大学教育学会誌
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巻頭言
基調講演
開催校シンポジウム
課題研究シンポジウムⅠ
  • ─大学の男女共同参画に関する課題研究のまとめと提案─
    ダガン さがの, 私市 佐代美, 清水 栄子
    2025 年47 巻1 号 p. 21-27
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/06/01
    ジャーナル フリー

     本稿では,これまでの課題研究の成果を整理し,高等教育機関における男女共同参画の現状と課題を明らかにする.さらに,その持続的な発展に向けた方策を提案する.本研究では,日本の高等教育機関の状況をニュージーランドおよび米国と比較し,日本における課題を明確にした.その結果,日本では女性が雇用の不安定性,賃金格差,昇進機会の制限といった問題に直面していることが示された.また,学会会員を対象としたアンケート調査では,約75%が仕事と家庭の両立に不安を抱えていることが明らかになった.さらに,コレスポンデンス分析により,ロールモデルの重要性やジェンダー教育の必要性が示された.2024年度のシンポジウムでは,研究成果をもとに日本国内の2大学(金沢大学・武庫川女子大学)の事例を報告し,男女共同参画の課題としてマインドセットの変革の必要性を指摘した.その上で,持続可能な方策としてロールモデルの活用とメンター制度の推進を提案した.具体的には,女性研究者の可視化(講演・動画制作)や女性リーダー増加のためのHR政策を示した.今後は,これらの取組みを通じて男女共同参画を推進し,持続可能な高等教育機関の構築に貢献することが期待される.

  • ─教職協働のまとめ─
    前田 ひとみ, 福島 真司
    2025 年47 巻1 号 p. 28-32
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/06/01
    ジャーナル フリー

     2022年度に実施した本学会会員アンケートでは,教職協働の定義や互いへの敬意,協働の実態等について分析と考察を行った.翌2023年度には前年度のアンケート回答者115名のうちインタビュー協力に同意した教職員12名を対象に,個人別に意識と体験の構造を視覚化すべく,個人別態度構造分析を用い要素の抽出を試みた.結果,32のクラスター(意味的な纏まり)が表出し,それらは「場」(共通目標,雑談の場所など),「促進要因」(コミュニケーション,リスペクトなど),「阻害要因」(組織文化,異動など)の3要素に分類できた.これらの結果から,教職協働を進めるには「場」を整え,「促進要因」を増やし,「阻害要因」を減らすことが重要であるとの結論を見出した.

  • ─教職協働への提言─
    奈良 雅之, 福島 真司, 前田 ひとみ
    2025 年47 巻1 号 p. 33-37
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/06/01
    ジャーナル フリー

     2022年実施の会員質問紙調査,及び,2023年実施の会員聞き取り調査をもとに,教職それぞれの立場からの教職協働への意識等を分析した結果,教職協働の現状と課題が理解された.それを踏まえ,教職それぞれのマインドセットを解釈したうえで,教職協働のための具体的な提言を示した.すなわち,教員のマインドセットから得られた提言としては,①相互理解と尊重の促進,②共通の目標設定と柔軟な対応,③能力開発と専門性の発揮,④良好な関係構築と情報共有,⑤変化に対する説明力と環境整備であり,一方で,職員のマインドセットから得られた提言としては,①相互尊重と共通の目標設定,②能力開発と準備,③情報共有とコミュニケーション,④柔軟な対応と理解,⑤熱意と積極的な姿勢,である.本稿では,これらの視点を醸成することで,SDGsの観点から見た持続可能な大学組織の実現に近づく可能性を提示した.

  • ─働き方改革のまとめ─
    上田 忠憲
    2025 年47 巻1 号 p. 38-42
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/06/01
    ジャーナル フリー

     吉永契一郎会員,上畠洋佑会員,筆者による本グループでは,教職員の働きがいと働きやすさを検討するため,会員アンケート調査により大学教職員の幸福度とワーク・エンゲイジメント及び所属する機関の働き方改革の進捗状況の把握を試みた.幸福度に関しては,回答者の平均はアベレージスコアであったものの,雇用期間の定めの有無及び職種の間に差が認められた.一方,ワーク・エンゲイジメントは,雇用期間の定めの有無,職種のほか,特定の年代間でも差がみられた.また,働き方改革に関しては,制度の導入は進んでいるものの利活用に制約がある可能性があることが明らかとなった.これらのうち,特に大学事務職員に課題があるように見受けられ,職員のマインドセットに着目してみると,そこには改革を妨げる組織文化があることが明らかとなった.

  • ─働き方改革への提言─
    上畠 洋佑
    2025 年47 巻1 号 p. 43-47
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/06/01
    ジャーナル フリー

     本報告は,SDGsの視点から大学における現状を分析し,持続可能な共生に向けた「働き方改革」の提言を行うものである.「働き方改革」の課題として,キャリアモデルの硬直化,保守的な組織風土,人事評価の不透明性,他責的な態度などが挙げられ,それらを「しなやかマインドセット」へと転換していく必要を指摘した.また,大学組織の多様性や学生確保の難しさを背景に,各大学が外部要因を考慮しつつ,自大学に適した「働き方改革」を選択的に導入していくことを今後の「働き方改革」への提言として示した.

  • ─まとめ─
    吉永 契一郎
    2025 年47 巻1 号 p. 48-50
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/06/01
    ジャーナル フリー

     本課題研究では,SDGsの観点を用いて,男女共同参画・教職協働・働き方改革を,アンケート調査・インタビュー調査・事例研究から考察してきた.それぞれの課題に共通するのは,これまでの終身雇用・年功序列・ジェネラリスト育成が,男性中心主義・教職員間の序列・低い生産性を生み出しているということである.これらを解決するためには,既存のマインドセット・慣行を見直すことが必要である.今後,労働力不足や雇用の流動性や多様性が高まる中,男性を中心とした終身雇用・年功序列における属人主義から,働き方に依存しない成果主義やジョブ・ディスクリプションへの転換が求められている.

課題研究シンポジウムⅡ
  • 田中 一孝
    2025 年47 巻1 号 p. 51-53
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/06/01
    ジャーナル フリー

     2022年末より急速に普及した生成AIは,高等教育において学生の学習や教員による評価に多大な影響を及ぼす一方,生成AIの使用についての認識の相違や学問的誠実性の揺らぎ,デジタルデバイドなどの課題も顕在化させている.本研究課題研究では,⑴ガイドラインの調査とアジャイルガバナンスの提案,⑵分野別利用,⑶評価方法・学修成果,⑷高大接続の観点から課題を整理し,関係者が認識を共有できる基盤の構築を目指す.

  • ─国内高等教育機関におけるガイドライン調査を通じて─
    田中 一孝
    2025 年47 巻1 号 p. 54-58
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/06/01
    ジャーナル フリー

     本論の目的は,国内の高等教育機関が公表する生成AIガイドラインを調査し,高等教育に生成AIを導入することについての認識や課題を整理することである.そこで,本研究は,国内の360の高等教育機関・部局がオンライン上に公表している生成AIガイドラインに関する384文書を対象に調査し,生成AIの利活用についてどのような指針を示しているのかを調査した.調査の結果,生成AI使用上の注意や,授業内での運営方針については多くのガイドラインが言及していた.他方で,デジタルインクルージョンや評価方法あり方,社会公正など,個人レベルでは解決が困難な問題については言及が少なかった.各ガイドラインが,挙げる課題の多くは共通しているため,高等教育機関がそれらを共有し,協働して解決するための枠組みや体制が求められる.

  • 大向 一輝
    2025 年47 巻1 号 p. 59-62
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/06/01
    ジャーナル フリー

     人文学の諸課題に対してデジタル技術を適用し,新たな知見を得ることを目指す学際分野であるデジタル人文学にとって,近年急速に普及する生成AIは,情報処理やプログラミングのスキルを無用のものにしかねないという懸念の一方で,従来は相当の人手を要していた作業の自動化や大規模化に道を開くなど,現時点でその功罪を一概に評価することは困難である.

     このような状況の中で,生成AIをはじめとするデジタル技術に関する教育を行うにあたっては,個別の技術の動作原理を理解するだけでなく,それらを設計・開発する人々の価値観や,社会的あるいは技術的な前提条件・制約を学ぶことが有効であると考えられる.

     本報告では,東京大学で提供しているデジタル人文学の領域横断型教育プログラムにおける授業の内容を紹介するとともに,技術のよき作り手・使い手を育てるためのデジタルリテラシーのあり方について議論を行う.

  • ─法学分野を例として─
    石上 敬子
    2025 年47 巻1 号 p. 63-67
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/06/01
    ジャーナル フリー

     本稿では,初めに,高等教育の学問分野ごとの生成AIの活用状況を概観し,特徴的な例として,語学教育,医学教育の例を取り上げた.次に,法学分野における活用状況を整理し,非弁行為規制との関係や,生成AIとの親和性自体において課題があることを明らかにした.最後に,大学の法学教育における生成AI人材育成の重要性と,法学教育における生成AI利活用上の留意点を示した.

  • 斎藤 有吾
    2025 年47 巻1 号 p. 68-71
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/06/01
    ジャーナル フリー

     ChatGPTなどの生成AIの普及は,大学教育における学習評価のあり方を見直す契機となっている.多くの機関が生成AI利用における指針やガイドラインを示しており,差異はあるものの倫理的・法的留意点,利用範囲と制限,評価への影響,情報セキュリティとプライバシー,生成AIの限界といった観点で整理できる.また実証研究によれば,生成AIの使用が短期的にはパフォーマンスを向上させる一方,使用方法によっては長期的に負の影響を与える可能性が示されている.今後の学習評価のあり方を見直すための重要な論点として,教育目標・学習活動・学習評価の相互連動性,学問分野別の特性,教育・学習理論の観点からの考察が必要である.不正行為対策などの技術的な対応だけでなく,教育目標や学習活動の変更も視野に入れた包括的な再検討が求められる.

  • 田中 孝平
    2025 年47 巻1 号 p. 72-76
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/06/01
    ジャーナル フリー

     本報告では,生成AIパイロット校における生成AIの利活用の実態を報告し,高大接続の視点から高等教育における生成AIのガイドラインを作成するためのポイントを検討した.本報告では,段階的な接続と全体的な接続を両立させる重要性を示し,高等教育におけるガイドラインを作成するにあたって,段階的な接続の仕組みを支えるために学習者の大学入学以前の生成AIに関する知識の習得状況を明らかにすること,また全体的な接続を構築するために大学教育における学習活動の固有性を探索することが必要であることを指摘した.さらに,今後の課題として,本課題研究によって提案するガイドラインと初等中等教育におけるガイドラインとの異同についても検討することが求められることを示した.

  • 深堀 聰子
    2025 年47 巻1 号 p. 77-79
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/06/01
    ジャーナル フリー

     生成AIは,パソコンやスマートフォンなどのデバイスさえあれば,誰もが簡単に,膨大な情報基盤から生成された情報にアクセスすることを可能にする便利なツールである.この便利なツールの普及が,大学にとって脅威として受け止められているとすれば,それは生成AIが,ヒトの生活を物質的により豊かにするテクノロジーとは異なり,ヒトの高次の認知活動に深く浸食し,代替することが懸念されているからではないか.

     生成AIの「内実」を知ることは,ヒトが生成AIを飼い馴らしながら,高次の認知活動を担い続けるために必要不可欠であるが,十分ではない.ヒトが生成AIによって生成された情報を相対化(適用・分析)しながら活用し,高度に創造的な認知活動(評価・創造)を担い続けられるようにするための人材育成のビジョンと全体計画を構築し,全教育段階で連携しながら推進していくことが急務である.本課題研究は,この喫緊の課題に迫る意欲的取組である.

  • ─指定討論およびフロアとの質疑応答を通して─
    澁川 幸加
    2025 年47 巻1 号 p. 80-82
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/06/01
    ジャーナル フリー

     本稿では,生成AIの教育利用を巡る指定討論およびフロアとの質疑応答の内容を報告する.質疑応答では,生成AIの活用が従来の評価基準の再検討を促す可能性や,学習の認識論と分野別の特徴を踏まえて生成AIの活用方法の検討や学習・評価のパラダイムを再構築する必要性などが述べられた.また,デジタルデバイドへの対応として,正課・正課外におけるサポート体制の充実や,分野や大学を超えた共同研究および成果の公表の重要性が強調された.最後に,今後の課題として,プロセスを重視した教育方法に関する知見の蓄積と,国際情勢を踏まえた議論の発展が必要であると述べた.

課題研究シンポジウムⅢ
  • ─1年目の成果と2年目の課題─
    西野 毅朗
    2025 年47 巻1 号 p. 83-85
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/06/01
    ジャーナル フリー

     本課題研究は,日本の学士課程における卒業研究教育の目標・評価・方法の現状と課題を明らかにし,効果的な教育方法を模索することを目的としている.

     1年目の成果として,全国の学科を対象に実施した質問紙調査により,卒業研究の目標・評価・方法の実態が明らかになった.また,分野別に特徴的なアプローチがあることが示唆された.その中で,卒業研究の質とは何か,評価結果のカリキュラム改善への活用可否の背景について明らかにすべきという課題も見いだされた.

     これらを踏まえ,2年目はさらに踏み込んだ調査と分析を行ってきた.本シンポジウムでは,これらの成果を報告し,3つのリサーチクエスチョンへの回答を試みつつ議論を深めることで,本課題研究最終年への足掛かりとすることを目指す.

  • ─目標・方法・評価のつながり─
    篠田 雅人
    2025 年47 巻1 号 p. 86-90
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/06/01
    ジャーナル フリー

     2023年に全国学科教育責任者を対象として実施した質問紙調査の結果から,①卒業研究教育とディプロマ・ポリシー(DP)の関係,②評価基準の策定と活用,③優れた卒業研究教育の方法という3つの観点から,量的分析を試みた.その結果,①卒業研究を重視している学科群は卒業研究とDPとのつながりが強く,評価結果に対する評価もよいものになっていること,②評価基準を統一し,学生に共有し,評価結果を活用したり,卒業研究に関するFDを実施したりしている学科群は,評価結果に対する評価もよいものになっていること,③教員1名あたりの指導学生数は5名以下が望ましいと考えられるが,人数が(多少)多くなっても評価結果に対する評価を上げることは不可能ではない可能性があることが示された.

  • ─卒業研究教育の工夫─
    西野 毅朗
    2025 年47 巻1 号 p. 91-95
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/06/01
    ジャーナル フリー

     本報告は,DP(ディプロマ・ポリシー:学位授与方針)と卒業研究の関連性,および評価基準の策定・活用法について質的データを用いて検討したものである.

     DPと卒業研究のつながりは,示し方,考え方,書き方の3つの観点で分類され,最低基準は外形的側面と実質的側面の両面で構成されることが明らかになった.組織的な評価基準の策定にあたっては,5つの工夫を通じて,多様な教員間の合意形成が可能であることが示唆された.また,策定された基準は,教員の共通認識形成や学生指導,成績評価,教育の振り返り,そしてカリキュラム改善へと多岐にわたって活用されうることが明らかになった.

  • ─卒論事例を教材とした教育方法の開発─
    岩田 貴帆
    2025 年47 巻1 号 p. 96-100
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/06/01
    ジャーナル フリー

     本稿では,卒業研究の評価基準を学生が理解することを促す教育方法として3つのフィールドで提案・実施した,卒業論文の事例を分析するワークの手順と効果を報告する.人文科学分野のXゼミでは,学生の自己評価がより充実する効果が示された.社会科学分野のYゼミでは,どのような卒業論文が優れているかについて教員・学生で共通認識が生まれ,日常の指導を円滑化する効果が確認された.自然科学分野のZ研究室では,研究発表を聴衆の立場で検討する視点を学生が得て,自身の卒業研究の遂行や研究発表の参考にできることが示された.このように,卒論事例を通して評価基準の具体的な理解を促すことで,学生による卒業研究の遂行や自己評価を充実化したり,教員による指導効果を向上させたりすることができると示唆された.

  • ─教員調査と事例調査発表へのコメント─
    山田 礼子
    2025 年47 巻1 号 p. 101-104
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/06/01
    ジャーナル フリー

     本課題研究は,研究計画に沿って着実に進行し,設定した3つのRQに対応するべく,調査を実施していることが3報告から確認できた.本稿では,各報告についての質問とコメントを提示したうえで,最終年度に向けて若干の論点を整理し,展望を示した.

     論点は,日本の大学教育における卒業研究の重みと「研究」と「教育」の関係に収斂される.学問分野によって研究方法,課題設定の方法,文献の扱い方等多様であり,ひとつの方向性にまとめにくいことや卒業研究を担う教員の経験やノウハウも大いに卒業研究の指導に関係している.卒業研究と学生の成長のプロセスに関わる多様性双方がもたらす複雑性を視野にいれて研究を進めることと,マクロとミクロ研究の組み合わせから得られる知見に期待している.

  • 山田 嘉徳
    2025 年47 巻1 号 p. 105-107
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/06/01
    ジャーナル フリー

     本シンポジウムにおけるディスカッションは,卒業研究教育の調査結果についてフロアから出された事実確認に対する質問への応答により構成された.

     ディスカッションを通じて,卒業研究教育の実際に迫る研究上の論点が改めて確認された.具体的には,大学の特性・大学観と評価基準の関係,卒業研究教育で扱われるルーブリックの効用と限界,評価基準の捉え方と卒業研究の指導観との関係,学生の主体性と就職活動の影響等をめぐる研究課題が確認された.

     卒業研究教育の実際に迫る方法論についても議論が及び,学士課程教育における卒業研究をめぐる教育実践・方法を適切に捉える研究法について引き続き検討を深めることが期待される.

課題研究シンポジウムⅣ
  • ─企画の趣旨および現状分析─
    尹 智鉉, 吉田 塁
    2025 年47 巻1 号 p. 108-114
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/06/01
    ジャーナル フリー

     課題研究「大学のライティング教育および支援過程におけるAI活用方法に関する基礎的研究」の目的は,AIの有機的活用を目指す大学ライティング教育と支援体制を探究することにある.正課でのライティング教育,およびライティングセンター等での正課外のライティング支援を取り上げ,大学での文章作成教育と支援活動におけるAIの教育場面での利活用について検討する.AIテクノロジー,学習の評価,ELSIの専門家と協働的探究を推進し,各教育現場での調査・分析の結果を踏まえ,先駆的知見の共有を目指す.

     2024年度のシンポジウムでは,主に三つの話題提供を行った.⑴教育における生成AI活用の動向を踏まえた大学のライティング教育・支援におけるAI活用の現状,⑵海外の大学ライティングに関する生成AI活用の取り組み,⑶大学におけるライティング科目の受講生に対して行った生成AI利活用に関する調査結果である.

  • 岩﨑 千晶, 尹 智鉉
    2025 年47 巻1 号 p. 115-119
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/06/01
    ジャーナル フリー

     本稿では北米と韓国の高等教育機関におけるライティング教育・支援での生成AI活用に関する事例分析を行った.北米ではIWCAやCCCC等の学協会による組織間の協働や各大学独自のガイドラインを作成し,生成AIの活用方針を全学的に示していた.韓国の大学では8割以上の大学が生成AIの影響を肯定的に捉え,倫理教育や活用方法を含むガイドラインの策定を行っていた.漢陽大学ライティングセンターにおいては具体的な生成AIの活用を学ぶ講座も推進されていた.これらの分析を踏まえ,日本の大学では学会レベルでの議論の場づくりとともに,大学のガイドラインを整備し,ライティングセンターでライティングプロセスに関わるプロンプトの提示をする等,具体的な支援方法が求められる.

  • 福山 佑樹, 高橋 薫
    2025 年47 巻1 号 p. 120-125
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/06/01
    ジャーナル フリー

     本研究では,高等教育のライティングにおいて生成AIの教育的な活用方法を探る基盤とするために,筆者らが所属する教育機関のライティング科目の履修生444名を対象に,ライティングのプロセスで生成AIをどのように利用しているのか,利活用調査を行った.その結果,全体の約30%がライティングのプロセスで生成AIを利用していた.特にプランニングや推敲段階で文章の質を向上させる目的で活用しており,直接的な文章生成に関する利用は少数にとどまった.また,記述コメントからは生成AIを自分の支援者として活用しつつ一人でできることを拡張している様子がうかがえた.生成AIを利用しないと回答した者は,倫理的な懸念や生成AIの精度に問題を感じていることが明らかになった.

  • 高橋 薫, 尹 智鉉
    2025 年47 巻1 号 p. 126-128
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/06/01
    ジャーナル フリー

     2024年課題研究シンポジウムⅣでは,5名が登壇し生成AIの教育活用に関する話題提供が行われた後,会場からの質問やコメントを募り,それに回答する形で討議を進めた.会場からは英語圏の大学における生成AI判定ツールの利用に関する質問や,登壇者らが所属する日本の大学のライティングセンターにおける対応について質問が寄せられた.そして,具体的な事例を検討する中で,大学ごとのガイドラインや活用方針を提示する重要性が指摘された.また,大学教育において「なぜ書くのか」という根本的な問いを再考する必要性があり,問いを深く掘り下げて検討することで,生成AIを活用できる部分とライティングセンターのスタッフが担うべき役割の境界が明確になる可能性があることが示された.

  • ─人間リテラシーを基軸とする教養教育─
    井下 千以子
    2025 年47 巻1 号 p. 129-131
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/06/01
    ジャーナル フリー

     本課題研究の意義は生成AIの急速な進展を受け,人間固有の書く行為の本質を捉え,大学教育でいかに支援するかを実践と理論の両面から明らかにすることにある.特色は,生成AIを用いたアカデミック・ライティングをライティングセンターや学習支援センターの視点から支援することにある.今後の課題は,AIと教養を融合した分野横断ライティング・カリキュラムの開発,人間リテラシーの涵養,探究学習と研究の違いを明確に意識することである.

研究論文
  • ─大学生へのインタビューに基づき─
    白 夢璇
    2025 年47 巻1 号 p. 132-142
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/06/01
    ジャーナル フリー

     本研究は,初修外国語授業を受講した大学生の視点に焦点を当て,初修外国語科目が学生の異文化理解能力の発達過程において果たす役割を分析したものである.対象大学において8言語を履修した10学部所属の学生30名を対象にインタビュー調査を行ない,初修外国語科目の教育目標を実証的かつ解釈学的に再検討した.その結果,初修外国語が異文化理解能力の向上に寄与する主要な側面として,①知識の拡大と深化,②スキルの養成,③感受性の涵養,④行動の準備の4点が特定された.本研究の成果を踏まえ,初修外国語科目において「解釈のスキル」を含む異文化理解教育のさらなる開発が求められる.

  • ─学業継続の指標に着目して─
    西口 利文
    2025 年47 巻1 号 p. 143-153
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/06/01
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は,大学入学時のセルフマネジメントの行動意図と4年間の学習成果との関連性を検討し,学習成果の長期的な予測可能性を検証することであった.調査対象者は,私立A大学に20XX年度から20XX+3年度までに入学し,セルフマネジメントの行動意図を測定する項目に回答した6,808名であった.セルフマネジメントの行動意図の4つの下位尺度得点と,入学後から4年度終了時までの1年ごとの累積GPA,修得単位数,在籍状況との相関および偏相関係数を求めた結果,「予防マネジメント」と累積GPAとの間で正相関を確認した.さらに入学から4年度終了時までの学習成果を追跡した調査対象者(20XX年度入学生の1,944名)における,4年度終了時の在籍状況(「卒業」または「退学・休学・在学(卒業延期)」)を従属変数,セルフマネジメントの行動意図の下位尺度得点を独立変数として,正準判別分析により判別関数を導出し,判別得点をもとに調査対象者を分類した.判別得点の高い群ほど入学後4年度終了時に「卒業」した割合が高かった.この判別関数を,別の調査対象者に適用したところ,判別得点の高い群ほど入学後1,2,3年度終了時点での「在学」の割合が高かった.

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