1960年代以来, 農協の合併が各地で実施されてきたが, 1990年代に入ると大規模な広域合併が強く進められるようになった. しかし, 全国的にみると広域合併の達成度には地域差がある. そこで本稿では, 広域合併が遅れている典型的な地域の秋田県を対象に, 農協合併のプロセスを時間的, 空間的に分析し, 合併の要因と地域的な性格を明らかにした. 秋田県では1970年代中頃までに, 山間地域に位置する小規模・零細な農協が, 合理化と資金の自己調達, 資本充実を目的に合併した. 合併農協では, 役員の削減や施設の統廃合などにより経営の合理化・効率化が進められる一方で, 組合員サービスや営農指導を充実させた. 1980年代後半になると, 都市地域に近接した農協で合併が目立つようになり, それらの合併農協の多くは, 信用事業からの利益により経営が安定していた.その合併の目的は, 企業化とより多くの資金調達にあったが, 上部組織の指導による金融自由化対策や将来的な広域合併をみすえての合併でもあった. 1990年代に入ると, 2000年の13広域合併農協の成立に向け, 段階的に市町村域を管轄範囲とする農協へと合併が進められている. しかし, 現在まで未合併であり続けている農協もあり, そこでは立地条件をいかして銘柄米を集約的に生産し, 良好な経営の持続化を図っている. また未合併の小規模さを生かし, きめ細かい営農指導や組合員サービスが行われていることも特徴的である.したがって, 秋田県における農協合併の諸相は, すべての地域で一律に広域合併を進めることの危険性と地域の実状に適応した内発的な合併の必要性を示唆している.
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