経済地理学年報
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64 巻, 1 号
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表紙
論説
  • 佐藤 正志, 瀬川 直樹
    2018 年 64 巻 1 号 p. 1-23
    発行日: 2018/03/30
    公開日: 2019/03/30
    ジャーナル フリー

        本稿は製紙業を対象に全国的な立地変動とその要因の解明を通じ,国の政策的調整が後退した後の成熟産業における企業を中心とした再編メカニズムの動態を論じた.日本の製紙業は1990年代以降,国内需要低迷による成熟産業化と企業合併による寡占化が進んでいるが,国内工場の立地と生産の推移をみると,2000年代以降,印刷・情報用紙を中心とした紙では,合併前の各企業主力工場への集約化と生産規模拡大と共に,小規模工場や大都市圏中心部の工場を中心に閉鎖や生産縮小が進められていた.一方で,衛生用紙や雑種紙,板紙では消費地に近く輸送コストの低い大都市圏近郊の工場を中心としながら,地方圏でも中規模工場での生産を継続している.
        製紙業の立地変動や生産量増減の要因について,抄紙機への設備投資と用水に着目した結果,合併後生産量が増加している基幹工場の多くは,元々コストが安価な河川表流水・伏流水を大量に使用できた工場であり,新鋭の大型抄紙機の導入により生産効率の向上を図っていた.対して,閉鎖や縮小の対象になった工場は,工業用水道使用割合が高く,かつ古く生産能力の劣る抄紙機を使用していた.特に印刷・情報用紙における生産拠点の再編では,企業間競争の激化により,用水を中心とした生産コスト低減と効率的な生産を目指しつつ,企業合併による寡占化を通じて地域別に配置された基幹工場に集約が進められることが示された.

研究ノート
  • ―観光客,移民による海外送金の流動を事例に―
    高橋 環太郎
    2018 年 64 巻 1 号 p. 24-35
    発行日: 2018/03/30
    公開日: 2019/03/30
    ジャーナル フリー

        本研究では空間的相互作用を記述する重力モデルを援用し,太平洋の島嶼地域における観光客,移民による海外送金といったそれぞれの流動パターンの分析および比較を目的としている.国際間における移民や海外送金はMIRAB論が示す通り,内部の市場が小さい島嶼地域における経済を考える上で重要な要素である.また,島嶼地域では貿易が主要な経済活動となるが,その中でもサービス貿易の1つである観光は島嶼地域では特に重要な産業である.一方,島嶼経済を取り巻くこれらの流動データは先進国と比べゼロフローが多く,サンプル数が少ないため,これまで計量経済学的な手法による分析はあまり多くされていなかった.本研究ではこの点にも着目し,ゼロフローを考慮した分析手法により,島嶼地域における空間的相互作用モデルの分析を行った.
        分析の結果,重力モデルの基本的な変数では流動の違いによるモデル間のパラメータの差はみられず,送出地域および受入地域ともに所得および距離の弾力性がおおむね高いことがわかった.一方,物価弾力性,植民地関係,言語関係を表す変数にはモデル間の差がみられ,海外送金の流動は観光客流動よりもこれらの変数の影響が高いことが示された.さらに変数選択による最適モデルを検証したところ,2つのモデル間で同様の変数が選択された. 分析の結果を踏まえて,太平洋の島嶼地域における観光戦略や移民政策を議論する場合,それぞれを独立した現象ではなく,関連した現象として議論することが重要な視点となり得ることが示された.

  • 寺床 幸雄
    2018 年 64 巻 1 号 p. 36-54
    発行日: 2018/03/30
    公開日: 2019/03/30
    ジャーナル フリー

        本研究は,長崎市のビワ栽培を事例として,社会関係資本がどのような文脈で農業の持続に役割を果たしていたのかを明らかにした.分析では結束型,橋渡し型という社会関係資本の機能の差異に注目し,それらが農業の持続において果たし得る役割とその限界について検討した.
         長崎県では,1970年代に柑橘の生産調整でビワへの転換が行われ,一部の地域ではビワ産地としての性格が強まった.1980年代には収穫時期の分散のためにビワのハウス栽培が導入された.その後ハウス栽培は低迷したものの,積極的な新品種の導入や技術革新を通じてビワ栽培は持続されている.その背景には,集落単位で結成されていた出荷組合と,農業改良普及所との緊密な連携が重要な意味を持っていた.出荷組合は流通の集約だけでなく,地域的結束の核となり,結束型の社会関係資本の蓄積に寄与した.さらに,篤農家が普及所の職員と信頼に基づく関係性を構築し,多くの新品種,新技術導入に寄与したことは,橋渡し型の社会関係資本としてとらえることができる.
         しかし,近年の担い手不足により,社会関係資本の役割は限定的になっていた.かつてのハウスビワ導入時とは異なり,近年の活性化事業では若手農家の主体性と積極性は限定的である.産地全体からみれば相対的にビワ栽培の持続は認められるが,農家の高齢化が進む中で,地域の農家の内実と外部からの支援の方向性には不一致が生じていた.

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