この論文では企業の国内の機能移転が, ボーダーレス化とアジア市場の成長を背景に, アジアへと拡張する論理を追った. また国内地域が, アジアと代替的な選択肢の一つになる道筋と現状も追った. 日系企業が, 最適立地を追求する最終段階では, 生産機能の他に管理機能も海外におく「複数製品・海外統括立地」を行っている. その結果生じることは, 空洞化する企業機能が多層化すること, アジアとの代替関係が特定の国内地域で鮮明になること, 生産機能の縮小が研究開発機能の地方移転を阻害すること, 地域から消失する機能が生産から管理機能まで拡大することである. こうした影響をもたらすのは, 生産拠点が国外に集約され, 逆輸入で国内市場が蚕食される「国外・グローバル市場対応型」産業である. これにほぼ対応するのが電機, 精密機械, 繊維・衣服である. これらの産業が, 地域で空洞化を引き起こすケースは, アジア展開が比較的容易な大企業が集中している場合, 高付加価値な製品を生み出すRD機能が欠落している場合, 組立型の部分工場や労働集約的な工場が多く, アジアの低労賃に牽引されやすい場合である. 空洞化の地域的影響では, 東北地方は雇用の減少という面で大きい. 電機産業などの雇用不振が響いている. 九州は旧設備の効率化や過剰投資の構造調整の影響のほうが, 海外展開のそれより大きい. 地域が空洞化を避けるためには, 設計, 開発, 試作などマザーエ場としての機能を集積させて, アジアとの関係を深める必要がある.
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