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松田 滋夫, 副田 大貴, 盛川 仁, 中仙道 和之, 坂井 公俊, 飯山 かほり
2024 年24 巻5 号 p.
5_1-5_14
発行日: 2024年
公開日: 2024/11/15
ジャーナル
フリー
近年,微小電気機械システム (MEMS) 技術を用いた慣性センサの小型・高精度化が著しく,このようなMEMSセンサを用いることで従来型のジャイロスコープと比較して安価で小型の絶対方位計が実用化されつつある.一般に精度,価格,真北方向の測定に要する時間は相互にトレードオフの関係にあるため,本研究では地震計の設置においてはそれほど高い精度を必要としないことに着目する.すなわち,地震計の設置方位角を決定する目的に特化して,水晶振動子による6成分MEMS慣性センサ用いて方位角を迅速に測定するためのプロトタイプを作成するとともに,データ処理方法について基本的な検討を行った.そのうえで,実機を用いて真北方向の検出精度を検証し,その有用性を確認した.
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名波 健吾, 和田 一範, 坂井 公俊
2024 年24 巻5 号 p.
5_15-5_24
発行日: 2024年
公開日: 2024/11/15
ジャーナル
フリー
鉄道構造物の地震時復旧性に関する性能評価の一助とすべく,著者らは構造種別,損傷レベルに応じて復旧に必要な作業項目から復旧日数を算定し,データベースとして整備する検討を実施している.本稿では,復旧に関して詳細な条件,過程等が整理された2022年福島県沖地震における復旧記録を用いて,復旧作業の各作業項目の所要日数を詳細に分析した.その結果,データベースで考慮していない大規模な損傷と小規模な損傷の中間的な損傷状態の条件がみられたため,これを条件に追加することによりデータベースを改良し,表現できる損傷状態,復旧方法の適用範囲を拡大させた.改良後のデータベースを用いることで,より実態に即した形でのきめ細かい地震時復旧性の評価が可能となる.
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鈴木 崇伸
2024 年24 巻5 号 p.
5_25-5_34
発行日: 2024年
公開日: 2024/11/15
ジャーナル
フリー
本報告は埋設した管を地盤に押し込むときに圧縮力が増大する受働領域の範囲を設定してランキンの塑性化応力を合成した地盤反力の上限値の近似値は実験で得られる降伏時地盤反力におよそ一致していることを述べている.管を水平に押す場合と上向きに押す場合についていくつかの実験結果と対比した結果を示しているが,管に作用する軸直角方向の地盤反力の上限値は管の口径,埋設深さ,土の単位重量,内部摩擦角と粘着力により評価することができると考えられる.
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HACHIYA Hirotaka, TARASUKI Yuka, IWAKI Asako, MAEDA Takahiro, UEDA Nao ...
2024 年24 巻5 号 p.
5_35-5_44
発行日: 2024年
公開日: 2024/11/15
ジャーナル
フリー
Recently, PoDIM (POsition-dependent Deep Inpainting Method), which is based on a deep inpainting method, has been proposed to obtain spatially continuous seismic motion data from sparse observations. PoDIM utilizes a positional feature map that represents the degree of amplification or attenuation at each position to realize position dependent interpolation processes. However, since the maps are obtained through the training of a complex deep model starting with random values, it was difficult to interpret their roles. Therefore, in this study, we propose a position-dependent interpolation that can generate and interpret position feature maps based on top surface depth data for multiple s-wave velocities that directly affect the propagation of seismic motions. The effectiveness of the proposed method is then demonstrated through experiments using simulated data of a hypothetical Nankai Trough earthquake.
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浅野 公之, 関口 春子, 岩田 知孝
2024 年24 巻5 号 p.
5_45-5_57
発行日: 2024年
公開日: 2024/11/15
ジャーナル
フリー
強震動予測の高精度化には,三次元地盤構造モデルの高度化が不可欠である.地震記録を用いた地下構造探査手法として,自己相関関数を用いる手法が国内外で利用されている.本研究では,京都・奈良盆地の強震・震度観測点の強震波形記録を収集し,それらのTransverse成分の自己相関関数を計算することで得られる盆地基盤面での反射SH波の往復走時を用いて,既存の深部地盤構造モデルの検証並びにモデル改善が必要な箇所の検討を行った.京都・奈良盆地の多くの地点では,観測往復走時と理論往復走時の差異は20%以内であるが,山科盆地と京都盆地の境界付近の狭窄部や基盤形状急変部などでは顕著な差異がみられ,より詳細な調査が必要と考えられる地点も見出された.
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松本 和樹, 小嶋 啓介, 森 健人, 大堀 道広
2024 年24 巻5 号 p.
5_58-5_67
発行日: 2024年
公開日: 2024/11/15
ジャーナル
フリー
常時微動の並進3成分に,回転3成分を加えた6成分情報を活用することにより,Rayleigh波のみならずLove波速度も直接算定が可能になるなど多くのメリットがある.本研究では常時微動のアレイ観測を行い,はじめに小型回転速度計の性能確認のため,並進計の空間微分による回転成分と比較検証した.次に,単点の並進加速度と回転速度の振幅比を用いて,表面波の位相速度を求める方法を適用し,従来のSPAC法や拡張SPAC法と遜色ない精度でRayleigh波およびLove波の位相速度が求められること,空間補間・微分を行う並進計アレイ半径は,波長の概ね1/6以下にすべきであることなどの知見を得た.
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松永 知樹, 尹 ロク現, 高橋 之, 真田 靖士
2024 年24 巻5 号 p.
5_68-5_77
発行日: 2024年
公開日: 2024/11/15
ジャーナル
フリー
現在RC耐震壁の枠梁は剛体としてモデル化し解析することが一般的であり,ピロティ架構も例外ではないためピロティ階直上の枠梁の検定(保証設計)は行われていない.しかし,ピロティ階直上の耐震壁の枠梁は剛強ではなく,変形することにより耐震壁を十分に拘束できない懸念があり,実際の破壊機構を設計時に考慮できない可能性がある.本研究ではピロティ階直上の耐震壁の枠梁に生じる応力を把握することを目的とし,既往研究の試験体を対象に有限要素法解析を行った.解析の結果,荷重-変形関係や破壊性状など実験結果を概ね再現し,解析モデルの妥当性を検証するとともに,枠梁に作用している軸力や曲げモーメントの分布など,構造設計に還元できる知見を得た.
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水田 敏彦
2024 年24 巻5 号 p.
5_78-5_87
発行日: 2024年
公開日: 2024/11/15
ジャーナル
フリー
1983年日本海中部地震は2023年に40年の節目を迎えた.この地震による秋田市の死者は3名,住家被害は全壊35,半壊235戸であった.秋田市はこれまでに1896年陸羽地震,1914年秋田仙北地震,1964年新潟地震においても被害を受けている.ここでは,これら四つの地震について秋田市の被害に着目し,各地震の被害および分布を整理するとともに,地震当時の旧版地形図と被害分布を重ね合わせて秋田市の地震被害履歴を概観した.過去の地震による被害および分布は今後の都市防災の基礎資料として重要であり,これらの結果を踏まえて,地震による被害履歴と市街地形成との関係性について考えてみる.
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志波 由紀夫
2024 年24 巻5 号 p.
5_88-5_97
発行日: 2024年
公開日: 2024/11/15
ジャーナル
フリー
立坑構造物は,その多くが頂部から底部まで数十mに及ぶ鉛直方向の地中構造物であり,地震時に表層地盤全体の動的挙動の影響を受ける.その耐震解析手法として最も簡便で普及しているのは応答変位法であるが,そこでの重要な構成要素である「地盤ばね」のばね定数を設定する方法は確立していない.本稿では,その1方法である立坑・地盤一体のFEM解析によって算出する方法を採り上げ,例題を設定して実際に地盤ばね定数を算出してみる.そして,連続体の応力・ひずみの3次元連成作用のために,ばね定数は立坑と地盤の変位パターンによって値が異なってくる事実を示す.これをもって,地盤ばねという解析モデルについての問題提起とする.
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金子 治, 吉富 宏紀
2024 年24 巻5 号 p.
5_98-5_107
発行日: 2024年
公開日: 2024/11/15
ジャーナル
フリー
静的締固め砂杭工法は,静的な圧入力により砂杭を低騒音・低振動で造成して地盤を締固めて液状化抵抗を増加させる工法である.本報では杭基礎建物での実施例に基づき施工条件や設計上の判断により改良範囲が建物下全面とせず改良範囲を狭めたことが杭の発生応力に及ぼす影響について,地盤や杭材の非線形性を考慮したはり-ばねモデルを用いた静的増分解析により検討した.解析は地震応答解析により地盤変位や杭頭水平力を求めた上で,建築物の形状・杭配置と静的締固め砂杭工法の施工範囲の位置関係をパラメータとして実施した.これらの解析結果から,改良範囲を小さくすると負担水平力が改良部に集中するために杭のせん断耐力の確保に注意が必要となるが,曲げモーメントへの影響は比較的小さく,非改良部の負担は全面改良の場合よりも軽減する傾向を確認した.
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小木曽 仁
2024 年24 巻5 号 p.
5_108-5_118
発行日: 2024年
公開日: 2024/11/15
ジャーナル
フリー
地震動の面的分布は,その地震の特徴を表す指標のひとつであるとともに,地震災害の初動対応においても重要な情報となる.地震計による観測は点の情報なので,地震動の面的な分布を推定するには観測点のない地点を補間する必要がある.本研究では,地震波エネルギー伝播のシミュレーションと最適内挿法によるシミュレーション結果の補正を組み合わせた面的地震動分布の事後推定手法を提案する.提案手法によって,点のデータである観測値を波動伝播の物理に従って観測値の存在しない地点に投影することが可能となる.提案手法を2016年熊本地震に適用したところ,布田川・日奈久断層に沿った強い揺れの分布が明瞭となった.また,震央周辺の観測点の欠測を模擬した試験を実施したところ,提案手法によって震央周辺の地震動分布をある程度再現できることに成功した.
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眞野 英之, 岩井 俊之
2024 年24 巻5 号 p.
5_119-5_129
発行日: 2024年
公開日: 2024/11/15
ジャーナル
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車道部と歩道部のように路盤厚さが異なる部分が隣接している条件における液状化後の水圧変化を遠心模型実験により調べた.液状化により生じた過剰間隙水圧の消散過程で路盤下には水膜が形成される.車道部から歩道部路盤下へ水膜の水が流れ込んだ場合,歩道部の路盤下には上載圧を超える水圧が作用する可能性があることを確認した.この水圧により,実験では歩道部に盤ぶくれによる地表面の隆起が生じた.歩道部路盤にドレーンを設けたケースでは,排水により地盤の隆起はほとんど生じなかった.歩道部に水のみを排水できる設備を設けることは液状化被害を低減する効果が大きいことを確認した.
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鍬田 泰子, 陳 時霖, 山下 かのこ, 安井 國雄
2024 年24 巻5 号 p.
5_130-5_138
発行日: 2024年
公開日: 2024/11/15
ジャーナル
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水道システムにおいて家庭の蛇口から出る水は,配水池から給・配水管を通じて供給される.この配水池の底部にはフロックや管路内の汚れなどが沈でんしている.著者らは,こうした配水池沈でん物がスロッシング励起時に舞い上がる現象があることを模型水槽の振動実験において確認している.一方,規模の大きい配水池になれば,配水池内部に中柱が設置される.本研究では,配水池の中柱が沈でん物の舞い上がりにどのように影響するのかを明らかにするため,模型水槽の振動実験を行った.実験の結果,中柱脚部から沈でん物は舞い上がり始め,柱のない場合よりも濁度上昇は早く,最大濁度も高く,高濁度が継続することがわかった.
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谷口 惺, 山本 修嗣, 谷口 祥基, 西村 美紀, 松本 崇志, 奥田 貴矢
2024 年24 巻5 号 p.
5_139-5_148
発行日: 2024年
公開日: 2024/11/15
ジャーナル
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阪神高速道路の標準的なテレビ支柱は,死荷重,活荷重および風荷重に対して弾性設計を行っており,地震荷重を考慮していないのが実情で,風荷重を上回る地震荷重が作用するとき,部材が塑性化して損傷が発生する可能性がある.本研究では,標準的なテレビ支柱と仮想的な補強構造を対象に,載荷実験に基づき耐荷性能と補強効果を評価した.その結果,レベル2地震動相当の水平力を静的に作用させたとき,標準的なテレビ支柱の基部を構成する部材が塑性化し,基部を補強することで耐荷性能が向上することが分かった.さらに,FEMによる載荷実験の再現解析を行い,アンカーボルトの塑性化が顕著にならない範囲で,テレビ支柱の荷重変位関係を再現できること等を確認した.
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八百山 太郎, 糸井 達哉
2024 年24 巻5 号 p.
5_149-5_161
発行日: 2024年
公開日: 2024/11/15
ジャーナル
フリー
性能規定型耐震工学の枠組みにおいては,時刻歴応答解析に基づき,地震ハザードの不確定性を踏まえて想定される多数の地震動に対し,応答・損傷・性能の不確定性を適切に評価することができる.しかし,時刻歴応答解析を弾塑性領域も含め詳細かつ多数回実施することには,多大な計算コストが伴う.そこで,時刻歴応答解析を統計モデルにより近似し計算コストを低減させる応答曲面法が,実務への普及の観点からは有効と期待される.本論文は,多数の地震動に対する応答曲面法をマルチタスク特徴学習の枠組みにおいて定式化し,地震動を独立に扱う場合と比べて効率的に学習できることを示すとともに,最適耐震設計問題への応用例を提示する.
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菅原 法城, 竹信 正寛, 野津 厚, 長坂 陽介, 山田 雅行, 江口 拓生, 佐野 新
2024 年24 巻5 号 p.
5_162-5_175
発行日: 2024年
公開日: 2024/11/15
ジャーナル
フリー
港湾施設の耐震設計ではサイト増幅特性を考慮した時刻歴波形を設計入力地震動として用いる.港湾におけるサイト増幅特性の評価方法の一つである臨時の地震観測に基づく評価方法では,スペクトルインバージョンで精度高く評価されている強震観測点のサイト増幅特性を基にして,それに2地点間(①強震観測点,②新たにサイト増幅特性を評価したい対象地点(臨時の地震観測点))のフーリエ振幅スペクトル比の幾何平均を乗じることで対象地点のサイト増幅特性を評価する.①スペクトルインバージョン,②臨時の地震観測に基づく評価方法ともに,複数の地震観測記録を用いて行われ,周波数毎に平均的な値として,1つの値でサイト増幅特性が設定されるが,個々の地震記録はばらつきを有している.本研究では,スペクトルインバージョンのばらつき(回帰の残差のばらつき)と,臨時の地震観測記録を用いた評価方法での2地点間のフーリエ振幅スペクトル比のばらつきを評価した.そのばらつきの評価は,臨時の地震観測記録を用いるサイト増幅特性の評価方法でサイト増幅特性が評価されている全国の10港湾のレベル1地震動を対象に実施した.更に,そのばらつきの考慮が港湾施設への影響を確認する目的で,港湾の既存のレベル1地震動を基にして,そのばらつきを加味した地震動(加速度時刻歴波形)を作成した上で,地震動から計算される速度PSI値と,桟橋の照査用震度に与える影響を確認した.
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笹ノ間 佑太, 河野 利器, 川上 陽大, 大野 晋
2024 年24 巻5 号 p.
5_176-5_186
発行日: 2024年
公開日: 2024/11/15
ジャーナル
フリー
東北大学旧人間・環境系教育研究棟を対象に,Augmented Kalman Filter(AKF)による非観測階における非線形応答推定に関する検討を行った.まず部分空間法により応答が線形領域に留まっている小地震記録を選定するとともに,AKFが必要とする線形時の層剛性及び減衰定数を推定した.次に応答が非線形領域に達している地震記録を対象にAKFを適用し,非観測階における絶対加速度及び相対変位の推定精度を検討した.その結果,AKFが実建物の非線形応答推定に対して有効であることが確認され,特に出力に加速度及び変位の双方を用いることで推定精度が向上すること,非線形応答の推定に必要な非線形項のプロセスノイズの分散については,L-curve法により最適値の設定が可能であることが確認された.
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西本 昌, 山本 優, 五十嵐 さやか, 内山 泰生, 糸井 達哉
2024 年24 巻5 号 p.
5_187-5_197
発行日: 2024年
公開日: 2024/11/15
ジャーナル
フリー
東北地方太平洋沖地震以降,地震動予測において,地震の多様性や不確実性を取り入れた評価の重要性が認識されるようになった.このような評価では,大きなばらつきをもった地震動が予測されることから,設計外力設定をどのように行うかが重要な課題となる.地震動シミュレーションにより地震動予測の平均やばらつきの範囲を適切に評価する場合,これらはモンテカルロシミュレーションにより算出することが一般的であるが,計算負荷が大きくなる点に課題がある.そこで,少ない計算回数で地震動の平均およびばらつきの特徴を把握し,それを踏まえて任意に設定する地震動レベルに応じた地震動を断層モデルに基づき計算する手法を検討した.また,大正型関東地震を対象に平均および平均+1σの地震動レベルに対応する震源特性を抽出し,地震動を作成することで手法の有効性を検討した.
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浜辺 千佐子, 吉澤 睦博, 曽根 孝行
2024 年24 巻5 号 p.
5_198-5_207
発行日: 2024年
公開日: 2024/11/15
ジャーナル
フリー
免震建物が有する高い耐震性能は,主に免震層の特性によって実現されるため,日常からの免震装置や免震層内環境の維持管理,及び地震直後の免震層の健全性の把握が重要となる.しかし現状は,人による直接的な手作業での点検作業が標準的であり,その労力不足,点検時の地震発生に対する危険性,点検結果からの免震建物の健全性判断の難しさなどの問題が指摘されている.そこで,センシング・IT技術を活用し,日常の免震層内の維持管理や地震後の免震層・上部建物の健全性を推定支援する機能を備えた総合的な免震モニタリングシステムを開発し,システム導入事例の検証により有効性を確認した.
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冨吉 雄太, 森井 雄史, 熊谷 仁志, 岡田 敬一
2024 年24 巻5 号 p.
5_208-5_219
発行日: 2024年
公開日: 2024/11/15
ジャーナル
フリー
1970年頃に建設された超高層建物は建設後50年が経過し始めており,経過年数による構造性能の変化が懸念されている.本研究では建設後50年が経過した高さ約120 mのS造超高層建物を対象に,振動性状の建設時からの変化について検討する.対象建物の解体に伴い,建設当時と同様に微動計測と起振機による加振試験を実施し,振動性状の変化を把握するとともに,振動性状の変化要因を検討する.振動性状は並進2方向と回転方向の計3方向,1次から3次モードを対象とし,固有周期,減衰定数,モード形状を建設当時と比較する.また,起振機による加振試験は加振力を変化させて実施しており,微動計測と併せて振動性状の振幅依存性を評価する.さらに,建設後50年間に経験した地震動や風外力が振動性状に与えた影響を解析的に検討し,振動性状の変化要因を考察する.振動試験や建物の応答解析の結果,対象建物の1次固有周期は建設後50年間で2.3 sから2.7 sと約15%伸長していることと,各階のPC鋼棒ブレースの効果による固有周期の変化と,実際の固有周期の変化が概ね整合していることから固有周期伸長の理由としてPC鋼棒ブレースの寄与が大きい可能性があることを示した.
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SHARAFI Sayed Qudratullah, MOSCOSO ALCANTARA Edisson Alberto, SAITO Ta ...
2024 年24 巻5 号 p.
5_220-5_233
発行日: 2024年
公開日: 2024/11/15
ジャーナル
フリー
Ensuring earthquake resistance in school buildings is critical for safeguarding students and teachers. Inadequately designed school buildings are at significant risk of collapse or severe damage during a destructive earthquake. This study evaluates the seismic reliability of reinforced concrete (RC) school buildings designed as moment-resisting frame systems and constructed across various regions of Afghanistan. To assess the damage probability of RC buildings under different earthquake ground motions, seismic fragility curves were generated using incremental dynamic analysis (IDA). The nonlinear frame software analysis program has been used as a research methodology to perform IDA. Six RC school buildings from the database were selected and categorized into newly designed and old-designed groups based on specific criteria, such as design details and year of construction. The results demonstrate that newly designed and constructed school buildings exhibit significantly greater resilience and are less prone to damage compared to older counterparts. The findings underscore the necessity of updating design codes and construction standards to enhance the earthquake resistance of RC school buildings. Consequently, this study proposes implementing more stringent building codes and retrofitting existing structures to mitigate earthquake risks.
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新関 倫乃亮, 楠 浩一, 毎田 悠承, ヤオ トレボー
2024 年24 巻5 号 p.
5_234-5_243
発行日: 2024年
公開日: 2024/11/15
ジャーナル
フリー
近年,地震後の継続使用性のため,RC造建物において雑壁を構造部材と一体化して有効活用する研究が進んでいる.しかし,この構造形式の場合,雑壁の損傷が増大することや壁縦筋の座屈により周辺のコンクリートが剥落することがある.本研究では,壁縦筋に引張応力を負担させないことを意図して壁縦筋を梁に定着しない袖壁付き柱という新しい構造形式の構造性能に関する検討を行った.本論文では,FEM解析にてコンクリート強度等をパラメータとした変数解析を行い,本構造の変形性能が従来の構造と比べて効果的に増大する構造因子の組み合わせを明らかにした.壁縦筋を梁に定着しないことで袖壁のコンクリートの損傷が低減し限界変形角が大幅に増大することを確認した.
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中川 博人, 柏 尚稔
2024 年24 巻5 号 p.
5_244-5_253
発行日: 2024年
公開日: 2024/11/15
ジャーナル
フリー
地盤の非線形性を伴う建物の地震時挙動を簡便に評価するための簡易応答解析手法について検討した.本手法ではAnastasopoulos and Kontoroupi (2014)により示された簡易解析手法と同様に,地盤-基礎系を非線形の回転ばね,線形の水平地盤ばねおよびダッシュポットに置換した.本手法の適用性を検討するため,軟弱な粘土地盤上に直接基礎の建物模型を設置して重力場での振動台実験を行い,実験結果と解析結果を比較した.比較から,本手法により建物の動的挙動をおおむね捉えられる可能性が示唆されたものの,回転地盤ばねの非線形特性と粘性減衰の設定方法についてさらなる検討を要することがわかった.
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瀧野 敦夫, 上松 千陽, 難波 宗功, 中川 貴文, 角 有司
2024 年24 巻5 号 p.
5_254-5_264
発行日: 2024年
公開日: 2024/11/15
ジャーナル
フリー
本研究では,在来軸組構法による木造住宅が地震による被害を受けた際の構造体の被害の程度を定量的に評価することを最終目標とし,E-ディフェンスによる3階建て木造住宅の実大振動台実験を対象とするシミュレーションにおいて,品質工学に基づくデータ同化手法を用いてシミュレーションモデルの精度向上と予測精度の検証を行った.データ同化には小加振と中加振の結果をそれぞれ用い,材料や施工誤差によるばらつきや安全率の影響を考慮した網羅的なシミュレーションを行った.データ同化後のモデルを用いて,中加振や大加振時の応答結果を比較することで,パラメータ設定などデータ同化手法について検証した.
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辻 勇弥, 尹 ロク現, 真田 靖士
2024 年24 巻5 号 p.
5_265-5_275
発行日: 2024年
公開日: 2024/11/15
ジャーナル
フリー
本研究ではCLT方立壁を有するRC柱梁架構の構造性能の把握を目的として,35%スケールの試験体による静的載荷実験を行った.実験の変動因子はCLT方立壁の有無であり,2体の実験結果を比較した.実験の結果,RC架構内にCLT方立壁を設けることで耐力が増大することを確認した.また,CLT方立壁の損傷に着目すると,小変形領域でせん断破壊する従来のRC方立壁と異なって載荷終了まで顕著な損傷は見られなかった.
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鴨下 直登, 井上 修作, 曽根 孝行, 山本 雅史, 高山 峯夫, 森田 慶子
2024 年24 巻5 号 p.
5_276-5_284
発行日: 2024年
公開日: 2024/11/15
ジャーナル
フリー
津波が作用する際に免震建物に作用する荷重を評価するため,縮小模型を用いた水理模型実験を実施した.建物模型は直方体形状で実物の1/150スケールの基礎免震建物とし,実験パラメータとして津波到来方向に対する建物模型の設置角度,免震層に対する建物模型の設置位置(免震層が変位している/変位していない状況を模擬)等を考慮した.実験の結果,建物模型に作用する最大水平力は見付幅に概ね比例すること,建物の設置角度を45度とした場合には津波衝突時に急激な荷重増分が発生しないことを確認した.免震層に対する建物模型の設置位置に着目すると,免震層が変位していない場合に比べ変位している場合には水平力,浮力共に増大した.
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横山 大智, 松本 星斗, 坂井 公俊
2024 年24 巻5 号 p.
5_285-5_297
発行日: 2024年
公開日: 2024/11/15
ジャーナル
フリー
地震時の構造物の非線形挙動の簡易な推定法として,エネルギー一定則および変位一定則が存在する.一定則で得られる結果と非線形動的解析による挙動には当然のように差が存在するが,その差異について十分に整理されているとは言い難い.そこで本検討では,比較的規模の大きな地震による地震動波形と多様な構造物条件を用いて,非線形動的解析と一定則による応答評価を網羅的に実施することで,両者による応答の差異を考察した.その結果,全体的な傾向として構造物の固有周期が長い場合にはエネルギー一定則では応答を過大評価し,固有周期が短い場合には変位一定則が応答を過小評価する傾向を確認した.ただし個別に見た場合には,地震波のフーリエ振幅の極大値,極小値を示す周期帯において,応答の予測精度が低下することを確認した.
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保井 美敏, 山本 健史, 小阪 宏之, 永野 正行, 橋本 憲一郎
2024 年24 巻5 号 p.
5_298-5_308
発行日: 2024年
公開日: 2024/11/15
ジャーナル
フリー
超高層RC造建物において,1999年の竣工以来20年以上にわたり地震観測が実施されている.得られた観測記録及びシミュレーション解析により対象建物の1次固有振動数と1次減衰定数について検討した.観測記録を用いた経時的変化による分析結果では,比較的大きな地震を経験した後に1次固有振動数が低下し,1次減衰定数が大きくなっていた.1次固有振動数及び1次減衰定数共に地下1階に対する屋上階の最大相対変位に関して振幅依存性が認められた.観測記録に対して,設計時の地震応答解析で用いた31質点の曲げせん断棒モデルに,薄層法による回転ばねとダッシュポットをモデル基部に設定し,シミュレーション解析を行い,比較検討した.地震動は40秒間のインターバルを設定し,連続入力している.
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