経済地理学年報
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62 巻, 3 号
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表紙
論説
  • ―中四国・九州地域の事例から―
    亀山 嘉大, 侯 鵬娜
    2016 年 62 巻 3 号 p. 191-209
    発行日: 2016/09/30
    公開日: 2017/09/30
    ジャーナル フリー

        本稿は,中四国・九州地域の地方公共団体( 16県5政令指定都市) の調査をもとに,地方公共団体の情報発信を端緒としたシティプロモーションがインバウンドとどのような関係にあるのかを探り,その意義を地域の視点から議論したものである.
         観光の情報発信は,シティプロモーションという(地域にとって) 公共財・サービスになるので,市場の失敗による過小供給の抑制のために,地方公共団体が役割を担うことは合理的である.また,観光の情報発信は,旅行者の購買プロセスと関連付けて理解できる.
        これらをもとに,地方公共団体の情報発信を端緒としたシティプロモーションをPhase a) 発地における交流や経験を介した着地側の情報発信,Phase b) インターネット媒体を介した着地側の情報発信,Phase c) 着地における交流や経験を介した着地側の情報発信,Phase d) 従来型の国際交流事業に基づく着地側の情報発信の4局面に分類した上で,SWOT分析によって調査結果を整理した.地方公共団体の施策は,Phase a) やPhase d) で違いがあり,SWOT分析の内部環境の強みであるPhase a) で海外事務所を展開したり,職員を海外の地方政府へ派遣したりし,さらに,SWOT分析の外部環境の機会であるPhase d) で20~30年に及ぶ国際交流を展開している.地方公共団体の情報発信を端緒としたシティプロモーションは,旅行先の魅力を高め,旅行先の言語の障壁や安全安心といった心理的な障壁を低減(軽減) し,サーチコストをともなう旅行者の手間隙の軽減を通じて,輸送費を低減させ,インバウンドの誘致に影響を与えているものと考えられる.

  • 中村 努
    2016 年 62 巻 3 号 p. 210-228
    発行日: 2016/09/30
    公開日: 2017/09/30
    ジャーナル フリー

        本稿では,台湾における医療供給体制の空間特性と,公平性の確保に向けた政府の役割を明らかにした.
        台湾においては,日本と同様,単一の医療保険制度が採用され,私的医療機関を中心とした医療供給が実現している.台湾では全住民の医療データが電子化されるとともに,それぞれの医療機能に基づいて,センター病院を中心とした階層的な医療供給体制が構築されている.さらに,山間部や島嶼部など僻地においては,遠隔診断の手段としてクラウド医療情報システムが試験的に運用されるなど,医療機関への物理的なアクセシビリティの改善が図られている.
        こうした制度設計は,日本統治時代における日本の医療制度を軸とした制度的遺産によるところが大きい.一方,日本の医療供給体制との相違点として,戦後の権威主義的な政府の経済成長を優先した施策が,私的医療機関の都市部への集中と,山間部および島嶼部の医療供給不足という地域格差を生じさせた点が指摘できる.こうして,それぞれの時代における政府の行動に規定されるかたちで,都市部と山間部および島嶼部とで異なる供給空間が重層的に形成されるに至った.現在の医療供給体制の空間的態様は,そうした政府による政策対応と,設立主体ごとの医療機関の立地行動とが繰り返された地理的帰結ととらえられる.

研究ノート
  • ―2014年に廃業した一事業所の分析を通じて―
    麻生 紘平
    2016 年 62 巻 3 号 p. 229-239
    発行日: 2016/09/30
    公開日: 2017/09/30
    ジャーナル フリー

        東京都大田区を中心とする中小機械工業集積に関して,経済地理学の分野では取引関係の分析から集積の外部経済の解明が進められてきた.しかし,取引金額や頻度などの数値的な指標を用いた分析は,資料入手が困難であることから積極的に行われてきたとはいえない.本研究では,2014年5月をもって廃業した基盤的技術産業を担う一事業所,Y精機(バ ルブ類加工) より借用した帳簿から,取引連関について数値的指標を用いて分析を行った.
         Y精機の主要製品・加工は試作品あるいは多品種少量製品であり,発注連関では,切削工具商社への高頻度での発注と近接立地が重要であることが明らかとなった.Y精機では熟練技能者が適切な工具を選択して加工を行うことで高精度の加工を行っていたが,これは工具の十分なストックを保有することが困難なため,高頻度での発注と迅速な調達が重要となるためであった.また,加工外注についても,近隣企業への卓越した取引金額と発注頻度から,納期遅れのリスクを緩和するために近隣企業への外注利用が重視されていることが明らかとなった.

  • ―九州観光戦略を事例として―
    田代 雅彦
    2016 年 62 巻 3 号 p. 240-256
    発行日: 2016/09/30
    公開日: 2017/09/30
    ジャーナル フリー

        地方圏において観光を政策的に振興する主体は主に地方自治体であるが,人々の移動が広域化する中,県境を越えた広域的な観光政策のあり方が模索されている.本稿は「九州観光戦略」の策定経過を事例に,地方ブロックという広域的なスケールで,複数の異なる主体が集まって観光振興戦略をつくり,事業を実施するための合意形成の条件を明らかにすることを目的とする.
         その結果,①戦略の柱の優先順位の変遷では,観光客誘致よりも九州を磨く戦略を第一にという少数派の提案を受け入れたが,予算配分上の実質的な優先度は変更しなかった.②具体的な施策策定の実態では,施策の数を減らしたい事務局と,提案を盛り込みたい委員との攻防のなか,細かな項目が増加した.③新たな推進組織の誕生経緯では,常駐スタッフのいる既存の小規模な組織がコアになった.④費用負担の決定に至る経緯では,委員長の提案,決断と,九州地域戦略会議が重要な役割を果たしたこと等が明らかとなった.そして,第一に,観光戦略の実現性や実効性よりも,できるだけ多くの意見を戦略に反映させ,参加当事者の満足度を少しでも高めることが合意形成を早めること.第二に,たとえ小さくても,観光事業に精通したスタッフがいる既存の核となる組織があれば,新しい組織の運営が円滑に進むこと.第三に,合意形成には,強いリーダーシップを持つリーダーの存在とともに,上位の意志決定ができる権威ある組織が必要なこと,という示唆が得られた.

フォーラム
  • 小田 宏信, 卜部 勝彦, 竹内 裕一, 宮地 忠幸
    2016 年 62 巻 3 号 p. 257-266
    発行日: 2016/09/30
    公開日: 2017/09/30
    ジャーナル フリー

        本稿は,2015年7月11日に日本大学経済学部において開催された関東支部例会「経済地理学から地理教育への貢献」での報告,コメント,討論の内容を取りまとめたものである.地理教育を取り巻く環境が大きく変化し,新たな転換期を迎えつつある現在,経済地理学は地理教育にいかに向き合い,これに貢献できるのか,ということが同例会のテーマとなり,非常に活発な議論が交わされた.その結果,地理教育の新ステージに向けて,経済地理学会での組織的対応の必要性が確認された.なお,当日は,中学校,高等学校の教員を含む34名の参加者を得た.

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