経済地理学年報
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62 巻, 4 号
特集 地方創生と経済地理学
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表紙
大会報告論文
  • 中澤 高志
    2016 年 62 巻 4 号 p. 285-305
    発行日: 2016/12/30
    公開日: 2017/12/30
    ジャーナル フリー

        「地方創生」論の特徴は,人口減少による「地方消滅」と東京の「極点社会」化という終局を回避する手段として,大都市圏から地方圏への人口の再配置による出生率向上を重視している点にある.とりわけ東京は,世界都市にふさわしい競争力を保持すべきとされ,その足かせになりかねない高齢者もまた,地方圏への移住が推奨される.そこには,東京を国民経済推進のエンジンとして,地方圏を子育てと高齢者医療・介護というケアの空間として,それぞれ純化させる論理が潜んでいる.「地方創生」論において,地域は国民経済や人口を量的に維持・拡大するための装置とみなされ,地域間格差の是正という社会的公正に対する意識は欠落している.
         「地方創生」論の批判的検討を踏まえ,本稿では,ライフコースを通じた自己実現の過程における制約と機会という観点から地域間格差をとらえ直す.自己実現のための諸機会の多くは土地固着的であるため,いかなる地域政策をもってしても完全な地域間の均衡化は達成できない.したがって,住み続ける自由に加えて,移動の自由をも含めた地理的制約からの自由の拡大を目指すべきである.本稿では,カール・ポランニーの議論を敷衍し,資本主義社会に生きる者にとって不可避な「権力と市場」の空間的形態として,地域構造を認識する.そして,社会的自由の拡大という基準に照らしてより望ましい地域構造を構想することが,地域政策論の目的となり,理念となると論じる.

  • ―一村一品運動のインプリケーションを踏まえて―
    城戸 宏史
    2016 年 62 巻 4 号 p. 306-323
    発行日: 2016/12/30
    公開日: 2017/12/30
    ジャーナル フリー

        「地方創生」政策は,1980年代を中心に展開された大分県の一村一品運動との類似性が多い.一村一品運動は過疎問題を契機としたが,その解決には至らず,地域活性化の成功例と言われた市町村も含めて,平成の大合併の対象となった.「地方創生」政策は人口減少問題を契機としているが,その解決には至るとは言い難い.財政問題の深刻化や小規模自治体問題もあって,2020年代にさらなる市町村合併に至る可能性が高い.
         一方,2000年代に実施された平成の大合併は,行財政改革を最大の目的としたものであるが,十分な成果をあげるには至っていない.また,その後のシナリオとして準備されていた道州制の議論も進まないまま今日に至っている.つまり,財政問題と地方分権は先送りにされているのである.そのため,さらなる市町村合併と伴に道州制といった空間的行政システムの再構築が近い将来課題となるとみられる.よって,経済地理学を含めた社会科学は,地域にとってふさわしい「地理的スケール」や「国家のリスケーリング」,いわゆる地域の単位の見直しについて,今後さらなる考察・検討を行なっていく必要がある.なお,その際に重要視すべき存在としては高校があげられる.

  • ―地方圏からみた「田園回帰」の捉え方―
    作野 広和
    2016 年 62 巻 4 号 p. 324-345
    発行日: 2016/12/30
    公開日: 2017/12/30
    ジャーナル フリー

        本研究は,地方移住の広まりと地域対応の実態を明らかにすることで,地方創生の可能性について検証した.とりわけ,大都市圏から地方圏への移住者の属性と,移住先の地域特性を明らかにすることを試みた.そして,地方移住の要因を探るとともに,地域政策の実態などともからめて検討を行った.
        本研究の結果,以下の諸点が明らかになった.
        第1に,「田園回帰」と言われる現象は確かにみられる.ただし,地方移住を意味する「狭義の田園回帰」は地方圏全域で平均的にみられるのではなく,特定の市町村や特定の地区において限定的に確認できる.
        第2に,地方移住は20代から30代の若者が中心であり,これらの年代の中には,進学や就職で大都市圏に流出した人々のUターンも含まれている.一方で,多様な理由で大都市圏から地方圏へ移住するI ターンがみられる.
         第3に,「田園回帰」が一過性の現象であるのか,今後も一定期間継続する構造的な現象であるのかについては判断が難しいといえる.また,日本でみられる「田園回帰」現象が,欧米のカウンター・アーバニゼーションと類似した現象なのか,異なる現象であるのかについても現在のところ明確には判断できない.
        第4に,移住者が移住先に選んだ地域の空間的な傾向は一定していない.一方で,「移住・定住促進施策」が充実していることや,市町村役場の担当職員や地域住民等との「人的接触」が地方移住を決断する重要な要素であることが判明した.
        以上のように,地方圏では「田園回帰」現象は確実にみられ,その原動力は若者を中心とした地方圏に対する多様な期待感によるものであるとの結論に至った.

  • 松原 宏
    2016 年 62 巻 4 号 p. 346-359
    発行日: 2016/12/30
    公開日: 2017/12/30
    ジャーナル フリー

        2014年9月に「まち・ひと・しごと創生本部」が設けられて以降,地方創生関連の新たな施策が次々に打ち出されてきた.本稿の目的は,そうした政策策定の経緯を明らかにするとともに,地方創生交付金や政府関係機関の移転などの政策を取り上げ,政策内容の特徴と今後の課題を検討することにある.
        リーサスを活用し先駆的な事業計画を提案した地方自治体に対して,優先的に地方創生交付金が配分されることになったが,グローバル化と人口減少の下で,地域経済の自立化と国際競争力の強化が,重視されてきている.東京一極集中の是正に関しては,民間企業や国の研究機能の地方移転により,現地の大学や試験研究機関との連携が強まることで,新たな産業や雇用の創出につながることが期待される.
        2014年10月には「基本政策検討チーム」が設けられていたが,過去の政策や海外の政策を十分に検証する時間的な余裕がなく,また省庁の連携も十分ではなかった.今後は,地方創生を一過性のブームに終わらせず,地域政策として高めるとともに,体系的に再構築していくことが求められる.

論説
  • ―国土計画体系見直しの議論を追う―
    矢田 俊文
    2016 年 62 巻 4 号 p. 360-384
    発行日: 2016/12/30
    公開日: 2017/12/30
    ジャーナル フリー

        20世紀後半の日本では全国総合開発計画を核とする国土計画制度は,産業基盤や交通基盤の整備を通じて,戦後復興と高度経済成長に大きな役割を果たした.他方,この制度の下での政策は,個々の全総計画でたびたび繰りかえされてきた「国土の均衡ある発展」という理念とは異なって,「一極一軸型」の国土構造が構築され,地域格差の拡大,自然環境の破壊など地域問題をまねいた.政府は,1990年代の後半から国土審議会において国土計画制度の見直し作業を行い,2005年の国土形成計画法よって21世紀の国土計画制度がスタートした.
        本稿では.審議会委員の一人として,約6年間の国土審議会の議論に参加した体験に基づき,関係する会議の議事録を分析することによって新しい制度の意義と課題を解明した.
        意義の第1は,国土形成計画を全国計画と広域地方計画の2層構成とし,具体的プロジェクトを盛り込んだ広域地方計画を中央と地方政府協働で策定・実施することによって,「国家主導型」から「国と地方協働型」に転換したことである.
        第2に,持続可能な国土を次世代に継承することを強調し,国土計画の理念を「開発基調型」から「国土の整備・保全型」ないし「国土の整備・保全・継承型」に移行した.ただ,森林など生態系保存に有効な国土利用計画法と国土形成計画法の統合には失敗した.
        第3に,戦後半世紀,時々の要請に対応して制定された多くの法律が廃止され,その他の法律も評価システムの下に置くとともに,社会資本整備重点計画法を成立させるなど,公共投資の重点化・効率化と財政削減効果を図った.

大会記事
  • 経済地理学会第63回(2016年度)大会
    2016 年 62 巻 4 号 p. 385-404
    発行日: 2016/12/30
    公開日: 2017/12/30
    ジャーナル フリー

        経済地理学会第63回大会は,2016年5月27日~29日,九州大学箱崎キャンパスを会場に行われた.当初は熊本大学黒髪キャンパスにて開催の予定であったが,4月に発生した一連の熊本地震の影響で急きょ会場が変更された.これに伴い30日に予定されていた水俣へのエクスカーションは中止となった.5月28日には,「地方創生と経済地理学」をテーマに共通論題シンポジウムが,中澤高志,豊田哲也,城戸宏史,作野広和の4氏からの報告をもとに高木彰彦,柳井雅也両氏を座長に,松原宏,山本匡毅両氏をコメンテーターとして行われ,会場からの意見を交え,活発な議論が展開された.翌29日の午前中のフロンティアセッションでは古川智史,佐々木達の2氏の発表があり,午後には2つのテーマでラウンドテーブルが行われた.両日の参加者は133名(一般124名,学生9名) であった.
         なお、大会実行委員会は高木彰彦委員長(兼ハード部門委員長) をもとに,ハード委員会が阿部康久,小柳真二,近藤祐磨,佐藤彩子,外枦保大介,寺床幸雄,秦洋二,藤川昇悟,鹿嶋洋,伊東維年,鈴木康夫,高野誠二,外川健一,中野元,能津和雄,山本耕三,ソフト委員会が田村大樹(委員長) ,荒木一視,川瀬正樹,杉浦勝章,寺谷亮司,友澤和夫,根岸裕孝という構成で組織された.
        最後に,大会期間中に受付・懇親会の会場で,地震で被災した熊本大学・熊本学園大学・東海大学への募金を呼びかけた結果,100,458円が集まり,3等分して3大学への募金を行ったことを付記しておく.

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