日本地震工学会論文集
Online ISSN : 1884-6246
ISSN-L : 1884-6246
特集号: 日本地震工学会論文集
25 巻, 5 号
特集号「地震時の盛土被害に関する調査・設計・点検・対策方法」
選択された号の論文の14件中1~14を表示しています
巻頭言
論文
  • 新保 泰輝, 叶田 知愛, 河村 知記, 福元 豊
    2025 年 25 巻 5 号 p. 5_2-5_12
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/03/28
    ジャーナル フリー

    地震時の盛土破壊形態として,天端や法面に引張亀裂が生じるものやすべりが生じるものがある.どのような地震でどの破壊形態が生じるかは明らかになっていない面も多い.著者らは亀裂進展解析手法ペリダイナミクス(Peridynamics,PD)を用いて地震時の盛土破壊形態について検討した.その結果,最大加速度や周波数によって破壊形態が異なることを示した.ただし,2次元解析に限っており,3次元地形形状が破壊形態に与える影響は検討できていない.そこで本研究では3次元地震応答PDを開発し,その解析コードの妥当性を示すために,2次元PDとの比較を実施した.また,3次元PDを用いて最大加速度や周波数による破壊形態への影響について検討した.

  • 須山 瑞樹, 岡村 未対, 小野 耕平
    2025 年 25 巻 5 号 p. 5_13-5_22
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/03/28
    ジャーナル フリー

    排水機能付き矢板工法は,矢板による側方流動抑制効果に,排水部材による矢板周辺の過剰間隙水圧低減効果を付加した河川堤防の液状化対策工法である.現行の液状化対策では,当該工法を含む排水系の対策工法はL2地震動に対しては採用されていない.これは,地盤の液状化を防止することが求められ,そのためには設計上ドレーンの間隔を極めて狭くする必要があるなど,実務上は困難なためである.一方,設計地震動以上の振動が作用し,対策済みの地盤が一時的に液状化した場合においても,排水効果により地盤の変形量や堤体の沈下量が抑制された事例や実験結果が報告されている.本研究では,排水機能の有無と地盤の透水性が天端沈下量に及ぼす影響について,遠心模型実験により検討を行った.実験結果から,排水部材による沈下抑制効果は,透水係数に強く依存し,対策効果が急激に高まる透水係数範囲の存在が確認できた.また,堤体の沈下に影響を与える3つの要因を検討することにより,液状化の発生を防げない透水係数の範囲においても,排水部材の効果により天端沈下量を抑制することが確認できた.

  • 阿部 慶太, 仙頭 紀明
    2025 年 25 巻 5 号 p. 5_23-5_34
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/03/28
    ジャーナル フリー

    本研究は,支持地盤の硬軟が盛土の地震時変位量に及ぼす影響と,その際の評価方法の検証を主題としたものである.従来,盛土の地震時変位量はニューマーク法により計算し,変位量の制限値と照査して盛土の耐震性を評価する方法が採用されている.一方,既往の研究において,軟弱な支持地盤上にある盛土では,実際に地震時に生じた変位量がニューマーク法で計算した変位量と乖離することが指摘されている.そこで,1/10スケールの湿潤密度が異なる支持地盤上の盛土模型を用いた振動台実験を実施し,支持地盤の硬軟が盛土の地震時変位量に及ぼす影響を確認するとともに,ニューマーク法および粒子法を用いた検証解析を実施した.その結果,支持地盤が軟らかいほどすべり土塊が前面側に大きく変形し,地震時変位量が増加すること,ニューマーク法ではその変位量を過少評価する可能性があることが分かった.また,実験結果と粒子法による解析結果より,地震時変位発生メカニズムについて考察した.

  • 橋本 隆雄, 内田 秀明
    2025 年 25 巻 5 号 p. 5_35-5_47
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/03/28
    ジャーナル フリー

    2018年9月6日午前3時8分に発生した北海道胆振東部地震(M 6.7,震源深さ37 km)では,北広島市大曲並木3丁目地区において,大曲川に面した28戸の宅地が崩壊した.被災した主な宅地は,大曲川の右岸(東側)に面した南北に細長い街区の一角で,間知ブロック擁壁で支えられた道路の川側に腹付けされた盛土地盤である.特に大規模滑動崩落箇所は,道路側に一期造成盛土時に構築された埋設されたままの擁壁と三期造成時に構築された腹付け盛土部分で,道路より川側に顕著な陥没が発生した.本論文では,北広島市大曲並木3丁目地区で崩壊した盛土被害分析を行い,地下水位低下工法を用いた滑動崩落対策の効果を検証した.

  • 原田 健二, 出野 智之
    2025 年 25 巻 5 号 p. 5_48-5_56
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/03/28
    ジャーナル フリー

    「河川堤防の液状化対策の手引き」においては,液状化対策のひとつとして,“締固め工法”が挙げられている.この締固め工法のうち,砂材料を圧入することにより周辺地盤を締め固めるサンドコンパクションパイル(SCP)工法には,動的に圧入する“振動式SCP工法”と静的に圧入する大型施工機の“非振動式SCP工法”と小型施工機の“砂圧入式SCP工法”の3種類がある.本文においては,河川堤防において,地震による復旧工事や耐震対策にSCP工法が採用された両脇や法尻改良の施工事例と改良効果について報告する.また,近年では,小型施工機による斜め改良も可能となっており,盛土の液状化対策に締固め改良を適用した場合の改良位置(直下,法尻,斜め改良)が天端沈下量に及ぼす影響と要因について静的変形解析(ALID)結果に基づいて考察する.

  • 松丸 貴樹, 中島 進, 倉上 由貴
    2025 年 25 巻 5 号 p. 5_57-5_66
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/03/28
    ジャーナル フリー

    近年鉄道盛土の耐震補強が進められており,地山補強材による盛土堤体の補強が実施されている.一方,盛土のり面では降雨に対する浸透・侵食の防止を目的としてのり面工が施工されることが多いが,このうちのり面工と地山補強材を連結することによってより大きな効果が発揮されることが期待される.しかしながら,のり面工が耐震補強に果たす効果については十分には解明されていない.そこで,のり面工および地山補強材を有する盛土模型を用いた系統的な振動台実験を実施し,のり面工と地山補強材を連結することで加振時に発揮される張力が増加し,盛土が深いすべり面形状で変形することや,地山補強材が曲げ抵抗を発揮することを確認した.また,これらの効果を取り込んだ設計法を提案し,手法の妥当性を検証した.

  • 桐山 貴俊, 福武 毅芳
    2025 年 25 巻 5 号 p. 5_67-5_77
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/03/28
    ジャーナル フリー

    盛土の変形解析を実施する場合,特定の外力に対し変位抑制を前提とするため,微小変形問題として取り扱う事が多い.一方で,地震外力の激甚化を考慮すると,実際の変形量が幾何学非線形に及ぶ可能性がある.本報では,幾何学非線形,材料軟化および対策工の有無による応答性状の相違に着目し,遠心場模型実験の再現解析を通して粒子法の適用性を検討した.土塊形成,崩壊形態とも実験・解析結果は相互に整合しており,幾何学非線形・材料軟化を考慮した提案手法が,崩壊を考慮した盛土の地震応答解析へ適用可能であることを示した.

  • 中井 健太郎, 野田 利弘
    2025 年 25 巻 5 号 p. 5_78-5_91
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/03/28
    ジャーナル フリー

    本論文では,地震動の周期特性と継続時間に着目した地震応答解析を実施し,地震動特性が軟弱な砂・粘土互層地盤に築造された河川堤防の地震被害に及ぼす影響を検討した.その結果,入力地震動の長周期成分が卓越していると,砂層の液状化だけでなく,従来は地震被害が発生しにくいと考えられてきた粘性土層においても,共振に伴う強い揺れによって深部粘土層の剛性が低下し(乱され),堤体の地震被害が甚大化しうることを示した.また,河川堤防の設計用地震動は地震応答スペクトルで規定されることが多く継続時間の影響が陽に考慮されていないが,弾塑性応答が顕著となる軟弱地盤では,地震動継続時間の影響が大きいことを示した.

  • 毛利 栄征, 龍岡 文夫, 田中 忠次, デュッティン アントワン, 三浦 亨
    2025 年 25 巻 5 号 p. 5_92-5_105
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/03/28
    ジャーナル フリー

    本論文では,地震によって大規模決壊に至ったため池堤体を事例として,崩壊のメカニズムと原因を解明し,新たに開発した安定解析手法の適用性を明らかにしている.また,堤体の再建では「再度災害の防止」を実現するために築堤にかかわる新たな施工管理技術を開発し,堤体の高い安全性を安定解析と堤体の強地震動に対する実挙動モニタリングによって明らかにしている.安定解析では,堤体土の地震時飽和非排水強度と剛性が低下し,低下後の強度・剛性は締固めの影響を非常に強く受けることを考慮したNewmark-D法による剛体すべり解析と準静的非線形FEMによる連続体変形解析の結果を併せることで,実際のため池堤体の地震による崩壊を説明できることを示し,その解析法を再建堤体の設計に適用している.堤体再建時の締固め施工では,従来の締固め度と含水比の管理に加えて「最適飽和度を目標とする飽和度管理」を新たに導入することによって高品質な盛土が効率的に実現できたことを報告している.最後に,貯水中の安定した挙動とともに,貯水完了後に受けた強地震動に対しても堤体の変形や間隙水圧などの計測データと安定解析によって高い安全性が維持できていることを報告している.

報告
  • 大矢 陽介, 野津 厚, 小濱 英司, 竹信 正寛, 長坂 陽介
    2025 年 25 巻 5 号 p. 5_106-5_115
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/03/28
    ジャーナル フリー

    2022年3月16日に発生した福島県沖の地震では,相馬港において港湾施設の被害が確認された.相馬港では矢板式係船岸が多数採用され,地震後には潜水調査より矢板の変形が,GNSS測量より矢板上部工の法線出入が計測された.地震後の施設の利用可否判断に必要な部材の応力状態を評価するためには,矢板の変形パターンを評価することが重要である.本報告では,調査結果より当該港湾の矢板式係船岸の被災程度および変形パターンについて整理した.

  • 門田 浩一, 佐藤 成, 渡邉 哲朗
    2025 年 25 巻 5 号 p. 5_116-5_125
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/03/28
    ジャーナル フリー

    盛土の地震時安定検討方法としては,一般に円弧すべり法など,剛体すべりと仮定した簡便な震度法による安定計算が用いられている.しかし,実際の地震時における盛土の被害では,剛体すべりのような崩壊現象だけではなく,盛土内の脆弱部における過剰間隙水圧の発生等に伴う残留変形現象も数多く発生している.このため,剛体すべり計算である震度法を残留変形の検討に適用するに当たっては,変形の外郭部などに該当するすべり面の仮定,強度定数,水平震度及び間隙水圧等の計算パラメータの適切な設定が課題となる.本論では,残留変形が発生した宅地盛土における再現FEM解析より得られた過剰間隙水圧比,及び応答加速度の時刻歴等をもとにして,簡便な震度法による再現ケーススタディを行い,残留変形の発生を適切に再現できる計算条件・パラメータについて考察した.

総説
  • 安田 進, 安達 健司, 米岡 威
    2025 年 25 巻 5 号 p. 5_126-5_135
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/03/28
    ジャーナル フリー

    日本の山中には廃止された鉱さい集積場が多く存在する.鉱さいは地震で液状化し易く,1978年伊豆大島近海地震では液状化により集積場が崩壊し流出する被害が発生した.地震後に鉱さいの液状化特性が研究され,これを考慮した安定解析により全国で点検が行われた.それにもかかわらず,2011年東北地方太平洋沖地震では三つの鉱さい集積場で被害が発生した.これは地震動の振幅レベルがレベル2と同程度と大きかったためと考えられ,危険性が高い集積場に対してレベル2地震動下での点検が,地震後に行われることになった.そして,すべり安全率だけではなく変形量で安全性を判断することになり,過剰間隙水圧の上昇過程を考慮できるニューマーク法によって解析が行われている.これらの研究や点検方法の開発の経緯を述べ,東北地方太平洋沖地震後に対策を施した事例を示した.

  • 藤岡 一頼, 長濱 正憲, 中島 康介, 八嶋 厚, 村田 芳信
    2025 年 25 巻 5 号 p. 5_136-5_145
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/03/28
    ジャーナル フリー

    2009年8月11日に駿河湾を震源とする地震が発生し,東名高速道路の盛土が崩壊した.盛土崩壊の要因として,盛土下部に使用された泥岩が長年の水の作用により強度低下するとともに,透水性が低下した結果,盛土内の地下水位が上昇し,今回の地震が誘因となり崩壊が発生したと推定された.この災害を受けた類似条件の盛土の点検により,湧水が確認された盛土の強度は低いことが確認された.本文では,高速道路盛土の耐震対策および泥岩盛土の設計基準の変遷を述べるとともに,点検から評価,対策工実施までの一連の取り組みを紹介する.また,泥岩を用いた既設盛土の耐震性確保に関する課題について述べる.

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