経済地理学年報
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64 巻, 4 号
特集「ポスト支店経済期」における地方中枢都市」の中心性の変化
選択された号の論文の13件中1~13を表示しています
表紙
大会報告論文
  • 千葉 昭彦
    2018 年 64 巻 4 号 p. 273-290
    発行日: 2018/12/30
    公開日: 2019/12/30
    ジャーナル フリー

        都市・地域が果たしている役割は,時代とともに変化する.本研究では,地方中枢都市の中でも特に戦後の仙台に焦点を当ててその変化を概観することを目的としている.
        仙台の支店経済としての特徴の始まりは第二次世界大戦中と言われている.これは軍事施設等が集積したことによって人口が増加し,企業の営業拠点として位置づけられるようになったことによるものである.これは戦後しばらく続くが,その後の高度経済成長期には,企業間の販売競争が激化し,その営業活動が全国各地に拡大し,テリトリー制が確立する中で,地方中枢都市の支店には各地の営業活動を統括する機能が付与されるようになった.ただ,地方中枢都市の支店のこの役割はバブル経済後に変化してきている.すなわち,長期不況の中で,情報化の進展やグローバル化,脱大量生産体制などの変化を通じて企業組織が変化し,地方中枢都市の支店の役割も変化している.
        他方では,この間に整備された交通体系を背景に,地方中枢都市などでの集客力が高まっている.1980年代には大規模小売店舗の全国的な展開と相まって仙台での小売業の集客範囲が拡大してきた.ただ,この変化も2000年代にはいるとネットショッピングなどの浸透などによって変化しつつある.小売業での広域中心性がなくなったわけではないが,サービスに対する需要の役割が大きくなっているように見られる.その中でも特徴的なのがイベントやプロスポーツ,コンベンションなどである.これらへの観戦,参加はサービスの消費であり,物品販売と基本的には変わらない消費者行動ととらえることができる.けれども,ここではそのイベント等の企画・運営などへの参加もみられ,それは増加しているように思われる.
        いくつかの事項に関してはさらなる調査検討が必要ではあるが,地方中枢都市の中心性はこのように時代とともに変化している.とは言え,その中心性・拠点性は以前のものが新しいものに入れ替わったというよりも重層化しているということのほうが妥当であるように思われる.

  • 川瀬 正樹
    2018 年 64 巻 4 号 p. 291-302
    発行日: 2018/12/30
    公開日: 2019/12/30
    ジャーナル フリー

        本報告では,1985年以降の広島,特に近年の広島の動向について,人口移動,通勤・通学,商圏調査等の人口流動データの分析に加え,交通網の整備,近年の各施設の開発状況について報告し,広域中心都市・広島の変容について考察した.
        1985年以降,広島市の人口は,特に丘陵地を切り崩して住宅開発が行われてきた郊外の区で増加し,周辺県からの転入と大都市圏への転出が大幅に減少した.また,商業面では中心市街地の中心性が2004年以降著しく低下した.代わって郊外のショッピングセンターに客足を奪われ,もはや中心-郊外の対立から郊外同士の競合に変化してきている.広島駅前の再開発エリアでも,オフィスビルではなくタワーマンションが増えており,現段階で業務機能が集積したと言えない.
        あらゆる観点からみて郊外化が進んできた一方で,広域中心都市としての広島の地位は低下しつつある.支店の統廃合が進んだことなどにより東京一極集中が進む一方で,近年発展を遂げる福岡よりも東京・大阪寄りに位置する広島の「支店経済都市」としての性格は弱まっていると言わざるを得ない.一方で,広島では最近,ホテル建設が増えており,広島の都市としての性格が変容しつつある.今後,広島が広域中心都市としての地位を維持し続けられるかどうかの岐路に立たされていると言える.

  • 小栁 真二
    2018 年 64 巻 4 号 p. 303-318
    発行日: 2018/12/30
    公開日: 2019/12/30
    ジャーナル フリー

        札幌市・仙台市・広島市・福岡市の4市は,三大都市圏に次ぐ居住・経済・政治の機能集積を有し,地方ブロックの中心的地位にある地方中枢都市として,しばしば一括して扱われてきた.しかしながら近年の社会・経済指標によれば,福岡市は他の3市と比べて顕著な集積を示し,この群から抜け出しつつある.
        本稿ではまず,福岡市の成長が顕著な人口について,その主な増加要因である国内の人口移動に着目して分析した.福岡市における就職期の転入超過は4市のなかで最も大きく,就職期に大きい東京圏への転出超過が縮小傾向にある.このような人口移動を支える要因として,所得機会の存在に加え,居住地としての魅力の高さが重要と考えられる.
        支店経済と並び福岡市の経済的中心性を特徴づけてきた商業機能については,九州新幹線博多~鹿児島中央間全線開業を契機に大型商業施設の出店が続いているにもかかわらず,その広域中心性は低下している可能性がある.代わりに,近年顕著な伸びを示しているのがMICEや訪日外国人の受け入れなど集客機能であり,市経済の新たな牽引役となることが期待されている.
        さらに,支店経済からの脱却を目標に,福岡市ではスタートアップ企業の支援に力を入れている.ただし,取り組みは端緒についたばかりであり,将来の市経済の牽引役となる企業が現れるか,また規模拡大時にも福岡市に立地し続けるかは,現時点では未知数である.

  • 平澤 亨輔
    2018 年 64 巻 4 号 p. 319-334
    発行日: 2018/12/30
    公開日: 2019/12/30
    ジャーナル フリー

        本稿は,地方中枢都市の一つである札幌市についてバブル経済崩壊後の時期を中心としてその経済構造,都市構造,支店経済の現状と変化について分析を行うものである.
        地方中枢都市の従業者数は1996年から2001年の間に4つの都市すべてで減少した.従業者数の減少率は4つの都市で異なり,福岡市,仙台市のグループが札幌市,広島市のグループよりも減少率が低く,二つのグループに格差が生じた.札幌市については,建設業や対事業所サービスなどで福岡市などよりも寄与度が低く,格差が生じる原因となった.札幌市についてはその後の従業者数の増加率で見ると他の都市との格差は小さくなっているものの,福岡市に比べて増加率は低い.2009から2014年の期間においては小売業,飲食サービス業などで寄与度が低くなっている.
        札幌市の人口分布は,1995年以降,中心部の人口が増加する一方,郊外や周辺都市の人口は停滞,減少している.しかし,従業者の分布は,1996年から2006年の期間では,最も周辺の地域で増加しているものの,中心部では減少しているという人口分布の動きとは異なる現象が見られる.これはバブル経済崩壊後,中心部のオフィスなどの集積が低下したことが原因といえる.しかし,2012年から2016年の期間では中心部の従業者数の減少率は周囲の区域と比べて小さくなっている.
        札幌市の小売吸引力指数は,1996年より低下しており,市の中心部に位置する中央区も2001年より低下している.このことは札幌市の小売業の中心性も低下していることを示している.
        支店経済については,1990年代の後半に支所・支社・支店の従業者数は減少し,筆者が行ったアンケート調査からも札幌支店の位置づけの低下が見られる.しかし,事業所・企業統計調査の従者数の動向や筆者が行ったアンケート調査による立地の方向性についての回答,札幌支店の位置づけの回答からも規模や権限を拡大する支店数が縮小する支店数を上回る傾向が見られる.札幌市の支店経済は一時の勢いはないが状況は改善してきているといえる.

  • 日野 正輝
    2018 年 64 巻 4 号 p. 335-345
    発行日: 2018/12/30
    公開日: 2019/12/30
    ジャーナル フリー

        地方中枢都市は1990年代後半に大きな転換点を迎えた.「支店経済のまち」と呼ばれた地方中枢都市においても支店の集積量が減少に転じ,しかもそれが社会の構造的変化に起因するものであった.それに加えて人口減少が予想される状況にあった.したがって,地方中枢都市が支店集積とは別の方向に持続的活性化の道を探さなければならなくなった.福岡市では,1980年代後半からスケールアップしたグローバリゼーションの進展のなかでアジアの交流拠点都市を将来像に描き,アジアの諸都市とのネットワークづくりを推し進めてきた.また,仙台市では,総合計画において「市民力」の概念で,都市に集う様々な主体が創造力および問題解決力を高めることを重点課題に位置づけ,都市の様々な主体の協働の必要性を説いた.これらの取組は,筆者がこれまでポスト成長社会の都市の持続的発展の方向として説いてきた「自都市中心のネットワーク」形成に相通ずる考え方である.支店集積により強化されてきたテリトリー制を伴った階層的都市間結合だけでなく,今後は,都市の様々な主体が都市内で相互に連携するとともに,都市に活力をもたらすアイディア・情報・資源・人が国内外の都市・地域間で相互交流する都市間結合を形成することである.そのためには都市の様々な主体が都市内外で形成するネットワークの実態把握と彼らが求める環境整備に関する調査が期待される.

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