経済地理学年報
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66 巻, 4 号
特集 大都市における「街」の経済地理学
選択された号の論文の14件中1~14を表示しています
表紙
大会報告論文
  • 網島 聖
    2020 年 66 巻 4 号 p. 263-278
    発行日: 2020/12/30
    公開日: 2021/12/30
    ジャーナル フリー

        近年,産業革命期の産業集積(産業地域)の形成や発展に関心を寄せる歴史地理学や経済史研究の領域では中間組織の役割に関心が集まっており,その代表例に同業組合が存在する.既往の同業組合研究では,近代における法制度の規定により,同業組合が対象とする空間的スケールは府県あるいは郡市単位であることを自明とし,検討対象も農山村を基盤とした地場産業に集中させる傾向にある.しかしながら,最初に同業組合制度が形成された大都市では,すでに存在した近世の株仲間を基盤にして同業組合の制度が整備されたことが知られており,株仲間は職縁により都市内部で特定の地区に集住する存在でもあった.本稿は,近代日本の同業組合史研究について空間的スケールの問題がどのように取り扱われてきたのかを整理し,明治期の道修町を中心とした大阪北船場を事例に,医薬品産業の同業組合が都市内地区レベルの空間的スケールに対応した制度として作用したことを明らかにする.

  • ―地域資源としてのエスニシティと大都市の「街」の再編―
    金 延景
    2020 年 66 巻 4 号 p. 279-298
    発行日: 2020/12/30
    公開日: 2021/12/30
    ジャーナル フリー

        本稿は,東京都新宿区大久保地区を事例に,コリアタウン振興を巡る地域コミュニティの取組みを分析し,エスニシティが地域資源として外部に提示される過程を明らかにするとともに,エスニシティを基盤とする地域活性化がもたらした「街」の経済やコミュニティの再編を考察したものである.
        大久保地区では,1980年代後半以降の韓国人ニューカマーの増加とともに形成されたコリアタウンが,2000年代半ばに発生した韓流ブームを契機にホスト社会に消費される観光地へと発展した.コリアタウン振興は,韓国人組織とホスト商店街組織の間で形成された相互関係と共通意識のもとで実現された.その過程で確認された韓国人組織による集団レベルでの構造的同化と,ホスト商店街組織におけるエスニシティの内在化は,コリアタウンの観光地化とともに進行した韓国系ビジネスの地域的埋め込みとホスト商店街組織が本来有する商業主義的立場が関係している.韓国系ビジネスではコリアタウンの集客力に依存した地区内出店と,テナント確保や賃貸業を目的とした物件取得を行った.このような経済活動の地域的埋め込みは,経営者に地域コミュニティへの参加と,街全体の活性化に向けた協働を動機付けた.一方,韓国系ビジネスの高いテナント需要を背景とした賃料と地価の上昇は,日本人ビルオーナーと韓国店の間に共利関係を形成する一方,日本個人店のテナント賃貸業への転換と地区外転出を促した.こうした商店街を中心とする地域経済の再編により,ホスト商店街組織では,外国人住民を商店街の顧客-ゲストとして位置付けた多文化共生のまちづくりから,エスニック店を内部主体-ホストとして受け入れる姿勢を示すようになった.

  • 杉山 武志
    2020 年 66 巻 4 号 p. 299-323
    発行日: 2020/12/30
    公開日: 2021/12/30
    ジャーナル フリー

        本稿の目的は,大都市圏経済の支柱的役割としてのコミュニティ経済の論点を「まちづくり」論との対比のなかから整理し,「街」の経済地理学の視角を提供することにある.
        本稿では,次の2つを主な論点とした.1つは,大都市圏経済のプレゼンスを強化しようとする「都市再生」の文脈で,「まちづくり」と別種の〈まちづくり〉 が現出してきている懸念である.特に,エリアマネジメントと密接にかかわりつつある「まちづくり」論が,「街」のコミュニティ経済を語る限界に達している可能性を示唆した.もう1つは「まちづくり」論の代替的着想として,公共的な空間への動きを抑制するコミュニティ経済論の可能性への探究である.コミュニティ経済論の基軸としては,起業家,サービス経済やサブカルチャーの担い手を包み込む適度な開放性,寛容性,包摂性あるコミュニティの形成とアイデンティティの共有が重要となる.
        一方,コミュニティ経済も〈まちづくり〉 の侵食に伴い,その街らしさとともにかき消されてしまう不安も拭えない.そのようななか,グローバル経済を内包する公共が強化された〈まちづくり〉 という企てを克服し,身近な街の暮らしやなりわいのためのコミュニティ経済を大都市圏経済の支柱として育む「街」の経済地理学の深耕が待たれているのではないかと提案した.

  • ―「多文化のまち」 を街区レベルから読み解く重要性とその際に留意すべき事項についての覚え書き―
    片岡 博美
    2020 年 66 巻 4 号 p. 324-336
    発行日: 2020/12/30
    公開日: 2021/12/30
    ジャーナル フリー

        多様性は,Jacobsが指摘するように,イノベーションや創造性をもたらす要因となり,都市に強みをもたらす.その意味では,「多文化のまち」としてのエスニック・ビジネス集積地がその地域にもたらす利点は多い.その一方,「多文化のまち」を読み解いていく際に,その表面上に現れた主要な経済主体やエスニック・ビジネスの集積だけでなく,そこにある,見えないネットワークの存在や,「多文化のまち」が表象するものの背後で覆い隠されてしまうもの,そして,「多文化・多様性のまち」における「多様性」の多義的な解釈や,「敵対性」ほか,表面下に広がる何層ものレイヤーにも留意しつつ捉えていくと,そこに「多文化のまち」が持つポリフォニックな姿も浮かび上がってくる.こうした,多様性・重層性を持つ厚みのあるまちの姿を解明するためには,街区レベルという小さなスケールから,見ていくことが欠かせない.

  • 武者 忠彦
    2020 年 66 巻 4 号 p. 337-351
    発行日: 2020/12/30
    公開日: 2021/12/30
    ジャーナル フリー

        地方都市における中心市街地の再生は長年の政策課題であるが,行政主導の計画や事業の多くが機能不全に陥る一方で,近年は小規模で漸進的に都市を改良していく「計画的ではない再生」の動きが注目されている.こうした変化を「工学的アーバニズム」から「人文学的アーバニズム」へのシフトとして解釈することが本稿の目的である.工学的アーバニズムとは,都市は予測・制御が可能なものであるという認識の下で,全国標準化された計画や事業を集権的な行政システムによって進めるという考え方や手法のことである.それを可能にしたのは,近代都市像の社会的共有と都市化という時代背景であった.これによって,中心市街地再生は近代化,活性化,集約化というテーマで政策的に進められてきたが,工学的アーバニズムの限界が明らかになった現在では,都市形成のメカニズムの複雑さを前提に,個々の主体が試行錯誤しながら漸進的に都市を改良し,結果的に都市の文脈が形成されていくという人文学的アーバニズムの重要性が高まっている.現在の地方都市が直面する「都市のスポンジ化」も,人文学的アーバニズムとして読み解くことで,都市形態学的な説明よりも深い洞察が得られることが期待される.そうしたアプローチは「中心市街地再生の人文学」を構想することにもつながるだろう.

フォーラム
  • ―交通体系の変化を見据えて― (2019年度 登別地域大会報告)
    2020 年 66 巻 4 号 p. 352-357
    発行日: 2020/12/30
    公開日: 2021/12/30
    ジャーナル フリー

         2019年10月26日(土) ・27日(日) の両日,経済地理学会登別地域大会を開催した.26日は,登別温泉第一滝本館を会場に,シンポジウム「道内観光地の将来展望―交通体系の変化を見据えて―」を行い,学会関係者や地元自治体関係者など45名が参加した.開会の趣旨を説明した後,登別現地からの報告や新幹線延伸と地域への影響に関する報告,他地域の事例としてニセコの観光実態に関する報告が行われた.その後,今後の登別観光のあり方などについて,活発な討議が行われた.シンポジウム後は,そのまま第一滝本館での懇親会・宿泊とし,翌27日は,登別市と白老町において,論点に関わる観光拠点のエクスカーションを実施した.24名の参加であり,各施設での担当者からの解説と活発な議論が行われた.

大会記事
  • 2020 年 66 巻 4 号 p. 358-376
    発行日: 2020/12/30
    公開日: 2021/12/30
    ジャーナル フリー

        経済地理学会第67回大会は,2020年9月5日にオンライン会議(Zoomを使用) の形式で行われた.当初は2020年5月29日~31日の日程で,成蹊大学で開催される予定であったが,2月から3月にかけて新型コロナウィルス感染症(COVID-19) が猛威を振るい,国内で深刻な影響が出たため,4月の時点で大会は延期となった.大会の開催自体危ぶまれる状況にあったが,4月以降,多くの大学でオンライン授業を行うことになり,学会員の多くがオンライン会議についての経験や知見をもつこととなった.そうした状況下で,地理学関連の全国大会としては初めてオンライン会議の形式で大会を開催した.経済地理学会としても大きなチャレンジであったが,大会当日は通信環境も良好で,大きなトラブルもなく成功裡に終えることができた.
        大会当日は,午前にフロンティアセッション,午後に共通論題シンポジウムが行われた.残念ながら,大会の開催時期変更にともない,ラウンドテーブルと一般研究発表,エクスカーションは中止とし,一般研究発表は要旨の公開をもって発表を行ったこととした.午前中のフロンティアセッションでは,松宮邑子氏と小室譲氏による報告が行われた.昼休みをはさんで午後の共通論題シンポジウムでは,「大都市における「街」の経済地理学」をテーマとして,箸本健二,長尾謙吉両氏を座長に,網島聖,金延景,杉山武志各氏の報告がなされ,その後,コメンテーターの片岡博美,武者忠彦両氏のコメントをもとに,参加者との活発な討論が行われた.なお,金氏の報告は当日報告者欠席により小田宏信氏の代読で行った.参加者は113名であった.
        なお,大会実行委員会は,箸本健二委員長のもと,ハード部門が小田宏信(委員長) ,遠藤貴美子,貝沼恵美,宮地忠幸,山本匡毅,ソフト部門が近藤章夫(委員長) ,上村博昭,小泉諒,小原丈明,長尾謙吉,中川秀一,山﨑朗という構成で組織された.

学会記事
紙碑
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