水さええられれば, 乾燥地域は優れた農業地域に変わる. 主として粗放的牧畜に利用されてきたブラジル北東部の半乾燥地域であるサンフランシスコ川中流域も, そのような地域の一つである. ここではCODEVASFの潅滌計画により1970年以後, とくに1980年代に入ってメロン, スイカ, トマトなどの果菜類に加え, ブドウ, マンゴ, レモンなどの果樹栽培が進展し, 「新しいカリフォルニア」と呼ばれる濯瀧農業地域になった. ここにはトマト, 綿花, ピーマンなどの原料を求め, 南東部の農産加工資本が進出し, 海岸部の資本家の投資によって設立された企業的農場を基盤にワイナリーや製糖工場さえ進出した. 本稿ではブラジル北東部の半乾燥地域であるセルトンの農業構造の変化の一端を解明するため, 農産加工業の進出と原料集荷の実態を分析した. 農産加工業と原料の集荷の関係をみると, ワイナリーと製糖工場は原料を直営の大農場で調達しうるが, 精綿工場は直営農場をもちながらも基本的には完熟ピーマンを飼料添加物に加工する工場と同様, 小農との契約栽培に依存している. さらに南東部資本3社が進出し, 地元の企業も参入したトマト加工資本は, これらの折衷型で, 小農, 中規模農場, 大規模企業的農場との契・約栽培および直営農揚に依存している. 農産加工業の進出と潅瀕農業の発展は, 多くの農業労働者を必要とした. ピーク時には2万人の農業労働力が必要とされるので, 中心都市ペトロリーナ・ジュアゼイロは, ブームタウンの様相を示している. また, 灌漑農業の発展はセルトンの伝統的土地利用方式を変えた. 本来, 病気が少ない乾燥地域で生産された農産物は, 自然食品に近いともいわれたが, 灌漑農業による連作の結果, 収穫量の低下, 農薬の多投, 土壌の塩性化などの問題を引き起こしている.
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