柏崎刈羽原子力発電所で蓄積された地震観測記録を用いて長周期地震動評価に用いる広域の三次元地下構造モデルを作成した.新潟地域を対象とした既存の三次元地下構造モデルをベースとして,敷地および周辺の物理探査結果を用いて敷地周辺の地下構造モデルの改良を行った.更に,発電所周辺で発生が想定される大地震の震源付近で発生した中小地震による周期2秒以上の地震動を三次元差分法によりシミュレーション解析し,改良モデルの妥当性を検証した.
断層パラメタの偶然的不確かさによる予測地震動振幅のばらつきを評価することを目的として,断層パラメタの不確かさを仮定し,条件が異なる多数の断層モデルを用いた地震動シミュレーションを実施した.仮定した断層パラメタの不確かさの条件は,予測地震動振幅のばらつきの特徴を、引田・他(2018)が評価した偶然的不確かさによる観測地震動振幅のばらつきの特徴と比較することで,その合理性を確認した.予測地震動振幅のばらつきの周期特性は地震規模によって異なり,MJ7.0の地震を想定した検討では周期2秒程度の振幅のばらつきが相対的に大きくなることがわかった.
本検討では,構造物全体系の振動モードに占める地中部の振幅比に基づいて,逸散減衰と内部減衰の影響度の大小を考慮した上で簡易に構造物全体系の減衰を推定する手法を提案した.具体的には,単柱橋脚の振動計測結果から,構造物全体系の減衰定数をひずみエネルギー比例減衰法に基づいて評価することの有効性を確認した後に,多様な諸元を有する鉄道高架橋を対象として解析的な減衰を評価するとともに,構造物全体系の振動モードに占める地中部の振幅比を用いてこの結果の一般化を試みた.さらに,この減衰設定法と非線形応答スペクトル法を組み合わせることで,構造物全体系の減衰の大小を適切に考慮した上で地震時の構造物の最大応答変位を簡易に算定する手法の提案も行った.
提案法は従来から一般的に用いられている鉄道橋梁・高架橋の地震応答値算定法とほぼ同様の手順であるにもかかわらず,詳細な減衰の評価とこれに基づく非線形動的解析による地震応答と調和的な結果となることを確認しており,鉄道橋梁・高架橋の地震応答値を簡易に算定する手法として有効である.
自治体による地震被害評価は,単発の想定地震に留まっている.しかし実際には,大きな地震の後には余震または連動型地震が後続し被害拡大を見る.避難解除の防災的観点からも余震による2次被害は正しい評価が重要であり,本稿において,耐震評点を指標に余震または後続する連動型地震による住家の耐震性能低下の評価法を提案する.解析対象は2004年新潟県中越地震の小千谷市の木造住家被害であり,複数回の揺れで被害が進行している.地域の入力震度及び建物の耐震評点別に耐震評点劣化進行率と劣化発生率を求め,入力震度が大きく,かつ耐震評点が小さい木造建物ほど耐震評点劣化進行率が大きいこと,同じ耐震評点において震度が大きいほど劣化発生率が高いことを示した.これらの関係を用いて札幌市における余震被害を推定し,本震前後の対策対応による被害軽減効果のシミュレーションを行った.
本研究では,2011年東北地方太平洋沖地震において液状化による被害が顕著であった地域と強震動による被害が卓越した地域の2通りの地域を対象として絞り,それらの地域に敷設された平面道路の地震被害データを液状化領域と非液状化領域に区分し,地震動強さと被害率の空間分布の関係を定量的に明確化した.その上で,地震動強さに対する被害の有無を表現する確率モデルとして定義されたフラジリティー曲線を構築した.
地震動や津波などの自然現象と同様に,「断層変位」についてもハザード評価を踏まえて,不確かさを適切に考慮した上で施設への影響(リスク)を評価し,必要に応じてリスク低減策が講じられるべきである.
本論文では,PWR型原子炉建屋の直下に断層変位が生じる場合を想定して,原子炉建屋基礎版の構造健全性評価並びにフラジリティ曲線の試算結果を示す.検討にあたっては,鉄筋コンクリート部材の弾塑性を考慮した非線形解析モデルを用いた.
国土交通省は,2017年4月以降に対象地域内に超高層建築物等を大臣認定により新築する場合,構造安全性等の確認を事実上義務付けた.長周期地震動の評価には改良経験式を用いた波形作成手法(大川ら,2013)が採用されている.同手法では断層最短距離やサイト係数が支配的なパラメータであるが,明確な適用範囲は示されていない.本稿では,連動型地震のセグメント合成手法や断層最短距離やサイト係数の設定が計算波の振幅特性および位相特性に及ぼす定性的な影響について,観測波との比較や計算波同士の比較を通じて検証し,改良経験式手法を用いた設計用入力地震動策定における適用範囲及び留意点について考察した.
本論文では,日本海中部地震(1983年)における青森県内にあるため池堤体の被害要因特性を,当時のため池の被害状況や想定震度分布図,周辺地域の地形・地質条件,堤体材料,基礎地盤材料ならびに,ため池台帳資料等を用いた地理情報システム(GIS)で再検証した.その結果,日本海中部地震でのため池堤体の被害要因は,堤体と基礎地盤の構成材料に起因すると考えられ,特に,砂質土材料が用いられた場合に被害発生割合は高く,砂質土材料における液状化の影響によるものだと考えられる.