のアプローチは,曖昧さの中から特徴を浮き彫りにし,キャリア教育のマネジメントの具体的な議論へとつなげるプロセスになりうる.

展望・総説論文
  • 谷口 敬道, 矢谷 令子, 福田 恵美子, 大熊 明, 岡村 太郎, 徳永 千尋, 宮口 英樹, 宮本 直也
    2024 年 46 巻 1 号 p. 184-192
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル フリー

     保健医療系大学の使命は,患者・対象者中心の保健・医療・福祉を実践する専門職の教育である.本論は,その一翼を担う作業療法士養成の学士課程における『教養』の教育のあり方に焦点を当て,カリキュラム構造を提案した.作業療法士の主たる役割は,障がいとともに人生を歩む対象者の「その人らしい生活の定着」を目標に掲げ,疾病の特性に加え,事例性・個別性に焦点を当てたリハビリテーションを行うことにある.また,卒業して社会で働く場面では,人間を考える姿勢が非常に大切となり,専門知識だけではなく,幅広い『教養』が作業療法士に求められる.しかし,現在の保健医療系学士課程教育は,専門に関わる医学知識・技術の修得に必要な時間の占める割合が高い現状にある.『教養』の教育の実現は,作業療法士教育の課題である.

     絹川(2013)は,各大学が設置する専攻科の教育構造に教養教育の構造があることを認識し,それに基づく学士課程カリキュラムを構築するとともに,そこに登場する個々のディシプリンを「専門教養教科目」として位置づけることが,現代大学教育の課題であると述べている.絹川の「専門科目に内在する『教養』」の概念を,教員の一人ひとりが理解できるように提案すること,一般(教養)教育と専門教育の「大学4年間一貫教育」のカリキュラムを具体的に検討することは,社会から求められる学士課程の構築に向けて重要であると考える.

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