経済地理学年報
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最新号
特集 日本における留学生の地理学 ― モビリティと定位のあわい ―
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表紙
特集論文
  • 巻頭言
    中澤 高志
    原稿種別: その他
    2026 年72 巻1 号 p. 1
    発行日: 2026/03/31
    公開日: 2026/06/11
    ジャーナル 認証あり
  • ──私費外国人留学生生活実態調査の二次分析──
    松宮 邑子
    2026 年72 巻1 号 p. 2-25
    発行日: 2026/03/31
    公開日: 2026/06/11
    ジャーナル 認証あり

     留学生留学生30万人計画をはじめとする誘致策の展開によって,日本における留学生の増加は,対象の拡大や在籍課程また出身国の多様化など中身の多様化と並行して進んできた.しかしながら政策や社会一般において,留学生の多様性は看過される傾向にある.こうした現状に向き合うべく,本稿では留学生の多様な属性のうち出身国に焦点をあて,私費外国人留学生生活実態調査 (2019年度) の個票の集計を通じて,各国からの留学生の特性を描き出すこと,とりわけ日本が留学生に期待する将来的な労働力としての活躍の実際を問うことを目指した.日本留学の発意から留学終了後の意向までを段階的に見ていくと,そもそもの留学目的が留学を社会的上昇の手段と捉えるような学歴志向か,稼得の機会と捉えアルバイトに注力するような就労志向かによって,在籍過程や留学期間の過ごし方に差異があらわれる.一方で卒業後の進路の描き方,とりわけ帰国の意志には,経済的な側面に起因する理由よりも各々の文化的な価値観や心情が強く作用する様子がうかがえる.これらの分析からは,留学生の属性や留学の意義が多様であることの一端とともに,留学を通じて描き出されるライフコースの多様性の可能性が国籍ごとの特性を以て見出されることが示された.

  • 小野寺 淳
    2026 年72 巻1 号 p. 26-42
    発行日: 2026/03/31
    公開日: 2026/06/11
    ジャーナル 認証あり

     留学生が母国を離れ,留学先の国で就職をしてそこに定住する時に,送出国と受入国それぞれではどのような状況があり,若者はその中でどのような判断をしているのかという問題意識から,来日する中国人留学生に焦点を当てて考察を行った.

     中国人の留学は,国家戦略に基づくエリートの派遣から,個人のキャリアの追求へと変化した.経済成長と高等教育の大衆化につれて,中間層の子弟が留学を志向するようになり,国内の過剰な競争を背景に国外への移動が選択された.歴史的な経緯から僑郷や東北地方,そして高等教育機関の集積する沿海部の大都市が,主要な送出地になった.欧米に比較して日本の学費や生活費が安く,就職や定住が期待できると認識されている.

     日本における中国人留学生数は横ばいだが,卒業後に「技術・人文知識・国際業務」など高度人材としての在留資格で就職し,永住や帰化に至るケースが増加している.来日中国人の主力は技能実習生から留学を経たホワイトカラーの人材に移行し,首都圏に集中する傾向が強い.

     インタビュー調査によれば,留学時点で日本への定住を明確に意図していたわけではなく,母国の競争社会への不安を背景に,日本社会の価値観に適応した人々が定住の判断をしていた.家族の教育や介護を理由に中国へ戻る可能性がありつつも,日本でのキャリア指向や生活の快適さが定住を促しており,彼らは日本社会の重要な構成要素になりつつある.

  • ──別府市で学ぶネパール人留学生を事例に──
    森本 泉
    2026 年72 巻1 号 p. 43-65
    発行日: 2026/03/31
    公開日: 2026/06/11
    ジャーナル 認証あり

     本稿は,日本で急増するネパール人留学生の移動現象について,いかなる背景のあるネパール人が,いかに日本に留学するようになったのか,大分県別府市を事例にその実態を明らかにするものである.教育を契機にネパールから日本へ移動する流れを解明することは,留学生のモビリティによって創出された新たなアジア圏を部分的に解明することにもつながる.別府市の高等教育機関で学ぶネパール人留学生を対象に調査を行った結果,ネパール人留学生の多くは中等教育を終えるまでに既に出身州から何度か移動しており,さらに日本留学に備え日本語学校に通うために主にカトマンドゥのあるバグマティ州に移動していたことが明らかにされた.また,留学生の多くが農村出身者であり,日本をはじめとした海外で暮らす親類縁者から経済的支援を受けていたことも明らかにされた.別府で学ぶネパール人留学生の移動により,出身地の農村と日本とが繋がれ,新たなアジア圏の一部として組み込まれることになり,日本は農村部を含むネパールの多くの人々にとって手の届く留学先となった.日本への留学はネパールの若者にとって社会的上昇移動の機会となりうる.そのために,日本社会で言語をはじめ文化的摩擦を回避しながら社会に定位する必要があり,留学生を受け入れる教育機関にその能力習得の役割が期待される.こうした教育機関や経済的支援が可能な親類縁者もまた留学生のモビリティを向上させ,新たなアジア圏を形成する重要なアクターとなっていることが示された.

  • ──韓国人留学生の事例から──
    申 知燕
    2026 年72 巻1 号 p. 66-86
    発行日: 2026/03/31
    公開日: 2026/06/11
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     本研究は,日本・別府市に所在している立命館アジア太平洋大学 (APU) に韓国系の学生として在籍した経験のある留学生・元留学生に対して,留学とキャリア形成に関する意思決定過程を把握することで,かれらの留学戦略,および移住と留学の意味を明らかにした.調査からは,以下の2点の知見が見出せる.

     第一に,回答者のAPUへの留学は,グローバル化に伴う「国際性」の価値の浮上とヘゲモニー国中心の言語的・教育的・キャリア的ヒエラルキーの構築,そして国民国家や地域,地域内の大学の需要が送出国の社会情勢とマルチスケールに絡み合った結果として形成されたトランスナショナルな移住である.

     第二に,時代とともに韓国人留学生にとっての「国際性」の意味,さらには留学そのものの意味合い自体も変化している.開学初期の学生にとって留学は,ヘゲモニー国で評価される学歴とスペックを得ることで自身のキャリア的価値を高めるための行為であり,APUや別府はかれらが国際的なスペックを獲得するための場であった.しかし,近年の韓国人留学生は,キャリアや社会的上昇移動に加えて,心から安心して滞在でき,愛着を持てる多文化的環境も重視するようになる.そのような留学生にとってAPUと別府は,多文化共生の環境が整い,外国人留学生にも安全で公平な学習と生活が保障された多文化的バブルとしても機能している.

  • ──大分県別府市の事例──
    中澤 高志
    2026 年72 巻1 号 p. 87-108
    発行日: 2026/03/31
    公開日: 2026/06/11
    ジャーナル 認証あり

     本稿は別府における留学生起業者を対象に,彼/彼女らのライフコースや価値観に即して,その起業の契機や事業の特徴を検討した.別府はアジア太平洋地域をめぐる留学生のモビリティにおけるハブであり,大学を核に留学生起業を促す環境が形成されつつある.本稿では,留学生起業者をトランスナショナル・トランスローカルな主体と捉え,ナショナルな制度とローカルな条件に規定されながら,出身国・地域と日本・別府を結ぶ事業を展開していく過程を分析した.多くの留学生起業者は,来日時点で起業を明確に志しておらず,日本の労働市場で適職を得にくく,出身国でも留学経験を生かしにくい状況のなかで,自らの定位を模索する過程で別府での起業に至っている.別府には自治体による支援制度があり,多文化共生のインフラが整いつつあるが,彼/彼女らは多様な選択肢から最良の道を選んだというより,経路依存的に起業へと向かったといえる.別府における留学生の起業は,成長至上主義のスタートアップとは異なり,自分と家族の生活基盤を築く手段としての性格が強い.事業拡大を模索しつつも,出身国と日本をつなぐトランスナショナルな事業という軸は維持され,単なるエスニック・ビジネスではなく,両地域の架け橋や社会課題の解決を志向する傾向がみられる.これは留学生起業者が多文化共生都市・別府に自らを定位し,その一員として都市を支える存在となっていることを示している.

  • ──別府市のスリランカ人元留学生起業家を事例に──
    甲斐 智大
    2026 年72 巻1 号 p. 109-130
    発行日: 2026/03/31
    公開日: 2026/06/11
    ジャーナル 認証あり

     本研究は,地方都市・別府市におけるスリランカ人留学生起業家の定位に向けた実践の実態とその不安定性を明らかにすることを目的とする.2010年代以降,日本の外国人受け入れ政策は「一時的労働力の確保をめざすもの」から「定住を前提とした人材の確保をめざすもの」へと転換しつつある.しかし,地方都市では外国人の雇用機会が限定的であるため,起業を通じて定住を図る留学生の存在が注目されている.本研究では,別府市で起業したスリランカ人起業家とその関係者を対象にインタビュー調査を実施した.分析の結果,彼らの起業は雇用機会の制約を回避し,家族帯同を可能にする手段として機能していることが明らかになった.また,起業初期は配偶者の就労によって家計が下支えされ,事業の安定化とともに子どもの教育を通じた社会的上昇戦略も展開されている.しかし,彼らのビジネス基盤は脆弱であり,事業の失敗は在留資格の喪失や家族生活の崩壊に直結する.本研究は,起業と家族形成を一体的に捉える視点の重要性を示すとともに,「自立した存在」とみなされながらも支援から漏れる外国人起業家の不安定性を明らかにした.

  • ──ケア・インフラストラクチャー概念を手掛かりに──
    久木元 美琴
    2026 年72 巻1 号 p. 131-151
    発行日: 2026/03/31
    公開日: 2026/06/11
    ジャーナル 認証あり

     本稿は,大分県別府市における外国人の子どもや親への支援実態と構築過程をケア・インフラストラクチャーの視点から分析し,その有効性について試論を提示するものである.別府市では教育分野での公的支援が整備されてきた一方,保育分野では統一的な公的支援や指針が存在せず,現場の個別対応に委ねられている現状がある.本稿では以下の二つの実践を対象に,実践を支える人や組織,道具・拠点,社会経済環境に注目して分析した.第一に,P保育所の実践では,園長の夜間保育運営の経験を背景として,孤立しがちな外国人の親への交流の場が創出され,地域ネットワークや保護者との協働を含む応答的な支援が展開した.第二に,ボランティア団体による交流拠点事業では,国際観光都市としての政策や観光ボランティアによる国際交流の実績が基盤となり,その後のAPU開学や地方創生政策の起業支援の枠組みの中で拠点確保が実現した.同事業は生活支援や教育領域との接続を可能とする「ハブ」としての役割を担っている.これらの実践はSNS等の道具や,支援者と被支援者の境界が流動的な「ケアの倫理」に基づく関係性に支えられており,APUをはじめとする大学およびその学生や教員も重要な構成要素となっている.他方,現在の体制は脆弱性や支援へのアクセス格差のリスクも抱えており,保育領域における公的指針の策定に加え,行政のアウトリーチや連携による基盤強化が求められる.

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