経済地理学年報
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63 巻, 4 号
特集 世界都市東京論の再考
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表紙
大会報告論文
  • ― ネオリベラル化と規制緩和をめぐって ―
    上野 淳子
    2017 年 63 巻 4 号 p. 275-291
    発行日: 2017/12/30
    公開日: 2018/12/30
    ジャーナル フリー

        21世紀に入って東京では建築物の高層化と超高層建築の都心集中が進行したが,その背景として都市計画の規制緩和がある.本論文では「ネオリベラル化する都市」論をふまえながら,東京都中央区を事例として①都市計画の規制緩和の進展と都心自治体の対応,②規制緩和された空間が孕む問題について考察した.
        1980年代から2000年代までの約30年間は,中曽根「民活」と小泉「都市再生」という新自由主義的な政策のもとで国家が都市空間への介入を強めた時期であった.これまでの研究では国の役割に焦点が置かれてきたが,自治体は単に国に従属するだけの主体ではない.本論文で取り上げた中央区は,戦略的に国や都との関係を取り結び,規制緩和路線に加担していった.規制緩和は,国から一方的に押し付けられたものと言うより,部分的には自治体が選び取った結果である.ただし,都市計画等における自治体の権限が制限されていたことを考慮するならば,規制緩和は,追い詰められた自治体の前に用意された「構造化された選択肢」(船橋,1995)であったと言えよう.こうした規制緩和によって生み出された東京の空間は,社会公正および開発の持続可能性の点で問題を孕む.

  • ― 金融面からの検証を中心に ―
    藤本 典嗣
    2017 年 63 巻 4 号 p. 292-303
    発行日: 2017/12/30
    公開日: 2018/12/30
    ジャーナル フリー

        「グローバル」と「世界」は,国家間の国境がなくフラットな中で諸経済フローが地球中の空間に展開する状態と,国境は存在するものの世界経済の中に諸経済フローが中核・周辺などの階層に包摂されていく状態とに区分される.金融はその地理的な流動において,国際決済通貨や証券・債権のいずれにおいても価値尺度の世界的共通性もあり,前者のグローバルな性質を内在している.
        1986年に「世界都市仮説」がJohn Friedmannにより提示されて以降,金融指標をはじめとする諸経済フローを用いて,世界の主要都市の地位・序列を様々な統計手法でランキング化し,都市間の階層構造を明らかにする試みが,英語圏・本邦の都市研究の中でも,都市システム研究により主におこなわれてきた.
        そのなかで,GaWC (Globalization and World Cities) 研究ネットワークなどの英語圏の研究の多くは,欧米を主眼に置いた都市間結合を明らかにしているが,多くの文献で東京の地位が下がったことが指摘されている.
        本稿は,都市システムの階層構造の中で,金融面に着目し,東京がどのように位置付けられるのかの分析をおこなった.まず,国内における金融面での東京の地位について,従来から地域構造論で扱われてきた預貸率分析に加え,日本銀行券受払の本社・支店別収支からも,明らかにした.他方で,グローバル都市システムにおける,東京の地位については,株式時価総額,外国為替取引額や関連する指標を用いながら,国民経済規模との関係で,その位置付けを検証した.
         国内では,その地域的経済規模以上の,金融機能が集中している東京であるが,国際比較においては,日本の国民経済の規模と同程度の国際金融機能を量的に有していることが,株式時価総額,外国為替市場取扱額などの数値から明らかになった.また,東京の地位が下がっていることが確認されるのは,香港,シンガポールなどの新興市場や,ロンドンとの比較の上であり,大半の国の世界都市は,その都市がグローバルな結節となる国・地域の国民経済規模未満の国際金融機能しか有していないことが明らかになった.

  • 近藤 章夫
    2017 年 63 巻 4 号 p. 304-319
    発行日: 2017/12/30
    公開日: 2018/12/30
    ジャーナル フリー

        本稿では,世界都市東京論の再考というシンポジウムテーマを鑑みて,これまで東京の基盤産業として強調されてきた製造業に焦点をあて,製造業の動向と昨今の都市再開発との関連性を考察した.その要点は以下の2点にまとめられる.第1に,世界都市論のキーワードである拠点性や中心性について,階層的立地モデルにもとづく所得の地域間移転の分析を行った結果,東京への所得の還流が弱まっていることが傍証され,本社の生産額も東京の拠点性や中心性の低下を示していた.第2 に,京浜地域の大規模主力工場において特に電気機械で立地調整が進んでおり,事業再構築のもと集約化や機能転換が数多くみられた.工場閉鎖にともなう跡地利用では,大規模な商業施設や住宅地へと転用されるなど,製造業の減退による立地調整の進展は工業地域の用途転換とつながっており,都市再開発の影響を受けている.

  • 藤塚 吉浩
    2017 年 63 巻 4 号 p. 320-334
    発行日: 2017/12/30
    公開日: 2018/12/30
    ジャーナル フリー

        本稿では,ロンドンとニューヨークと東京の産業別就業者の動向について比較検討した.金融保険業と不動産業は,ロンドン,ニューヨークに比べて東京はやや低いが,専門技術サービスはロンドンとニューヨークに比べて東京の比率は半分以下であった.東京の外資系企業は,港区に最も多かった.職業別外国人就業者数についてみると,専門技術職は中心部や西部にその割合が高く,サービス職は北東部や南部に多く,生産工程は,足立区や大田区,江戸川区に多いことから,外国人就労者の居住地は,職業別に分極化していることが明らかになった.
        グローバリゼーションとジェントリフィケーションについては,中央区湊と港区白金を研究対象地区とした.中央区湊では,地価高騰期に立ち退きさせられた区画が1990年代半ばに低未利用地となり,その後高層の共同住宅が建設された.超高層住宅では,月額50万円を超える家賃の住戸があり,従前に居住していた世帯の手の届くものではなく,居住者には外国人の居住世帯もみられた.港区白金では,多くの中小工場が立ち退きとなり,民間共同住宅が建てられた.白金1 丁目では,再開発により超高層オフィスビルと超高層住宅が建てられ,オフィスビルには外資系企業が入居し,周辺には多くの外国人居住者が増えた.研究対象地域におけるジェントリフィケーションには,グローバリゼーションの影響のあることが判明した.

フォーラム
  • ― とくに大阪の地位に注目して ―
    阿部 和俊
    2017 年 63 巻 4 号 p. 335-342
    発行日: 2017/12/30
    公開日: 2018/12/30
    ジャーナル フリー

        本論は大企業の本社を指標として日本の主要都市を検討し,とくに大阪について焦点をあてるものである.上場企業を大企業とみなして, 登記上の本社数をみると1950~2015年の間,東京の本社数比率は40~50%を占め,大阪は14~15%である.しかし,2010年と2015年では,東京の比率は43.9%であるのに対して,大阪の比率は2010年では12.6%,2015 年では11.8%にまで低下した.複数本社制に注目し,第2本社の方を実質的な本社と考えると2015年では,東京の本社数比率は全企業の50.7%にまで上昇し,大阪は9.8%にまで低下する.さらに本社数に従業者数でウエイトをかけると大阪の値は1960年では東京の54.4%だったが,2015年では9.1%にまで低下する.

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